実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

決算広告の不備と法人格否認の法理(2)

2010-09-28 09:57:09 | 会社法
 中小企業の決算公告がなされていない現状が,法の建前からすれば望ましいわけがない。しかし,役所というのは法律を制定すればそれで役目を終えたと思っているのか,中小企業の決算公告について,法務省は何ら対策を取っている様子はない。
 もし,行政指導によらずに市場原理的に決算公告をしようというインセンティブを持たせようとするならば,何らかの有効な(実効性のある)ペナルティを用意せざるを得ないはずである。
 有価証券報告書提出会社(特に上場会社)では,有価証券報告書に決算内容を記載する方法により決算公告はほぼ間違いなく行われている(ただし,虚偽記載の問題は,時々発生しているようではあるが。)。適切な有価証券報告書が提出されなければ,上場廃止になったり,社会的信用を失ったりと,様々な意味で大きなペナルティが待っているからである。ある意味市場原理が働いているのである。民事的には,有価証券報告書の虚偽記載による賠償請求も現実に発生しているようである。

 そもそも,なぜ決算公告が必要性がいわれるかと言えば,株主や債権者(もっと広く一般投資家といってもいい)に対する保護の必要性からである。中小企業においては,株式投資家に対する保護はあまり考える必要はないかもしれないが,債権者保護という要請はなくならないはずである。これが具体的に問題となってくるのは,会社が倒産した場合である。
 もし,貸借対照表が公告されていれば,責任財産がほとんどない会社との取引などしなかったかもしれない,あるいは途中で取引を打ち切ったかもしれないのに,貸借対照表が公告されていないために,取引先の社長の信用だけで取引をし,結果,取引先の会社の社長個人の財産はそこそこ残っているのに,法人たる取引先会社が倒産して大損をしたということも,あながちないわけでもあるまい。こうしたような場合には,社長個人の責任を問いたいという会社債権者の要求も生じてくるはずである。

決算広告の不備と法人格否認の法理(1)

2010-09-24 15:38:40 | 会社法
 平成17年の会社法改正の際,中小企業の決算公告(計算書類の公告)をどうするかが議論になったやに聞いている。すなわち,中小企業においても決算公告は義務とされているはずであるが,実際に決算公告をしている中小企業などほとんど存在しないので,中小企業の決算公告義務を免除するかどうかが問題とされたが,ウェブサイトを利用した電子公告によって,安価に容易に公告できるようになっている現状を踏まえて,決算公告義務の例外を認めなかったと理解している。
 それでは,会社法改正のこうした建前を踏まえて,中小企業が決算公告をするようになっているかといえば,現状ではおそらく,決してそのようなことはないと思われ,相変わらず決算公告をしている中小企業など,ほとんどないというのが,私の現状認識である。

 なぜこのような現象が起きるかというと,法技術的な側面で説明すれば,決算公告をしないことによるペナルティが全くと言っていいほど存在しないからである。
 法律上は,会社法976条2号により,過料に書せられる可能性は残されてはいるが,決算公告をしなかったことによりこの条文が適用されたという話を,私は聞いたことがないし,そもそも同条によるペナルティーは,それほど大きいペナルティーではないともいえる。

「正義」とは何?

2010-09-22 22:30:21 | 日記
 最近、興味深い本を読んだ。
   『これからの「正義」の話をしよう』(マイケル・サンデル著)
である。
 著者のハーバード大学での講義は、履修学生の数が同大学史上最高を記録したとかで、NHKのBSハイビジョンにおいて、「ハーバード白熱教室」として、著者のハーバード大学での講義を放送していたようである。
 つい最近、日本に来日して、東大の安田講堂で公開講義を行っている。
 これらの話題を知って、この本に興味を持った。

 著者は、政治哲学が専門のようであるが、法律家としての目でいえば、本の内容は、いわゆる法哲学に直結する内容と言える。
 制定法の小手先の解釈よりも、ずっと根源的な問題を扱っており、現在のアメリカのトピックな話題も例にとりあげながら、著者の問題意識がわかりやすく述べられている。
 期待に違わぬ非常に興味深い本である。下手な法哲学の本よりもずっと興味深く読めるし、特に法律家であれば、一度は読んで決して損のない本だと思う。
 法律家におすすめの本であること、間違いなしだと思う。

譲渡禁止特約付債権の担保(6)

2010-09-16 13:37:38 | 債権総論
 しかし,例えば取立権留保型(すなわち,譲渡担保に供した後も,実行時までは譲渡人に債権の取立権が留保されているもの)の債権の譲渡担保であって,その旨も債権譲渡通知に明示されているような事案であった場合ならどうか。この場合は,いずれにしても譲渡担保権が実行されるまでは,債務者にとっても弁済先が変更されるわけではないのであるから,実質的な不都合はないはずである。
 したがって,債権の譲渡担保も担保的構成を取ることを前提に,かつ,譲渡禁止特約付債権の質権設定を認めるべきとするならば,最低限,取立権留保型の譲渡担保は認められてしかるべきではないかと思うのである。そして,担保権者による担保権の私的実行も,担保権者による直接の取立の範囲に限られるのであれば(私的実行の方法が債権の第三者への売却換価という方法も考え得るが,譲渡禁止特約付債権にこの方法を認めることはできないであろう),実質債権質の直接の取立権と変わりはないので,債務者はこの程度の私的実行も甘受すべきなのである。

 実務上,債権の譲渡担保は,様々な方法で行われているようで,具体的事案を離れた机の上での抽象論があまり意味がない分野かもしれない。判例が「債権譲渡」と「債権の譲渡担保」を区別しないのも,区別すべきでない事案だからかもしれず,事案によっては区別した判断が示される判例も登場するのかもしれない。そのような曖昧な部分もあって,仮に譲渡禁止特約付債権の譲渡担保が認められる事案が存在するとしても,どのような譲渡担保まで認めるべきかは,また難しい問題ではある。
 しかし,よく,譲渡禁止特約は強い債務者が特約を付する場合が多いと言われる。裏を返せば,弱い立場の債権者がその債権の処分(担保設定等)をすることが出来ずに困るという事態が生じかねない状態といいうると思うのである。
 この,弱い立場にある債権者の持つ譲渡禁止特約付債権を担保化する方法があれば,中小企業の資金調達の便宜になる可能性もあると思われる。その意味においても,「債権の譲渡担保」を一律に「債権譲渡」と同様に考えて民法466条2項をそのまま適用することには,慎重さがあってもよいのだろうと思い,譲渡禁止特約付債権の担保について考えてみた次第である。

譲渡禁止特約付債権の担保(5)

2010-09-13 10:26:24 | 債権総論
 そこで,話を譲渡禁止特約付債権の譲渡担保にもどしてみる。
 もし,債権の譲渡担保も担保的構成で考えられるならば,債権の譲渡担保は,「債権譲渡」ではなく「担保権の設定」であり,質権設定と本質は同じと考えることができると思う。そして,譲渡禁止特約付債権の質権設定が可能だとすれば,譲渡担保も全く不可能ではないように思う。

 ただし,問題は理念だけの問題ではない。譲渡禁止特約が債務者保護のためにあるとすれば,債務者の立場から譲渡担保がどのように見えるかが,重要な問題となってくる。

 そして,実務的に債権の譲渡担保として多く行われているのは,例えば,銀行その他の貸金業者が融資をする際に債権の譲渡担保の設定契約をしつつも,債権譲渡通知書は貸金業者が預かったまま直ちには発送せず,弁済が遅滞してから譲渡担保権を実行する目的で,預かっていた債権譲渡通知を発送手続をとる(譲受人である貸金業者を譲渡人の使者として理解するのであろう)ということが多いように見受けられる。
 このような場合は,譲渡通知を発送する段階では既に当該債権を確定的に譲受人に帰属させる意思のもとに譲渡通知を発送していることが考えられ,その通知内容も確定的に譲り渡したかの如くの記載となっていることがほとんどだと思われる。そして,譲渡の対象となった債権の債務者の立場から見れば,対抗要件である債権譲渡通知が届いた時を基準に,その譲渡の有効性を考えることになるのであろう。そうだとすると,このような事例を債務者の立場で見ると,単純な債権譲渡とほとんど変わらない。
 してみると,実務的に多く行われているであろうと思われるこのような事例では,いくら担保的構成といってみても,その譲渡担保の効力を当然に認めることには,さすがに躊躇を覚えざるを得ない。