みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1089「最後の事件」

2021-06-30 17:48:50 | ブログ短編

「先生(せんせい)、お元気(げんき)でしたか? 他(ほか)のみなさんに、迷惑(めいわく)とかかけてないでしょうね」
「ああ、小林君(こばやしくん)か…。いいところへ来た。さあ、出かけるぞ。依頼人(いらいにん)が待っている。これが、わしの最後(さいご)の事件(じけん)になるかもしれん。さぁ…行くぞ」
 小林と呼(よ)ばれた彼女は探偵(たんてい)の腕(うで)をつかんで押(お)し止(とど)めて、
「ちょっと待ってください。先生は、隠退(いんたい)したんですよ」
 探偵はゆっくりと振(ふ)り返ると、「……わしが、隠退? 何を…言ってるんだ。わしは…」
 彼女は探偵を座(すわ)らせると、「ここは老人(ろうじん)ホームなんですよ。依頼人が来るわけないじゃないですか。それに、あたしは〈小林〉じゃないです。あたしは、松本(まつもと)ゆかり…。先生の最後(さいご)の助手(じょしゅ)をしてました。覚(おぼ)えてないんですか?」
「松本…ゆかり…。ああ、そうだったなぁ。小林君はどうしたんだ? どこにいる?」
「小林君って、先生の最初(さいしょ)の助手をしてた方ですよね。あたしは、会ったことないですけど…。もう亡(な)くなってるって…、先生から聞かされてますけど…」
「わしが…。そうか…、そうだったなぁ。……で、最後の事件はどうなった? わしは、ちゃんと解決(かいけつ)できたんだろうなぁ? どうも…、頭(あたま)がぼんやりしてしまって…」
「先生、大丈夫(だいじょうぶ)ですよ。最後の事件は、ちゃんと先生が解決しました。もう、すっごく格好(かっこ)良かったですよ。あの鬼頭刑事(きとうけいじ)が涙(なみだ)を流(なが)して口惜(くや)しがってましたから…」
「そうか…、それは良かった。……では、依頼をお聞かせください。お嬢(じょう)さん…」
<つぶやき>名探偵の最後の事件…。きっと歴史(れきし)に残(のこ)る事件だったのかもしれませんね。
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