実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債券管理会社の訴訟追行権(5)

2016-08-31 10:23:29 | 最新判例
 最高裁は、債券管理委託契約の中に訴訟に関する授権条項が含まれていることを、任意的訴訟担当を認める前提とはしているが、おそらく、ただ単に授権条項があればよいというものではないのであって、債券発行契約と債券管理委託契約をあせた内容が、社債と同じような規律となっており、全体として債券の所持者である債権者の保護に問題がない内容となっているからこそ、債券管理会社の訴訟担当としての適格を認めたのではないかと思っている。
 もしそうだとした場合、そもそも会社以外の組織が債券を発行する場合、ただ単に債券発行契約がある、債券管理委託契約がある、というだけではなく、その内容が会社法の社債の規定に準じた内容とすべきだということにはならないだろうか。最高裁がそこまで述べていると考えるのは言い過ぎかもしれないが、少なくとも金融商品取引法上のいわゆる第1項有価証券に該当するものとして債券を発行する場合には、投資家保護の意味でもこのように考えてみたい。

 結局のところ、会社法の社債の規定は、会社法独特の規律として理解すべきなのではなく、会社以外の企業、団体が「債券」を発行する場合全般を想定して、一般法化していくべき規律なのではないかという気がしているのである。金商法の適用されるような債券を発行する場合には、特にそうである。
 そこでもし一般法化について、仮に立法化で対応するとした場合、いきなり「債券法」のような形で制定してどのような組織でも自由に債券の発行を認める法律を作ることに抵抗があるとすれば、「債券法」の中で、債券を発行できる組織を個別にリスト化した形でも良いかもしれない。その上で、例えば会社には会社独自の規律(当該債券を「社債」と呼ぶべきこと、取締役会設置の株式会社が発行するには取締役会決議を必要とするなど)があり得るとすれば、特則として会社法の中に規律をすればいいのである。そのほかの規律は、会社法の社債の規定に準拠して立法化していくべきということなのだろうと思う。
 立法化まで行かないとしても、債券発行の準則は、社債の規定が重要な準則として理解されるべきだと思うし、今回の最高裁判例も、社債の規定を重視している気配を感じる。

債券管理会社の訴訟追行権(4)

2016-08-24 11:03:50 | 最新判例
 実務的には、サムライ債を発行する場合、発行体と証券会社との間の債券契約あるいは債券発行契約として起債しているようであり、法的根拠は「契約」としての位置づけのようである。
 この債券契約とともに、債券管理会社となる銀行との間で、管理委託契約を締結しているらしい。最高裁の判例に従えば、この債券の管理委託契約は、債券所持者を第三者とする第三者のための契約という位置づけである。そして、この債券発行契約と債券管理委託契約をあわせた内容が、結局のところ、会社法の社債管理者の権利義務の規定と同じような内容となっているらしいのである。
 したがって、外国企業や外国国家が日本国内で債券を発行する場合、すべて「契約」であるという前提で処理しているようである。

 仮に、国際私法的な側面で考えると、「契約」における準拠法は当事者の合意で選択できることになる。サムライ債では日本法を選択していることになるのだろうが、そうだとすると、契約自由の原則が働き、基本的には、債券契約としてどのような内容の契約をしてもよいということになるのだろうか。
 難しく考えすぎているような気もするが、結局は契約の中身の問題なのであろう。

債券管理会社の訴訟追行権(3)

2016-08-17 16:41:12 | 最新判例
 一審判決は、原告である債券管理会社が主張していた任意的訴訟担当の理屈を認めず、訴え却下となっていた。控訴審でも同様だったようである。これに対し、最高裁は、任意的訴訟担当としての当事者適格を認め、訴訟を一審に差し戻したのである。
 判例が任意的訴訟担当を認めた一事例として重要な判例として位置づけられそうである。

 が、この判例で私が注目したいのは、会社以外の組織が公衆に対して起債をする方法である。
 会社が債券を発行する方法は、社債として発行することが会社法で認められている。
 それでは、会社以外の組織が債券を発行する方法があるのか。例えば、長期信用銀行においては長期信用銀行債の発行を認め、資産流動化法で特定社債の発行を認めるなど、個別の法律に基づいて債券の発行を認めている例はあるが、一般的に公衆に対して起債をすることを認めた法律は存在しない。
 学校債という債券(?)が発行された実務例があるが、根拠規定はよく分からない。また、今回の最高裁判例の事例でもあるサムライ債は、外国企業や外国国家が日本国内で日本法を準拠法として円建てで発行する債券のことであるが、そこでいう準拠法も実は曖昧なのである。

債券管理会社の訴訟追行権(2)

2016-08-10 13:43:17 | 最新判例
 事案は、会社法上の会社ではない組織(例えば海外企業や外国国家が想定され、判例の事案は外国国家である。)が社債類似の「債券」を発行した事案である。債券の発行体が、銀行との間で債券管理委託契約を締結しており、債券所持者のために債権を管理することが定められている。要するに、社債でいう社債管理者と同様の権限が、発行体との「契約」として定められているのである。そして、その契約で定められた管理内容として、債券所持者のための訴訟追行権も含まれている。
 そうしたところ、債券発行体である外国国家が当該債券について債務不履行となったので、債券管理会社が債券所持者のために訴えを提起したというものである。

 イメージからすれば、会社が社債を発行したところ、償還期限に会社が社債を償還しなかったことから、社債管理社が社債権者のためにその支払を求めて会社に訴えを提起したというのと状況は同じである。ただ、債券の発行体が会社ではないため、会社法の適用がないという点で問題が大きく、訴訟追行権について法律上の根拠のない債券管理会社が、債券発行体と債券管理会社と間の「契約」で社債管理者と同じように、第三者の利益のために契約当事者である債券発行体を相手方とする訴訟追行権を有しているのか否かが大問題なのである。

債券管理会社の訴訟追行権(1)

2016-08-03 10:27:44 | 最新判例
 以前、サムライ債に関して、その債券管理会社による訴訟追行権について、このブログで若干のコメントをしたことがある。
 そのときは、地裁レベルの裁判例に対する判例評釈を見た限りでの感想だったのだが、つい先だって、その事件の上告審と思われる最高裁判例が出た。論点としては任意的訴訟担当に関する判例として位置づけられるが、そもそも日本法では「債券」がどのように取り扱われるべきなのかという視点も重要な気がしている。