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実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

執行手続と法人格否認の法理(5)

2011-07-07 09:48:53 | 民事執行法
 第三者異議訴訟との関係でも、法人格否認の法理が適用できるか否かの問題は、既判力の拡張とは全く無関係のことであって、実体法的効力の問題として法人格否認の法理を問題とするのであれば、その適用をためらう理由は全くない。このことは、承継執行文が付与された場合の執行文の名宛人にとっても全く同じことだと思う。
 もし、差押えがなされる前に、債務者の責任財産であることを予め第三者が争おうとすれば、(確認の利益があるとして)第三者が債権者に対して所有権確認訴訟等の訴えを提起することになるはずである。この場合に、一般論とすれば法人格否認の法理を問題としても何も問題がないはずであり(要するに実体法の要件効果論のみの問題である)、第三者異議訴訟とは、これと同じ争いを差押えがなされた後に行っているに過ぎないのである。
 要は、平成17年の最高裁判例の事例は、手続法上の効力として法人格否認の法理を適用したのではなく、実体法上の効力として法人格否認の法理を適用したということなのである。判例は、無意識的かもしれないが、以上のような考えを前提としているのではないだろうか。
 そうだとすれば、訴訟法的効力として法人格否認の法理が既判力や執行力の拡張に適用できるか否かにかかわらず、平成17年判例の結論そのものは当然というべきであろう。
 執行手続上の訴訟は、訴訟法上の形成訴訟の形態をとってはいるが、実は実体法的法律関係の争いの場面が多いことを、忘れてはならないと思う。

 なお、以上のように考えた場合、平成17年の判例の理解で気をつけるべきは、実体法的効力という面から見ると、法人格否認の法理の実体法的な適用の仕方が、伝統的な適用方法とやや違うことである。
 つまり、冒頭でも述べたが、法人格否認の法理は本来は法人の背後にいる人物の責任を追及するものである。たとえば、AがB法人に対して権利を有している場合に、そのB法人の法人格が濫用されたり、形骸化していた場合に、B法人だけではなくその背後にいるCの責任を追及するような場合である。しかし、平成17年判例の事案では、責任追及の相手(差押債務者)は法人であるB法人そのものであり、その背後にいる真の権利者Cの権利主張を、法人格否認の法理をもって排斥した事案といえるのであって、伝統的な法人格否認の法理の適用方法とは異なっている。
 このように、平成17年判例は、実体法的効力としての法人格否認の法理の変則的適用方法というような視点で見直してみるべきではないだろうか。

執行手続と法人格否認の法理(4)

2011-07-04 09:37:43 | 民事執行法
 給付訴訟と請求異議訴訟との関係と同様のことは、第三者異議訴訟でもいえるのではないか。差押えられた財産が債務者の責任財産を構成するか否かを争うのが第三者異議訴訟といえるが、当該財産が債務者の責任財産を構成するか否かが差押える前から争いがあれば、債権者が予めこれを争う(たとえば、第三者名義の不動産を債務者名義に移転させることを求める債権者代位による登記請求訴訟を提起するなど)ことができる一方で、先に差押えがなされたら、起訴責任が転換されて第三者から第三者異議訴訟を提起することになるのであって、やはり表裏の関係が見て取れる。そして、双方の訴訟において実体的争点は、当該財産が債務者の責任財産を構成するか否かということでは同じである。そうだとすれば、一方(債権者が提起した訴訟)において実体法的効力として法人格否認の法理の適用と求めることができるのであれば、他方(第三者異議訴訟)でも、実体法的効力としての法人格否認の法理の適用が求められなければおかしい。

 ただ、請求異議訴訟と第三者異議訴訟は、表向き、請求権の存否そのもの、当該財産の帰属関係そのものが訴訟物になるわけではなく、いわば執行力排除権の存否を訴訟物とする、手続法上の形成訴訟なので、給付訴訟等と対の関係にあることが一見するとわかりにくくなっている。しかし、請求異議訴訟でいえば、債務の不存在が認められれば当然に執行力の排除が認められるわけである。そうだとすれば、立法的には、請求異議訴訟も、債務(債権)の存否そのものを訴訟物とする実体法上の確認訴訟と構成しても何ら問題はなかったはずで(現に、担保執行の場合の執行取消文書は、担保権のないことを証する確定判決等であり、実体権の存否そのものが問題とされている。また債務の不存在そのものが執行異議事由となっており、これを簡易請求異議訴訟と理解する学説(私自身はこの考えに疑義を持っているが)も存在するくらいである)、ただ、これを執行力排除権の存否という手続法上の形成訴訟に構成し直しただけだと思うのである。第三者異議訴訟でも同様である。
 ただし、立法上は手続法上の形成訴訟と構成した結果、その異議の事由として実体法上の権利義務のみならず、たとえば請求異議訴訟でいえば債務名義成立の瑕疵の主張も許す解釈もあり得る構造となっており、現に現在の法律では明文でこれを許している。このことがいっそう理解を混乱させる原因ともなっているのかもしれないが、少なくとも異議の事由が請求権の存否に関するものである限り、それは起訴責任が債務者側に転換されただけであって、裏返しの意味での請求権の存否に関する紛争であることは、表の給付訴訟と何ら変わらないのである。
 もしそうであれば、給付を求める訴えの判断の中で法人格否認の法理の判断がなし得るのと全く同様に、その裏返しである給付を拒否する実体的法律関係の判断である請求異議訴訟・第三者異議訴訟の中で、実体法的効力としての法人格否認の法理だけがその適用を拒否されなければならない理由は全く存在しない。

執行手続と法人格否認の法理(3)

2011-06-30 09:44:50 | 民事執行法
 二重譲渡の事例にかんしては、そもそも、事例そのものが悪いという人もいるかもしれない、なぜなら、登記の欠缺を主張する正当な利益を有しない場合として、とくに法人格否認の法理まで持ち出す必要のない事例(背信的悪意者の理論で処理できる)ともいえるからである。しかし、二重譲渡の場面でも、法人格否認の法理がすべて背信的悪意者の議論に吸収できるかどうかは、(法人格の形骸化の事案では特に)十分に検討の余地があるかもしれない。仮に吸収できるとしても、同じ事実関係であっても、当事者がどのような実体的法律関係を主張するかによって、訴訟手続上の争い方として主張できたりできなかったりする場合が生じてくるということになりかねない。同じ事実関係でも、うかつに法人格否認の法理を援用すればその抗弁は認められず、うまくこれを回避する論理があればその抗弁は認められるということである。そのようなことでいいのだろうか。結局は、どちらも同じ効力を主張しているに過ぎないはずなのに、一方の法的主張は認められ、他方の法的主張は認められないというのは、どうにも腑に落ちない。

 私は、請求異議訴訟(ただし、以下では債務名義成立の瑕疵を異議事由とする場合は除く)や第三者異議訴訟の法的性質を掘り下げてみる必要がありそうな気がしている。
 これら訴訟は、執行力の排除を目的としている点で共通し、表面的には手続法に特化した訴訟である。そのため、手続法上の制度という点に着目すると、既判力拡張の理由として法人格否認の法理の適用を否定する判例理論からすると、同様に請求異議訴訟や第三者異議訴訟での適用も怪しいということになってくる。
 しかし、請求異議訴訟も第三者異議訴訟も、その本質は実体的法律関係の存否そのもの紛争解決の訴訟なのではないか。その中で、(訴訟法的な効力ではなく)実体法的効力としての法人格否認の法理を適用することに何ら躊躇する理由はないのではないか。つまり、強制執行に服す必要のない実体的法律関係が存在すれば、執行力を排除できるという効力を認めたのが請求異議訴訟であり,第三者異議訴訟だと思うのである。これを債務名義と請求異議との関係で比較すると、強制執行に服すべき実体的法律関係(なかんずく請求権の存在)が認められれば、給付を命ずる確定判決(なかんずく債務名義)が得られることの裏返しとして、強制執行を排除できる実体的法律関係(なかんずく請求権の不存在)が認められれば、執行取消文書(なかんずく反対名義)が得られるのである。債権者側からのアクションである債務名義作成手続の代表が給付訴訟であり、債務者側からのアクションである反対名義作成手続の代表が請求異議訴訟なのである。しかし、争われている中身(実体的法律関係)は同じなのである。
 このように、給付訴訟と請求異議訴訟とは裏返しの関係にあるが、争点の中身は同じように思われるのである。別の言い方をすれば、実体的法律関係(請求権)の存否に関する争いについて、起訴責任が債権者側にあるか債務者側にあるかの違い(その意味で裏返しの関係)があるだけだと思うのである。そうであるならば、給付訴訟と請求異議訴訟とで、行われる実体的判断は全く同じでなければおかしいと思うのである。
 そもそも、債務名義と執行取消文書は、その内容からして表と裏の関係にあることは、おそらく手続構造上間違いないと思われる(このことは、不動産の担保執行の際の開始文書と取消文書との関係を見れば、なおいっそう明確である)。そうであれば、債務名義作成手続の代表である給付訴訟と、執行取消文書作成手続の代表である請求異議訴訟が表裏の関係にしかないことも、間違いないのではないだろうか。その実体法的効力の争いの中で、法人格否認の法理を適用することに、何らの問題もないと思うのだが。

執行手続と法人格否認の法理(2)

2011-06-27 09:44:43 | 民事執行法
 執行手続と法人格否認の法理との関係を考える上で、少し違う事案を考えてみたい。
 たとえば、売買を請求原因とする不動産の引き渡しを命じる確定判決があった場合に、当該不動産所有会社(判決の被告当事者)が、口頭弁論終結後にその所有権を代表者個人、もしくは当該会社を実質支配する大株主に売却し登記も済ませた上で、引き渡してしまったが(要は二重譲渡の事例である)、これが実体法上は法人格否認の法理の適用場面だったらどうか。
 引き渡しを命じる確定判決そのものは口頭弁論終結後に占有を取得した者に執行力が拡張されそうであるが、実体法上は対抗要件を備えた代表者個人または大株主が執行債権者に優先する。ただし、法人格否認の法理が問題となるのであれば、登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者とはならないだろう。
 この場面で確定判決に承継執行文が付与されたのに対し、承継執行文の名宛人(執行債務者)が強制執行の排除を求めて争った場合、手続論として債権者は法人格否認の法理を援用できないのだろうか。

 もっとも、そもそもこの場面では、承継執行文が付与された場合の執行債務者側から争う方法が、執行文付与に対する異議の訴えなのか、請求異議訴訟なのかが難しく、どうも判例の立場(訴権競合説といわれているようである)からすると、請求異議訴訟で争うべきことになりそうである。そうだとすると、請求異議訴訟の中で執行債権者が法人格否認の法理を援用することの可否ということになろう。

 この事例でまず前提として考えなければならないのは、民事訴訟法学上、既判力や執行力の主観的範囲の拡張の場面であるが、実質説と形式説という説の争いがあり、不正確な表現かもしれないが、実質説は実質的に強制執行の拡張が正当化されない場合は既判力も拡張されないといい、形式説は口頭弁論終結後の承継人であれば、とにかく既判力の拡張は生じるが、承継人独自の実体法上の主張を封じることを意味せず、独自の理由を持って執行力を排除できるとする。判例は実質説だといわれている。

 では、上記事例ではどうなるか。もし第二譲受人が法人格否認の法理で登記の欠缺を主張する正当な利益を有しないとされれば、いずれの説でも第二譲受人に既判力も執行力も及ぶということになりそうである。そうすると、この事例の場面では、執行力の拡張の可否の問題という手続法上の問題という理由で、執行債権者が法人格否認の法理を抗弁として援用することが認められないのだろうか。
 私にはそうは思えない。やはり法人格否認の法理の援用を認めてもよいように思う。

執行手続と法人格否認の法理(1)

2011-06-23 10:54:46 | 民事執行法
 法人格否認の法理は、実体法的効力としては、法人の法人格を当該事件限りで否認し、当該法人の背後にいる人物の責任を追及する場合に援用される。
 訴訟法上の効力としては、法人格否認の法理が既判力や執行力の拡張の場面で援用できるかどうかが問題とされる。判例はこれを否定するようである。これに対し、訴訟法学説は、限定された範囲であっても、何らかの形で手続法上の効力として法人格否認の法理の援用を認めようとする学説が多いであろうか。

 そうしたところ、近年(平成17年である)の最高裁判例としては、第三者異議訴訟の場面で、法人格否認の法理の適用を認めた判例が存在する。第三者異議訴訟も、執行力の排除を目的とした手続法上の制度であり、この第三者異議訴訟で法人格否認の法理の適用を認めるということは、一見すると、これまでの伝統的判例理論とは一線を画しているかの如くに見える。それにもかかわらず、最近の判例が第三者異議訴訟で法人格否認の法理の適用を認めたということは、どのように考えるべきか。また、法人格否認の法理と手続法との関係を広く考えた場合に、果たしてどのように考えるべきか。
 民事執行法の概説書としては名著といえる中野貞一郎教授の民事執行法〔増補新訂五版〕では、「ここで問題なのは、判決の執行力の拡張の可否ではなく、特定の財産に対し既に開始された強制執行による侵害を第三者が受忍すべき理由の有無でなければならない。」として、判例を支持する立場のようである。が、わかったようなわからないような説明である。平成17年度重要判例解説も手元にあるのだが、私の勉強不足もあり議論が難しくて、読んでもさっぱりわからない。