実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

改正会社法-支配権の異動を伴う増資(4)

2014-09-30 11:02:47 | 会社法
 10分の1以上の反対がある場合、たとえ時間を掛けてでも株主総会の承認を得て募集株式を発行したいのであれば、払込期日を株主総会期日より後に先延ばしできるかどうかが問題となるが、法文上、払込期日の変更が可能か否かが明らかでない。
 この点、組織再編の効力発生日については、条文上変更可能となっているが、こうした規定と対比すると、払込期日の変更可能性について言及していない現行法では、払込期日の先延ばしはできないのではないか。そして、現行法上、払込期日に払込がない場合は当然の打ち切りになるという現行法からすると、10分の1の反対があった場合は、事実上募集株式の発行は不可能ということになってしまいそうである。

 これを避けたいのであれば、実際上、通知・公告は払込期日の4週間以上前に行う必要があるはずで、それから2週間以内に10分の1以上の議決権を有する株主の反対があった場合は、直ちに株主総会招集通知を発送することになる。株主総会は、招集通知発送から2週間後でないといけないので、結局、通知・公告は最低でも払込期日の4週間以上前に行わなければならないのである。
 しかし、これでも相当に慌ただしい。

 そもそも払込期日の2週間前までに通知・公告すればよいという改正法と、考え得る実務の対応を比較すると、法と実務の対応のバランスが取れないことを意味するのではないか。そうだとした場合に、払込期日の2週間前までに通知・公告すればよいという改正法は、一体何を考えているのかが分かりにくい。後で述べるように、10分の1以上の反対があっても、株主総会が必要とされない例外があることから、それを考慮したのだろうか。

改正会社法-支配権の異動を伴う増資(3)

2014-09-26 10:18:38 | 会社法
 運用上注意すべき点として、まず、特定引受人に関する株主に対する通知または公告を行うべき時期は、公開会社が取締役会決議限りで募集株式の発行を行う場合に一般的に要求される、発行事項の通知・公告と、手続及び時期が同じである。ところが、この発行事項の通知・公告と、特定引受人に関する事項の通知・公告との関連が、改正法の条文からは全く覗えない。そうすると、それぞれの通知・公告について別々に行わなければならないのかが問題となりそうである。しかし、おそらくは同一の通知・公告内容中に、発行事項と特定引受人に関する事項の双方を記載して一度に済ませることは可能なのであろう。
 もっとも、この点については有価証券届出書で対応すべき場合であれば、どちらの通知・公告も必要なくなるので、その場合に限ってはあまり問題はない。上場会社が募集株式を発行する場合のの多くは有価証券届出書での対応となろう。

 次に、もし総株主の議決権の10分の1以上の株主の反対があった場合、株主総会を開催しないと募集株式の発行ができないことになるが、反対の株主数が10分の1以上かどうかは、通知・公告の日から2週間以内での判断になる。そうなると、直ちに株主総会を開催してその承認を得ないと、予定通りの募集株式の発行はできないことになるが、全員出席総会のような形が取れない限り、株主総会を直ちに開催することなど事実上も法的にも不可能である。上場会社では、非常にシビアな問題のはずである。

改正会社法-支配権の異動を伴う増資(2)

2014-09-24 11:15:36 | 会社法
 どのようなルールになったかというと、募集株式を発行することによって株式引受人の議決権比率が50%を超えることになる場合、その引受人(改正法は、「特定引受人」と言っている。)の名称、住所、当該引受人が有することとなる議決権数等を、払込期日(または払込期間の初日)の2週間前までに株主に通知または公告しなければならなくなり、その結果、総株主の議決権の10分の1以上の株主が2週間以内に反対の通知を会社にした場合、株主総会決議を経なければ募集株式を発行できなくなるのである。
 このことによって、支配権の異動を伴う増資を、一定程度株主意思にかからせようという趣旨であろう。
 なお、ここでの通知・公告は、有価証券届出書を提出している場合は不要とされており、上場会社の募集株式発行の場合は、こちらで対応することになる場合が多いであろう。

 ただ、いくつか運用上注意すべき点があるように思われる。

改正会社法-支配権の異動を伴う増資(1)

2014-09-19 13:03:41 | 会社法
 公開会社が大規模増資を第三者割当で行う場合、新株を引き受けた会社が増資をした会社の株式について過半数の議決権を獲得することがあり得る。これは結果的に、会社支配権に異動が生じることになる。そのため、このような増資は、言ってみれば資金調達のために身売りをするようなものである。
 ところが、これまでは、発行する新株の数について、発行可能株式総数を超えて新株を発行できないという規制しかなく、あとは、資金調達の必要性さえあれば、支配権がどうなるかにかかわらず新株を発行できたのであり、支配権の異動が伴うか否かに関して法はあたかも無関心であったと言いうる状況があった。そのため、過去には上場会社でも支配権の異動が生じるような大規模な第三者割当増資が行われたこともあったと思われる。
 以上のことから、現在の東京証券取引所では、議決権比率が25%以上となるような増資には、一応自主規制を設けているようであるが、法は相変わらず無関心のままといってよかった。

 今度の会社法の改正で、この部分の法の無関心にメスを入れた。すなわち支配権の異動を伴うような募集株式の発行に一定の規制をかけたのである。

改正会社法-子会社等、親会社等(5)

2014-09-12 15:31:38 | 会社法
 2か所目として、公開会社における募集株式、募集新株予約権の割当ての特則である。
 募集株式の発行を例に取ると、募集株式を発行した結果、募集株式の引受人の議決権が総議決権数の2分の1以上を有する結果となるような募集株式の発行をする場合において、10分の1以上の議決権を有する株主が反対した場合は、その募集株式の発行には株主総会の承認が必要となるような改正が行われる(詳しくは別途述べたい)。ここでの引受人(法は「特定引受人」と定義している)の議決権比率には、その「子会社等」の有する株式も含めて計算される。ここに「子会社等」が使用される。
 また、引受人が既に「親会社等」であれば、この特例が適用されないようである。ここに「親会社等」が使用される。
 以上が、「子会社等」、「親会社等」が使用される第2場面である。

 「子会社等」、「親会社等」が登場するのは、以上である。改正法をパソコンで検索をした結果であるから、おそらく間違いがないはずである。したがって、それ以外で親子関係が問題となる場合は、従前通り「子会社」、「親会社」で認識していれば問題がない。

 「子会社等」、「親会社等」の定義は、言ってみれば、実に細かい部分の改正でしかない。厳密に定義したいという気持ちは分かるのだが、会社法そのものがどんどん複雑怪奇化していくような気がするのは、私だけであろうか。