実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

譲渡担保権設定に基づく所有権移転登記は虚偽表示?(2)

2019-10-30 15:09:44 | 物権法
 譲渡担保の法律構成についての近時の学説は、所有権的構成を取らず、担保的構成を取るのが主流であろう。判例も、担保的構成に近づいてきていると思われる。
 担保的構成においては、譲渡担保権者が有する権利は、完全な所有権ではないといわれる。要は、譲渡担保権設定者には設定者留保権という物権的権利が残っており、譲渡担保権者が有する権利は、所有権から設定者留保権を差し引いた権利だと考える。
 なので、虚偽表示を主張する学者は、不動産の譲渡担保設定によって、譲渡担保権者は完全な所有者になるわけではないのに完全な所有権者であることを示す所有権移転登記がなされることから、この登記は内容虚偽の登記だといいたいのであろう。

 しかし、そもそも、所有権移転登記以外に、担保権たる譲渡担保権を適切に表現する登記方法など存在しないはずである。それなのに、所有権移転登記を虚偽表示と考えて、94条2項の適用があり得るとするのは、譲渡担保設定者にとって、あまりにも酷である。

譲渡担保設定に基づく所有権移転登記は虚偽表示?(1)

2019-10-23 09:49:01 | 物権法
 担保物権に関する、とある教科書を読んでいて、不動産の譲渡担保の部分に、ふと疑問を持つ記述を見つけた。
 それは、譲渡担保の法律構成を担保的構成を採用していることを前提に、不動産に譲渡担保を設定した場合に行われる所有権移転登記は、虚偽表示に該当するというのである。だから、譲渡担保権実行前、すなわち、まだ債務者が履行遅滞に陥っていない場面での、譲渡担保権者からの当該不動産の譲受人は、民法94条2項により保護されうると言うのである。

 しかし、平成になってからの最高裁の判例は、債務者の履行遅滞後に関しては、既に譲渡担保権の実行が可能なのであるから、譲渡担保権者が当該不動産を売却した場合、完全に有効な売買になるとしているものの、履行遅滞に陥る前の売却は、傍論ながら、譲受人は完全な所有権を取得できないということが前提の判示であったと思う。
 それなのに、譲受人は94条2項で保護されうるというのであれば、譲渡担保権者による処分を制限する理解が大きく減殺されてしまう。

 そもそも、譲渡担保設定時の所有権移転登記が虚偽表示に該当するという理解に対しては、反論はそう難しくないと思われる。虚偽表示と理解する、とある教科書の執筆者である学者に、次のように問うてみればいい。

 「それでは、虚偽ではない譲渡担保権者の対抗要件たる登記とはいったい何なのか。」

と。

再転相続人の熟慮期間(6)

2019-10-16 16:05:04 | 家族法
 参考までに考えると、916条が想定する再転相続ではなく、甲の相続につき乙の段階ですでに熟慮期間は経過してしまったものの、遺産分割等が何も行われないまま乙が死亡して丙が相続した場合はどうなるか。
 この場合は、乙の相続を承認した後は、もはやどうにもならないのだろうか。

 しかし、乙の相続につき、熟慮期間経過による法定単純承認の場合で、丙は甲の地位を承継することを知らなかったということは、当然に起こりうる。今回の判例の事案と、時間的なずれがあるに過ぎないだけの事案だからである。この場合どうするか。事実関係としては、乙の遺産はそこそこあるが、甲の債務を相続していたことにより、相続債務が甲・乙の総遺産を上回っていたような場合に問題となる。もし、丙がこのような事態を乙の相続における通常の熟慮期間中に知れば、乙の相続の放棄を選択していたであろう。しかし、熟慮期間中に甲の死亡を認識できなかった、あるいは判例の事案のように乙が甲の兄弟で、甲の子供が全員相続を放棄したことを丙が認識できなかった、という場合に、やや気の毒な気がする。
 このような事案では、もはや甲の相続を放棄することはかなわないが、乙の相続の熟慮期間を、丙が甲の地位も承継していたことを知ったときから起算すると解したいが、どうだろう。

再転相続人の熟慮期間(5)

2019-10-09 09:49:26 | 家族法
 ただし、この最高裁判例は、その射程がそれほど広くはないのではないか、と思うのである。それは、この判例の事案の特殊性にある。

 実は、今回の判例の事案は、単純に祖父甲が死亡し、それから3ヶ月経過する前に父乙が死亡した場合の本人丙の立場という事案ではない。甲死亡により第1順位の相続人である子及び配偶者がみな相続放棄をし、(第2順位である直系尊属も既に死亡しており)、第3順位である兄弟姉妹が乙の立場で相続した事案である。兄弟である乙が甲の相続につき熟慮期間経過前に死亡して乙の子や配偶者が再転相続人となったという事案なのである。もちろん、甲の借金がどうなるかが問題となっている。
 このような事案の場合、甲には子がいる以上、乙や丙は、甲の死亡の事実を知っていたとしても、甲の子が相続していると思うのは当然であり、放棄していることを知らない限り、乙は、自己が相続人となったことを認識しないことも多いであろう。当然、丙はもっと認識不可能である可能性が高い。このような事案での判示なのである。
 単純な事案である祖父甲、父乙、本人丙という事案では、丙において、祖父甲が乙よりも先に死亡していることの認識さえあれば、丙は、自己が甲の地位を承継することは認識可能である。そして、社会実態として、親族の付き合いがある限り、祖父甲の死亡は、多くの場合、孫丙はすぐに知ることになろう。
 そうだとすると、単純な祖父甲死亡、熟慮期間経過前に父乙死亡により本人丙が再転相続したという事案では、最高裁の判旨はなかなか当てはまりにくそうである。射程範囲が狭そうだというのは、以上の意味である。

再転相続人の熟慮期間(4)

2019-10-02 17:06:45 | 家族法
 この点、判旨に記載されている原審の判断は、従前の教科書レベルの解釈を前提として、再転相続の熟慮期間は、乙の死亡を知ったときから起算すると判示しつつ、ただ、916条は、乙が、自己が甲の相続人であることを知っていたが、相続の承認又は放棄をしないで死亡した場合を前提にしていると解すべきであるとして、乙が甲の相続人となったことを知らずに死亡した本件に同条は適用されず、丙の熟慮期間は915条により、丙が甲の相続の地位を乙から承継したことを知ったときから起算すると判示していたようである。

 この判旨からすると、乙が甲の相続を知っていたかどうかが問題となっているので、丙の認識を問題とする最高裁の判旨の方が丙の保護になっているといえるだろう。