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内田樹『ひとりでは生きられないのも芸のうち』

2009-05-29 16:49:00 | ノンジャンル
 昨日から今日にかけて南伊豆から西伊豆を回って来ました。そのご報告は後日改めてさせていただきます。

 さて、朝日新聞の特集記事「2008年 感動と発見の一冊」で推薦されていた、内田樹さんの'07年作品「ひとりでは生きられないのも芸のうち」を読みました。ブログの文章をリライトしたもので、「あまりに(非)常識的であるがゆえに、これまであまり言われないできたことだけれど、そろそろ誰かが『それ、(非)常識なんですけど』ときっぱり言わねばまずいのではないか」という動機に基づいて書かれた本です。
 まず、他人のこと、公的なものを批判する人ばかりになってしまったので、「『現行の社会秩序を円滑に機能させ、批判を受け止めてこれを改善することが自分の本務である』と考えている人たちをどのように一定数確保する」かが問題となっていて、その根拠としては社会秩序を維持するには5人のうち1人さえそのようなまっとうな人がいてくれればいいということだとして、常識の是非が語られます。また、具体的な常識としては、「『自分が手に入れたいもの』は、それをまず他人に贈与することでしか手に入れることができない。贈与した者に、その贈与品は別のところから別のかたちをとって戻ってくる。自分の所持品を堆蔵する者には誰も何も贈らない。」「人口容量が限界に近づくと、リソースに限りがあるので、『親世代は自らの水準を下げて子どもを増やすか、水準を維持して子どもをあきらめるか、の選択を迫られる。が、すでに一定の豊かさを経験している親世代は、それを落とすことを嫌うから、事前に晩婚や非婚を選んだり、結婚後も避妊や中絶を行って出生数を減らしていく』(「どうする少子化」毎日新聞2006年2月4日)」「家族がいない方が競争上有利であると人々が判断したから家族は解体したのである。逆に、家族がいる方が生き残る上で有利であると判断すれば、みんな争って家族の絆を打ち固めるであろう。」「人間は共同体を分かち合う他者がいて初めて人間になることができる。」「『個人の努力の成果は個人が占有してよい』というのは生存競争がほとんどない時代、リソースの分配競争に負けても餓死することのない安全な時代にだけ適用できる『特別ルール』である。」「他人と違う行動をすることから快楽を得るような生き方にシフトしたほうがいい。」などが語られます。他にも、自然を消費しつくしたヨーロッパ人がアメリカ大陸を発見してそこに原初の自然が残っているのを見い出した時から、狂気のようにその自然を破壊しつくしてきたこと、利益を十分享受していないマイノリティが利益の享受を期待してナショナリズムに走る傾向があること、周囲からの支援と尊敬のうちにいれば、人間はあまり病気にならないということも教えてくれます。
 内田さんの論理は、内田さんが師承と仰いでおられるらしいレヴィナスを通してのフッサールの現象学と、レヴィ=ストロースの構造主義によって立っているので、説得力があります。文体は難解な横文字もありますが総じてとてもユーモラスで、「例えば、『九条』である。あれは、よく考えたら、国際関係における『めちゃモテぷっくり唇』なのである。」のようなおちゃめな文章もあり、笑えます。楽しくためになる本をお探しの方にはオススメです。