実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-売主の担保責任(2)

2015-08-26 11:25:37 | 債権各論
 従前の売主の担保責任の内容は、他人の権利の場合、数量不足の場合、制限物権が設定されていた場合、瑕疵がある場合等において、それぞれ個別に要件効果を規定していた。

 ところが、改正案では、要件については、「不適合」という言葉に統合され、若干の例外を除き、どのような「不適合」であっても同じ効果が発生することになっている。その効果は、買主の追完請求権、代金減額請求権、損害賠償請求権、解除権の4つとなる。
 このように、担保責任の要件効果が基本的に統一されることになるので、従前の内容よりも見通しのよい内容になりそうである。

 ここで、損害賠償請求権と解除権については、債務不履行における一般的な損害賠償と解除の規定が適用されるだけのことである。が、逆にいうと、契約不適合の場合に債務不履行に基づく損害賠償請求と解除を積極的に認める規定となっている。
 ここに、法定責任説からの決別(すなわち契約責任説の採用)が見て取れることになる。

債権法改正-売主の担保責任(1)

2015-08-19 10:44:44 | 債権各論
 債権法の改正案では、「瑕疵」という言葉がなくなる。従前の民法では、売主の瑕疵担保責任として、売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合の売主の責任が規定されており、これが有償契約に全面的に準用される形となっていたので、売主の瑕疵担保責任の理解は重要であった。
 また、この瑕疵担保責任が普通の債務不履行責任と性質が同じなのか違うのかで議論があり、同じという説を契約責任説、違うという説を法定責任説と呼んでいた。かつて(少なくとも私が学生だったころ)は法定責任説が通説と言われていたが、近時は契約責任説の方が有力のようで、債権法の改正案は、契約責任説の立場で立法化されたと言われている。

 その上で、「瑕疵」という言葉がなくなり、これに変わって「不適合」という言葉が用いられるようになる。「不適合」と言う言葉を条文に則して定義すると、引き渡された目的物が、種類、品質、数量に関して契約内容に適合しないことをいうことになる。したがって、ここでいう「不適合」の内容は、伝統的な「瑕疵」がある場合に限らず、広く捉えることになってくる。従前の理解を前提とすると、やや面食らう改正となっているが、改正案が契約責任説を採用したことと無関係ではないであろう。しかも、売買の対象がものではなく権利の場合でもその権利が契約に適合しない場合は担保責任の規定が全面的に準用されることになるので、要は売買における不完全履行は、不特定物においても全て新たな担保責任の規定により処理されることになると理解して間違いはなさそうである。

 以上のようなことから、売主の担保責任については大幅な改正がなされることになる。

債権法改正-原始的不能と損害賠償(3)

2015-08-12 11:39:17 | 債権総論
 以上のように見てくると、改正案の412条の2第2項は、条文の位置及びその規定ぶりに問題があったのではないだろうか。

 規定ぶりから先に言えば、原始的不能であっても契約を有効とするのであれば、問題は損害賠償の場面だけではなく契約の解除の可否その他通常の契約と同様の問題として処理しなければならない。それなのに、損害賠償の問題のみに絞ったような規定ぶりとなっている点に問題がある。
 そして、条文の位置である。おそらく、もっぱら契約の有効性が問題となるだけであるから、債権総論の部分に規定するのではなく、債権各論の契約法の部分に規定すべきだったのではないだろうか。それを、債権総論の部分に規定してしまったことから、民法体系を崩さないように、損害賠償という現象面だけを捉えた規定ぶりになってしまったのではないか、という気がしてならない。

 立法者意思としては原始的不能であっても契約を有効と捉えようとしていることは間違いはないはずである。しかし、そのことは、現行法の解釈と改正法の文言を照らし合わせても、見た目では分からなくなってしまったようである。
 これは、基本法の根本を改正するという作業の難しさなのかもしれない。が、改正法が成立し施行されると、実務が落ち着くまではややこしいことになるかもしれない。

債権法改正-原始的不能と損害賠償(2)

2015-08-05 10:07:13 | 債権総論
 改正案では、412条の2の第1項に履行不能の定義が置かれ、その第2項に「契約に基づく債務の履行がその契約の成立の時に不能であったことは、第四一五条の規定によりその履行の不能によって生じた損害の賠償を請求することを妨げない。」という規定が盛り込まれることになり、これが原始的不能でも契約を有効とする規定とされている。

 しかし、この条文を素直に読んだ場合、現行法の理解である「原始的不能=無効」という原理で理解することは不可能なのかというと、どうもそうでもないのである。
 なぜなら、現行法の理解である「原始的不能=無効」を前提としても、義務者の側の過失で履行不能な契約を締結をした場合、「契約締結上の過失」の法理により、義務者には損害賠償責任が課される可能性が認められているからである。ただし、通常の損害賠償であれば履行利益の損害賠償も可能とされているところ、契約締結上の過失による場合は、信頼利益の賠償に限ると言われている点に違いがある。これが、不法行為責任ではなく債務不履行責任であるならば(少なくとも多くの学者はそのように考えているはずであるが、判例が債務不履行責任と考えているかどうかは、やや疑義がある。)、その責任は415条に基づくものといわざるを得ない。
 そして、改正案の条文の位置が履行不能の定義と同じ条文の第2項であって、しかも効果として損害賠償しか規定していないから、読み方によっては、履行を求めることは不可能-つまり原始的無効-であるけども、例外として契約締結上の過失による損害賠償請求だけは債務不履行責任として認めた規定にも読めてしまう。もしこのような理解で考えれば、これでは現行法の学説と大して変わらない。

 このように、よく見ると、改正案の412条の2第2項は、「原始的不能でも有効」という前提でなければ理解できないような条文にはなっておらず、「原始的不能=無効」を前提に、契約締結上の過失に基づく信頼利益の損害賠償責任だけは認める規定とも読み込むことも可能なようなのである。