水木涼(みずきりょう)が神崎(かんざき)つくねに近寄(ちかよ)ろうとしたとき、日野(ひの)あまりが彼女の腕(うで)をつかんでささやいた。「ダメ。あの娘(こ)、変だわ。すごく悪意(あくい)を感(かん)じるの…」
それを聞いたハルは、買い物袋(ぶくろ)を離(はな)してアキに駆(か)け寄った。素早(すばや)くアキの腕をつかんでつくねから引き離すと、涼たちの方へ押(お)しやった。面食(めんく)らったつくねは、ハルの首(くび)に腕を回して羽交(はが)い締(じ)めにする。そして、反対(はんたい)の手にはナイフを握(にぎ)りしめていた。
涼は、ハルを助(たす)けようとするアキを引き戻(もど)して叫(さけ)んだ。
「何すんだ! 放(はな)せ! 放さないと――」涼は能力(ちから)を使おうと身構(みがま)えた。
つくねは、ハルにナイフを突(つ)き立てると、「もし少しでも動いたら、この娘(こ)、死(し)ぬわよ。それでもいいの? この娘(こ)はもらっていくわ。利用価値(りようかち)がありそうだからね」
つくねが飛(と)ぼうとしたとき、ハルがつくねの足を踏(ふ)みつけた。締めていた腕が緩(ゆる)むと、ハルはつくねにひじ打(う)ちをくらわせた。すかさず、涼が能力(ちから)を使ってつくねをはじき飛ばした。これで形勢逆転(けいせいぎゃくてん)と思いきや、つくねは実戦(じっせん)に長(た)けているようだ。一瞬(いっしゅん)にして、ハルの背後(はいご)に移動(いどう)して、後ろからハルの腹(はら)にナイフを突き刺(さ)した。
「バカな娘(こ)ね。大人(おとな)しくしてれば死ななくてすんだのに…」
つくねは嘲笑(あざわら)うと、どこかへ姿(すがた)を消(け)してしまった。呆然(ぼうぜん)とする三人――。アキが、倒(たお)れたハルに駆け寄って叫んだ。「お姉(ねえ)ちゃん! ダメよ。あたしが…助けるから…」
<つぶやき>果たしてハルは助かるのでしょうか? 姉妹の運命が動き出したようです。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
その場所(ばしょ)は、異空間(いくうかん)に飛(と)び込んだ場所とは違(ちが)っていた。神崎(かんざき)つくねは通(とお)りへ出ると辺りを見回して呟(つぶや)いた。「ここは、どこなんだ?」
その時、後ろから声をかけられた。振(ふ)り返ると、そこには女の子が二人。しかも、同じ顔(かお)をしている。ハルとアキだ。アキは買い物袋(ぶくろ)をハルに押(お)しつけてつくねに駆(か)け寄ると、
「おねえさん、戻(もど)って来たの? もう、どこ行ってたのよ」
偽(にせ)のつくねは取り繕(つくろ)うように、「ああ、久(ひさ)しぶりね。元気(げんき)だった?」
「そんなの決(き)まってるじゃない。ねえ、しずくちゃんに会いに来たの?」
「ええ…。でもね、どうやって行けばいいのか分からなくて…」
「それなら大丈夫(だいじょうぶ)よ。あたしたちも帰るところだから。連(つ)れてってあげるよ」
アキがつくねの手をとって歩き出すと、ハルが後ろから呼(よ)び止めた。
「ねぇ、アキ。荷物(にもつ)、持ってよ。重(おも)いんだけど…」ハルは買い物袋を両手(りょうて)に持っていた。
アキはからかうように、「それくらい大丈夫でしょ。お姉(ねえ)さんなんだから。がんばって」
「もう、冗談(じょうだん)言わないで。千鶴(ちづる)おばさんに言いつけるからね」
ハルの後ろから声がした。「どうしたんだ?」それは、水木涼(みずきりょう)だ。涼の隣(となり)には日野(ひの)あまりがいた。涼は、アキと一緒(いっしょ)にいるつくねを見てハッとして声を上げた。
「つくね…? どうしたんだよ。まさか…記憶(きおく)が戻ったのか?」
<つぶやき>みんなは欺(だま)されちゃうの? 間者(かんじゃ)にあの場所の秘密(ひみつ)を知られてしまうのか…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
神崎(かんざき)つくねは目を見張(みは)った。彼女の前には、どこまでも続く白くて長い通路(つうろ)が延(の)びていた。照明(しょうめい)がないのに、壁(かべ)や天井(てんじょう)からまるで木漏(こも)れ日のような光りが射(さ)し込んでいる。
つくねは、月島(つきしま)しずくの後(あと)をついて行った。しばらく行くと、突然(とつぜん)、扉(とびら)が現れた。それを開けると、そこは部屋(へや)になっている。白いソファーとテーブルがあるだけで、他には何もなかった。しずくは、「何か飲(の)み物を持ってくるね」と言って別の扉から出て行った。
つくねは、その部屋を調(しら)べてみたが、すぐに何もないことが分かった。
「ここが隠(かく)れ家(が)ってこと? 他(ほか)にも部屋があるのかしら…」
つくねが出て行った扉を見ると、そこにあった扉は消(き)えていた。つくねは不安(ふあん)になった。「もしかして、罠(わな)にかかったのは私の方なの?」
つくねは入ってきた扉を開けた。そこには、さっき歩いて来た通路があった。つくねは通路に出ると、他に扉がないか探(さが)し始めた。もう出口(でぐち)がどこにあるのか分からない。つくねは、いくつも扉を見つけて中を覗(のぞ)いて見たが、どれも最初(さいしょ)に入った部屋とまったく同じだった。同じ場所(ばしょ)をぐるぐると回っているんじゃないかと彼女は思った。
つくねは、通路を駆(か)け回った。突然、眩(まぶ)しい光が目に飛(と)び込んできた。彼女は思わず目を閉じた。次の瞬間(しゅんかん)、彼女は何かにぶつかって倒(たお)れ込んだ。彼女の目の前には、ビルの壁がそびえ立っている。いつの間(ま)にか、元(もと)の世界(せかい)に戻(もど)っていたのだ。
<つぶやき>つくねの正体(しょうたい)を見抜(みぬ)いていたんですね。それにしても、こいつは何者(なにもの)なの?
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
学校の下校(げこう)時間。生徒(せいと)たちは校門(こうもん)を出て家路(いえじ)につく。その中に、月島(つきしま)しずくの姿(すがた)があった。ほとんどの生徒はバス停(てい)や駅(えき)の方へ向かって行くが、しずくはひとり脇道(わきみち)に入った。
しばらく行くと、彼女の後をつけている人影(ひとかげ)が…。それに気づいたのか、しずくは立ち止まり振(ふ)り返った。そこにいたのは、神崎(かんざき)つくねだ。
つくねは、しずくに駆(か)け寄って抱(だ)きつくと、彼女の耳元(みみもと)でささやいた。
「あたし、帰って来たよ。もう、あいつのところへは戻(もど)らないから…」
しずくは、つくねをぎゅっとして、「よかった。思い出してくれたのね」
しずくがいつまでも離(はな)してくれないので、つくねはもがきながら、
「ちょっと…。もう…、いつまで抱きついてるのよ。離してよ。恥(は)ずかしいでしょ」
「いいじゃない。久(ひさ)しぶりなんだから…。つくねから抱きついてきたんでしょ」
つくねは何とかしずくを振り解(ほど)くと、「あのね、いい加減(かげん)にしてよ」
しずくは嬉(うれ)しそうに言った。「じゃあ、これからは一緒(いっしょ)に暮(く)らそう。いいでしょ?」
「そ、それはいいけど…。ねぇ、教えてよ。あたしがいない間に、何があったの? いま、どこに住(す)んでるのよ」
「私の家はね、ここだよ」
しずくが指差(ゆびさ)したところにピンクウサギがあった。しずくはそれを拾(ひろ)い上げると、回りに誰(だれ)もいないのを確認(かくにん)して、つくねの手をつかんで異空間(いくうかん)へ飛(と)び込んだ。
<つぶやき>これは、まずいんじゃないの? だって、この〈つくね〉って偽物(にせもの)だよね。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。
首相官邸(しゅしょうかんてい)で、総理(そうり)を前にして側近(そっきん)の男が何かの報告(ほうこく)をしていた。総理は難(むずか)しい顔で、
「確(たし)か、能力者対策室(のうりょくしゃたいさくしつ)は前任(ぜんにん)の総理が解散(かいさん)させたと聞いているが…」
「それは…表向(おもてむ)きの話しでして、実(じつ)のところ活動(かつどう)は続けているようです」
「そうか…。で、そこの黒岩(くろいわ)という奴(やつ)が何かを企(たくら)んでいると言うのかね」
「まだ調査中(ちょうさちゅう)ですが、ほぼ間違(まちが)いないかと…」
「何をしようというんだ? まさか、この国を乗(の)っ取ろうとしているわけじゃ…」
側近はうなずいて、「おそらく、最終的(さいしゅうてき)にはそういうことに…」
「なら、その黒岩を逮捕(たいほ)したまえ。罪状(ざいじょう)は後で何とでもなるだろ」
「しかし、黒岩の周(まわ)りには能力者(のうりょくしゃ)がいます。下手(へた)に手を出すと、まずいことになるかと」
「警察(けいさつ)がダメなら、特殊部隊(とくしゅぶたい)を動員(どういん)したまえ。相手(あいて)はこの国の敵(てき)なんだぞ」
「総理。能力者には能力者で対応(たいおう)した方がよろしいかと。超能力研究所(ちょうのうりょくけんきゅうしょ)の神崎(かんざき)というのが適任(てきにん)かと思います。彼なら、黒岩を押(お)さえ込むことができるはずです」
「その神崎というのは信用(しんよう)できるのかね? 黒岩とつながっているんじゃないのか」
「神崎は国を裏切(うらぎ)ることはないでしょう。研究資金(しきん)を出すといえば協力(きょうりょく)するはずです。ここは要人(ようじん)の警備(けいび)を万全(ばんぜん)にして、しばらく静観(せいかん)した方が得策(とくさく)かと…」
「分かった。すぐに手配(てはい)したまえ。まったく、能力者など消(け)してしまいたいよ」
<つぶやき>過激(かげき)な発言(はつげん)ですよ。能力者だって人間なんですから。そんなこと言っちゃ…。
Copyright(C)2008- Yumenoya All Rights Reserved.文章等の引用と転載は厳禁です。