実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

スクイーズアウトの可否(2)

2012-05-29 11:51:41 | 会社法
 この種のスクイーズアウトで問題なのは、大株主だけ株主として残り、他の中小零細の株主は株主から排除されること、そのための手続として、株主総会特別決議でできてしまうことである。

 まず、株主総会特別決議でできてしまう点であるが、一見すると特別決議という株主意思の確認としても慎重な手続で行うことから、特別決議を経る手続で行うのであれば、問題は少なそうでもある。
 しかし、もともと大株主だけが株主として残ろうと画策するのであるから、全部取得条項付種類株式の取得の対価として割り当てられる新株式が1株に満たない株主と1株以上割り当てられる大株主との間で利害が大きく反するとも言える。そして事案としては1株以上割り当てられる大株主だけで特別決議に必要な3分の2以上の議決権比率がある場合が想定されうるし、スクイーズアウトを適法とした下級審判例では現にこのような事例のようである。そうだとすると、1株以上が割り当てられる大株主は特別利害関係人に当たらないか(つまり、大株主が関与した特別決議は、取消原因があるのではないか)が問題となり得ると思うのである。

 ただし、難しいのは特別利害関係人が加わったら、即取消原因となるわけではなく、その結果「著しく不当」な決議となったことが必要だということである。そして、全部取得条項付種類株式の取得の対価は、比例平等的に割り当てられることになる上、その割り当てられる対価が新株式であると、基本的には旧株式と新株式の価値に変化の余地がないという言い方ができる。そのため、もし、旧株式1株に対し新株式1株を割り当てるような取得内容であれば、全く不当性はない。
 ところが、旧株式10万株に対し新株式1株を割り当てるとなると、大量の端数が生じるととになり、旧株式を10万株以下しか持っていない端数株主は株式を取得できないことは、さんざん述べているとおりである。形式的には平等な取得対価の定め方ではあるが、実質的には大株主には株式を交付し、中小零細の株主には現金を交付するという結果である。これが不当でないと言い切れるのであろうか。

スクイーズアウトの可否(1)

2012-05-23 11:27:13 | 会社法
 ここのところ、会社法の事柄ばかり取り上げているが、会社法の事柄で気になることをもう一つ。

 普通株式しか発行していない株式会社が、株主総会において、別の種類の株式を発行できるようにする定款変更と、発行済の既存の普通株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更を行い、同時に取得決議を行う。取得決議の内容として、取得の対価を新しく設けた別の種類の株式として、旧普通株式10万株に対し別の種類の株式1株を割り当てる取得決議を行う。
 旧普通株式10万株に対して新株が1株しか割り当てられないので、大口の株主しか1株以上の株式は割り当てられず、中小零細の株主は端数処理の結果現金処理され、株主ではなくなってしまう。
 このような処理が現実に行われている例があるらしい。一部大口の株主だけが株主として残れ、ほかの株主は事実上現金を対価として株主から排除するのである。このような方法をスクイーズアウトという。

 下級審の判例では、この種のスクイーズアウトを適法としている裁判例があるらしいのだが、常識的に考えて、どうしてもおかしい。

全部取得条項付種類株式と反対株主(9)

2012-05-15 13:39:29 | 会社法
 個別株主通知の問題とともに、つい先だっての方の判例については、次のような判示もしている、すなわち、株式買取請求をした株主がその請求に係る株式を失った場合は、当該株主は申立ての適格を欠くに至り、申立が不適法になると。しかも、その株式を失う理由が、まさに全部取得条項付種類株式が取得されることによって失った事例において、このような判示をしたのである。
 株主であることが買取請求権を行使する前提であるとすれば、判例の理解も理屈ではあるが、私にはあまりにも形式的解釈に失した理屈としか思えない。最高裁のような理解では、普通株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更と、当該株式の全部取得の決議が同時に行われるような事案では、近々全部取得の効力が生じることは目に見えているので、結果、株式買取請求権は事実上権利行使が出来ないのと同じである。
 もちろん、定款変更と取得決議が同時に行われれば、会社法172条の方の価格決定の申立をすればよいのであろうが、わずかでも時期がずれていたらどうなのだろう。普通株式を全部取得条項付種類株式とする定款変更が行われただけで、株価下落の影響はあり得るはずで、それから時期をずらして(例えば1か月時期をずらして)別途取得決議を行うと、株式買取請求はやはり後日の取得決議による取得で権利行使できなくなってしまう上、会社法172条の価格決定の申立の時点では株価が値下がりした時点での価格を基準とせざるを得なくなりそうである。これも果たして妥当なのだろうか。

 いずれにしても法解釈が煮詰まっていなかったと思われる分野について、最高裁の厳しい態度が見て取れる。しかも、申立者が真の株主であれば、権利行使の手続を間違えていなければ、本来何らかの形で請求が認められてしかるべき権利行使に関してである。その意味で裁判所の判断は厳しすぎるような気がする。

 とりとめなく、振替株式に関する株式買取請求権の問題などについていろいろと述べてみた。個別株主通知が問題となるような事案は、会社法規定事項ではないので、もともと法律家としてもうっかりしやすいのである。私は、まさにそういうことがないようにしたいので、上場会社特有の法体系について理解が得やすいようにと思い、上場会社法の解説をしてみたいと思っている。すでにその欄を設けている。まだほんのちょっとだけしかアップしていないが、これから随時アップしていくつもりでいる。振替株式についてもそこで触れるので、もう少し詳しく知りたい方はそちらも参照してほしい。

全部取得条項付種類株式と反対株主(8)

2012-05-10 10:09:40 | 会社法
 第3に、これは立法時期との兼ね合いの問題もあるが、上場株式に関する振替株式制度は、つい数年前に株券の保管振替制度から強制移行されたばかり(確か、平成21年1月5日が一斉移行日である)であり、判例の事案はそれから間もない事案なので、個別株主通知の制度をうっかりしていた可能性もある。
 しかも、さらに問題があるのは、全部取得条項付種類株式とする定款変更をして、直ちに全部取得の決議もすることがよくあり、つい先だっての判例もその例に漏れない。この場合、取得決議後、株式の取得の効力は近々発生するはずであるから、その段階で当該株式が流通することはなくなり、上場廃止となることがほぼ確実となる。その結果、当該株式についての振替株式の適用も廃止となることもほぼ確実で、振替株式の適用がなくなると、個別株主通知が不可能となってしまうということである。上記の各判例の事案も、既に上場廃止となり、振替株式の適用もなくなった事案である。そのため、判示内容として、個別株主通知は価格決定の裁判終結までに行われればよいとして、個別株主通知を行うべき時期について要件を緩和した判示をしてはいるが、結局当該事案では救済にはならない事案だったのである。

 今後は、上記のような判例が出たこともあり、全部取得条項付種類株式における反対株主の権利行使には気をつけるようにすべきということになろうが、上記判例は一斉移行後間もない事件でもあり、個別株主通知の制度をうっかりしていた可能性があることも考えると、そして、これまで私がこのブログで述べてきたいろいろな問題点があることも踏まえると、事実として価格決定の裁判の申立者が真に株主であることが証明されるならば、せめて当該事案に限って救済することもあり得たのではないだろうか。

全部取得条項付種類株式と反対株主(7)

2012-05-07 10:02:23 | 会社法
 第2に、株式買取請求権や価格決定の申立権が発生する場面は、通常の場合、その前提として株主総会による決議があるわけで、今回の判例もその例に漏れないようである。
 そうであれば、基準日を前提に株主総会における議決権者を定める限り、基準日時点の株主の確定自体は総株主通知(社債株式振替151条)によって確定されている。そして、株式買取請求権や価格決定の申立権の発生には、議決権ある株式である限り、株主総会で現に反対しなければならない。そうだとすると、株式買取請求権や価格決定の申立をしてきた株主が、少なくとも基準日時点においては株主であることは明確に判断できるのであるし、やや言い過ぎかも知れないが、言ってみれば株式買取請求権や価格決定の申立権は、議決権に付随する権利のような側面もないわけではなさそうな気もする。後は基準日以後に当該株式を売却等により失ってしまったかどうかが問題となるだけである。しかも、買取請求権や価格決定の申立は、株主総会の日からそれ程時間をおかずに権利行使されることが予想される権利であり、基準日からのズレもそれ程大きくない。
 それにもかかわらず、振替新株予約権とのバランスも良くない個別株主通知を必要とするという解釈は、具体的妥当性として果たしてどうなのだろう。
 判例はこの点に関し、その趣旨としては、総株主通知はあくまでも基準日時点の株主が確定できるだけであることを強調し、株式買取請求権は基準日とは異なる時点での権利行使であることを前提として、個別株主通知を必要という趣旨である。
 総株主通知(基準日時点の株主)と株式買取請求権の行使時の株主との関係でいえば、確かに判例のいうのももっともではある。しかし、この判例の考え方は、株主権の行使は総株主通知を前提とする基準日時点などにおける株主権の行使(議決権や剰余金の配当請求権等が想定される)以外は、一切合切すべて個別株主通知が必要となるということが大前提となっているように思う。ここに、そもそもの問題があるのではないか。振替新株予約権とのバランスのように、社債株式振替法の制度設計全体も考慮に入れた場合、判例の考えは、やや形式的解釈に過ぎるという印象をぬぐえない。