実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

「各自」の意味

2012-10-29 10:53:11 | その他の法律
 実務上の点で、昔から疑問に思っていることがある。

 主債務者と連帯保証人との両方に対して貸金請求訴訟(金銭請求であれば何でもいいのだが)を提起するような場合の請求の趣旨の記載の仕方として、

  「被告らは原告に対し、各自金○○円(及び…)を支払え。」

というもがある。
 ここでいう「各自」とはどういう意味か。

 「各自」の意味を国語的に言えば、「それぞれ」、「めいめい」あるいは「一人一人」といった意味で用いられる。
 ところが、我々弁護士は、請求の趣旨で「各自」と書くと、これは「連帯して」と同義語だと教えられる。つまり、(不真性)連帯債務、あるいは連帯保証債務の請求のことだというのである。最近の実務では、「各自」とは書かず、文字通り「連帯して」と書く場合も多いようである。

会社分割の詐害性(4)

2012-10-25 09:43:41 | 会社法
 だが、会社分割の詐害性が問題となってしまうことについて、さらに根本的な問題に遡って言えば、会社分割において分割会社に対する債権者のうち異議を述べることができる債権者が、新設会社または吸収会社に移転させられてしまう債権者に限られている点に問題点が集積しているのではないか。全債権者が異議を述べられるようにしておけば、そもそも詐害的会社分割の問題は債権者の異議で事前処理され、ほとんどの場合問題はなくなるはずである。
 そのため、改正の方向としては、詐害的会社分割を事後的に処理するという方向性よりも、分割会社に対して債権者全員が異議を述べられるようにする方向での改正が必要かつ十分という気がしているのだが、どうなのだろう。

 いずれにしても、判例は判例として一定程度評価するとして、だからといって詐害的会社分割について立法的手当をしなくてよいということではないであろうから、会社法改正要綱案の詐害的会社分割の手当は一応は評価はできよう。ただ、この立法案では、いずれ不都合が生じてきそうな気がしなくもない。
 なかなか難しい問題である。

会社分割の詐害性(3)

2012-10-22 10:50:59 | 会社法
 会社法改正要綱案では、詐害的会社分割についても手当をしており、詐害行為取消とほぼ同じ要件で、分割会社の債権者は吸収会社や新設会社に対しても、承継した財産の価格を限度として債務の履行を請求できることとしている。
 これは、詐害的会社分割の場合は、その取消を求めることを認めず、つねに新設会社に対して価格賠償的な請求をすべきことを立法化しようとするものと言えそうである。
 これはこれで発想としては分かるのだが、この場合でも、新設会社に債務者が移転した債権者の保護は、やはり問題として残りそうではある。債務者が分割会社のままとなった債権者は、詐害的会社分割であることを理由に新設会社に対して債務の履行を請求できるようになったとしても、債務者が設立会社に移転した債権者の場合は、分割会社に債務の履行を請求できるようにはならないからである。つまり、詐害的会社分割の場合、分割会社を債務者としたままの債権者は、分割会社にも設立会社にも債務の履行が請求できるようになるが、債務者が新設会社に移転する債権者は、分割会社に請求ができなくなってしまい、それだけ、逆に損をしかねないのである。
 以上の意味において、詐害的会社分割の場面は、通常の詐害行為の場面とはやや事情が異なるような気がするのである。

 ちなみに、会社法上、持分会社においては設立取消の訴えというものが用意されており、詐害的持分会社設立の場合、訴えをもって設立行為そのものを取り消すことができるという法制度となっている。これと同様に、立法論的には詐害的会社分割も取消原因(無効原因と行ってしまっても問題はないが)として訴えをもって取り消すことができるような仕組みにし、会社分割そのものの効力を将来に向かって否定するという方が、よいのではないかという気がしなくもない。
 会社分割そのものの効力を否定すると、影響が大きすぎるという問題があるのかもしれないが、そのようにしないと、債務者を新設会社や吸収会社に承継させられた債権者の保護の問題が、常に残ってしまうような気がするのである。それに対し、例え将来効としても、分割そのものの効力を否定できれば、この問題はだいぶ緩和される。
 あるいは、詐害的会社分割の場合、分割会社にはほとんど資産らしい資産は残さないのが普通だから、新設会社に債務者が移転させられた債権者がもとの分割会社に履行請求できるかどうかは、あまり気にしなくてもいいということなのだろうか。

会社分割の詐害性(2)

2012-10-19 09:31:02 | 会社法
 詐害行為取消の効力を認めた場合の問題は、今度は設立会社に対して債権を有している者の保護の問題に移るのである。
 例えば、会社分割により債務者が分割会社から設立会社に移転した債権者の場合、会社分割の内容からして、不利にならないと思ったからこそ、異議を述べずに会社分割を認めたが、当該不動産が詐害行為取消により分割会社名義に戻ってしまうのであれば、話は全く異なると思う債権者も存在しておかしくない。こういった債権者の保護はどうするのだろうか。この種の債権者を保護する意味でも、一応無効原因になるとしておいた方がよさそうな気がするのだが。
 もちろん、会社分割無効訴訟の提訴期間、提訴権者の問題はあり、無効原因になると解釈すればそれで済むという問題ではないのかもしれないが、何ら影響を及ぼさないというのは、いくら相対効といってみても、言い過ぎのような気がしてならない。

 この、債務者が分割会社kら新設会社に移転した債権者の保護の問題は、一般の詐害行為の場面では類似の問題として発生しようのない、会社分割の際の独特の問題点なので、忘れ去られているのかもしれない。

会社分割の詐害性(1)

2012-10-16 17:29:02 | 会社法
 会社分割が詐害行為となるか否かについて、以前、このブログでも多少論じたが、最高裁判決として、会社分割が詐害行為となることを認める判例が登場した。
 この判例の事案は、会社分割を原因とする所有権移転登記の抹消を求める事案であり、新設会社に価格賠償を求める事案ではないようである。

 判例は、結論として所有権移転登記の抹消を認めるものであり、判示内容からすると、新設分割そのものを取り消すことができるかの如くの判示である。
 ところが他方で、詐害行為取消権の行使によって新設分割を取り消したとしても、その取消の効力は、新設分割による株式会社の設立の効力には、何ら影響を及ぼすものではないともいう。これは非常に分かりにくい。
 この、設立の効力に影響ないという判示部分は、基本的には詐害行為取消の相対効を述べているものと思われる。だが、詐害行為取消の結果として、分割会社から新設会社に所有権が移転するはずであった不動産の所有権移転登記が抹消されて分割会社名義に復帰することになるのであるから、新設会社とすれば、新設分割により取得すべきであった不動産が取得できなかったことに帰する結果になることは、相対効だろうと何だろうと関係のない話である。そうだとすれば、この結果は、会社分割の無効原因にはならないのだろうか。