先に「東京湾臨海署」の方を読んでから元祖の『東京ベイエリア分署』シリーズに来るのは順番が思いっきり間違っているのですが、事前情報なしにたまたま電子書籍の新刊案内で『捜査組曲』を知って読み始め、それが「東京湾臨海署」シリーズの最新作だったと知り、そのシリーズの何冊か読んだ後に珍しく解説を読んだら、実はずっと壮大なシリーズものだったことが判明したものの、とりあえず読み出していた「東京湾臨海署」シリーズを読破することにしました。
それでようやく元祖シリーズ『東京ベイエリア分署』の第1作、『二重標的』に辿り着いたのですが、面白いですね。安積剛志が若いせいなのか結構アグレッシブな印象を受けます。
若者ばかりが集まるライブハウスで、30代のホステスが殺されたという 殺人事件の通報が入り、女はなぜ場違いと思える場所にいたのか?疑問を感じた安積は、事件を追ううちに同時刻に発生した別の事件との接点を発見します。繋がりを見せた二つの殺人標的を追っていくストーリーですが、警察という組織内の管轄・縄張りを無視するようなことはせず、あくまでもそうした組織の中で可能な最善を尽くす個人個人が丹念に描かれているところが今野敏の警察小説の魅力ですね。捜査そのものも興味深いですが、やはり捜査する人たちのドラマのほうが魅力的だと思います。
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「東京ベイエリア分署」シリーズの第2作『虚構の殺人者』では、背広を着た男の落下シーンから物語が始まります。その男はテレビ局のプロデューサーで7階建ての建物の非常階段から落ちて死亡したしたため、自殺や事故の線もあったものの、首には絞殺痕があり、他殺の線が濃厚になります。三田署に捜査本部が設置され、ベイエリア分署の安積班は助っ人として参加しますが、本庁の捜査一課からも前回対立していた相楽警部補らがやって来て捜査本部内の緊張関係がみごとに描写されます。
捜査が進むうちにテレビ局内の汚い対立関係も徐々に露になってきますが、それとは対照的に須田三郎や安積剛志の実践する「正しいこと」に心が洗われるようです。きれいごとを本気でやるという点に関しては須田の方が格段に上で、安積も上司として呆れているのですが、安積自身もなかなかのもので、「刑事の間で信用をなくす」と忠告する相楽に対して、「刑事同士の信用も大事だが、それよりも正しいことをやるってほうが大切なんでね…」と言い残していくところが印象的です。
交通機動隊の速水との軽妙なやり取りも味わい深いですね。最後に捜査を終えて署に帰還しようとする覆面パトカーを速水がスピード違反で呼び止め、切符を切る代わりに祝杯の酒を(ちょっと)没収するというくだりなど、思わずニヤリとしてしまいます。
安積班のメンバーたちも、ただの脇役なのではなく、それぞれに印象深い個性のある人間として奥行をもって描かれているので、全体の人間ドラマとしての深みがあり、今野敏ならではの警察(活動)小説の魅力が存分に発揮されていますね。
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『硝子の殺人者』は『東京ベイエリア分署』シリーズの最終巻です。東京湾岸で乗用車の中からTV脚本家の絞殺死体が発見され、現場に駆けつけた東京湾臨海署(ベイエリア分署)の刑事たちは、目撃証言から事件の早期解決を確信していたのですが、即刻逮捕された暴力団員は黙秘を続け、被害者との関係に新たな謎が生まれます。結局捜査本部が設置され、安積班がまた助っ人として捜査に参加することになります。前作に続き、この作品も華やかな芸能界の裏側を描いています。芸能プロダクション、暴力団、薬物取引など。
今回も捜査本部で本庁の相楽警部補が登場しますが、不思議なことに微妙に元気がなく、安積警部補に対するライバル意識が影を潜めて、大人しいのが不気味です。でもそれは、相楽が反省したからとかいうものではなく、ちゃんと裏があり、物語の展開における重要な伏線になっているところが面白いです。安積警部補の同期も薬物のエキスパートとして捜査に参加しますが、なかなか悲しい役割です。
この作品でも複数の物語の伏線が複雑に絡み合い、重層的な構成で読み応えがあります。
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