私は三年ぶりに娘(むすめ)を連れて実家(じっか)へ帰郷(ききょう)した。――私の故郷(ふるさと)は山の中にある小さな村(むら)で、今でも昔ながらの生活(せいかつ)が残っていた。私はまだ幼(おさな)い娘に、この自然(しぜん)の中での生活を味(あじ)あわせてあげたかったのだ。私の子供(こども)の頃(ころ)のように…。
「ねえ、大きな木の下に、変な子がいたよ」娘は畑(はたけ)から帰ってくると、私に報告(ほうこく)した。
「山の神様(かみさま)が挨拶(あいさつ)に来たんだね」八十路(やそじ)を越(こ)えた祖母(そぼ)が、笑いながら娘の頭(あたま)をなでた。
山の神様。そういえば、私も子供の頃に…。近所(きんじょ)の子たちと遊(あそ)んでいると、知らない子がいて…。それに気がつくと、いつの間にか消(き)えてしまう。そんなことが何度かあったような…。そんな、子供の頃の不思議(ふしぎ)な思い出が残っていた。
「明日もね、また、行ってもいい?」娘は嬉(うれ)しそうに、「遊ぼって、約束(やくそく)したの」
「そう。じゃあ、ママと一緒(いっしょ)に行こうか」
「うん。一緒に行こうね」娘はそう言うと、家の中に駆(か)け込んでいった。
「昔は、子供も大勢(おおぜい)いて賑(にぎ)やかだったけど…」祖母は農具(のうぐ)を洗(あら)いながら、「神様も遊び相手(あいて)がいないから、淋(さび)しいんだろうね」とぽつりとつぶやいた。
たしかに、この村も過疎化(かそか)で人が減(へ)っていた。ふっと、私の中に淋しさがこみ上げてきた。よし、明日は娘と一緒に、山の神様と思う存分(ぞんぶん)遊んであげよう。私はそう決めた。でも、私に姿(すがた)を見せてくれるかな。子供の頃のように――。
<つぶやき>子供の頃の純真(じゅんしん)な心を思い出してみましょう。世界が変わるかもしれません。
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