実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

経営陣VS創業家(5)

2017-10-31 11:00:21 | 時事
 個人的な意見としては、創業家はややわがままに感じるし、そうであれば、経営陣としても新株発行をして創業家の持株比率を低下させたいという気持ちにもなるのだろう。
 もっとも、それでも、やはり今回の新株発行は会社法的な発想だけで考えると、私にはどうしても禁じ手にしか見えない。経営陣としても、もっとできることがなかっただろうかと思ってしまうのである。たとえば、すぐに法的な組織再編とまで行かなくても、順次業務提携を進めていき、業務提携による効率化で業績を上げながら、創業家を説得していくということも十分考えられる。
 なので、私は当初、たとえ創業家にわがままな側面があったとしても、それはそれで会社法的には想定された事態である以上、裁判所は新株発行を差し止めるのではないかと予想をしていた。

 だが、もう少し視野を広げて考えると、合併推進派の現経営陣が株主総会の過半数の指示で取締役に選任される一方で、合併に反対する持株比率3分の1以上の創業家との対立で膠着状態が長引きそうだとすると、では、一般株主はどうすればよいのか。
 もし、このような膠着状態に嫌気がさすなら、株式を売却してその会社に対する投資をやめればいいというのも一つの答えであり、会社法的にはこれが唯一の答えなのかもしれない。

 しかし、投資適格として株式が上場されている会社であることを前提とすれば、そんな単純な話でもなさそうである。
 東京証券取引所では、子会社上場を認めているので、当然、1グループで特別決議を阻止できるだけの持株比率を有する株主グループがあったとしても、上場には全く問題はない。しかし、それはあくまでも親会社あるいは3分の1以上の持株比率を有する株主グループが一般株主をないがしろにするような意思決定はしないであろうという暗黙の前提の上に成り立っているのではないだろうか。つまり、法的には会社法の問題というよりも、上場会社法制の問題のように感じてきている。ところが、表面的に現れた法廷闘争は、新株発行差止請求という、会社法プロパーの問題として現れたために、分かりにくくなってしまっているのかもしれない。
 あくまでも雑感的な発想でしかないのだが、会社法の解釈も、上場会社の場合に、解釈を修正して考えるべき点がありうるかどうか、そんなふうにも思うのである。

 とりとめのない感想でした。

経営陣VS創業家(4)

2017-10-24 11:09:55 | 時事
 会社側は、新株発行の必要性について、創業家の持株比率の希釈化とは無関係を装っており、裁判所も、差止請求の仮処分を認めなかった。
 しかし、私には、どうしてもこの時期での新株発行は禁じ手のようにしか映らなかった。経営陣と創業家の対立がある中での新株発行は、持株比率の希釈化と無縁とは思えないからである。マスコミ報道でも、裁判所の判断として、創業家の持ち株比率の希釈化の目的はあったものと認めているようである。
 それにもかかわらず、差し止めを認めなかったのは、資金調達の必要性が主目的だったからだということであろう。いわゆる、主要目的ルールといわれる考え方である。最高裁の判例もこのルールを認めている。従って、主要な目的が資金調達目的であれば、持株比率の希釈化の目的も副次的に存在しても、不公正発行を理由とする差し止めを認めないという結論になるのであり、その意味では表面的には最高裁の判例に従った判断ということになるのであろう。理論的には、今回の新株発行が、第三者割当ではなく公募だったことから、現経営陣による会社支配目的を認めることはできない点が、主要目的ルールを適用する上での一つの視点として有力視される可能性があるだろうか。

 しかし、かなり乱暴な言い方をしてしまうが、結論に至る理由など後付けでいくらでも判例に従った理由を探し出すことはできるのであって、主要目的ルールに当てはまるような理由を考え出すことなど、裁判所にとってはいとも簡単である。新株発行を行う会社側も、一応それなりの名目をお膳立てした上で新株を発行するのであるから、その中から裁判所が主目的を選び出すことなど、朝飯前であろう。
 決して判旨に現れることはないのだが、真の理由は、裁判所も創業家のわがままを感じ取っていたのではないだろうか。だからこそ、経営陣と創業家との対立がある中での新株発行を、裁判所も認めてしまったということを推測するのだが、どうだろう。

経営陣VS創業家(3)

2017-10-17 13:57:01 | 時事
 創業家の意向を善解すれば、経営陣に合併によらない会社経営をしてほしいということなのであろうが、しかし、これに対しては、経営者側からは、そのようなことは既に十分考えた上で、それでも合併にに踏み切らざるを得ないという判断に至ったのだという反論が出てこよう。
 以上のことからして、私は、経営統合に反対するだけで、合併によらない経営を推進することを目指す経営陣の送り込みを目指すことをしない創業家の態度に、ややわがままを感じていたのである。

 そうしていたところ、今年の定時株主総会後まもなく、会社側は新株発行を行ったのである。これに対する創業家による差止請求の仮処分は認められなかった。そのため、創業家の持株比率は3分の2を割り、だいぶ持株比率は下がったようである。

経営陣VS創業家(2)

2017-10-10 11:15:27 | 時事
 合併を含めた、いわゆる会社の組織再編といわれる行為は、会社組織の根本に関わることだからこそ、その最終判断を株主総会の特別決議に委ねてている。しかし、経営陣が合併を念頭に置いて同業他社との経営統合を進めるのは、会社組織の根本を変更してでも生き残りのために同業他社との統合が望ましいと考えたからに違いない。
 それに対して、創業家大株主が合併という会社の根本的な変更に反対だというのであれば、通常ならば、経営統合を推し進める経営陣の退陣を求めるのが普通ではないだろうか。そして、経営統合をせずとも生き残りに自信をもっている別の人物を役員として送り込むことを狙うのが普通ではないだろうか。
 もしそうだとすれば、創業家は、単に経営統合の反対の意思を貫くというだけでなく、合併を推進しようとする取締役の解任及び新取締役の選任に関する株主提案をしてもいいはずである。ちなみに、任期満了時の定時株主総会であれば、創業家が推薦する新取締役の選任についての議案の提案だけでよい。あとは、プロキシーファイトとなり、現経営陣と創業家との委任状争奪合戦(あるいはそれぞれに有利な方への議決権行使の株主への呼びかけ)を経て株主総会となる。
 もし、創業家が新取締役選任の株主提案を行えば、創業家以外の株主としても、合併を推進する経営陣を選択するのか、合併によらない経営を推進する経営陣を選択するのかという、選択の余地が増えるので、より望ましいことは間違いがないはずである。

 ところが、創業家は合併に反対と言いながら、マスコミ報道を見る限りでは、取締役選任議案については、会社提案の現経営陣の再任に関する議案に反対するだけであり、自ら取締役を送り込む株主提案をしている様子はない。