実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

詐害行為取消訴訟の二重係属(3)

2018-01-31 10:55:35 | 債権総論
 仮に、詐害行為取消訴訟の二重係属を認めたとしても、一方の訴訟で請求が認容され、その判決が確定すれば、他方の訴訟では、これに抵触する判断は不可能になるはずであるから、結局、訴えの利益がなくなり、訴えそのものが却下になると考えざるを得ないだろう。

 逆に、一方の訴訟で先に請求の棄却判決が確定した場合は、他方の訴訟は、なお、訴訟を継続する利益はあるので、この場合は、他方の訴訟の本案判決がなされることになろう。
 ここで請求認容判決が出ると、その判決の既判力は他の債権者にも及ぶことになるので、先に敗訴した債権者にも及ぶということになりかねず、現に、私が読んだ物の本によれば、この場合も敗訴債権者勝訴判決の既判力が及び、取消の効力を主張できると考えているようである。
 しかし、ここでは部分的な既判力の抵触が生じると言わざるを得ないはずであり、民事訴訟法の原則からすれば、既判力の抵触は再審事由にすらなっている。とすると、この場合は、先に敗訴した債権者との関係だけでは、既判力は拡張されないと解釈すべきであるように思うし、それで実際上の不都合も生じないと思うのだが、違うのだろうか。

 改正前の425条は、あくまでも実体法的効力であって、既判力の拡張の規定ではなかった。そのため、一の債権者の訴えが先に棄却され、後から別の債権者の訴えが認容されることによる既判力の抵触の問題はあり得なかった。そのような425条を、なぜ既判力の拡張の規定に変えてしまったのだろうか。実体法的効力のままでよかったのではないかという気がする。債務者に対する効力も、仮に及ぼすとしても、既判力ではなく実体法的効力を及ぼすだけでよく、あとは形成判決の既判力の一般的問題に解消させてもよかったのではないかという気がしてならない。

詐害行為取消訴訟の二重係属(2)

2018-01-25 10:11:10 | 債権総論
 問題なのは、改正後の425条なのである。詐害行為取消請求を認容する確定判決は、債務者及びそのすべての債権者に対してもその効力を有するものとされることとなった。これは、既判力の拡張を意味するとのことであり、その対象は、債務者も含むこととなった。
 改正前の425条は、取消の効力はすべての債権者の利益のために生じるという規定であり、あくまでも実体法的な効力として規定され、その効力に債務者は含まれていなかった。ここに大きな違いがある。
 もし、改正後の制度に基づいて詐害行為取消訴訟の二重係属を認めると、債務者や他の債権者に拡張される既判力に抵触が生じる恐れが出てくるのではないだろうか。

 もっとも、改正後の425条の文言上、既判力が拡張される場面は、取消請求を認容する確定判決だけなので、取消請求を棄却する判決は拡張されない。その意味においては、会社法上の会社の組織に関する訴えとよく似ている。
 会社の組織に関する訴えが数個同時に係属した場合は、必要的に弁論を併合することとなり、別訴提起は認めるものの、必ず共同訴訟の形で審理を進めることになる。この共同訴訟は、類似必要的共同訴訟だと言われているはずである。以上のような会社法の規定及び解釈は、拡張される既判力の抵触が生じないようにするための工夫という意味合いが色濃く含まれているはずである。

 この会社の組織に関する訴えを参考にすれば、改正後の詐害行為取消訴訟でも、その二重係属を当然に認めるというのは、私にはかなり違和感を強く感じる。

詐害行為取消訴訟の二重係属(1)

2018-01-17 11:40:46 | 債権総論
 債権法改正後の法律を前提とした、ある債権総論の本を読んでいたら、債権者が、債務者の受益者に対する詐害行為の取消訴訟を提起した後、他の債権者も当該詐害行為の取り消しを求めて訴えを提起できるという説明がなされていた。しかし、本当にそうだろうか。

 改正前の詐害行為取消訴訟に関して言えば、取消の効力は相対効であって、判決の効力は債務者には及ばないという解釈がとられていた。そのこともあり、詐害行為取消訴訟の訴訟物は、詐害行為取消権そのものであって、この訴訟物は、取消債権者ごとに異なるという言い方は可能だとは思う。
 従って、改正前であれば、複数の債権者による詐害行為取消訴訟が二重係属しても、それほど大きな問題はなかったのかもしれない。
 しかし、改正後は、問題はそれほど単純ではないはずである。