夏になると彼の前に現れる。彼女はまさに夏限定(げんてい)の恋人(こいびと)みたいな?
恋人だと断言(だんげん)できないのは、彼女のことがよく分からないから。住んでいる所とか、仕事(しごと)は何をしているのか。なぜ、夏しか逢(あ)えないのか。彼女は自分のことをあまり話さない人だった。
彼も、あえて訊(き)こうとはしなかった。今のままの彼女が好きだから。
彼は何度か彼女に告白(こくはく)を試(こころ)みた。だが、そのたびに彼女からはぐらかされて…。そんなことを繰(く)り返しているうちに秋が来て、彼女は突然(とつぜん)彼の前からいなくなる。それが、もう二年も続いていた。今年こそは…、彼は夏を待ちかねていた。
夏になると、彼女はごく自然(しぜん)に、いつもそこにいたように、何の違和感(いわかん)もなく彼の前に現れた。そして、「こんにちは」といつも通りの挨拶(あいさつ)を交(か)わす。去年の秋に黙(だま)っていなくなったのに、そんなことまったく気にする素振(そぶ)りもない。
二人はいつもの喫茶店(きっさてん)に入った。海の見えるいつもの席(せき)に座(すわ)ると、彼は真剣(しんけん)な顔をして彼女に訊いた。「ねえ、君(きみ)は僕(ぼく)のことをどう思っているんだい?」
彼女は顔を曇(くも)らせて、「あたし、あなたのことは好きよ。これからも、それは変わらない」
「じゃ、一緒(いっしょ)に暮(く)らそう。僕と、結婚(けっこん)してください」
彼女は目に涙(なみだ)をためて、「ありがとう。でも、こんなあたしでも、いいの?」
<つぶやき>これって、夏限定の妻(つま)になるってことなのかな? 彼女はいったい何者なの?
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