徒然なるままに ~ Mikako Husselのブログ

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書評:エラリイ・クイーン著、青田勝訳『フォックス家の殺人』(ハヤカワSF・ミステリebookセレクション)

2019年08月21日 | 書評ー小説:作者カ行

『フォックス家の殺人』の殺人は、国名シリーズの最初に殺人が起こって、たまたまクイーン親子またはエラリイ一人がそこに居合わせて調査に乗り出すパターンとは違い、過去の事件を捜査する話ですが、そこに至るまでの前置きが長いため、若干イライラしました。

中国で華々しい戦果をあげたてライツヴィルに凱旋したデイヴィー・フォックス大尉は戦争で「神経をやられた」らしく、なぜか最愛の妻リンダを殺したい衝動に駆られ、その衝動と戦うことに苦心していました。その苦しみの根底には12年前父が母を毒殺したという事件があり、自分がその人殺しの血を引いているということが彼の精神を病ませていたのでした。その苦しみを少しでも和らげてあげたいと願ったリンダがお門違いかも知れないが、イチドライツヴィルで事件を解決した(『災厄の街』)ことのあるエラリイ・クイーンに相談しようと思い立ち、2人で彼を訪ねます。デイヴィーの父ベイアードは無実を主張していましたが、あまりにも状況証拠が彼に不利であったためにそのうち本人も諦めてしまい、刑に服していました。エラリイ・クイーンは若い二人のたがいを思い合う気持ちと冤罪であるかも知れないそのわずかな可能性に挑戦を感じて依頼を受け、その依頼を受けて紆余曲折の後に解決するというストーリーです。

エラリイが事件の再調査に乗り出したところから、フォックス家の様々な語られなかった過去が、息子とその妻の未来の幸福のためになるならばという父親心で「真実を語ろう」と決意したベイアードによって次々と明らかになっていき、ドラマチックな盛り上がりを見せます。長い前置きを我慢して読み通すだけの甲斐はありますね。

また、真犯人は公にされてはならない部類ですね。どうやらライツヴィルシリーズというのはそういう人間ドラマを中心に据えるタイプのシリーズのようです。

 

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