徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:エラリイ・クイーン著、大庭忠男訳『九尾の猫』(早川書房)

2019年04月27日 | 書評ー小説:作者カ行

『九尾の猫』(原題:Cat of Many Tails、1949年)は文藝春秋の2012年版『東西ミステリーベスト100』海外編の第78位に入っているニューヨークはマンハッタンを舞台にした推理小説です。

マンハッタンで連続殺人事件が発生し、絞殺に使われた絹紐の他に手がかりは無く、被害者同士の接点や共通点も見つからないため捜査が難航します。正体が全くつかめない殺人犯は「猫」と呼ばれ、誰しもが「猫」のターゲットになり得るという状況にニューヨーク市民は怯えきり、街では野良猫が絞殺される事件が多発、ついにはパニックによる暴動までもが発生します。捜査責任者に任命されたクイーン警視は息子で犯罪研究家のエラリイに協力を要請し、十日間の不思議』での失敗を引きずっているエラリイはなかなか引き受けようしなかったのですが、ニューヨーク市長からも直々に要請されて遂に重い腰を上げます。しかしそれでも捜査は一向に進まず、第7の犠牲者の伯父で、「猫」の正体について独自の理論をもつ精神科医の権威エドワード・カザリスが市長の要請により精神医学的なアプローチで犯人を捜す捜査委員会を立ち上げることになります。それでも調査結果は芳しくなく、ついに第9の犠牲者が出た際に偶然犠牲者たちを結びつける手がかりが見つかります。それでも犯人逮捕は証拠固めが困難なために難航します。現行犯逮捕を目指して第10の犠牲者を予測し、罠を張りますが、それによって逮捕された人は実は真犯人ではなく、結末に至るまでにさらに一ひねりあります。

真犯人とその配偶者が毒で自殺してしまうので、エラリイが「また間に合わなかった」と落ち込むオチですが、彼が真相の確認のために会いに行った老心理学者セリグマン教授の「君は前にも失敗した。今後もするだろう。それが人間の本質であり、役割だ。」という示唆に富んだ言葉が興味深いです。エラリイにそれが通じているかはともかくとして。

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