実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

会社分割と詐害行為取消権(2)

2011-11-30 10:27:04 | 会社法
 会社分割において詐害行為取消権の行使を認めることのもう一つの問題は、会社分割は一応組織法的な行為であって、純粋な契約法の問題ではない。そのため、会社分割行為の詐害行為取消を認めるとなると、会社分割の効力そのものとの抵触の問題もありそうである。

 この点で参考になりそうなのが、現物出資の詐害行為取消権の行使の可否の問題である。会社分割の場合、財産を新設会社に出資してその対価として株式の発行を受けるという、現物出資とよく似ているからである。
 判例は、現物出資の詐害行為取消権の行使を認めているようで、これとの比較でいうと、会社分割の場合も詐害行為取消権の行使が認められてもよさそうである。

 会社法の条文構造との関係でいうと、若干の疑義がある。

会社分割と詐害行為取消権(1)

2011-11-25 12:40:55 | 会社法
 下級審判例の中に、会社分割が詐害行為として取消の対象とされる事例が散見されるようである。
 具体的にはどういう場面かというと、例えば新設分割の事例で、分割会社の優良事業及び優良資産とごく親しい債権者に対して負う債務のみを新設会社に移転さし、不良資産とその他の債務を分割会社に残すというような会社分割の場合である。不良資産しか残らなかった分割会社に対する債権者としては、優良資産が新設会社に移転させられては責任財産の減少を招くというのである。

 ところで、どうしてこのようなことが起こるか。
 実は、上記事実関係には、考慮すべき事情として重大な抜け落ちがある。何かというと、新設会社は分割会社に対して最低1株は株式を発行しているはずであり(そうしないと株主のいない会社の新設となってしまう)、理念的にいえば、この株式に新設会社の会社の価値が結実しているはずである。だから、抽象的なレベルでいうと、分割会社には新設会社に移転した資産に見合う株式を取得しているから、会社分割の前後で分割会社の資産価値に変動はないという見方もできなくはないのである。
 ではなぜ、下級審は詐害行為性を認めるのか。
 答えは比較的単純で、新設会社が発行する株式に対する強制執行は、事実上補足が難しく、かつ、換価が難しいからである。会社分割によって、強制執行しにくい財産に入れ替わってしまうのである。詐害行為取消権プロパーの議論と重ねると、相当対価による売却が詐害行為になるかという議論と重なる問題なのである。そのため、下級審判例は、比較的積極的に詐害的な会社分割の詐害行為取消を認めているようである。

労働者派遣法の改正

2011-11-18 11:30:00 | 時事
 最近の新聞記事で知ったことだが、労働者派遣法の改正が一年半以上も棚晒しにされていたようである。リーマンショック時に派遣切りが横行したしたことに対処する法案らしいが、どうやら大幅修正の上で成立を目指すようである。

 労働者派遣法の大きな理念とすれば、派遣先においてなるべくそのまま正社員として雇い続けることをイメージしているはずである。ところが世の中はそのようには進んでいないと思われ、結果、『派遣切り』という現象が生じているのであろう。
 もう一つの問題は、派遣料金と派遣社員の賃金の差額が大きいという問題が存在するようである。賃金搾取と思われても仕方がないということなのであろう。

 前者の問題は、実に難しく、この長期間続く不景気においては、企業はなるべく安く、さらに解雇しやすい労働者を求めていることが想定され、それが派遣労働者、その他の非正規雇用の需要につながっているのだろうと推測される。
 ただ、後者の問題については、もう少し何とかならないのか。ハローワークでの実際を必ずしもよく知らないのだが、もし、正規雇用よりも非正規雇用の需要の方が多いのだとすれば、例えばハローワークでも短期労働者やアルバイト労働者の募集を思い切って取り入れるとか、労働者派遣業と同じようなことをハローワークも取り入れてしまうということも、過渡的にはあり得るような気がするのだが。そうすれば、まさかハローワークが賃金搾取を行うことはあるまい。

 正規労働者を増やしたいという政府、労働者側の思いもよく分かるが、企業側にそれだけの需要がなければ否も応ないとも思える。
 正規労働者による完全雇用という理想よりも、労働需要と労働供給のアンバランスという経済原理の方が勝ってしまっているのが現状であろう。これをどうするか。どうも答えはなさそうである。

企業不祥事

2011-11-15 09:44:57 | 時事
 上場会社の企業不祥事が相次いでいる。大きな損失を20年程度にわたって隠し続けて(「飛ばし」という、昔懐かしい損失先送り方法を耳にした。未だにそのようなことをしていた企業があるとは、驚きである。)、これをおかしな企業買収で処理しようとしたと見られるO社や、役員による、子会社からののべ100億円に上るといわれるお金の引き出しが問題となっているD社など。原発事故はやや異質であるが、これも加わるだろうか。

 これまで、企業不祥事が生じるたびに、監査役の権限の強化や社外役員の導入など、商法(会社法)が改正され、企業のコンプライアンス強化に向けた法改正がなされてきたはずである。それにもかかわらず、100億円単位、あるいは1000億円単位の不祥事があからさまになってくる。

 結局は、法律がどうなっているかではなく、その法律を運用する人の問題になってくるのであろうか。どんなにすばらしい法律を制定しても、それを運用する人がいい加減に運用したのでは、絵に描いた餅ということだろうか。

 ちなみに、O社に関して言えば、社長を解任されたとされる、もと外国人社長の復帰を望む声も存在するようである。おかしな企業買収を指摘したことによって解任されたようであるが、おかしな事をおかしいと指摘したことで解任されることの方がおかしいので、ある意味で当然の動きだろう。
 ただ、解任されたのは、あくまでも代表取締役の地位だけのはずで、未だO社の取締役としての地位は残っているはずである。なぜなら、取締役の解任には株主総会の決議が必要だが、そのような株主総会を開いてはいないはずだからである。現に、O社のホームページを見ると、もと外国人社長の名前は、未だに取締役の中に残っている。
 だから、会社に戻って役員会議で発言する権限は残っているので、あとは本人がその気になるかどうかだけの問題のような気もする。

 いずれにしても、投資家をバカにした話である。

抗弁の接続と既払金の返還請求(5)

2011-11-11 10:44:45 | 最新判例
 実は、現在法務省で検討されている民法(債権法)の改正議論で、目立たないが、消費貸借の規定の中に抗弁の接続を規定することに関し議論の対象となっているようである。もちろん、割賦販売法30条の4の規定を意識してのことであり、これを一定の要件の下に一般法化するかどうかということなのであろう。
 しかし、抗弁の接続を一般法化するか否かという議論の前に、今回最高裁判例がなされたことも踏まえ、立法論的考察として割賦販売法30条の4は一体何なのか、どういう効果をねらいとしているのか、もう少し突っ込んだ議論が必要なような気がしている。その場合に、なぜクレジット契約が「割賦購入あっせん」(平成20年改正により「信用購入あっせん」という表現に変わっている)として割賦販売法に規定されているのか、そのことを踏まえて考えることが必要な気がしている。
 安易な一般法化は、かえって後々の解釈に不具合を生じかねない気がしているが、どうなのだろう。