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アンソニー・マン監督『西部の人』

2011-02-28 00:01:00 | ノンジャンル
 山田宏一さんが著書『ゴダール、わがアンナ・カリーナ時代』の中で言及していた、アンソニー・マン監督の'58年作品『西部の人』をビデオで見ました。
 町に馬でやってきたリンク(ゲーリー・クーパー)は、自分の町に作る学校のために先生を雇おうと、その町から列車に乗りますが、列車は途中で強盗に襲われ、リンクは町の人々から預かった金をカバンごと奪われた上、酒場の歌手のビリー(ジュリー・ロンドン)といかさま師のサムとともに、列車にも置いていかれます。次の列車が1週間後だと知ったリンクは2人を連れて、昔住んでいた小屋を訪ねると、そこには先ほどの強盗団が待っていました。その首領ドック(リー・J・コッブ)は、リンクの育ての親で、リンクも以前は彼の元で無法の限りを尽くしていたことが明らかになります。ドックの部下の一人コーリーは、ビリーにストリップを強要し、それを止めようとしたリンクをナイフで脅しますが、ドックはコーリーに思い留まらせます。ドックは傷ついた手下を他の手下に殺させて埋葬し、ビリーはリンクに心寄せますが、リンクは自分には家庭があると言います。翌朝にはドックが唯一信頼している部下のクロードが到着しますが、彼は駅でリンクを見た保安官が彼の素状に気付き、ドックらの身元も割れてしまっていることをドックに報告します。ドックは鉱山の金が集まっている町の銀行を襲う計画を実行しようとする一方、クロードはその前に足手纏いになるとしてリンクらを殺そうと主張しますが、未だにリンクのことを信じようとするドックに阻まれます。銀行の様子を見に、リンクとドックの手下一人が先に出発しますが、銀行には年老いた女性が一人いるだけで、彼女は既に鉱山は閉鎖され、町の者は皆去った後だと言います。ドックの手下はその女性を射殺してしまい、リンクはその部下を撃つと、その手下は腹を押さえながら町の果てまで走って行き、息絶えます。そこへやって来たコーリーともう一人の手下をやっつけたリンクは、ドックの待つ場所へ戻ると、ビリーは乱暴された後で、山の上でドックは待ち構えていました。リンクは他の手下は皆死に、ドックも保安官に引き渡すと言うと、ドックは自分を撃てと挑発し、結局リンクに撃たれて山から転がり落ちます。幌馬車で隣に座るリンクに、ビリーはまた歌手の生活に戻っても、彼を思う気持ちはこれからも変わらないと言うのでした。
 暗い情念に取りつかれた話で、決して笑うことのない登場人物たち(唯一の例外はいかさま師のサム)の表情にもそれが徹底して現れていました。ラストの決闘のシーンはまさにアンソニー・マンならではの斜面が登場し、また山田さんが言及しているように、町の果てまで走っていって息たえる手下のシーンも印象的でした。ゴダールも絶賛している映画です。オススメです。

樋口毅宏『民宿雪国』

2011-02-27 07:41:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、樋口毅宏さんの'10年作品『民宿雪国』を読みました。
 「プロローグ」で、国民的画家でありながら民宿の主人として謎に満ちた人生を送った丹生雄武郎が'12年に97才で亡くなり、37册の日記が残されたことが知らされます。
 「一、吉良が来た後」は、雄武郎の死んだ息子・公平の友人として、民宿雪国を訪ねて来た吉良が、詐欺師であることが判り、彼は雄武郎の若い嫁と、たまたまそこに居合わせた警官やヤクザらを射殺しますが、雄武郎の落とし穴にはまり、犯された上に雄武郎によって殺される話。
 「二、ハート・オブ・ダークネス」は、夫のDVに脅かされている響子と第二の人生を送る先の下調べのために民宿雪国を訪れた僕は、夢のお告げで、墓から這い出して来た男から中庭に埋まっている夥しい死体のことを知らされますが、僕を追って来た響子の夫とその情婦から雄武郎は僕を守ってくれ、僕の性同一障害で悩んで来た半生のことも聞いてくれ、励ましてくれたという話。
 「三、私たちが雪国で働いていた頃」は、50年前に半年民宿雪国で働いていた時、阿部定や、原爆で死んだはずの女優、裸の大将らが客として訪ねて来たことを話す、後に買収王となるも、ホテルニューオオタニの火事を起こしたH.Y氏や、やはり一時民宿雪国で働いていた時、雄武郎がヨガで空中浮遊するのを見、また北朝鮮の拉致に協力した後、オーム真理教を創始したC.M氏の話。
 「四、借り物の人生(イミテーション・オブ・ライフ)―丹生雄武郎正伝 矢島博美」は、朝鮮人の使用人と父との間に生まれ、父と兄たちの激しいDVにさらされ、兵役中に妻と母を失い、新潟地震で唯一の息子を失い、18年後には盲目になるも、その絵画を発見されて時代の寵児となり、マスコミからは姿を隠し続け、2012年に97才で亡くなった雄武郎の一生を私・矢島博美が語りますが、実際に調べたところ、東大入学は詐称であり、妻はスリであったのを捕まえて手込めにして結婚し、息子は知的障害児で、インタビューの答えは画商が後で作った、有名人の言葉の引用だらけのものであり、その後、37册の日記が発見されてからは、作品は以前客だった山下清のものの剽窃であり、父と兄二人を招いて復讐のために虐殺し、戦時中は朝鮮の工場長をする一方で、多くの朝鮮人女性を手込めにし、シベリア抑留も嘘だったことが分かります。ただ、唯一心を寄せた女性、朝鮮人慰安婦だったハンシュエへの思いは本物で、彼女と一緒に写真を撮ったことを密告されて軍により独房に入れられ暴力の限りを尽くされ、戦後はハンシュエの行方を聞くために、その時の軍人たちを宿に招いて拷問・殺害し、絵画で手に入れた大金は彼女の調査のために北朝鮮政府に送り続けていたことが分かるのでした。
 何とも陰惨な話で、『さらば雑司ヶ谷』で受けた印象と同じものでした。無駄な文章がなく、基本的に一人称ながらも読みやすいのが救いだったような気もしますし、実在の人物が多数登場するのも楽しめました。陰惨な話が好きな方にはオススメかも。

マキノ雅弘監督『色ごと師春団治』

2011-02-26 06:21:00 | ノンジャンル
 マキノ雅弘監督の'65年作品『色ごと師春団治』を、スカパーの日本映画専門チャンネルで見ました。
 「大正の初め頃」の字幕。料亭に勤めるお玉(南田洋子)が春団治(藤山寛美)から借金を取り立てに楽屋に来ると、春団治が後の噺家のやる噺を先にやってしまったことでスポンサーが激怒しています。師匠は料亭でスポンサーに聞こえるように春団治を殴るマネをして許してやります。その騒動で仕事に穴を開け、興業師に殴られた春団治は、家でお玉に傷の手当てをしてもらっているうちに、彼女とできてしまい、お玉に思いを寄せる車屋の力(長門裕之)はじっと耐えます。正月興行に着るはずの着物をネズミに穴を開けられた春団治は、新年がネズミ年であることを逆手に取って、力の車を赤く塗り「火の車」と言って町中を走らせ、興行を成功させます。しかしその後、昔の奉公先の後家・千代(丘さとみ)に手を出してしまいます。「それから3年」の字幕。千代の元にいりびたり、めったに帰らない春団治を大目に見ていたお玉でしたが、妊娠した娘・トキ(藤純子)が訪ねてきたことで、トキの譲って家を出る決心をします。トキは娘を産みますが、春団治は自分のために大金を貢いで家を追い出された千代の元を離れず、お玉は春団治の名前で、娘のための着物をトキへ力に届けてもらいます。力は捨て子と騙して娘を春団治に抱かせ、トキの元へ運び、トキは千代と別れてくれと言いますが、春団治は承知しません。「6年経って」の字幕。レコード会社とのトラブルに巻き込まれた春団治は、家財を差し押さえられますが、お玉は自分が妾になって作った2千円を届けます。力はガンで亡くなりますが、死の直前にトキと娘に不義理をするなと春団治に言います。春団治はトキの元を訪ねますが、トキは娘に会わそうとせず、追い返します。春団治は深酒をして、泣きます。「それから7年」の字幕。雪積もる中、危篤となった春団治の元に知り合いが続々と駆けつけますが、幽霊の力も人力車で迎えに来ます。既に幽霊になった春団治は、やって来たお玉の手を取り、トキが娘に「一言お父さんと言ってあげて」と言うのを聞くと、力の引く人力車で去っていくのでした。
 いつものように、無駄なショットが一つもない見事なストーリーテラーぶりを発揮してくれていました。ラストの雪のシーンは、加藤泰監督の『喧嘩辰』のラストを思わせる美しさだったことも書いておきたいと思います。女優の美しさも際立つ映画です。オススメです。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/^m-goto)

堀川惠子『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』

2011-02-25 05:02:00 | ノンジャンル
 朝日新聞で紹介されていた、堀川惠子さんの'09年作品『死刑の基準 「永山裁判」が遺したもの』を読みました。永山則夫の生い立ちから裁判の経過を調査したノンフィクションです。
 先ず、無期懲役になった山口県光市母子殺害事件の被告に対し、死刑を熱狂的に求める広島市民の姿を見てショックを受けた著者が、裁判員裁判が始まることも併せて、現在の死刑判決の基準ともなっている永山則夫の裁判の調査をする決心に至った経緯が語られます。そして永山則夫の未調査の遺品が蔵一つ分もあることが明らかにされ、著者がその調査から始めたことが語られます。そして以下では、永山の生い立ち、事件と裁判の経緯が語られていきます。永山の父は博打にうつつを抜かして家に帰らず、多くの子供を抱えた母は、面倒を見ることのできる子供だけを連れて網走から逃げ、永山ら残された4人の幼い兄弟は零下30度の中で一冬を越します。兄から鼻血が出るまで殴られるというDVにさらされていた永山は、学校でも虐めに会い、中学校はほとんど登校せずに過ごします。中卒で上京するも、周囲になじめずに職を転々とし、盗みのために侵入した横須賀基地で偶然拳銃を手に入れると、発作的にホテルの警備員を射殺し、その後数カ月の間に、それが露見されるのを防ぐために3件の殺人を犯します。その後も犯罪を重ねますが、警察に見過ごされた後、ようやく逮捕されます。4人の殺人ということから一審では死刑判決を受けますが、その後、彼の本を読み、自分自身もフィリピン人の父と日本人の母との間に生まれた「あいのこ」として差別を受け、戸籍すらもなかった女性と文通を重ねた結果、結婚し、また犯行に及んだ年齢が少年に限り無く近い19才と3ヶ月ということ、本の印税は被害者の遺族へ送っていること、その悲惨な生い立ちが社会に対する憎しみを生んだことなどを鑑み、2審では無期懲役の判決を勝ち取ります。しかし、最高裁は前例を破って高裁への差し戻しを決定し、その結果、永山の心は荒廃して離婚し、結局死刑が確定して、処刑されます。現在の死刑の基準として言及される「永山基準」というのは、最高裁で示された9つの因子のことを指しますが、そこでは死刑と無期懲役を分ける線引きがなされている訳ではなく、その後の調査や研究でも、被害者が単数なら無期懲役、複数なら死刑というのが原則といった程度の分け方しかされていないのでした。
 裁判によって同じ犯罪でも死刑になったり無期懲役になったりというのが現状であり、以前より死刑に対する慎重さが裁判に欠けてきている印象を強く持ちました。フランスでもイギリスでも世論の強い反対にもかかわらず、議会が死刑を廃止してきている歴史を考えれば、日本でも今死刑を廃止することは可能であると思います。償いや反省をさせないままに加害者を殺してしまう死刑の虚しさには、私も深く共感しました。死刑の存続に賛成する方には特に読んでほしい本です。

増村保造監督『現代インチキ物語 騙し屋』

2011-02-24 08:55:00 | ノンジャンル
 増村保造監督の'64年作品『現代インチキ物語 騙し屋』を、スカパーの日本映画専門チャンネルで見ました。
 人だかりの中、チョコ松扮する沖縄から来た学生が有り金すべてスラれたと泣いていると、赤トンボ(伊藤雄之介)扮する人足が彼の万年筆を買う人を募り、2千円で売れます。そこでスリを見つけたフグ(船越英二)は、刑事に扮したカマキリ(曽我廼屋明蝶)と共謀してスリの被害者から金をもらいます。4人は次に競馬場に行くと、金持ちに目をつけて馬券情報を与え、勝った者から報奨金をもらうのはもちろん、負けた者からも自分が全財産を失ったと言って金を恵んでもらいます。葬儀の香典返しも沢山手に入れた後、赤トンボの妻(園佳也子)が営む飲屋「ひょうたん」に帰ると、税務署の役人が取り立てに来ていますが、赤トンボはやくざの借金取りに扮して役人を撃退します。赤トンボから今日の稼ぎを聞いた妻は彼と熱烈なキスを交わし、そこへ若者のキュウリ(犬塚弘)が仲間に入りたいと言ってきますが、お前は真っ当な仕事につけとカマキリが追い返します。ひょうたんの客を装って出前をし、出前がやって来ると誰かのイタズラだと騙して、安く出前を手に入れる5人。翌日には民生委員を装って古雑誌を大量に手に入れ、写真を切り抜いて路上でヌード写真を騙して売り、ばれると客の前でフグに制裁を加えた後、居直るカマキリ。その日の稼ぎの3万円を、今度は骨董屋(上田吉二郎)に手付けの倍返しをさせて、6万円に増やします。次の日はカメラ屋からカメラを借り、学生と浮気している妾には赤トンボの探偵社、学生にはフグが妾を囲っている社長に扮して、金を騙し取ります。大学入試にも出かけ、赤トンボ扮する採点係の教授とフグ扮するその助手、カマキリ扮する教授の兄、赤トンボの妻扮する4浪の受験生の姉が芝居を打ち、受験生の父兄から名刺を集めます。後日合格者の自宅を訪れ、謝礼をもらうカマキリ。埋蔵金が発見され、それの所有権を主張する資産家の元へは、フグ扮する記者、赤トンボ扮する埋蔵金を埋めたと主張する傷痍軍人とカマキリ扮する元中尉が駆けつけ、傷痍軍人への寄付を巻き上げます。その夜、カマキリと赤トンボが鍋をつつきながら、自分たちの軍人時代を振り返っていると、自衛隊に入隊したというキュウリが訪ねて来て、祝福した4人から祝儀をもらいます。が、そこへ衣装を貸した業者がやって来て、彼らはキュウリに騙されたことが分かり、キュウリは晴れて彼らの仲間になることができます。翌日、彼らが高台から栄える大阪の町を見下ろす中、カマキリは「太閤さんのように、天下取ったる」と言うのでした。
 アップや俯瞰など、枠に縛られず適格なショットが使われている一方、役者もキャラクターを思い切って誇張して演じていました。特にこれほどコミカルな船越英二を見たのは初めてでした。同じく人を騙すテーマの映画としても『スティング』の100倍は面白い映画です。オススメです。