徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『ドルリイ・レーン最後の事件~1599年の悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年01月23日 | 書評ー小説:作者カ行

『悲劇』シリーズというと、この最後の作品のタイトルが合わないので、『ドルリイ・レーン』シリーズと言うべきでしょうか。まあ、原作の副題は『1599年の悲劇』らしいので、『悲劇』シリーズでもいいのでしょうけど。

あらすじ:髭をまだらに染めた異様な風体の男がサムのもとを訪れた。「数百万の価値があるものに至るカギ」だという一通の封筒を預けて男は消えたが、自分の身に何かあった場合はドルリイ・レーンの立会いのもとで封筒を開けて、その価値あるものの探索をするように言い残した。同じ頃ブリタニック博物館でシェイクスピアの稀覯本すり替え事件が起きる。すり替えはどうやら改修中の博物館に特別許可をとって見学に来た教師の集団に混じっていた青い帽子の男によるものらしく、その男を追って警備員ドノヒューが行方を絶つ。彼の友人がサム探偵事務所に彼の行方を追うように依頼する。ドノヒューは元巡査で、サム警視とも顔なじみだった。

後日すり替えにあった稀覯本『情熱的な聖地巡歴』の1599年版ジャガード本は裏表紙に何かを取り出したらしい傷がつけられており、その修理代が添えられて返却された。果たしてその取り出された紙片は何なのか?

この作品には謎の人物が数人登場します。誰と誰が同一人物なのか、そしてその正体は何なのかを突き止める必要があり、かなりややこしい様相を呈しています。 探偵的推理を働かせているのはもっぱらペイシェンス・サムで、ドルリイ・レーンは対立意見の調停や、補足的推理を働かすのみです。

また、『Xの悲劇』、『Yの悲劇』、『Zの悲劇』で探偵として活躍してきたドルリイ・レーンが最終章ではこれまでとは違う正義に身を殉じ、探偵業ばかりでなく自らの人生の幕引きをしてしまいます。これは、探偵シリーズの終わらせ方としてはかなり異色なのではないでしょうか。


書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Xの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Yの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

書評:エラリイ・クイーン著、宇野利泰訳『Zの悲劇』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)