実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-不真正連帯債務の消滅?(3)

2015-03-25 11:11:47 | 債権総論
 ところが、債権法改正要綱案では、連帯債務の絶対効に関し、弁済に準じるような場面以外では、絶対効をなくす改正を行うことになっている。つまり、上記①から③の絶対効のうち、①と③(ただし、相殺援用前の絶対効は、若干効果を変えて残る)がなくなる。
 そうなると、連帯債務と不真正連帯債務の区別はほとんど意味をなさなくなってきて両者を分けて考える実益がほぼなくなると思われる。現に簡単な解説書によると、どうやら連帯債務と不真正連帯債務の区別をなくすことが前提の改正案となっているようである。

 今までの不真正連帯債務の議論が、そもそも連帯債務の絶対効を適用することの不都合を避けるために出てきた概念であり、その絶対効を見直す以上は、不真正連帯債務の概念を消滅させることは当然なのであろう。本来条文にない概念で説明しなければならなかったこと自体が異常だったのである。
 連帯債務の絶対効に関する改正は、すなわち不真正連帯債務の概念を消滅させる改正であり、すっきりさせるものであり積極的に評価してよさそうである。

債権法改正-不真正連帯債務の消滅?(2)

2015-03-19 11:55:27 | 債権総論
 しかし、こうした解釈による修正はどうしても限界がある。そのため、法律上当然に数人が債務を負担する場合で、一人の債務が履行されれば他の債務はすべて消滅するような関係にある場合(典型的には共同不法行為者の責任がこれに当たる)、これを不真正連帯債務として、民法上の連帯債務の規定、特に弁済やそれに準ずるような場面以外では絶対効の規定は適用しないという解釈が採られてきた。

 特に問題が多かったのが、上記③の絶対効である。うっかり一人の債務者との関係で時効を完成させてしまった場合でも、不真正連帯債務とされれば、他の債務者にはその効力が及ぼさないと解されてきた。
 そのため、私の印象では、複数の債務者が同じ金銭的責任を負う場面では、不真正連帯債務がむしろ原則で、典型的な連帯債務となる場合は、契約による場合以外には存在していなかったのではないだろうか。

債権法改正-不真正連帯債務の消滅?(1)

2015-03-17 13:33:46 | 債権総論
 連帯債務については、これまで連帯債務者間の一人について生じた効力につき、相対的効力を原則としつつも、絶対的効力が生じる場面が多く、結果的に原則と例外がひっくり返っているとも言われるほどであった。
 内容的には、①請求の絶対効、②更改・相殺を援用した場合及び混同の絶対効、③相殺を援用する前・免除及び時効の絶対効、に分けて考えるとわかりやすい。①は債権者に有利に働くが、②と③は債権者に不利に働く。そして、②の絶対効は連帯債務者の債務全体について効力を及ぼすのに対し、③は当該連帯債務者の負担部分についてのみ絶対効が生じる。

 問題は、この債権者に不利に働く絶対効が多すぎるという点であった。例えば、連帯債務者甲と乙がいるとして、債権者としては甲から全額取り立てることができれば乙から取り立てるまでもないと考えて、「乙に対しては請求しない」と述べた場合、もしこれが免除に当たると、乙の負担部分について絶対効が生じてしまい、債権者の意図と異なった法律効果が生じてしまうことになる。
 そのため、解釈上からも、「請求しない」というのは単に権利行使を事実上控えることを意味するものでしかなく、明確に「免除」としない限り、絶対効の生じる「免除」には当たらない等と解釈してきたと思われる。

非公開会社の新株発行と有利性(2)

2015-03-11 10:43:36 | 最新判例
 ただ、ここでは実際に意図的に直前の取引事例に合わせたかどうかについてはちょっと棚上げしてみる。

 最高裁判例は何を判断したかというと、「非上場会社が株主以外の者に新株を発行するに際し、客観的資料に基づく一応合理的な算定方法によって発行価額が決定されていたといえる場合には、その発行価額は、特別の事情のない限り、「特ニ有利ナル発行価額」には当たらないと解するのが相当」と言ったのである。
 要するに、公認会計士の評価は客観的資料であり、一応合理的な算定をしていると考えたのである。
 ただ、その前提として、①非公開会社の株価算定方法は様々な評価手法が存在していて明確な判断基準が確立されているわけではないことと、②裁判所が事後的に別の評価方法で判断して有利発行か否かを判断するのは、取締役の予測可能性を害するという。だから上記のような結論となるというのである。
 なるほど、前提としての①や②は、言わんとすることは分かる。言ってみれば、取締役の判断として公認会計士の株価算定を信頼して何が悪いということである。そして、この判例は取締役の任務懈怠責任が問題とされている事案なので、取締役の賠償義務を否定した最高裁の結論そのものは、株価評価を意図的に直前の取引事例に合わせたかどうかを抜きに考えれば、致し方ないのかもしれない。

 しかし、最高裁判例が賠償義務を否定した直接の理由は、『有利発行に当たらない』としたことである。ここに問題はないのだろうか。同じ結論を、有利発行かどうかはともかく取締役には過失(あるいは任務懈怠)はなかったという方法で賠償義務を否定するやり方もあったのではないかと思われるのだが。
 どこが違ってくるかというと、やや抽象的な言い方ではあるが、もし別の争いが起きたとして、その場合に実体判断として有利発行性を問題としうる余地を残しておいた方がよかったのではないだろうか、ということである。
 実際に、原審は有利発行と認定しているのであり、実務感覚としても、鑑定評価の意図性が気になる事案である。それを取締役の賠償義務を否定する直接の理由として『有利発行に当たらない』として評価にお墨付きを与えるような言い方をしてしまってよかったのだろうか。

 判旨にちょっと疑問を持つ判例と思い、一言述べた。

非公開会社の新株発行と有利性(1)

2015-03-06 13:27:23 | 最新判例
 ごく最近の判例でちょっと気になった判例があったので一言。

 非公開会社の新株発行が特に有利な価額かどうかが争われ、取締役の賠償義務の存否が問題となった事案で、有利発行であったことを理由に取締役の賠償義務を認めた原判決を破棄して最高裁は有利発行ではないとした。
 事案としては、新株発行を行う4か月前に自己株式を処分しており、その際公認会計士に株価の算定を依頼していたことから、評価額をもって発行価額(払込価額)としたというものである。そして、その評価額は、事実関係の上では、これまで退職した役員や従業員株主から保有株式の買取を求められて残存役員が買い取っていた価額と同じ額となっている。
 以上のような事案で、原審はそれでも有利発行だと認定していたことになる。

 実務感覚では、この種の株価算定においてありがちなのは、意図的に直前の取引事例に合わせるような鑑定評価をしている可能性である。しかも、より詳しい事実関係を見ると、その事案の会社の自己株式は、退職役員・従業員から代表者が買い取った株式を、代表者が買い取った価額と同じ価額で会社が自己株式として買取った株式である。その自己株式について、取引銀行等の要請等(銀行は会社財産の株主に対する流出を疑問視したのだろう)を踏まえて、約1年後に代表者が会社から買い戻した事案のようで、そこでの自己株式の処分価額についての評価を算定していたに過ぎない。そのため、約1年間の期間が長いかどうかの問題はあるが、この自己株式の処分の実質は自己株式買取の合意解除であり、処分価額がいくらであろうと、買取価額と同じであればあまり有利発行が問題とされるべき自己株式処分ではないともいえそうな事案なのである。
 原審判決を見ることはできないので、現実にどのような判断をしているのか分からないが、以上のようなことも考慮に入れていたのではないだろうか。