常住坐臥

ブログを始めて10年。
老いと向き合って、皆さまと楽しむ記事を
書き続けます。タイトルも晴耕雨読改め常住坐臥。

絶版文庫

2017年03月21日 | 読書


雨、孫たちが帰って読書の日。本棚の隅に一冊の本がある。岩男淳一郎『絶版文庫発掘ノート』、読書の面白さを教えてくれた一冊である。この本が出版されたのは1983年、この年代は出版の世界が売れる本への傾斜が進み、古典と言われた岩波文庫などで名作としてあった作品が次々と書店から姿を消していく際立った現象が起きていた。その傾向は、もとに戻ることはなく、かっての青年の血を躍らせた文庫本が入手できなない状況は今も変わらない。著者は古書店へ足しげく通い、古書価が数千円する絶版文庫の名作を30円で見つけた喜びが綴られている。副題に、「失われた名作を求めて」のフレーズが掲げられ、単なる稀覯本ではなく、名作の目利きとしても貴重な存在である。

この本に刺激されて求めた本も少なくない。薄田泣菫『茶話』、プルースト『失われた時を求めて』、高田保『ぶらり瓢箪』、ギッシング『蜘蛛の巣の家』、森田たま『もめん随筆』などなど。買いためた本を読み切るには、残された人生の時間は少ないのだが、不思議なものでなお絶版になった名作に触れたいと思う気持ちは衰えていない。最近気づいたのだが、ネットでかっての古書店巡りのような体験が可能になっている。「青空文庫」はそんな本好きに貴重な存在である。『絶版文庫』に取り上げられた作家が、「青空文庫」に入っている。釣随筆の佐藤垢石、『赤蛙』の島木健作、佐々木邦、北原白秋、豊島與志雄などのほぼ全集といえる作品群がひしめいている。

岩男はこの本の緒言にギッシングの『ヘンリ・ライクロフトの私記』の一節を抜粋している。
「ああ再び読むことのないだろう数々の書物!・・・床しい、心をしずめるような書物。気高い、魂を揺り動かすようような書物。一度きりでなく、いく度も読みかえす値打ちのある書物。だが、自分はもう二度とそれらを手にすることはないだろう。歳月の過ぎゆくのは余りにも早く、歳月の数は余りにも少ない。」
岩男が取り上げたこのギッシングの魂の叫びは、多くの読書人に共通したものだ。せめて、戸外で過ごせない雨の日には、こうした読書人の驥尾に触れながら、書棚やネットの「青空文庫」やコボのライブラリーを従容していたい。
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