彼は喫茶店(きっさてん)で、先方(せんぽう)へ渡(わた)す資料(しりょう)の確認(かくにん)をしていた。彼の仕事(しごと)は営業(えいぎょう)で、新規(しんき)の取引先(とりひきさき)を開拓(かいたく)していた。これから訪問(ほうもん)する会社も、何度も足を運(はこ)んで、やっと話を聞いてもらえることになったのだ。だから手落(てお)ちがあってはいけない。
彼が確認を終えて顔を上げると、目の前に女性が座(すわ)っていた。全(まった)く気づかなかったので、彼はちょっと驚(おどろ)いた。その女性は、彼に微笑(ほほえ)みかけると言った。
「あの、私と結婚(けっこん)してください」
彼は、あまりのことに唖然(あぜん)とするばかり。彼女はさらに続ける。
「私、あなたのことが好きになったんです。これから、私の両親(りょうしん)に会ってください」
「ちょ、ちょっと待ってよ。初対面(しょたいめん)でいきなりそれはないでしょ。なに考えてんの? それに、もし僕(ぼく)が結婚してたら…」
「その時は、離婚(りこん)してもらいます。でも、指輪(ゆびわ)をしてないから独身(どくしん)ですよね」
「いやいや、それはそうだけど…。好きな人がいるかもしれないだろ」
「なら、私もエントリーできますよね」
「ごめん。これから仕事(しごと)なんだ。大事(だいじ)な商談(しょうだん)があって…」
「私がご案内(あんない)します。その会社、私のパパの会社なんです」
「えっ、パパ? まさか、社長(しゃちょう)の娘(むすめ)さんなんですか?」
彼女は微笑(ほほえ)むだけで、それには答えなかった。彼女はさり気なく彼の腕(うで)を取った。
<つぶやき>これには何か裏(うら)があるのかな? 彼の運命(うんめい)が大きく変わるかもしれません。
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