徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

ドイツ情報、ヨーロッパ旅行記、書評、その他「心にうつりゆくよしなし事」

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『オランダ靴の秘密』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年05月31日 | 書評ー小説:作者カ行

『オランダ靴の秘密』(1931)はエラリイ・クイーンの国名シリーズ第3弾で、舞台はオランダ記念病院。今まさに手術を受けようとしていた患者が手術控室でわずかな時間の間に針金で絞殺されてしまいます。被害者は病院の創設者でもあるアビゲール・ドーンという老婦人。遺産相続を巡り、彼女の厚い庇護を長い間受け続けていた外科医のフランシス・ジャニー博士に嫌疑の目が向けられますが、間もなく彼も病院の自室で同じ針金で絞殺されてしまいます。ドーン夫人と口論が絶えなかったという家政婦のサラ・フラー、ドーン夫人から相続することになる遺産を担保に借金を重ねていた放蕩男の弟ヘンドリック・ドーン、ドーン夫人からジャニー博士を介して研究費を得ていたモリッツ・ナイゼル博士、第一の事件当時のジャニー博士と会談をしていたという謎の男スワンソンなど、それなりの動機を持つ人物や怪しげな人物は複数いて、妙に秘密主義で証言を正直にしない関係者たちによって捜査は難航します。

第一の殺人の時にジャニー博士に変装するために使用されたズックのズボンと靴が病院の電話ボックスで発見され、この靴が謎を解く重要な手掛かりとなるため、タイトルにそれが反映されています。

例によって「読者への挑戦」ページが挿入されているのですが、真犯人は私には全然分かりませんでした。説明されれば納得も行きますけどね。動機は結局のところやはり遺産がらみなのですが、犯人と被害者たちの遺産を巡る関係が全く明らかではなく、2周くらいしないと辿り着けないような秘められた関係性のため、推理するにはその方面からでは無理があります。残された靴が示唆するものと第二の殺人における被害者の状態が組み合わされて初めて解ける謎(もちろん私には解けませんでしたが)。先が見えなかったので、推理小説として十分に楽しめたと思います。

このハヤカワSF・ミステリebookセレクションの版では、残念ながらまたしても誤字(「一目じゅう(←一日中)」や「違い先(←遠い先)」など)があり、その個所で少々イラつきました。また、脱字のせいだと思いますが、不自然な日本語もあり、翻訳本としての質は若干悪いですね。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村


国名シリーズ

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ローマ帽子の秘密』( ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『フランス白粉の秘密』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ギリシャ棺の秘密』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、青田勝訳『エジプト十字架の秘密』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

悲劇シリーズ

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Xの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Yの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ドルリイ・レーン最後の事件~1599年の悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

 

書評:エラリイ・クイーン著、大庭忠男訳『九尾の猫』(早川書房)

書評:エラリイ・クイーン著、青田勝訳『災厄の町』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)