実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-法定利率の変動制(2)

2015-04-30 10:57:48 | 債権総論
 この、スタート時の金利だけは3%で確定しているという点に、若干の問題はないだろうか。
 現在の超低金利時代の短期貸付利率は、おそらくゼロ%台である。改正法施行時のそのままであれば、その段階で過去5年間の短期貸付利率の平均も、おそらくゼロ%台であろうことが推測される。
 もしそうだとすると、この短期貸付利率が改正法施行後1%以上下落すると、マイナス金利になってしまうが、貸付利率がマイナスになることはあり得ないはずである。
 銀行間取引であるインターバンク市場では、時々マイナス金利という言葉を耳にすることもあるが、それはあくまでも銀行間取引の問題であり、銀行の立場からすれば、仕入の金利である。貸出金利がマイナスになることはあり得ないはずである。

 もしそうだとすると、法定利率が3%から2%に下落することは、絶対にあり得ないことになる。そうなると、法定利率3%というのは、実質的に法定利率の最低利率であり、意図していたか否かにかかわらず、法は3%という利率を最低の法定利率として採用したと言ってもいい状況になる。それがよかったかどうか。
 この点は、もっぱら政策判断であり、理屈の問題ではない。その上で、意図して3%を法定利率の最低としようとしていたのであれば、そういう政策判断として考えるしかない。しかし、意図していなかったのであれば、結果として3%が最低利率となってしまいかねないことについて、それがよかったかどうかということが、今後の議論の対象にはならないだろうか。

 もっとも、以上は改正法施行時の市場の短期貸付利率が現在と同じようにゼロ%台であることが前提のことであり、もし施行時まで金利が相当程度上昇した場合には、話が変わってくることも当然である。
 もっと言えば、改正法制定時と施行時で市場利率も変動する可能性があることを考慮すると、そもそも改正法施行時のスタート利率を3%と固定してしまったことそのものもどうだったのか、ということにもなりそうなのだが、どうなのだろう。

債権法改正-法定利率の変動制(1)

2015-04-24 15:14:50 | 債権総論
 これまで民法が定める法定利率は年5%とされてきた。固定相場であり、現行民法制定以来約120年間固定であった。
 そのため、終戦直後のインフレの時代も、高度成長期も5%であったし、逆に超低金利時代と言われる現在でも同じ5%である。
 私が学生のころは、いまだバブル期でもあり、市場金利もまだ高い時代であった。その頃に習った法定利率の説明としては、比較的低めの金利であるという説明を受けたような気がする。
 しかし、現在はかなりの高利率である。うっかりすると、消費者金融に継ぐ高い利率ではないだろうか。

 そこで、債権法改正により、利率は変動性に改めることになった。
 ただ、変動性と言っても、必ずしも市場の利率に連動するわけではなく、3年ごとに利率を見直すというものである。
 また、法律案は非常に分かりにくいのであるが、見直しの基準は、過去5年間(6年前から1年前までの60か月)の短期貸付利率の平均利率で考え、この平均利率が最後に法定利率が変動した時の短期貸付利率の平均利率から3年ごとに見直して、1%以上上下変動すれば、法定利率を1%上下させるというものらしい。
 つまり、基準となる平均利率は、5年間の平均で考えるので、その短期間の金利の変動は大幅にならされて考えざるを得ない。その平均利率が3年ごとに見直して1パーセント以上変動した場合に、ようやく法定利率が変更されるということである。そのため、法定利率の変動金利制の導入といってみても、かなり緩やかな変動金利といっていい。
 そして、実際に法定利率を変更する場合には、法務大臣の告示によって行われるのだろうと思われるのだが、改正法のスタート時点の利率だけは、3%と決まっていて、なぜか、これは改正民法に明文で規定される。そのため、スタート金利だけは動かしようがない。

未公開株の株価算定(5)

2015-04-17 11:46:45 | 会社法
 以上に対し、募集株式発行の場面ではどうか。

 払込価格の有利性判断として行う株価算定では、必ずしも「退出」が問題となる場面ではない。既存の株主に損害を与えない程度の払込価格はいくらかということである。そうすると、ここでは株式の交換価値こそが問題となりそうなのであり、非流動性ディスカウントをしてもよさそうな気がしている。
 もしそうなると、会社法上株価算定が問題となる場面において、場合によっては異なった株価を算定することがありうるということになりそうである。それが「公正な価格」とそうでない価格の違いだともいえるのかもしれないと思っている。言い過ぎだろうか。

未公開株の株価算定(4)

2015-04-14 16:14:25 | 会社法
 これを、非流動性ディスカウント後の株価で考えてしまうと、結局、合併等には反対なのだが(だから本来は反対株主は合併しない方がよりお得と考えている)、たとえ合併するとしても、株式買取請求をして会社から退出するよりも、不本意でも会社に残る方が得になるという計算になる。これでは株式買取請求を認めた意味がなくなってしまう。非流動性ディスカウントを認めなかった判例は、このあたりを問題にしているのであろう。

 ちなみに、判例は、とりあえず、収益還元法の場合に限った判断として、非流動性ディスカウントを認めないと判示している。とくに「類似会社比準法等とは異なり」収益還元法では非流動性ディスカウントを認めないと言っているので、類似会社比準法では非流動性ディスカウントを認めてよいかの如くである。
 しかし、以上のように考えると、必ずしも収益還元方式の場合に限った問題ではなさそうだし、類似会社比準法も、私の理解では類似業種としての上場会社の株価を参照するのであり、そこから非流動性ディスカウントをすることがさらに正当化されるか否かの問題になりそうであるが、そこでも以上述べたことと同じ問題が生じそうであるが、どうなのだろう。

未公開株の株価算定(3)

2015-04-10 15:29:59 | 会社法
 どういうことかを、もう少し具体的に考えて見る。

 もし非流動性ディスカウントを認めてしまった場合にどうなるかというと、おそらく次のような不等式が成立してしまう。

   非流動性ディスカウント後の1株の株価 × 発行済株式総数 < 企業価値の金銭評価

 この不等式の意味は理解してもらえると思う。本来、1株あたりの株式の価値に発行済株式総数を乗じたのが企業価値となってしかるべきであるが、非流動性ディスカウントを認めると、そうはならなくなってしまうのである。

 もっとわかりやすい単純な話として、株主たちは、もはや会社はいらないと思って事業の全部を適正価格で譲渡した場合、その売却額が企業価値の金銭評価に当たるはずであり、事業譲渡後に解散し、残余財産の分配として売却代金を株主に分配するとすれば、1株あたりの分配金は、事業の売却額に発行済株式総数を除した額であることは当然である。これは、逆算すれば次のような恒等式で説明できる。

   1株あたり残余財産分配額 × 発行済株式総数 = 企業価値の金銭評価

 「公正な価格」とは、概念的に言えば、この1株あたり残余財産分配額を「公正な価格」に置き換えて理解したものであって、たとえ会社が解散する前であっても、この恒等式を前提とした計算方法になるような株価を想定しているということであろう。