実務家弁護士の法解釈のギモン

弁護士としての立場から法解釈のギモン,その他もろもろのことを書いていきます

債権法改正-受領遅滞(3)

2015-06-23 10:47:34 | 債権総論
 ところが、要綱仮案の段階の簡単な解説本によると、債権者が受領義務を負うか否かについて改正法は何も語るものではない、と解説するものもある。この解説ぶりでは、一見すると改正案は受領遅滞の法的性質についてどちらを採用したかについては依然解釈に任せているという口ぶりにも感じる。
 ただし、この解説本も、具体的にどういうことを言っているかというと、契約その他の債権発生原因または信義則に基づき個別に受領義務や協力義務を認める余地があるといっているに過ぎない。
 そうだとすれば、やはり原理原則としての一般法理としては受領遅滞は法定責任であり債務不履行責任ではないという法理を採用し、ただ、これはあくまでも任意規定に過ぎないのであり、個別の事案によっては、契約の明文や解釈として、特に受領義務を認める場合があることまで否定する趣旨ではないということであろう。
 伝統的な通説である法定責任説も、一般論として受領義務を否定しつつも、個別の事案で受領義務を認めるべき場合があることを否定するものではなかったはずで、そうだとすれば、結局、改正法は通説を採用したことになるはずである。

 これまでの「遅滞の責任」という抽象的な規定ぶりよりは分かりやすくなっているのかもしれず、その意味では解釈上の争点も少なくなっているように思われる。要は、伝統的な通説を効果面から明文化しただけのことである。そう思えば、どうという改正ではないように思うが、安易に考えすぎだろうか。

債権法改正-受領遅滞(2)

2015-06-19 15:33:19 | 債権総論
 また、弁済提供の効果と受領遅滞の効果もよく似ており、特に法定責任説の立場からすると、どちらの効果といってもいいような効果が多く、増加費用の賠償の問題も、弁済の提供により一切の責任を免れることの一内容ともいえなくはない。そのほか、保管義務の軽減、受領遅滞(弁済提供)後の履行不能における帰責性の問題(債権者に帰責性があるものと見なして考えられている)、危険の移転等が言われているが、これらが弁済提供の効果なのか、受領遅滞の効果なのか、必ずしもはっきりしない。というより、法定責任説の立場からすれば、どちらでもいいのかもしれない。
 債務不履行責任の立場からすれば、帰責性を問題とすべき場面では受領遅滞の問題で、それ以外の場合は弁済提供の効果の問題と、一応分けて考えられるのであろうか。

 債権法改正案では、「遅滞の責任」という抽象的な規定ぶりはやめてしまい、債務者の保管義務の軽減、増加費用の債権者負担を規定するにとどめ、さらに別の条文で、(履行遅滞中の履行不能は債務者に帰責性を擬制する規定を設けると同時に)受領遅滞中の履行不能については債権者に帰責性を擬制する規定を設ける形を取った。つまり、受領遅滞の効果として、この3つの効果のみを個別に規定することにしたのである。
 この規定ぶりからすると、改正案では立法的に法定責任説の立場を明確に採用したように見える。なぜなら、債権者の帰責性を問題としていないし、増加費用の債権者負担以外の損害賠償や解除について言及がなく、損害賠償や解除を認めないものと解されるからである。
 そして、3つの効果以外で伝統的に言われていた効果は、すべて弁済提供の効果として考えることになると思われるのである。

債権法改正-受領遅滞(1)

2015-06-16 10:38:44 | 債権総論
 債権者が受領を拒み、または受領できないときは、これまでは、単に「遅滞の責任を負う」とだけ規定されていた。いわゆる、受領遅滞に関する規定である。
 この規定は、「遅滞の責任」とは何なのかについて、受領遅滞の法的性質や弁済の提供の効果の異同とも絡んで、ややこしい議論が行われていた。
 
 まず、受領遅滞の法的性質として、債権者に受領義務を認めるか否かにより、債務不履行責任なのか法定責任なのかが争われていた。
 受領義務を認める立場からすれば、受領しなかった場面というのは債務不履行の状態そのものということになので、損害賠償の発生原因とすれば、単純な債務不履行に基づく損害賠償ということになる。ただし、当然に帰責性が必要である。また、債務不履行による解除も認めることに繋がる。

 これに対し、法定責任説の立場では、債権者は権利を有しているのみで弁済の提供を受けた場合にそれを受領する義務も発生しないという。ただし、債権者が受領しなかったことにより債務者に余計な費用の出費が生じた場合には、その損害を賠償すべき義務を法律上特に定めたものとされ、ここでは債権者の帰責性は問題とされないし、解除権が発生することもないという。
 一応、この法定責任説が通説とされている。

債権法改正-異議をとどめない債権譲渡の承諾(3)

2015-06-09 10:13:52 | 債権総論
 債権法の改正では、この異議なき承諾の制度は廃止される。したがって、無条件に債権譲渡に承諾しても、抗弁が切断されることはなくなる。

 改正法を前提によく考えて見れば、確かにそれで何の問題もないはずであり、むしろ異議なき承諾に抗弁の切断を認めていた現行法こそ、ちょっとした不注意で承諾してしまった債務者の揚げ足を取るような、かなり過剰な効果を認めていたような気がしている。
 確かに、譲受人がその存在を知らなかった抗弁を主張されると、譲受人にとっては困る場合もあろう。しかし、通知にとどまる場合は抗弁の対抗を受けることは当然のことであり、もともと抗弁付の債権を譲り受けているに過ぎないと思えば、やむを得ないはずである。例え債務者が無条件に承諾したとしても、その抗弁を切断させる必要性があるほどに債務者が大きな過ちをしているとは思えないのである。
 これまでの判例でも、異議なき承諾の効果は、譲受人の善意を要件とするなど、債務者にとって酷となりすぎないように比較的限定的に解釈していたのではないだろうか。先日の、無過失をも要求して公信力説を採用したと言ってもいい判例が登場するのも、そうした流れの一つであろう。そうした判例の努力を受けてか、一切抗弁切断の効果を否定した今回の改正は、私自身は納得である。

 ロースクールで教える立場からすると、学生が勉強すべき論点が一つ減ることになり、学生にも朗報といえるだろう。

債権法改正-異議をとどめない債権譲渡の承諾(2)

2015-06-05 10:37:34 | 債権総論
 実務を行っていると、債権譲渡はわりと頻繁に行われていることがわかる。ただし、多くの場合は、担保として債権譲渡される場合と、もう一つ最近多いのは、不良債権を売却する場合といえるだろう。
 そこまではいいのだが、時々、譲受人から債務者に対して、債権譲渡の承諾を求めることがある。多くの場合は素人がこのような求めをしてくるのであり、単に債権譲渡の事実を債務者にも納得してもらうという、念入れのためなのかもしれないが、うっかり承諾すると、当然、抗弁の切断が生じてしまう恐れがある。
 法的には承諾の求めを無視しても構わないのだが、譲受人が債務者と何らかの関係のある人物だったりすると、無視は人間関係を損なう恐れが生じる。

 異議をとどめて承諾すればよいともいえるが、異議をとどめる承諾とはどのような承諾なのか、実は分かりにくい側面がある。既に生じている事由があり、将来それを主張する可能性があることを指摘して承諾すれば、おそらく当該事由に関する限り異議をとどめた承諾となるだろう。しかし、このような承諾の仕方の場合、仮に他の事由があったがそれを指摘していなかった場合にそれは主張しうるのかどうかが問題となりそうである。特に、まだ債務者さえ抗弁の存在に気づいていないような場合には大いに問題となり得る。
 そこでもっと抽象的に、承諾するに当たって、単に「異議をとどめて承諾する」という承諾の仕方でいいのかどうか。しかし、これでは日本語としてそもそもヘンである。承諾するのに承諾すること自体に異議があるかのような言葉の響きがあり、言葉自体に矛盾がありそうである。
 つまり、どのように承諾するのかが非常に難しいのである。最も賢明なやり方は、「承諾時までに生じている一切の事由についての抗弁の行使を留保して承諾する」というような、結局は抽象的な異議のとどめ方となるだろうか。