実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

執行手続と法人格否認の法理(3)

2011-06-30 09:44:50 | 民事執行法
 二重譲渡の事例にかんしては、そもそも、事例そのものが悪いという人もいるかもしれない、なぜなら、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない場合として、とくに法人格否認の法理まで持ち出す必要のない事例(背信的悪意者の理論で処理できる)ともいえるからである。しかし、二重譲渡の場面でも、法人格否認の法理がすべて背信的悪意者の議論に吸収できるかどうかは、(法人格の形骸化の事案では特に)十分に検討の余地があるかもしれない。仮に吸収できるとしても、同じ事実関係であっても、当事者がどのような実体的法律関係を主張するかによって、訴訟手続上の争い方として主張できたりできなかったりする場合が生じてくるということになりかねない。同じ事実関係でも、うかつに法人格否認の法理を援用すればその抗弁は認められず、うまくこれを回避する論理があればその抗弁は認められるということである。そのようなことでいいのだろうか。結局は、どちらも同じ効力を主張しているに過ぎないはずなのに、一方の法的主張は認められ、他方の法的主張は認められないというのは、どうにも腑に落ちない。

 私は、請求異議訴訟(ただし、以下では債務名義成立の瑕疵を異議事由とする場合は除く)や第三者異議訴訟の法的性質を掘り下げてみる必要がありそうな気がしている。
 これら訴訟は、執行力の排除を目的としている点で共通し、表面的には手続法に特化した訴訟である。そのため、手続法上の制度という点に着目すると、既判力拡張の理由として法人格否認の法理の適用を否定する判例理論からすると、同様に請求異議訴訟や第三者異議訴訟での適用も怪しいということになってくる。
 しかし、請求異議訴訟も第三者異議訴訟も、その本質は実体的法律関係の存否そのもの紛争解決の訴訟なのではないか。その中で、(訴訟法的な効力ではなく)実体法的効力としての法人格否認の法理を適用することに何ら躊躇する理由はないのではないか。つまり、強制執行に服す必要のない実体的法律関係が存在すれば、執行力を排除できるという効力を認めたのが請求異議訴訟であり,第三者異議訴訟だと思うのである。これを債務名義と請求異議との関係で比較すると、強制執行に服すべき実体的法律関係(なかんずく請求権の存在)が認められれば、給付を命ずる確定判決(なかんずく債務名義)が得られることの裏返しとして、強制執行を排除できる実体的法律関係(なかんずく請求権の不存在)が認められれば、執行取消文書(なかんずく反対名義)が得られるのである。債権者側からのアクションである債務名義作成手続の代表が給付訴訟であり、債務者側からのアクションである反対名義作成手続の代表が請求異議訴訟なのである。しかし、争われている中身(実体的法律関係)は同じなのである。
 このように、給付訴訟と請求異議訴訟とは裏返しの関係にあるが、争点の中身は同じように思われるのである。別の言い方をすれば、実体的法律関係(請求権)の存否に関する争いについて、起訴責任が債権者側にあるか債務者側にあるかの違い(その意味で裏返しの関係)があるだけだと思うのである。そうであるならば、給付訴訟と請求異議訴訟とで、行われる実体的判断は全く同じでなければおかしいと思うのである。
 そもそも、債務名義と執行取消文書は、その内容からして表と裏の関係にあることは、おそらく手続構造上間違いないと思われる(このことは、不動産の担保執行の際の開始文書と取消文書との関係を見れば、なおいっそう明確である)。そうであれば、債務名義作成手続の代表である給付訴訟と、執行取消文書作成手続の代表である請求異議訴訟が表裏の関係にしかないことも、間違いないのではないだろうか。その実体法的効力の争いの中で、法人格否認の法理を適用することに、何らの問題もないと思うのだが。

コメントを投稿