『エジプト十字架の秘密』(1932)は『ギリシャ棺の秘密』に続く国名シリーズ第5弾で、文藝春秋の『東西ミステリーベスト100(2012)』海外編の第42位にランクインしている作品です。題名に反してエジプト十字架は扱われる犯罪には一切関係がありません。仮説の1つとしてエジプト十字架またはタウ十字架と呼ばれるT字型の十字架が取り沙汰されはしますが、比較的早い段階でそれが間違っていることが分かります。
あらすじは田舎町のT字路に立つT字型の道標に磔にされたT字型の首なし死体が発見され、その服装と体格から町の小学校校長のアンドルー・ヴァンと分かり、そして彼の家のドアにTの血文字が描かれたという奇怪な事件にエラリイ・クイーンが興味を示し、結局最初の一件だけでは訳が分からず「尻尾を巻いて」ニューヨークに帰還しますが、半年後にまた同様の古代宗殺され方をした敷物輸入業者トマス・ブラッドが見つかり、たまたま近所に滞在していたエラリイのかつての恩師がエラリイを呼び寄せます。そのTに対する執拗なこだわりから、宗教や中部ヨーロッパの迷信等を背景にした狂信者による犯罪かと疑われます。しかしブラッドの共同経営者で海洋旅行家であるスティーブン・メガラがブラッドの死を知って戻ってくると、実はスティーブン・メガラはトマス・ブラッドとアンドルー・ヴァンと血を分けた兄弟で姓をトヴァーといい、ヴァン殺しの容疑者で裸体主義者の教祖のマネージャーをしていたクロサックという人物はトヴァー家と代々怨恨と復讐の関係にあるという。そして名を変えてモンテネグロから渡米したトヴァー兄弟をついに突き止めて復讐を始めたのだとメガラが語ります。そして、ヴァンは実は生きており、殺されたのは彼の使用人であるらしいということで、警察はメガラとヴァンを保護し、クロサックを探しますが一向に見つからず、結局メガラも同様に首なしで彼の船のマストに貼り付けられる羽目に。第4の殺人を防ぐためにヴァンが変装して潜伏しているところへエラリーたちは向かいますが、時すでに遅く、隠れ家の山小屋に首なし死体が張りつけになっていた。しかし、犯人の足跡が追跡可能で飛行機を乗り継いで追跡することに。さて、クロサックの正体は誰なのか?と読者に対する挑戦が突きつけられます。
死体の陰惨さやT字型の磔という奇抜さに惑わされますが、実は推理小説によくある顔なしまたは首なし死体による正体隠しのトリックだったというオチです。そこに至るまでに壮大な遠回りをさせられるところがエンターテイメントなのですが、ドキドキ感は『ギリシャ棺の秘密』の方が高かったように思います。
国名シリーズ
書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ギリシャ棺の秘密』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)
悲劇シリーズ
書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Xの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)
書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Yの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)
書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)
書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ドルリイ・レーン最後の事件~1599年の悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)