神崎(かんざき)つくねが帰って来ると、暗(くら)い部屋(へや)で父親(ちちおや)が待っていた。父親は、
「どこへ行ってたんだ? ずいぶん遅(おそ)いじゃないか」
「ちょっと散歩(さんぽ)よ。気分転換(きぶんてんかん)をしたかったの。いいでしょ? それくらい…」
「ああ、かまわないさ…。でも、えらく反抗的(はんこうてき)だが、私に言いたいことでもあるのかな?」
つくねは父親の顔を睨(にら)みつけた。そして、詰(つ)め寄(よ)るように言った。
「あの写真(しゃしん)の女性は誰(だれ)なの? 三人で撮(と)ったやつよ。あたしに見せてくれたでしょ」
「ああ、あれか…。もちろん、お前の母親(ははおや)じゃないか」
「嘘(うそ)よ。あれは母(かあ)さんなんかじゃない! 本当(ほんとう)のお母さんは、この人よ」
つくねは写真を父親に突(つ)き出した。あの小部屋(こべや)で見つけたものだ。
父親は困(こま)った顔をして、「あぁ。もしかして、記憶(きおく)が戻(もど)っちゃった?」
その声は、なぜか女の声になっていた。父親は、一瞬(いっしゅん)のうちにつくねの背後(はいご)に回(まわ)り、彼女の首(くび)を腕(うで)で締(し)め上げた。そして、手にした針(はり)をつくねの身体(からだ)に突き刺(さ)した。
薄(うす)れていく意識(いしき)の中で、つくねは父親の顔を見た。だがそこにあったのは、あの写真に写(うつ)っていた女の顔だった。その女は哀(あわ)れむようにささやいた。
「ダメよ、油断(ゆだん)しちゃ。心配(しんぱい)しなくても、あなたの代(か)わりは私がやるからねぇ」
「あなたは……、誰なの? あたしに……何を……」
<つぶやき>これは、とってもやばいです。この女、誰にでも変身(へんしん)できるんじゃないの?
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深夜(しんや)の薄暗(うすぐら)い部屋(へや)。ベッドに川相初音(かわいはつね)が眠(ねむ)っていた。どこからともなく、部屋の中に人影(ひとかげ)が現れた。その人影は、初音の枕元(まくらもと)まで近づいて行く。手にはナイフを握(にぎ)りしめていた。人影は、そのナイフを初音の首元(くびもと)へ――。
突然(とつぜん)、初音が目を開けた。次の瞬間(しゅんかん)、初音の姿(すがた)が消(き)えて、人影の後ろに現れた。ほとんど同時(どうじ)に、人影はかき消えて初音から距離(きょり)を取ったところに姿を現す。
初音は人影を見て言った。「琴音(ことね)…。どうしてここに…」
「お姉(ねえ)ちゃん…」琴音は嘲笑(あざわら)うように、「しっかりしないと。そんなんじゃ、すぐに消されちゃうわよ。お姉ちゃんさぁ、神崎(かんざき)と手を組(く)むつもりなの?」
「琴音、あたしのこと見張(みは)ってたの?」
「まさか…、あなたにそんな価値(かち)はないわ。神崎のところを探(さぐ)ってたら、あなたが現れたのよ。ふん、裏切(うらぎ)り者(もの)は、どこまでいっても裏切り者…。優柔不断(ゆうじゅうふだん)なのは変わらないのね」
「ねぇ、琴音。大丈夫(だいじょうぶ)なの? 黒岩(くろいわ)のところにいて…。黒岩は、あたしたちのこと道具(どうぐ)としか見てないわ。使えなくなったら平気(へいき)で切り捨(す)てるわよ」
「逃げ出した人に言われたくないわ。わたしは、お姉ちゃんとは違(ちが)うから…」
「もし辛(つら)いことがあったら、いつでもお姉ちゃんのとこへ来てもいいのよ」
「バカなこと言わないで。お姉ちゃんこそ、死(し)にたくなかったら、遠(とお)くへ逃げるのよ」
琴音は、初音を睨(にら)みつけるように見つめると、姿を消してしまった。
<つぶやき>この姉妹(しまい)に何があったのでしょうか? ほんとは仲直(なかなお)りしたかったのかも…。
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日野(ひの)あまりは、突然(とつぜん)、手をつかまれて、思わず声をあげそうになった。あまりの手をつかんだのは、月島(つきしま)しずくだ。次の瞬間(しゅんかん)、あまりは目まいを感じた。しずくが彼女の心の中を覗(のぞ)いたのだ。しずくは微笑(ほほえ)んであまりにささやいた。
「もう大丈夫(だいじょうぶ)よ。あなたは一人じゃない。もう心配(しんぱい)することないから…」
あまりは、それを聞いて、思わず涙(なみだ)がこみ上げてきた。水木涼(みずきりょう)が慌(あわ)てて言った。
「ど、どうしたんだよ。どこか痛(いた)いところでも…。ごめん、稽古(けいこ)…きつかったか?」
あまりは目頭(めがしら)を押(お)さえて、「いえ、違(ちが)うんです。そういうことじゃ…」
あまりは呼吸(こきゅう)を整(ととの)えると、静(しず)かに話し出した。
「実(じつ)は…、あたし、夢(ゆめ)を見たんです。その夢に出てきた女の人に、烏杜高校(からすもりこうこう)へ行きなさいって言われて…。そこへ行けば助(たす)けてくれる人がいるからって」
川相初音(かわいはつね)は呆(あき)れたように、「えっ…。あなた、夢で学校(がっこう)を決(き)めちゃったの?」
「はい。ちょうど進路(しんろ)に悩(なや)んでいたときで…。夢でその人、はっきり言ったんです。しずくを探(さが)せって…。最初(さいしょ)は何のことか分からなかったんですが…。部活(ぶかつ)の先輩(せんぱい)が転校生(てんこうせい)の話をしてて…。その転校生が、月島しずくだって言ってたので…。それで…」
水木涼はホッとしたように、「何だよ。それで、朝、教室に来てたのか?」
<つぶやき>この後輩(こうはい)はどんな娘(こ)なの。登場人物(とうじょうじんぶつ)が多すぎて、作者(さくしゃ)は何も考えてないかも。
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神崎(かんざき)つくねの帰りを待たずに二人は帰ることにした。月島(つきしま)しずくは歩きながら、
「ねぇ、楽しかったね。初音(はつね)も試(ため)してみればよかったのに」
川相(かわい)初音は呆(あき)れた顔をして、「何を言ってるのよ。あの装置(そうち)がどういうものか分かってないの? あの人、装置が故障(こしょう)したって騒(さわ)いでたけど…。あなた、何かしたでしょ?」
「私は、何も…。ただ横(よこ)になってただけよ。ねぇ、お腹(なか)すかない? 何か食べに行こう」
「あのね…。はっきり言っておくけど、あたし、あなたとは――」
しずくは、いきなり初音の腕(うで)をつかむと歩き出した。そして、
「いいの、いいの。ねぇ、どっか美味(おい)しいお店(みせ)、知らないの?」
「分かったわよ。じゃあ、安(やす)いところで、よかったら――」
――二人は定食屋(ていしょくや)に入った。ここは、水木涼(みずきりょう)と食べに来たことがあった。実(じつ)は、柊(ひいらぎ)あずみが涼と双子(ふたご)の姉妹(しまい)を連(つ)れて来たお店だ。店内(てんない)に入ると、お客(きゃく)はまばらだった。二人は、その中に涼がいるのを見つけた。彼女の前には後輩(こうはい)の日野(ひの)あまりが座(すわ)っている。二人は同じテーブルにつくと、初音はからかうように涼に言った。
「もう仲良(なかよ)くなっちゃったの? いいぞ、涼ちゃん。やればできるじゃん」
初音はあまりに向かって、「あたし、川相初音。で、こっちが月島しずく。よろしくねぇ」
あまりは、〈しずく〉と聞いて身体(からだ)をこわばらせた。そして、能力(ちから)を使うときの仕種(しぐさ)をしようと、手を胸(むね)の前にもっていった。
<つぶやき>この定食屋、安くてまあまあ美味しいみたいよ。彼女たちの行きつけです。
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月島(つきしま)しずくが装置(そうち)の椅子(いす)に座(すわ)ると、神崎(かんざき)は手足を固定(こてい)していった。しずくは、
「わぁ、何かすごい。まるで拷問(ごうもん)でもされるみたい」何だか楽しそうだ。神崎は、
「動いてしまうと、ちゃんとデータを取ることができないんだよ。すぐ終わるからね」
神崎は操作室(そうさしつ)へ向かった。川相初音(かわいはつね)は、しずくに何かささやいてから、神崎について行った。神崎は操作盤(そうさばん)の前に座っている部下(ぶか)に、わくわくしながら言った。
「さぁ、準備(じゅんび)はいいか? データを取り終わったら、すぐに洗脳(せんのう)を始(はじ)めてくれ。こいつは、我々(われわれ)にとって最高(さいこう)の武器(ぶき)になるだろう。世界(せかい)を変えることも夢(ゆめ)じゃない」
神崎は初音にささやいた。「君(きみ)には感謝(かんしゃ)しないとな。黒岩(くろいわ)には申(もう)し訳(わけ)ないが…」
神崎が目配(めくば)せすると、部下は装置のスイッチを押(お)した。操作盤のランプが点灯(てんとう)して、装置が低い唸(うな)り声のような音を立てて動き出した。しばらくして部下の一人が言った。
「間(ま)もなく最大値(さいだいち)に達します。装置正常(せいじょう)。何の問題(もんだい)もありません」
神崎はモニターの数値(すうち)を食い入るように見つめていたが、不満(ふまん)そうに声をあげた。
「どういうことだ。脳波(のうは)には何の変化(へんか)もないぞ。故障(こしょう)じゃないのか?」
神崎はしずくの様子(ようす)を窓越(まどご)しに見つめた。しずくは目を閉じているだけで、まるで眠(ねむ)っているようだ。神崎は近くのイスを蹴(け)り飛ばすと、大きく息(いき)をついて言った。
「実験(じっけん)は中止(ちゅうし)する。どうして脳波に変化が出なかったのか、すぐに原因(げんいん)を見つけるんだ」
<つぶやき>装置は故障していたのか? しずくの能力(ちから)が発動(はつどう)したのかもしれませんね。
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