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みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

1000「しずく115~追われる」

2020-12-16 17:55:04 | ブログ連載~しずく

 川相初音(かわいはつね)と水木涼(みずきりょう)は夜の町を歩いていた。人通りはほとんどなく町は静(しず)まり返っている。コンビニの前を通り過ぎたとき、初音は誰(だれ)かにつけられていることに気がついた。
 初音は小声で涼に言った。「ねぇ、あなたって飛べる?」
 涼は、初音の仕種(しぐさ)で感じ取ったのか小声で答えた。「私、できないと思う」
「そう。あたしも、二人で飛ぶことはできないわ。じゃあ、走るしかないわね」
 二人は目配(めくば)せして走り出した。道を何度も曲(ま)がり、細い路地(ろじ)や住宅街(じゅうたくがい)の中を駆(か)け抜(ぬ)けた。そして、小さな公園(こうえん)の遊具(ゆうぐ)の影(かげ)に身をひそめた。涼が息(いき)を切らしながら言った。
「ね、逃げ切れたかな? 私、もう走れないかも…」
「弱音(よわね)を吐(は)かないで」初音も汗(あせ)を拭(ふ)きながら、「たぶん、一人いるわ。厄介(やっかい)なのか…」
 涼が何か言おうとしたとき、初音が涼を突(つ)き飛ばして姿(すがた)を消(け)した。同時(どうじ)に、二人がいた場所(ばしょ)につぶてが飛んできた。涼は身構(みがま)えて辺(あた)りを見回した。小さな街灯(がいとう)だけなので、敵(てき)の居場所(いばしょ)を見つけることはできなかった。
 公園の木立(こだち)の陰(かげ)から初音が転(ころ)がり出た。そして別の人影(ひとかげ)が飛び出した。それは屋根(やね)の上で合図(あいず)をした人物(じんぶつ)。どうやら女のようだ。初音は素早(すばや)く立ち上がると、
「やっぱりあなたね。久(ひさ)しぶりじゃない。あなたがここにいるなんて、知らなかったわ」
「初音、何で裏切(うらぎ)ったのよ。裏切り者がどうなるか、分かってるわよね」
<つぶやき>新たな敵の登場(とうじょう)ですね。さて、二人はここから逃げ切ることができるのか?
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0995「しずく114~泣き顔」

2020-12-06 17:52:32 | ブログ連載~しずく

 水木涼(みずきりょう)は為(な)す術(すべ)もなく、家が燃(も)えるのを見ながら泣(な)き崩(くず)れていた。遠くから消防車(しょうぼうしゃ)のサイレンが聞こえてくる。川相初音(かわいはつね)は彼女の背中(せなか)をさすりながら言った。
「大丈夫(だいじょうぶ)よ。あなたの家族(かぞく)は無事(ぶじ)だと思うわ。さぁ、行きましょ」
「ほんとに…。助(たす)けてくれたの?」
「ええ、しずくがね。心配(しんぱい)ないわよ」初音は涼の顔をまじまじと見つめながら言った。
「それにしても、あなたの泣き顔って不細工(ぶさいく)なのね。ふふっ…」
「笑(わら)うな。もう泣かないわよ。あんたって、そういうとこがあるから――」
 初音は羨(うらや)ましそうに呟(つぶや)いた。
「あなたって、家族に愛(あい)されてたのね。あなたも…愛してる」
「ほんとうの親(おや)じゃないけどな。私にとっては大切(たいせつ)な家族だから…」
 涼は立ち上がると初音を睨(にら)みつけて、「誰(だれ)にも言うなよ。もし、しゃべったら…」
「えっ、何を?」初音はいつもの調子(ちょうし)で、「家族に愛されてるってこと?」
「違(ちが)うわよ。泣き顔が…不細工だってこと。絶対(ぜったい)、しゃべるなよ」
「はいはい、分かりました。さぁ、急(いそ)ぎましょ。みんなが待ってるわ」
 二人は駆(か)け出した。一瞬(いっしゅん)、涼は崩れ落ちていく家を見つめたが、何かを吹(ふ)っ切るように走り出した。二人は闇(やみ)の中へ消(き)えて行く。サイレンの音が大きくなっていた。
<つぶやき>普段(ふだん)は気にもかけないけど、家族は大切なものなんですよ。感謝(かんしゃ)しましょ。
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0990「しずく113~実戦」

2020-11-26 17:48:07 | ブログ連載~しずく

 水木涼(みずきりょう)には考えている時間(じかん)はなかった。日本刀(にほんとう)の男は涼に斬(き)りかかった。何も持たない涼は逃(に)げるしかなかった。二度三度となんとかかわしてきたが、どんどん追(お)いつめられていく。逃げ場はもうなかった。男はじりじりと間合(まあ)いをつめて、涼を斬りつけた。
 涼は庭(にわ)に倒(たお)れ込んだ。右腕(みぎうで)に痛(いた)みが走り、赤い血(ち)が流れ出ている。涼には命(いのち)がけの実戦経験(じっせんけいけん)などなかった。彼女は完全(かんぜん)に動揺(どうよう)して戦意(せんい)を失(うしな)ってしまった。男はまたニヤリと笑(わら)い、涼に刀(かたな)を向けた。もうダメだ。涼は震(ふる)えながら目を閉じた。
 その時だ。聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「何してるのよ。あなたって、そんな弱虫(よわむし)だったの?」
 それは、川相初音(かわいはつね)の声だった。涼が目を開けると、日本刀の男は倒されていて、二人の前には男たちが楯(たて)のように立っていた。初音は涼に叫(さけ)んだ。
「さあ、逃げるわよ。あたしの能力(ちから)じゃこれが精一杯(せいいっぱい)なの」
 初音が涼の手をつかんで立たせると、逃げ道を探した。だが、日本刀の男は、男たちの上を飛び越(こ)えて、二人の前に立ちはだかった。男は刀を二人に向けた。二人は塀(へい)まで追いつめられていく。その時、上の方から指笛(ゆびぶえ)が聞こえた。見上げると、屋根(やね)の上に人の姿(すがた)があった。それを合図(あいず)に、男たちは走り去って行く。屋根の上の人影(ひとかげ)も消(き)えてしまった。
 ほっと息(いき)をつく二人。その直後(ちょくご)、家の中から爆発音(ばくはつおん)とともに火(ひ)が吹(ふ)き出した。瞬(またた)く間に、家は炎(ほのお)に包(つつ)まれた。涼が叫び声をあげるが、爆発音にかき消されてしまった。
<つぶやき>両親(りょうしん)を助(たす)けることはできなかったのか? 涼にとって辛(つら)いことになって…。
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0985「しずく112~襲撃」

2020-11-16 17:47:51 | ブログ連載~しずく

「誰(だれ)だろう? こんな時間に…」父親は玄関(げんかん)の扉(とびら)を開けようとした。
 その直前(ちょくぜん)、扉が勢(いきお)いよく開いて黒ずくめの男が父親を押(お)し倒(たお)して入って来た。水木涼(みずきりょう)はとっさに手にした鞄(かばん)を男に投(な)げつけ、両親(りょうしん)に家の奥(おく)へ行くよう促(うなが)した。そして能力(ちから)を使って男を家の外へ飛(と)ばし、慌(あわ)てて扉を閉めると鍵(かぎ)をかけた。
「いったい何なのよ」涼は息(いき)を整(ととの)えながら呟(つぶや)いた。
 家の奥からガラスが割(わ)れる音がして、母親の叫(さけ)び声が聞こえた。涼は竹刀(しない)を手にすると、家の奥へ急(いそ)いだ。そこには数人の男たちが乱入(らんにゅう)していた。父親は頭から血を流しながらも、母親を男たちから守っていた。涼は竹刀を振りまわし、男たちに一撃(いちげき)をあたえて両親の前に立った。しかし、そんなことで男たちはひるまなかった。
「誰なのよ! 何でこんなことするの!」涼は叫んだ。
 男たちは何も答えず、標的(ひょうてき)を涼に絞(しぼ)ったようだ。涼は男たちに向かって行った。能力(ちから)を使って家の中の物を男たちにぶつけ、大きな座卓(ざたく)を両親の前に立てて盾(たて)にした。そして男の一人を能力(ちから)で思いっ切り突(つ)き飛ばした。男はガラス戸を破(やぶ)り庭(にわ)に倒れ込む。
 涼は庭に飛び出した。男たちも彼女を追(お)って外へ出た。涼は竹刀を構(かま)えた。男の一人が涼の前に立った。その男は日本刀(にほんとう)を抜(ぬ)いてみせた。涼は思わず、「そ、そんなのありかよ」
 突然(とつぜん)、涼の手から竹刀が抜(ぬ)け出し飛び去(さ)った。日本刀の男はニヤリと笑った。
<つぶやき>敵(てき)にも能力者(のうりょくしゃ)がいたようですね。涼たちは、このまま消(け)されてしまうのか?
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0980「しずく111~育ての親」

2020-11-06 17:52:56 | ブログ連載~しずく

「じゃあ、ちょっとその辺(へん)まで見てくるよ」父親(ちちおや)は玄関(げんかん)で靴(くつ)をはくと言った。
 母親(ははおや)は心配(しんぱい)そうに、「お願(ねが)いしますね。あの娘(こ)、このところ帰りが遅(おそ)い日が多くて。もう、どうしちゃったのかしら?」
 父親が玄関の扉(とびら)を開けると、ちょうど外(そと)に水木涼(みずきりょう)が立っていた。父親と目が合うと、涼はばつが悪(わる)そうに微笑(ほほえ)んで、
「ただいま…。お父(とう)さん、どうしたの…。出かけるの?」
 母親が咎(とが)めるように、「なに言ってるの? あなたの帰りが遅いからでしょ…」
「あっ…、私なら大丈夫(だいじょうぶ)よ。心配なんかしないで。もう子供(こども)じゃないんだから」
「子供じゃないから心配してるの」母親は涼の手を取って言った。
 この二人は、涼の育(そだ)ての親だ。自分(じぶん)が養子(ようし)だと知ったのは中学の頃(ころ)。涼にとってそれは、それほど驚(おどろ)くことではなかった。小さい頃から何となく、自分はこの二人とは違(ちが)う人間だと感じていた。その感覚(かんかく)がどこから来るのか、やっと腑(ふ)に落ちたのだ。だけど、両親(りょうしん)にそのことを話すことはしなかった。実(じつ)の親でなくても、自分をここまで育ててくれたのだ。それはもう家族(かぞく)以外の何ものでもない。
「お腹(なか)すいたでしょ? ずく温(あたた)め直(なお)すからね」母親は優(やさ)しく微笑(ほほえ)んだ。
「あっ、お母(かあ)さん、ごめんなさい。友だちと食べてきちゃった。連絡(れんらく)するの、忘(わす)れてたわ」
 涼は、学校(がっこう)では見せたことのない素直(すなお)さで言った。その時、玄関のチャイムが鳴(な)った。
<つぶやき>親にとっては、子供はいつまでも子供なのです。子供にとって、親って…。
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