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三崎亜記『戦争体験館』

2015-11-30 09:17:00 | ノンジャンル
 『小説宝石』’05年8月号に初出され、‘06年6月に刊行されたアンソロジー『短篇ベストコレクション 現代の小説2006』に所収された、三崎亜記さんの『戦争体験館』を読みました。
 「シリーズでお送りしております『万博一番のり』。今日のリポートは、人気のパビリオン『戦争体験館』から」「突撃リポーターは、佐川さんです」「……はぁ~い! 私は今、今回の万博の目玉の一つ、『戦争体験館』の前にいます。見てください! こちらでは、『戦争』を手軽に体験できるとあって、家族連れやカップルの姿が多く見られます」「佐川さん、今回のパビリオンは、今まで私たちが経験した仮想戦域とは一味違うと聞きましたけど、そこが人気の秘密なんですか?」「そうなんです! この『戦争体験館』。人気の秘密は、何と言ってもその技術力の高さにあります。わが国の誇る軍需産業が総力を結集して創り上げたあちらのドーム内には、最新鋭の武器がそろえられています。そこに、最新の映像技術や音響設備が備わり、今までの仮想戦域とは比べ物にならないほど圧倒的にリアルな戦場が再現されているんです。しかも“あの戦争”でわが国を勝利に導いた日下部将軍をチーフアドバイザーとしてお招きして、『10.20東方市街戦』でのコーラル・シティの戦場を忠実に再現。リアルなのも納得ですよね。ところでこのパビリオン、今までの仮想戦域と大きく違う点が二つあるんです。一つは、戦う相手は、なんと! 本物の人間なんです。これってすごいでしょう? 国防総省からの働きかけによって、今回の万博期間内だけの、特別の規制緩和によって実現したんですねぇ。もう一つの違いは、敵から撃たれたら私たちも『痛み』を感じるという点なんです。これによって、仮想戦域には無かった緊迫感の中で戦争を体験することが出来るんです。『痛みを感じる』と聞いて不安になった方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。ご安心ください。入場の際に体内にマイクロチップから自動的に健康状態が読み込まれ、それぞれの体調に応じた『戦争の痛み』を調整してくれるんです。こんな技術が実現しちゃうと、国防放送で総統がいつも言われる、戦争によって私たちの生活がますます便利になっていくっていう話、実感できますよねえ。そんなわけで、お子様からご老人まで安心して楽しめる体験型のアドベンチャー空間ともなっているわけなんです……。さあ、入場口までやってまいりました」「佐川さん。今日は迷彩服を着てやる気満々みたいですけど、実際に戦ってみるんですか?」「はい。私も突撃レポーターの名に恥じぬよう、実際に体験してみたいと思います。ここで……こうして首のマイクロチップをリーダーにかざします。そうすると私の感じる『痛み』の調整値が……あ、表示されました。『0.1』、つまり私がもし敵に撃たれたりした場合の『戦争の痛み』は十分の一に軽減されるわけです。さらに歩いていきますと……」「佐川さん。皆さんが入っていくその部屋は何ですか?」「はい、この部屋で皆さん戦闘服に着替えてから戦争に向かうわけなんです。さあ、ドクロのマークが物々しいこちらの部屋で……ごらんください! ずらりと並んだこの銃器の数々。何と四十一種、千三百四十丁の銃器から、お好きなものを選ぶことが出来るんです。そして……これ! なんだかわかりますよね? そう、手榴弾です。なんと、この手榴弾、すべてのお客様にサービスで二個ずつ配られてるんです。さて、武器を装着して、ゴーグルをつけて準備完了です。いよいよ戦場に向かいます」「佐川さん! 気をつけて行ってくださいね」「はぁい! いよいよこの扉を開くと、戦場です。うわ-------! いっきなりの別世界! まさに戦場の風景が広がっています。あっ! 敵の姿が見えますねえ。今からいよいよ戦争の開始です」「戦争ヲ ハジメテクダサイ」「………きゃ------っ! すっっごい! いっきなりすごい攻撃です! なにしろ、敵兵は“あの戦争”で捕まった本物の捕虜の皆さんなんです。捕虜の皆さんは、ほとんどが『永久拘束』の対象なんですが、このパビリオンで一日生き延びれば捕虜から解放されるとあって、真剣そのもの。とは言え、いつまでも隠れているわけにもいきません。反撃しましょう。弾幕の合間を見計らって……それっ!……さすがに……捕虜の皆さん、たあっ!……現役兵士の身のこなしです。当たりません。それにしても……きゃっ!……うぐっ!……い、痛い……」……。

 この後もかなりブラックな展開で楽しませてくれるのですが、三崎さんには珍しい、会話だけで成り立っている作品でした。なお、これ以降のあらすじに関しましては、私のサイト「Nature Life」(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)の「Favorite Novels」の「三崎亜記」のところにアップしておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。

 →Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/

トビー・フーパー監督『悪魔のいけにえ』(公開40周年記念版・吹替版)その2

2015-11-29 10:01:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 「あいつが来たら、守ってあげる。心配しすぎ」とサリー。「お前が住んでるところを教えた」とジェリー。「ナイフがない」とフランクリン。「探すわよ」とサリー。「明るいうちにカークらを探しに行く」と出発するジェリー。「ナイフは見つからない」とサリー。「俺のこと、怒ってる? 無理もないよな」とフランクリン。
 「カーク!」と叫ぶジェリー。
 「俺なんか連れて来たくなかったよな」とフランクリン。「疲れてるだけ」とサリー。「不吉って本当かな? 追いかけて来ないよな?」。
 「カーク!」。夕陽。発電機の音。「すみません」。ノック。「友だちを探してるんです。誰かいます?」。ベランダにカークの上着。「中にいるのか? 冗談はよせ。遊びは終わりだ」。部屋に入ると、箱からノック。ジェリーが箱を開けると、死後硬直のパムが飛び出してくる。大男が現れ、ハンマーでジェリーを一撃。面の下から息を荒げる大男は、しゃがんで考え込む。
 満月と雲。ライトをつけてクラクション。「道に迷ってるんだな」「探しに行くしかないわ」「ジェリー! きっと戻ってくる。一人で行くことない」「懐中電灯を貸して」「キーがない。ジェリーが持って行ったんだ」「じゃあいいわ。懐中電灯なくていい」「俺も行く」「車椅子を押して丘を降りるなんて無理」「一緒に行こう。待って」。
 「ジェリー!」「ジェリー!」。サリーは車椅子を押す。「何か音がした」「明かりが見えるわ。家みたい」「音がしたぞ」。チェーンソーを持った大男が現れ、フランクリンに何度も突き立てる。フランクリンの絶叫。サリー逃げる。大男追う。サリーの悲鳴。「誰か助けて!」。サリー、家に逃げ込む。大男、ドアをチェーンソーで切る。2階に行ったサリーは、ミイラ化した女性と、しなびた老人を発見し、悲鳴。1階に降りようとするが、大男と鉢合わせし、また2階に向かい、窓から下に落ちる。ガソリンスタンドに逃げ込むサリー。「もう大丈夫」と店員。「あいつが殺した」とサリー。「もう表には誰もいない」「早く警察を」「ここには電話はない。車を出してくる」。ラジオから流れるカントリー。焼かれるソーセージ。扉に現れるトラック。店員、手に縄と袋。驚くサリー。「何もしない」。店員、包丁を持ったサリーを箒で叩き、失神させる。サリーを縛り、猿ぐつわさせ、袋を被せ、トラックに乗せる。「明かりを消して、戸締りもしてきたよ。それで破産した奴もいる」と上機嫌の店員は、サリーを棒でつつく。サリーの悲鳴。「楽にしてりゃいい。もうじき全部終わる」と笑う店員。
 ウサギを手に持つヒッチハイカー。「嘘だろ? あのバカ。くそったれ。こっち来い。どこをうろついてた? あの墓場に近づくなと言ったろ?」と店員、トラックを進める。「待って!」と荷台に乗るヒッチハイカー。
 家に着く。「弟を一人にするんじゃないって言ったろ。女を降ろせ。見ろ。バカたれが。他のガキどもはどこだ? さあ、おとなしくして」ヒッチハイカー、サリーを見て、「何だ。急いでるんじゃなかったのか?」「逃げた奴は? (大男に向かい)お前はアホだ。ドアを壊しやがって」ヒッチハイカー「でかした。いい女だ」店員「じい様を連れて来い。そんなに騒ぐな。今夕飯を作ってやる。お嬢さん、気を楽にして」ヒッチハイカー、大男に「じい様を降ろすのを手伝ってくれ」。2人で祖父を降ろす。「ほら、見て、じい様」。サリーは指を切られ、老人に血を吸われる。サリー、失神。
 満月。サリー、目を覚ます。骨越しに老人。サリー、悲鳴。3人もマネして叫ぶ。店員「黙れ! 犬みてえな奴だ」「お願い。助けて」店員「もうあきらめろ」ヒッチハイカー「お雨はただの料理人だ。仕事は俺とレザーフェイスでやる。あんたが腰抜けだってことは分かってる」「何でもするから助けて」。サリー、泣き叫び、目を見開く。ヒッチハイカー、サリーをからかう。店員笑う。サリーの目のどアップ。店員「そんなにいたぶらなくたって。早くしてやれって」「あんたの指図は受けねえ。じい様を喜ばしてやろう。最高の腕だ。やらせてやるよ。あの娘っこを」「ちっとも痛くねえ。5分で60頭を殺したんだ。もう泣くんじゃない」「いや、やめて。お願い、助けて」。老人、手に握らされた金づちを落とす。「じいさん、殴れ。殴り殺せ」。サリーの頭をたらいの上に。「こいつを殺せ。やれ、やれ」。サリーの頭に金づち。サリー、出血。「いいぞ、じいさん。ほら、殴れ。俺が殺す」。サリー、窓を破って逃げ出す。外は朝。ヒッチハイカーとチェーンソーを手にした大男、追う。ヒッチハイカーはサリーに追いつき、ナイフでサリーを切るが、やって来たトレーラーに轢かれる。サリー、停まったトレーラーの運転席に。運転手は大男にレンチを投げつける。倒れた大男の足をチェーンソーが傷つける。逃げ出すサリーと運転手。追う大男。またやって来たトラックの荷台にサリーは乗り、トラックとともに去る。血まみれで笑うサリー。大男はチェーンソーを振り回し、暗転。

 まがまがしい画面のオンパレードでした。

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トビー・フーパー監督『悪魔のいけにえ』(公開40周年記念版・吹替版)その1

2015-11-28 07:06:00 | ノンジャンル
 YouTubeで、トビー・フーパー監督・共同原作・共同脚本・共同音楽の’74年作品『悪魔のいけにえ』(公開40周年記念版・吹替版)を見ました。
 「これから皆さんがご覧になる映画は、サリー・ハーデスティーと体の不自由な兄フランクリンを始めとする5人の若者たちに起きた悲劇の物語です。彼らが若かっただけに、事件は一層悲惨だったと言えます。しかしたとえ彼らが長く生き延びたとしても、この日に遭遇した狂気と衝撃を超える経験には出くわさなかったことでしょう。牧歌的な夏の午後のドライブは悪夢と化しました。この日起きた出来事がきっかけとなり、アメリカ史上稀に見る異様な犯罪、テキサスチェーンソー大虐殺事件が発覚したのです」の字幕とナレーション。
 「1973年8月18日」の字幕。土を掘る音。白骨化した死体をストロボを焚いて映す画面。ラジオのニュースでは、テキサスでの墓荒らしが報じられている。墓の上に作られた死体によるアート作品。太陽のコロナをバックにタイトルクレジット。異様な電子音の音楽。
 黄色い太陽。アルマジロの死体。その向こうにバンが停まる。車椅子のフランクリンは外に出て、尿瓶に小便をしようとするが、通りかかったトレーラーの風圧で車椅子が押され、坂を転げ落ち、フランクリンは地面に叩きつけられる。
 再び発進するバン。星占いの本を読むパムは、不吉な占いをする。
墓地に到着すると、人だかり。フランクリンは祖父の墓を保安官とともに探す。酔っ払いは「俺には何でも見える」とつぶやく。
走る車中で「墓は荒らされていなかった」とフランクリン。若者5人は異様な臭いに気付くが、フランクリンは「食肉処理場の臭いだ」と言い、牛の殺し方について話し出す。暑さを訴えるフランクリン。やがて彼らはヒッチハイカーを拾う。顔に大きな赤いアザがある若者は、挙動不審で、「食肉処理場にいた。兄ちゃんも、じい様も。やっぱりハンマーで殺すのがいい。後が楽。銃のせいで仕事がなくなった」と言い、屠畜の写真を見せる。「頭で肉ゼリーを作る。肉は全部使う。捨てるところなんてない」と言い、フランクリンのナイフを奪うと、自分の手のひらを切る。驚く若者たち。ヒッチハイカーは発作的に笑い、ブーツからナイフを取り出すと、「これは俺のナイフ。よく切れる」と言って、ポラロイドカメラでフランクリンを写し、「家まで送ってくれ。すぐ近くだ。晩飯をご馳走する」と言う。「先を急ぐ」と言う若者たちにポラロイド写真を見せ、「金を払ってくれ。2ドルだ」と言うと、若者たちは「いらない」と答える。ヒッチハイカーは写真をアルミ箔に乗せ、火薬をふりかけて炎を出して燃やし、フランクリンの腕を切りつける。降ろされたヒッチハイカーは自分の血でバンの側面に何かを描き、バンは去る。サリーの運勢を占いで見たパムは「最悪。現実とは思えないひどい出来事がある」と言う。
ひどく額が出た男。ガソリンスタンド。店員はガソリンはなく、ガソリン輸送車は夕方か明朝にならないと来ないと言う。フランクリンは自分の父の家の所在を尋ねると、店員は「行かない方がいい。古い屋敷は特に。人の土地を荒らされるのを嫌がる人がいる。休んでいけ」と答える。バンの側面を見て、「これ、あいつの血じゃ? 自分を傷つけるなんて、よっぽどのことだよな」とフランクリン。食い物を調達したと男の若者。
車の中で雑談。「あいつ、脅そうとした?」。
古い館の前で停まるバン。「血、気持ち悪いな。追いかけて来ないよな」とフランクリン。館に入った若者たちは、その廃墟ぶりにはしゃぐ。2階にいた蜘蛛の群れ。車椅子で一人残されたフランクリンは、笑い声を聞きながら、「これ以上楽しけりゃ、いかれちまう」と叫ぶ。「近くに小川がある」とフランクリンから聞いたカークとパムは、泳ぎにそこへ向かう。「小一時間で戻ってくる」とカーク。骨を見つけて、「サリー!」と叫ぶフランクリン。
「どうしようもない奴だ。すぐに大騒ぎする」とカーク。川が枯れているのを見つけるカークら。エンジンの音。「ガソリンがある」とカーク。木にぶら下げられた食器や時計。「来てみろ。これを見てみろ」とカーク。網の下に多くの車。「自家発電機だ。誰かいませんか?」とカーク。屋敷にノック。歯を見つけ、パムにあげてからかうカーク。扉が開き、「こんにちは。ご免下さい」とカーク。奥から叫び声。カークが奥に向かうと、人の皮膚で作った面を被った大男が現れ、カークの脳天にハンマーを一撃。痙攣するカークを奥に引き入れ、ステンレスの扉をガシャンと閉じる。「カーク? どこ?」と部屋に入ってきたパムは転ぶと、床に羽が敷き詰められている。籠の中には鶏。部屋中にある骨のアートをカメラはめぐる。むせるパム。逃げ出そうとして大男に捕まったパムは、肉串に吊り下げられ、悲鳴を上げる。大男はその目の前でチェーンソーを起動させ、横たわるカークに何度も突き立てる。(明日へ続きます……)

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三崎亜記『確認済飛行物体』

2015-11-27 06:43:00 | ノンジャンル
 『小説すばる』’09年11月号に初出され、’10年7月に刊行されたアンソロジー『年刊日本SF傑作選 量子回廊』に収録された、三崎亜記さんの『確認済飛行物体』を読みました。
 未確認飛行物体が、政府の手によって「確認」されてから一年近くが経つ。それ以来、「未確認」改め「確認済」となった飛行物体は、以前にも増して頻繁に我々の前に姿を現すようになった。昼休み、外での食事を終えて会社に戻る道すがらも、「彼ら」は空で光を放っていた。ポケットの携帯電話が振動する。相手を確認しようとしておかしなことに気付く。画面には、不自然な記号が並ぶばかりだった。「私です。聞こえますか?」混線したような奇妙な音に混じって、彼女の声が聞こえてくる。「なんだか、声が聞こえづらいね」「やっぱりそう? 飛んでるからじゃないかなぁ」どうやら、彼女のいる場所からもあの光は見えているようだ。そういえば、彼女と出逢ったのは、ちょうど飛行物体が飛来してきた頃だった。
 駅前の広場には、白装束のスピリチュアル系の団体が陣取り、往来の人々に向けてアピールを続けていた。「政府は、飛行物体の正体を国民の前に明らかにせよ!」「政府は、飛行物体から託された、この星の存亡に関わるメッセージを隠蔽するな!」飛行物体は、政府により「確認」された。だが、どんな形で「確認」がなされたのかが、国民の前に明らかにされることはなかった。「お待たせ!」不意に、彼女が目の前に現れた。そう、いつだって彼女は突然に出現する。彼女は神出鬼没で気まぐれ、そして奔放だ。会う度に印象が違うし、少し一般的な常識から外れた部分もある。まあ要するに、多分に幼さを残したまま大人になってしまった女性だった。
 ホテルの最上階のレストランに向かう。今夜の彼女のご指名の場所だった。夕陽が沈む間際の特等席に案内された。私たちが座るのを待ち構えていたように、飛行物体は一段と激しく動きだす。「今まで秘密にしていたんだけど、私は、あれに乗って、この星にやって来たんだ」彼女の細い指は、窓の外に向けられていた。その先には飛行物体しかなかった。「証拠を見せようか?」そう言って、何かを念じるような仕草をした後、窓の外に向けて指を動かす。飛行物体は、彼女の指先の動きに合わせるように動いた。「君が過去にどんな男性と付き合っていようが、殺人を犯していようが、もしかして、この星の人間ではなかろうが、僕にとってたいした問題じゃないよ。そんなことは、僕が君を好きになる上での、何の障害にもならない」「だけど、私はもうすぐいなくなっちゃうかもしれないよ」「どうして?」「もうすぐ、私たちの仕事も終わるから」「仕事って?」「この星の人々が、私たちの存在を『確認』したように、私たちも、あなたたちのことを『確認』していたの。もうすぐその結論が出るんだ」その「結論」が、悲しいものであったかのように、彼女は憂いを帯びた表情を見せる。「それじゃあ、その任務が終わっても、君だけはこの星に残ってくれることを、信じているよ」「こんな出逢い方じゃなかったら、もっと別の運命が開けていたかもしれないね」「運命はきっと、どんな道を辿ったとしても、君と僕を結びつけたはずだよ」セリフの効果を確かめるべく、テーブルに視線を戻す。彼女は姿を消していた。------やれやれ。まったく、彼女の心は測りがたい。
 飛行物体が、編隊を組んで空の彼方へ遠ざかろうとしている。「もう、通常の思考に戻しても結構ですよ」ウエイターに扮した政府の職員が傍らに立ち、去りゆく光に厳しい眼差しを注いでいた。「彼らの『確認』も、終了した模様です」「共に戦うには値しない星だという結論に、至ってくれたでしょうか?」「大丈夫です」「彼ら」の到来については、早い段階から「確認」できていた。そして彼らが、この星の住民の意識レベルを調査すべく、複数の「サンプル」と接触するであろうことも。私は、その「サンプル」の一人として選ばれたのだ。駅前での呼びかけも、我々の「無関心」を際立たせるために政府によって委託された団体によるパフォーマンスだった。「長期間にわたる演技、お疲れ様でした」「いえ……」「特にあなたの場合、恋人として接触してきたわけですから、ご心労も多かったことと思います」「え? ああ、そうですね」そう言われればかすかに胸が痛む。もう「彼女」には二度と逢うことはないのだから。だが同時にわかっていた。数日もすれば、彼女のことなど記憶の片隅に完全に押しやられてしまうだろうことが。まあそれも当然のことだ。私とて、日々を忙しく生きている身だ。一つのことにいつまでも拘泥している暇などない。我々は、この星のごたごただけで手いっぱいなのだ。全宇宙の生命体を二分しての戦いなど、我々の知ったことでない。

 2段落ちの短篇で、楽しく読ませていただきました。

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ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督『複製された男』その2

2015-11-26 07:07:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。
 バイクでアランの車を追い越すアンソニー。路肩に停車するアラン。
 ヘレンにアンソニー「心配するな。もう電話してこない」。
 シャワーを浴びるアンソニー。寝つかれないヘレン。まんじりともしないアンソニー。
 アダムは妻と一緒に家を出る。アンソニーはヘルメット姿でそれを監視し、妻の方を追う。路面電車の中でアランの妻の足を見てニヤリとするアンソニー。ネット喫茶に入った妻を外から監視するアンソニー。
 アラン「何か違いがあるはずだ」アランの母「知らない人とホテルで会うなんて。彼女が誤解するわ。この話は聞かなかったとこにする」「助言ぐらいくれたって」「大事な一人息子を三流役者と一緒にするなんて。もう二度と聞きたくない」。
 悩むアラン。そっくりな傷。アンソニー、鏡に向かって、「妻と寝たのか? 寝たんだな? よし、最高の演技だ。お前の服と車を貸せ。お前の妻を喜ばせてやる。そうしたら服と車を返し、永遠にお前の前から消える」。
 アラン「何の用だ?」アンソニー「ここに住んでるのか?」「警察を呼ぶぞ」「何を話す? なぜ俺を探した?」「ただ知りたくて」「女房と話したな? なぜ?」「電話に出た」「ずばり聞く。女房と寝たか?」「何の話だ?」「妻と寝たのか? 寝たんだな? お前の服と車を貸せ。お前の妻を喜ばせてやる。そうしたら服と車を返し、永遠にお前の前から消える。これでお相子だ」。
 鏡に向かって服を着たアンソニーは部屋を出ていく。アランはソファで固まる。
 助手席にアランの妻を乗せているアンソニー。
 アラン、アンソニーの家へ。玄関で電話をしていると、警備員「クレアさん、何かお困りでも?」「鍵を忘れた」「開けましょうか?」「助かる」「先日の晩は楽しめました? 私は忘れられない晩になりました。また楽しみたいです。新しい鍵を配ったらしいですが、私はまだもらってません。またあの部屋に是非」「何とかしよう」。部屋に入ったアラン。「誰か?」。洋服ダンスで拳銃を探し出し、アンソニーの服に着替える。ヘレンとアンソニーが映っている写真を見て、考え込むアラン。ヘレンが帰宅し、「お母さんのところに行くって言ってたんじゃないの?」「気が変わった」「事前に知らせて。プールに長居しちゃったわ」「何か欲しくない?」「いいわ。少し休むわね」。
 アンソニーとアランの妻は自宅へ。アンソニー、アランの妻を背後から抱く。
 アラン「本当に何も欲しくない?」「ええ、ベッドに来て。(アラン、ベッドに入ろうとする)服を脱がないの?」。アラン、服を脱ぎ、横たわる。じっと見ていたヘレンは、やがてアランの肩に手を触れ、腕の中に。「今日の学校は?」「何だって?」「何でもない」。
 アンソニーとアランの妻、激しくセックス。突如、アランの妻、身を引く。「メアリー、何だよ?」「指輪の跡があるわ」「前からだ」「違うわ。なかった。あなた誰? 触らないで」。
 メアリー、家を出る。アンソニー、追いかける。
 アラン、考え込む。
 アンソニー、助手席にメアリーを乗せて運転。
 「どうしたの? 話して」「眠れないんだ」「私もよ」「悪かった」。
 メアリー「なぜこんなことを?」「こんなことって?」。
 ヘレン「今夜はここにいて」。
 メアリー「車を停めて!」
 キスするアランとヘレン。
 アンソニー「バカ女! 早く降りろ!」。車、壁に正面衝突し、横転し、大破。
 ビル群を俯瞰。自動車事故のニュース。ダイヤル回し、ラジオの音楽番組。シャワーの音。ヘレンが浴びてる。アランはアンソニーのジャケットを着て、鏡を見る。ポケットからは“親展”と書かれた封筒。中からは紙に包まれた鍵が。「お母さんから電話があったわ。折り返し電話しておいてね」とヘレン。「今夜の予定は? もう出かけるよ」とアラン。「ヘレン?」と彼女の部屋に行くと、そこには巨大な蜘蛛がいる。

 画面構成や編集で見せる映画でなく、ストーリーと演出で見せる映画でした。繰り返し現れる鏡も特徴的でした。

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