実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

離婚と婚姻費用分担請求

2020-01-29 11:17:30 | 家族法
 若干マスコミ報道もされた、ごく最近の判例がある。婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても、これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえないという判例である。

 最高裁のホームページで公開された判例を見ると、事案としても、婚姻費用分担請求の調停を申し立てた後、離婚調停が先に成立した事案のようである。この場合に、離婚調停成立までの婚姻費用の分担請求は離婚後も引き続き可能か否かが問題となっている。
 判旨は、このような事案で、離婚後も、離婚までの婚姻費用の分担請求権は認められるとしたのである。

 問題なのは、判旨だけを読むと、婚姻費用分担調停(審判)を申し立てた後の離婚の場合の判断となっている点である。離婚が成立した後に、離婚が成立するまでの婚姻費用の分担請求の調停や審判を始めることができるか否かは、表面的に判旨を読むだけでは、何も判断していないといえそうである。
 ただ、判断の理由を読むと、離婚したからといって、離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由はないこと、過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができることを理由に、以上のような判断をしている。
 とすると、離婚前に婚姻費用分担調停(審判)を申し立てていなければならないという理由はないのではないかとも思える。
 この部分は、残された論点かもしれない。

再転相続人の熟慮期間(6)

2019-10-16 16:05:04 | 家族法
 参考までに考えると、916条が想定する再転相続ではなく、甲の相続につき乙の段階ですでに熟慮期間は経過してしまったものの、遺産分割等が何も行われないまま乙が死亡して丙が相続した場合はどうなるか。
 この場合は、乙の相続を承認した後は、もはやどうにもならないのだろうか。

 しかし、乙の相続につき、熟慮期間経過による法定単純承認の場合で、丙は甲の地位を承継することを知らなかったということは、当然に起こりうる。今回の判例の事案と、時間的なずれがあるに過ぎないだけの事案だからである。この場合どうするか。事実関係としては、乙の遺産はそこそこあるが、甲の債務を相続していたことにより、相続債務が甲・乙の総遺産を上回っていたような場合に問題となる。もし、丙がこのような事態を乙の相続における通常の熟慮期間中に知れば、乙の相続の放棄を選択していたであろう。しかし、熟慮期間中に甲の死亡を認識できなかった、あるいは判例の事案のように乙が甲の兄弟で、甲の子供が全員相続を放棄したことを丙が認識できなかった、という場合に、やや気の毒な気がする。
 このような事案では、もはや甲の相続を放棄することはかなわないが、乙の相続の熟慮期間を、丙が甲の地位も承継していたことを知ったときから起算すると解したいが、どうだろう。

再転相続人の熟慮期間(5)

2019-10-09 09:49:26 | 家族法
 ただし、この最高裁判例は、その射程がそれほど広くはないのではないか、と思うのである。それは、この判例の事案の特殊性にある。

 実は、今回の判例の事案は、単純に祖父甲が死亡し、それから3ヶ月経過する前に父乙が死亡した場合の本人丙の立場という事案ではない。甲死亡により第1順位の相続人である子及び配偶者がみな相続放棄をし、(第2順位である直系尊属も既に死亡しており)、第3順位である兄弟姉妹が乙の立場で相続した事案である。兄弟である乙が甲の相続につき熟慮期間経過前に死亡して乙の子や配偶者が再転相続人となったという事案なのである。もちろん、甲の借金がどうなるかが問題となっている。
 このような事案の場合、甲には子がいる以上、乙や丙は、甲の死亡の事実を知っていたとしても、甲の子が相続していると思うのは当然であり、放棄していることを知らない限り、乙は、自己が相続人となったことを認識しないことも多いであろう。当然、丙はもっと認識不可能である可能性が高い。このような事案での判示なのである。
 単純な事案である祖父甲、父乙、本人丙という事案では、丙において、祖父甲が乙よりも先に死亡していることの認識さえあれば、丙は、自己が甲の地位を承継することは認識可能である。そして、社会実態として、親族の付き合いがある限り、祖父甲の死亡は、多くの場合、孫丙はすぐに知ることになろう。
 そうだとすると、単純な祖父甲死亡、熟慮期間経過前に父乙死亡により本人丙が再転相続したという事案では、最高裁の判旨はなかなか当てはまりにくそうである。射程範囲が狭そうだというのは、以上の意味である。

再転相続人の熟慮期間(4)

2019-10-02 17:06:45 | 家族法
 この点、判旨に記載されている原審の判断は、従前の教科書レベルの解釈を前提として、再転相続の熟慮期間は、乙の死亡を知ったときから起算すると判示しつつ、ただ、916条は、乙が、自己が甲の相続人であることを知っていたが、相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると解すべきであるとして、乙が甲の相続人となったことを知らずに死亡した本件に同条は適用されず、丙の熟慮期間は915条により、丙が甲の相続の地位を乙から承継したことを知ったときから起算すると判示していたようである。

 この判旨からすると、乙が甲の相続を知っていたかどうかが問題となっているので、丙の認識を問題とする最高裁の判旨の方が丙の保護になっているといえるだろう。

再転相続人の熟慮期間(3)

2019-09-27 09:51:07 | 家族法
 ところが、つい最近の判例の判旨は、抜き書きすると、「民法916条にいう『その者の相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時』とは、相続の承認又は放棄をしないで死亡した者の相続人が、当該死亡した者からの相続により、当該死亡した者が承認又は放棄をしなかった相続における相続人としての地位を、自己が承継した事実を知った時をいうものと解すべきである。 」と判示した。
 なかなか分かりにくい判示であり、この判示を一般紙が単純に掲載したことから、分かりにくい新聞記事となっていたのかもしれない。私の理解では、乙が甲の相続の承認、放棄をしないで死亡した場合の乙の相続人である丙が、乙の死亡により甲の地位を承継したことを知った時、それも、甲の相続につき乙が熟慮期間経過前に死亡しており、かつ、乙が承認も放棄もしていないことを丙が知った時から熟慮期間が進行するというのである。

 この判旨に従えば、再転相続における熟慮期間の起算点で重要なのは、丙が、乙の死亡を知ったときではなく、丙が甲の地位を承継したことを知ったときということになる。