いつもの朝。烏杜高校(からすもりこうこう)の校門(こうもん)を通って、生徒(せいと)たちが登校(とうこう)してくる。その中に水木涼(みずきりょう)と川相初音(かわいはつね)の姿(すがた)もあった。教室(きょうしつ)では生徒たちが楽しげに雑談(ざつだん)したりしている。その様子(ようす)を、廊下(ろうか)から覗(のぞ)いている女の子がいた。そこへやって来た初音が声をかけた。
「何してるの?」初音は女の子を見て、「あなた下級生(かきゅうせい)ね。誰(だれ)かに会いに来たの?」
女の子はもじもじしていたが、初音の後にいた涼が気づいて、
「お前、日野(ひの)じゃないか。何か用(よう)でもあるのか? 部活(ぶかつ)のことだったら…」
女の子は右手(みぎて)の親指(おやゆび)と人差(ひとさ)し指だけを伸(の)ばして胸(むね)に当(あ)てると、涼の顔を見つめた。これは彼女の癖(くせ)なのか、人と話しをするときによくする仕種(しぐさ)だ。女の子は顔を赤くして、
「あの…。もういいです。失礼(しつれい)しました」
女の子が逃(に)げるように行ってしまうと、初音は涼をからかうように言った。
「何だ。あなたの…。珍(めずら)しいこともあるものね。あなたが後輩(こうはい)に慕(した)われてるなんて」
「そんなんじゃないよ。部活でもしゃべったことないし。あいつ、何しに来たんだ?」
「あなたのこと、恐(こわ)すぎて話せなかったのよ。きっとそうに違(ちが)いないわ」
――女の子の名前(なまえ)は日野あまり。剣道部(けんどうぶ)に入っているが、下手(へた)すぎて雑用(ざつよう)ばかり押(お)しつけられていた。あまりは廊下を歩きながら呟(つぶや)いた。
「今日は休みなんだ。残念(ざんねん)だわぁ。あの人のこと、見てみたかったのに…」
<つぶやき>謎(なぞ)の下級生の登場(とうじょう)です。彼女には、秘(ひ)めたものが…。あの人って誰のこと?
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