実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

ストックオプションの付与と有利発行(1)

2009-07-31 20:58:14 | 会社法
 最近、ストックオプションとしての新株予約権を発行する場合、新株予約権の有利発行になるという前提で株主総会の特別決議にかける実務が多いようである。私もわずかながら株式投資をしているが、今年送られてきた株主総会の招集通知の中に、やはりストックオプションとしての新株予約権の発行を、有利発行として株主総会の議案に含めている事例を見かけた。
 通常、新株予約権を発行する場合、発行時の株価またはそれよりもやや高めの価格を行使価格として、新株予約権を発行するものと思われる。具体的には、新株予約権の発行時の一株の株価の市場価格が500円であったとすれば、新株予約権を行使して一株を得る際の行使価格(行使時の払込価格)を500円として、新株予約権を発行するのである。ストックオプションとしての新株予約権の無償付与で発行する場合も、その例外ではない。
 以上の事例において、新株予約権が無償で付与された新株予約権者は、付与後ただちに新株予約権を行使すれば、市場価格が500円の株式を、500円払い込んで取得することになるので、一見すると特段有利発行に該当するようには見えない。しかし、以上のような行使価格を前提とした一般的な新株予約権の発行、たとえば、第三者割り当てや公募での新株予約権の発行であれば、普通は有利発行に該当する可能性が高いのである。このことは、オプション価格理論という考え方を示した経済学者が明らかにした。
 ちなみに、新株予約権とオプション価格理論との関係すらわからない人がいるかもしれないが、もしわからない人がいれば、新株予約権とは、オプション取引(買う権利や売る権利という権利の売買である)のうちの「コールオプション」取引(買う権利の売買である)の一種なのだと単純にご理解いただきたい。そして、オプション価格理論は、オプション取引における客観的な取引価格を導き出す理論である。つまり、コールオプション、すなわち新株予約権にはそれ自体に価値があるのである。

 オプション価格理論は、数学の弱い法律家には理解しにくいかもしれないし、そもそも、オプション価格理論という考え方だけでノーベル経済学賞を受賞するほどに高度な経済理論であり、しかも、「ブラック=ショールズの方程式」といわれる偏微分方程式を導出し、それを物理学的手法も用いてその解を解き、「ブラック=ショールズの公式」を示したということのようであり、およそ文系の法律家には理解できない内容ではある。一時期、「金融工学」という言葉がはやり(ちょうど10年くらい前だっただろうか)、オプション価格理論に関する本も、書店に山積みとなっていたことがあった。私も、高校生までは多少数学に自信があったこともあったので、その種の本を買って読んだこともあったが、すでに高校を卒業して10年以上経過し、数学自体も忘れていること、また、これらの本は、みな難しい数式が羅列されていたこと(おそらく、大学レベルの数学も知らないとついていけない)もあり、一割も理解するには至らなかったであろうか。

 つづく。

一般社団,一般財団法人法(3)

2009-07-27 10:50:11 | 一般法人
 改正経緯の特徴

 前回のアップでも冒頭で書いたが、一般社団、一般財団法人法の制定は、民法の改正という視点から見ると、単に民法上の法人の全面改正という位置づけとなる。しかし、もう少し広い視点で見ると、公益法人制度改革としての改正であり、小泉政権時代に、内閣官房内に設置された行政改革推進事務局が主体となって行われ、特殊法人改革、公務員制度改革と並び立つ、極めて政治色の強い背景の下に行われているといえそうである。そして、公益法人制度改革の議論は、公益法人制度改革に関する有識者会議及び非営利法人ワーキング・グループによって行われ、有識者会議及びワーキンググループによる非営利法人制度の創設に関する試案(以下、「試案」という)が平成16年10月12日付で公表され、有識者会議の報告書(以下、「報告書」という)が同年11月19日付で公表されている。さらには、これに基づいた形で、行政改革推進事務局が平成17年12月に公益法人制度改革の概要(以下、「概要」という)を発表し、パブリックコメントを経た上で、法律案が出来上がっている。
 したがって、公益法人制度改革を理解するには、これら「試案」、「報告書」、「概要」を参照するのが、有益といえる(ちなみに、これらは、現在でも行政改革推進事務局のホームケージから参照することができるようである。)。
 そのため、今後、一般社団、一般財団法人法についてのコメントは、これら「試案」、「報告書」、「概要」を引用しながらのアップになると思う。

一般社団,一般財団法人法(2)

2009-07-23 11:23:33 | 一般法人
 まずは,民法の規定の改正という点に焦点を当ててみたい。
 前提として、民法の法人の改正は、いわゆる、公益法人制度改革として改正されている。そのため、公益法人の規定であった民法上の法人について、そのほとんどを民法典から抜き出して別の法律を制定するという立法方法を採用している。その結果、民法の法人の規定は、わずかしか残っていない。残っているのは、法人の設立根拠(新民法33条)、法人の能力(新民法34条)、外国法人の規定(新民法35条)、登記による公示の規定(36条)及び外国法人の登記の規定(37条)のみが残り、法人の内容についての規定は、一切なくなる。
 ただし、改正前の民法34条に相当する規定は、民法33条2項となって、しかも重要な点で改正がある。ここが意外に重要である。
 改正前の民法34は、営利を目的としない(公益)法人についての設立に関する規定であった。ところが、新民法33条2項は、「学術、技芸、慈善、祭祀、宗教その他の公益を目的とする法人、営利事業を営むことを目的とする法人その他の法人の設立、組織、運営、管理については、この法律その他の法律の定めるところによる。」と規定されることとなった。つまり、営利事業を営むことを目的とする法人の設立根拠は民法にその根拠を求めることになったのである。その意味において、会社法はこの新33条2項を受けた法律という理解になるのではないかと思われる。
 従来会社の規定は商法中に存在したため、会社法が商法法規の一部であることは明らかであったが、会社法制定後も実質的な商法法規の一部という前提があったと思われる。しかし、現行商法には、会社の規定であった旧第2編ごと完全に削除され、会社に関する規定はまったく何も残っていない。そして、今般の改正によって、営利事業を営む法人の設立根拠が民法に規定されたと理解できるならば、会社法は実質的には民法法規の一部であるという理解も、十分に成り立ちうるのではないか。
 この新民法33条2項の改正は、従前の会社法の解釈論に更なる影響を与える。法人の規定が上記のような形で新民法33条2項に規定されて営利事業を営む法人も取り込まれた上、その直後の新民法34条に、法人の能力として改正前民法43条と同じ条文が規定されることとなった(ただし、「又は寄付行為」という文言が「その他の基本約款」という文言に変わっている)。当然新民法34条に規定する法人の種類になんらの限定もない。したがって、営利事業を営む会社についても、新法34条が直接適用されるようになったと理解されるのである。
 会社の目的による制限についての従来の議論は、通説・判例は改正前民法43条が類推適用されるとしていたが、会社については改正前民法43条は類推適用されず、定款所定の目的は、単に機関の権限に対する内部的な制限に過ぎないという理解もかなり有力であった(改正前民法43条類推適用を否定する新会社法の解説書としては、神田秀樹・会社法第8版5頁)。しかし、新民法33条、34条のような規定になれば、会社も目的による制限は当然に適用(類推適用でもなく、直接適用である)されるとしか考えられないのである。現在の会社法の教科書も、このことを前提とした記述に変わっているようである。
 会社の目的に関する従前の判例を立法的に採用したと言ってしまえばそれまでであるが、判例の立場を否定する有力説もあったにもかかわらず、商法学者が改正議論に参加したか否かが極めて怪しいこの部分の改正は、やや唐突な印象を受けないではない。
 なお、今般の改正で、民法の社団法人・財団法人の規定は一切削除されるにもかかわらず、新民法33条2項の規定は、民法典の中に法人の組織等に関する規定が存在していることを前提とする条文となっているが、これはおそらく、相続財産法人(民法951条)を想定しているものと思われる。

一般社団,一般財団法人法(1)

2009-07-21 15:37:52 | 一般法人
 とびとびのアップになると思うが,「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律」(今後,「一般社団,一般財団法人法」という)について,少しずつアップしてみたいと思う。

 この法律は,民法改正という側面から見ると,民法の法人規定の全面改正ともいえる法律で,会社法の改正が商法の会社の規定から単行法に独立させたのと対比できるような改正といえそうである。そのため,民法の法人の規定は,わずか5箇条だけとなってしまった。
 しかも,この法律の中身をざっと眺めた際の私の感想は,「株式会社法にそっくり」という感想である。特に,機関の規定は,株式会社法の規定と「瓜二つ」ともいえるようなほどそっくりである。そのため,一般社団,一般財団法人法を理解するには,良くも悪くも,会社法の規定との比較というのが重要になってきそうである。

 一般社団,一般財団法人法は,すでに改正から数年経過し,施行もされている。ところが,この法律の解説書は,Q&Aのような形の実務書は,そこそこに存在しているが,いわゆる学術書,あるいは教科書としての解説書は,なかなか見かけない。この理由は,一面では民法改正ではあるが,改正された後の法律が会社法にそっくりという面があるので,どの学者も,手がつけにくい,という側面があるからかもしれないと思っている。
 そこで今後,一般社団,一般財団法人法について,私なりに問題点等をピックアップしてみたいと思う。

 これは,とびとびで長い間続くと思います。

債権譲渡の第三者対抗要件は到達時?(4)

2009-07-18 10:51:26 | 債権総論
 債権譲渡の対抗要件の続きです。

 仮に、内容証明郵便での譲渡通知であれば、一応配達証明書が機能しているとしても、債権譲渡通知が内容証明郵便以外の確定日付ある証書で行えば、到達の事実を証するものは、債務者の証言しかない。果たして、債務者の証言が本当に信用できるかどうかである。もし、債務者と旧債権者(債権譲渡人)との関係が密接であったとすると、旧債権者(債権譲渡人)の言いなりに証言を変えてしまうことも、十分にあり得そうである。旧債権者は、債権を二重に譲渡して、あるいみではそれぞれの譲渡先に対して頭が上がらない状態のはずである。その旧債権者が後順位譲受人からの要請で、債務者にうその証言を依頼したばあい、旧債権者と密接な関係がある債務者だと、その依頼を断りきれるであろうか。
 以上のとおりなので、純粋に理論を突き詰めれば、確定日付説も決して簡単に捨て去ることの出来ない説だと思うのである。

 ただし、確定日付説には、他に決定的な弱点がある。それは、予め公証人役場で確定日付(民法施行法5条2号に当たる)を押してもらった譲渡通知書を、そのまま発送せずに手元にとどめて止めておき、他の譲渡通知に送れて最後の最後に発送しても、さかのぼって対抗力を生じさせるような、いわば潜水艦(サブマリン)状態を作り出すことが出来てしまうことにある。このような不意打ち的なサブマリン譲渡は認めるべきではないだろう。
 そして、到達時説で運用されている現在の実務が一応機能している現状では、私見としても到達時説を捨て去ってまで上記のような弱点のある確定日付説を採用するには躊躇を覚えるのは確かである。

 しかし、もし債権譲渡通知に関する限り、確定日付の記載がなされたら確定日付作成機関が責任をもって直ちにその証書を発送するような仕組みを立法的に採用したならば、サブマリン譲渡を阻止できるので、確定日付説の方が優れてた理論になるのではないかと考えている。あるいは、第三者対抗要件を内容証明郵便に一本化してしまえば、サブマリン状態を作り上げることはできない。このような立法化ができれば、確定日付説は有力だと考えている。

 民法(債権法)改正検討委員会では、債権譲渡の対抗要件は登記制度を採用するか、仮に登記制度が無理でも、現行法とは別の仕組みを採用することが示されている。
 登記制度は、現在立法化されている、動産、債権譲渡特例法による登記制度を、法人による債権譲渡だけでなく個人にも広げるものと考えられる。しかし、債権は不動産とは違い人為的に無限に作り出すことができることからして、登記の特定性や検索可能性に問題は出てこないのだろうか。難しい問題のように思われるが……