徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ローマ帽子の秘密』( ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年05月17日 | 書評ー小説:作者カ行

『ローマ帽子の秘密』(1929)はエラリイ・クイーンの処女作で、地名・国名シリーズの第1弾。舞台はニューヨークのローマ劇場で、上演中に客席でNYきっての悪徳弁護士が殺された事件を追います。タイトルの通り帽子、すなわち夜会服に欠かせないシルクハット🎩が重要な役割を果たします。被害者は殺される直前まで(第2幕開始後ジンジャーエールを届けた売り子の少年の証言)シルクハットを持っていたことが確認されたにもかかわらず、死体のそばにも劇場内にも彼のシルクハットは見つからなかった。このことが意味することは何か?それが事件を解くカギとなります。

エラリイ・クイーンは、この作品ではお父さんのクイーン警視に少々の(しかし決定的な)助言を与えるだけで、前面に出て活躍している印象はありません。最後の謎解き解説もクイーン父がしています。息子自慢をしながら(笑)

「読者への挑戦」が処女作からあったとは知りませんでした。推理に必要な情報は全てすでに提供されていると言われても、私にはさっぱり分かりませんでした。そして、真犯人は私が怪しいとも思ってなかった人だったので、「完敗」ですね。

ハヤカワSF・ミステリebookセレクションのこの本自体について言えば、ちょっと誤植が多いのではないかという印象を受けました。「書類の束」が「書類の東」になっていたり、「投げつけ」が「投げっけ」になっていたり。「クイーンの処女長篇決定版」と銘打った割には、そういう初歩的な品質問題があるのが残念ですね。

また、劇場脇の通路を「横丁」と訳すのもどうかと思いました。「横丁」とは「表通りから横へ入った町筋」のことであり、劇場敷地内の客席や舞台への出入り口があるような通路ではあり得ません。劇場の図面を見る限りでは戸外であるのか戸内であるのか判然とはしないのですが、いずれにせよ商店などのある「町筋」でないことは確かなので、この訳語は誤訳としか言いようがありません。関係者たちの行動を説明するのに何度も出てくるキーワードなのでそのたびに違和感を感じる羽目になり、不快感の混じる読書となりました。

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