実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

時効の効力は権利の取得?消滅?(4)

2017-05-26 11:05:07 | 民法総則
 確定効果説も不確定効果説も、実体法的効力を前提としているが、実は時効学説の一つとして訴訟法説がある。時効とは、訴訟における攻撃防御方法の一つに過ぎず、時効が主張、立証されたら、消滅時効で言えば権利が消滅したと事実認定しなければならない、取得時効で言えば権利を取得したと事実認定しなければならない、そういう訴訟上の効果だというのである。
 また、これは裁判所に事実認定を義務づけるので、自由心証主義に対する例外となり、法定証拠説と言われることもあるようである。
 この説は、時効の存在根拠として③を想定していることは明らかで、証拠の散逸で証明できなくなった弁済者(消滅時効の場合)を保護し、あるいは権利者(取得時効の場合)を保護しようという趣旨になる。

 しかし、現在の時効制度は、民法に規定され、明らかに実体法的な権利義務の変動規定とされているので、訴訟法説はなかなか採用しにくい。
 が、私は理念としてこの訴訟法説に大変な魅力を感じている。

 そもそも、時効の存在根拠として、③の証拠の散逸からの救済が強調されるようになった理由は、訴訟の現場における実際の時効の主張の仕方にあると言われていたと思われる。
 どういうことかというと、例えば金銭請求の訴訟に対し、被告側の抗弁としていきなり消滅時効を主張するというよりは、まずは弁済等の通常の債務消滅原因を主張しつつ、仮定抗弁として弁済が立証できなくても消滅時効に係っているという主張をする場合が多いらしいというのである。実際、実務を行っている立場からしても、確かにそうかもしれないと思うところである。
 つまり、本来は弁済等の通常の債務消滅原因を主張し立証したいのであるが、証拠がないからやむを得ず消滅時効を主張しているのが実務ではないか、ということなのである。だからこそ、時効の存在根拠として③が強調されるようになってきている。
 しかも、この実務の現象を素直に見れば、まさに訴訟法説が念頭に置いている場面そのものではないのか。私が訴訟法説に魅力を感じる所以である。

時効の効力は権利の取得?消滅?(3)

2017-05-19 09:37:26 | 民法総則
 以上とは別に、時効の存在根拠は何かという問題がある。一般に3つの根拠が言われており、①権利の上に眠る者は保護しない、②事実状態の法的保護、③証拠の散逸からの救済、の3つが併存しているような状況である。
 かつては、このうち、①権利の上に眠る者は保護しないという点が強調されていたやに思われるが、最近は、③証拠の散逸からの救済に主力がおかれているであろうか。
 しかし、①と③では意味合いが大分異なる。①は、消滅時効で言えば、もともと存在していた権利も、長い間権利行使ないでいれば、裁判所はそのような者を保護しないというのであるから、有が無に変身する理屈である。取得時効は逆で、無から有が生じることを是認する理屈である。これに対し、③は、消滅時効で言えば、本来は債務が消滅しているのであるが、長期間経過したことにより証拠が散逸し債務消滅を証明できなくなってしまうことがあるから、これを救済するために時効の援用をすることを認めたものと理解することになる。要は、本来無であるものについて無の効力を維持させるものである。取得時効は逆で、有であるものについて有の効力を維持させるものと理解される。②の、事実状態の法的保護という存在根拠は、特に取得時効で問題となりやすいが、どちらかというと無から有を生じさせるものと理解されがちである。そうだとすると、時効の存在根拠の中で、③だけが異質ということになるが、近年はこれが強調されることになっていると言うことだろう。

 しかしである。それでは、時効の存在根拠を③を中心に考えたとして、これと時効の効力に関する学説との関係はどうなのか。時効の存在根拠として③を中心に考えて無は無のまま、有は有のままと言っているにもかかわらず、時効の効力に関する学説では、有を無にする関係、無を有にする関係を一生懸命議論しているのである。まるであべこべである。
 もちろん、学者は、いくら時効の存在根拠を③を中心に考えたとしても、有が無になる場面、無が有になる場面が現実に起こりうるから、そのような場面も想定した上での議論であると言いたいのであろう。それはそれで分からないわけではないのだが、では、時効を援用せずに本来無であったものに対して弁済してしまったらどうなのか、あるいは時効を援用せずに本来有であった所有権を行使しなかったらどうなるのか。これは、時効の効力に関する学説が想定する場面に対する裏の問題である。表があり得るなら当然裏もあり得るはずである。この裏に対する答えはあるのだろうか。

時効の効力は権利の取得?消滅?(2)

2017-05-12 09:45:44 | 民法総則
 時効の効力に関する学説として、確定効果説や不確定効果説があり、不確定効果説は、さらに停止条件説と解除条件説に分かれる。そして、判例通説は停止条件説だと言われている。

 消滅時効を例にとれば、時効期間が経過すれば当然に権利が消滅すると考えるのが確定効果説で、不確定効果説はそうではないという。そして、不確定効果説のうちの停止条件説は、時効の援用を停止条件として消滅すると考え、解除条件説は時効の援用権を放棄または喪失することを解除条件として消滅すると考える。
 この問題は何を想定しているかというと、時効期間経過後に債務を弁済した場合の法的状況を想定している。つまり、確定効果説に対しては、時効期間が経過すれば、債務は確定的に消滅しているにもかかわらず、時効を援用せずに債務を弁済した場合に、同時に、時効援用権も喪失するので、もはや時効を主張し得ないから弁済を有効とせざるを得ないにもかかわらず、消滅した債務の弁済だから、この弁済を有効と考えることに理論的な困難が生じるという批判があり得ると言われる。
 この困難を克服するために不確定効果説が登場するのであるが、このうち、解除条件説は、時効期間経過により、一応債務は消滅するが、時効の援用権を放棄又は喪失することによりこの効力は解除されるので、消滅しなかったことになるという。その結果、弁済により時効援用権を喪失すれば、解除条件が成就するから債務は消滅しなかったことになり弁済の有効を基礎づけられると考えるようである。ただし、この解除条件説は、時効期間経過後の債務の弁済により、債務が復活すると同時に弁済により直ちに消滅することになるから、かなり技巧的な解釈だという批判があると言われる。
 そこで停止条件説になるのだが、この説では、時効期間の経過により債務が消滅するのではなく、時効の援用を以て初めて消滅することになるという。したがって、時効期間経過後の弁済の場合でも、未だ存在している債務を弁済したに過ぎないから、最も素直な解釈が導き出せると言われる。

時効の効力は権利の取得?消滅?(1)

2017-05-02 09:45:51 | 民法総則
 民法の時効の効力を考えてみる。

 条文に従えば、取得時効では権利を取得し、消滅時効では権利が消滅する。実に明快な効力である。しかし、表題にはこれらの効力に「?」をつけてみた。端的に、この権利の「取得」、権利の「消滅」という効力そのものに疑問を感じるからである。が、当然、奇異に感じる人は多いであろう。権利を取得できなければそもそも取得時効にならないし、同様に権利が消滅しなければ消滅時効にならないと理解されがちだろうからである。
 もっとも、消滅時効の効力に関して言えば、厳密な意味で消滅するのではなく、自然債務的なものとして存続し続けるという解釈もあり得ないわけではないかもしれないが、ここでは、そういうことを言いたいのではなく、消滅時効を例にとっても、権利行使しうる権利がなぜ権利行使できなくなるのか、その理念的なものを問題としたいと思っている。

 ただし、消滅時効を例にとれば、権利行使しうる権利が権利行使できなくなるという効力のうち、問題はどちらかというと「権利行使できなくなる」という部分にあるのではなく、「権利行使しうる権利」であった権利か否か、こちらの方を問題としたいのである。このように言えば、多少は何を言いたいかはお解りいただける人はいると思う。
 私は、この部分を、時効学説との関係を踏まえて、体系的に組み直してみたいのである。