農作業をしていたら、郭公の鳴き声が聞えてきた。竹林では竹の秋を迎えている。郭公は夏鳥で、南の方から5月になると渡ってくる。昔から、「郭公が鳴いたら豆を蒔け」という言い伝えがある。地方によっては、豆まき鳥という呼び名もあるようで、豆の種を蒔く目安にされてきた。
郭公は閑古鳥とも言われてきた。郭公が鳴くところは、山中の淋しい場所であったので、客が来ない淋しい店を、閑古鳥が鳴いていると言い表わした。だが、郭公の習性が託卵にある、というのには驚かされる。郭公が産む卵はその体長に比べて小さい。モズやホオジロなどの巣に一個の卵を産みつけ、一個の卵を持ち去る。
巣に卵がある鳥は、警戒心も当然ことに強い。その隙をかいくぐって卵を産みつけるためには、周到な準備が必要である。準備といっても、卵を温めている親鳥が食事のために巣を離れる様子を観察するのだ。郭公の卵は、巣にある卵より何日か早く孵る。生まれた雛は、背のくぼみに巣にある卵をのせて外に放り出してしまう。巣は郭公の雛が独占し、自分の雛であることを疑わないモズやホオジロは、餌の虫をせっせと運んで与える。もう体も大きくなった郭公の雛に、小さなホオジロが餌を与える図は滑稽でもある。
郭公の声のしづくのいつまでも 草間 時彦
郭公の鳴き声を聞くと、その習性などは忘れてしまって、少年のころの懐かしい野遊びを思い出す。母に連れられて、蕗やワラビを採りに出かけた。そこで見た蛇の姿は、いまも眼前に生々しく残っているし、林のなかからは絶え間なく郭公の声が聞えていた。