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豊島ミホ『エバーグリーン』

2007-04-30 16:21:32 | ノンジャンル
 今日紹介する豊島ミホ作品は、第8作目の「エバーグリーン」です。以下、あらすじですが、語り手がシンと綾子で交互に交代していますので、注意してお読みください。
 10月。俺・宮本シンはあぜ道を自転車で走りながら、ミュージシャンになることを夢に空を見て歌を歌う。学祭でバンドを組むはずだったメンバーに去られた俺に松田綾子は「通学路で歌ってたんだから、一人でやれば。もったいないよ。」と言ってくれる。1週間後、俺は一人で学祭のステージに立った。何より嬉しかったのは、一番最初に拍手してくれたのが松田だったことだった。
 私・松田綾子はシン君を好きになった時から、そのことは秘密にしようと思った。教室のスミで一人で何かやっているような生徒だからだ。たまたま一緒に帰る時もあって、たくさんの話をし、私は奥田民生とブルーハーツとスピッツを知った。卒業式の後「ばいばい」と言って私を追いこして行くシン君は地元の高校に行く。「アヤ、追っかければ?」と友人に言われ、全力疾走し「シンくーん!」と大声で叫ぶ。止まってくれたシン君に「ごめん、ごめん」と独り言のようにつぶやくと「何が『ごめん』なの」とシン君に言われ、私はたまらなくなってぽろぽろと泣き出してしまう。でも何か言っときたくて「マンガ、十年後に見せる」と言うと、シン君は「じゃあ、十年後、3月14日、ここで10時。君はマンガ家、俺は超有名ミュージシャンになって会おう。アヤコに捧げる歌も歌う」と言い、約束して別れる。
 十年後の約束まで、あと2ヶ月だ。俺は25才になっていた。高校時代、ミュージシャンになりたい気持ちは弱まっていった。俺はリネンの会社でシーツ類の運送の仕事に就いた。十年後の約束は単なる思い出になっていた。
 徹夜明けの私は、アシスタント2人と共に、24ページのマンガを仕上げている。私の中で十年後の約束は色あせていない。
 俺は彼女の奈月に連れていかれた本屋で、綾子のような気がするアヤという漫画家が描いたマンガを奈月が買う。
 私に編集者は、マンガの主人公たちがそろそろ肉体関係になっていいのでは、と要求する。前からの頼みなので、私は「考えます」と承知してしまう。
 マンガ家のアヤはやはりアヤコだった。雑誌にインタビュー記事が載っていたのだ。アヤコの中の「シン君」像が昔のままだったら、と考えると恐ろしい。俺はこの田舎町で埋もれるほどみじめではない、と思いながら押し入れの中のギターを取り出した。
 私はひょんなことで知り合ったスーパーの店員に優しい言葉をかけてもらうと、私は大声で泣き出してしまう。
 俺が初めてギターを弾いたのは小6の時だった。不良の兄に呼ばれ、不良仲間に囲まれて、コードを教わり、いきなり演奏させられたのだが、そのうまさに皆驚いた。
 私はマンガの続きが描けない。ここで物語を終わりにしたくなる。家に帰って、編集者に送ったマンガは最終回ではなかった。
 俺はブルーハーツの曲を聞きながら仕事をするようになる。ギターの練習も始めた。奈月から借りてたマンガを思い出すが、最初のページの緑色の自転車とあぜ道を見ると、読むのがはばかられた。
 私は以前と違い、今のシン君が何をしているのか知りたくなる。マンガのアシスタントに締めきりを2日繰り上げるようお願いし、ネームを渡すと、二人は「これだと2人がやっちゃう流れですよね。このマンガではそういうのなしだと思ってました。」と言う。私が口ごもるのを見て、二人は何か事情があるな、と察したようだ。
 俺はまだ歌が作れない。今の正直な俺を見てもらおうと決心する。
 二人が結ばれる内容のマンガの原稿を編集者に渡し、このマンガは終わりにしたい、と伝える。私は13日、14日の新幹線の切符を買う。
 十年前の場所でシン君と会い、私は泣いた。彼は笑って「すげー、十年だよ」と言う。そして「俺、ミュージシャン向かなかったみたいだよ」と言う。彼氏のこと、彼女のこと、仕事のことを話し、彼は「一生この町で埋もれて暮らすよ」と宣言する。私は「シン君は『すげー』よ。私にとっては、ずっと変わらないよ。」と答える。「この道で思ったこと、全部覚えてるよ」と私が言うと「分かるよ」と言う。11時の新幹線に乗ると言う私をシン君は駅まで送ってくれ、二人は別れ、お互いのことを思うのだった。

 長々と書いてしまいましたが、どうでしたか? これでも相当はしょって書いたのですが、長過ぎると思いませんでしたか? 私は思いました。もっとコンパクトに書ける小説だと思いました。おそらく豊島さんは登場人物のこまごまとした心理、またそれに附随するこまごまとした出来事をすべて丁寧に書いて、こちらに伝えようとされたのだと思います。しかし、そうすることによって、かえってこの物語で一番伝えたいことがうやむやになっているような気がしました。詳しいあらすじは、「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のことろにアップしましたので、興味のある方はご覧ください。

豊島ミホ『夜の朝顔』

2007-04-29 16:07:14 | ノンジャンル
 今日紹介する豊島ミホ作品は7作目の「夜の朝顔」です。この7編の短編からなる本は、すべて小学生が主人公の話です。豊島さんは「最初から、誰にとっても小学生時代のアルバムになるように」というコンセプトのもと執筆されましたが、結果的に「しこり」のある話が多くなり、この本の読者がランドセルを背負った子どもたちを見かけた時、「ああ、あの子たちも楽じゃないんだよなあ」「子どもって単純じゃないよなあ」と思ってほしい、とあとがきに書かれています。登場人物の名前は皆同じで、主人公がセン(千里)、妹がチエミ、友人が茜と塔子、男の子がともっぺ、イシバタ。ただし、同一人物かどうかは定かではありません。学年も話によって違っているかもしれません。ただ、名前が同じなので、一話ずつ名前を覚え直す手間は省けます。と、くだらないおしゃべりはこの辺までにして、さっそく、あらすじを紹介していきましょう。
 第一話「入道雲が消えないように」では、海の近くに住む小1の私は、ぜんそく持ちの妹のため、遠くに友人と一緒に遊びに行けないのですが、夏のお盆の時だけは親戚のマリさんが妹の面倒を見てくれるので、マリさんの弟で小6の恍兄と遊びに行けます。ところが、今年の3日でマリさんは一人で帰ってしまったので、私は恍兄と遊びに行けなくなります。皆が帰って行った後「マリちゃん、もう来ないよね」と妹は泣き、私は妹の手を兄がしてくれたように、しっかり握り続けました、という話。
 第二話「ビニールの下の女の子」では、隣町の小2の女の子が行方不明になります。友人が竹林でビニール袋を見つけ、中身が女の子なのでは、と言います。私は翌朝ビニール袋の中身を確かめると注射器の束でした。女の子も見つかり、また日常が始まります、という話。
 第三話「ヒナを落とす」では、シノくんは気味が悪く、クラスの玩具にされています。新学期の初日、シノくんが鳥のヒナを拾い、学校へ持って行き、クラスで飼う事になり、その日だけはシノくんはクラスの玩具ではありませんでした。しかし、ヒナは翌日には死に、シノくんはまた玩具に戻ります。そして彼の家は火事で全焼し、引っ越してしまいます。私はシノくんにまつわる全てのことを早く忘れてしまいたいと思います、という話。
 第四話「五月の虫歯」では、五月の定期検診で、また多くの虫歯を発見されてしまった私は、両親の運転する車で日曜日に隣町のモダンな歯医者に行くことになります。診療後、隣の公園で、アザミという色の黒い子が話し掛けて来ます。母は外国の歌手で、両親はトーキョーで出会い、自分も早くトーキョーに行って、アイドルになりたいと言います。次の日曜日、アザミと同じ学校の子が、彼女は嘘つきだから気をつけるように、と警告します。公園に行くとアザミがいて、アザミを悪く言う人たちのグループと五分に渡り合っているのを見て、感心します。次の日曜日は雨でしたが、アザミはいました。彼女はママが歌っていた歌を歌ってあげると言い、「東京ブギウギ」を歌います。迎えに来たお母さんは、アザミの痣を見て、私に彼女のことを注意して見てあげるように言います。そして次の日曜日、また雨でしたが、アザミは千円札を一枚持ち、これでトーキョーに行こう、と歩き出します。ズブ濡れになって道を歩いているところを両親の車に拾われ、アザミは公園で降り、笑顔で別れますが、アザミの痣だらけの体を見て、私の両親は児童相談所へ行く話をしています。次の日曜日、私の虫歯治療の最終日、アザミは現れませんでした、という話。
 第五話「だって星はめぐるから」では、私は眠りの淵にかかると、いつも聞こえる歌があります。私と茜ちゃんと塔子ちゃんは、カツラがまた万引きの自慢話をしているのを聞きます。帰りに、茜ちゃんと塔子ちゃんはカツラのゲタ箱から靴を放り出します。翌朝、今度は茜ちゃんと塔子ちゃんの内ばきが校庭に転がっていました。茜ちゃんは汚れた内ばきをカツラの机にドンと置き、カツラと大げんかになります。先生が来て一応収まりますが、茜ちゃんは女の子たちにカツラをシカトするように言って回ります。カツラは私がノートに書いた例の歌の歌詞を見て「星座じゃない?」と言います。妹に聞くと、あっけなく「そうだよ」と言い、外に出られなかった頃、よくお母さんが歌ってくれて、天井にも蛍光塗料で北斗七星を書いてくれたことを話してくれました。私は人が知らない顔をまだいっぱい持っていることに気付く、という話。
 第六話「先生のお気に入り」では、4年生から担任の大場先生は「先生」らしくなく、25才ぐらいなのに覇気もないし、「ムダ話」が多くて面白い先生だ。バレンタインの日、茜は先生に受け取りを拒否されたと大騒ぎしています。昼食後、先生と二人きりになった私は、去年義理チョコをもらって帰ったら、彼女にひどく怒られたんで、今年から一切もらわないことにした、と言われます。しょうがないので、私は先生からタバコを吸わせてもらい、出る涙を先生にふいてもらいます。私は「私はとびきり良い子になろう。そうして、先生のお気に入りになるんだ」と誓うのでした、という話。
 第七話「夜の朝顔」では、クラスメイトの杳一郎の夢を見ます。杳一郎は体育が得意で、私はいつもボロクソに言われてるのに、夢に出てくるなんて、私は杳一郎が好きなのか?と自問する私。夢から覚めると、私の寝癖に話が及びます。しきりに寝癖を気にしながら学校に着くと、杳一郎が私の動作に目を付けて「それそれ、いっつもすごいよなあ、寝ぐせ」と言って爆笑します。するとチコちゃんが洗面所で櫛を入れてサラサラの寝癖のない髪にしてくれます。杳一郎に「私、朝と違うところない?」と聞くと「髪だろ。きれいんなった」の答え。しかし1時間目の体育で、杳一郎から散々けなされた上、私は悔しさで泣き出し、寝癖も復活してしまいます。私は帰りにチコちゃんと寄り道し、しろい櫛を買うことを決心するのでした、という話。

 この中で一番インパクトがあったのは「五月の虫歯」でした。虐待されている子が、どのような夢を持って現実の苦しさを逃れようとしているのか、その子の気持ちがひしひしと伝わって来ました。虐待の事実があざだけで表現されていること、その子が友人の前では明るく振るまい、大人の前では気が抜けたようになってしまうこと、こうした細部の積み重ねで、虐待の事実を表しているのですが、実際私たちが目にする虐待も、こうした形でした目にしないのだろうなあ、と思いました。最近まで子どもの虐待を扱うことが多い天童荒太氏の本を読んでいたので、余計こうした虐待の描写が新鮮に感じたのかもしれません。なおより正確なあらすじは「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のところにアップしてありますので、興味のある方はご覧ください。

豊島ミホ『陽の子雨の子』

2007-04-28 15:41:01 | ノンジャンル
 今日紹介する豊島ミホ作品は5作目の「陽の子雨の子」です。下のあらすじですが、語り手が少年と青年と交互に替わるので、その点気を付けて読んで下さい。
 僕・夕陽は14で、私立の男子中学に通い、入学してすぐ松田という親友もでき、不幸ではない。ただ、雨の日が怖い。灰色の無数の点が見えて、それが何か暗いものを運んで来る気がする。今日は日直だったので日誌を書いて担任の先生に届けると、先生の大学時代の同級生・雪枝さんがいて、メルアドを交換し、別れる。
 15才の俺・聡は家出し、雨でぐっしょり濡れてるところを20才の雪枝に救われる。雪絵は資産家で、たまに派遣の仕事をするぐらいで、ほとんど働かない。しばらくしてお互いの初体験を済ませてから、捜索願が出されている俺は外出できずに、雪絵と本が俺の生活のすべてとなる。4年がたち、雪枝から「大人になりすぎた」と言われ、夕陽が来る日、俺は後ろ手に縛られ、押し入れの中に詰め込まされる。
 僕と松田が塾で話していると、ファミレスで期末の勉強をみてあげるという雪枝さんからのメールが来る。ジョナサンで期末の勉強をみてもらっている最中、僕は欲情してしまい、それを彼女に告白すると、彼女は「今日は勉強しよう。で来週はウチに来な?」と言う。
 訪ねて来た男の若い声に俺は驚いた。中坊か? 少年は「いい加減な気持ちでもいいんですか?」と言い、雪枝は俺を押し入れから引き出して「いい加減でもいいよ」と言う。俺は怒鳴るが、雪枝は「この人には飽きたから、この人をオモチャにして遊ぼう」と少年に言う。少年は「灰色の点が、この家にたくさん見える。怖い」と言って、帰ってしまう。
 僕は平和なファミリーに恵まれていると実感するが、気持ちは雪枝さんの世界の方へ向かってしまう。塾に行くと松田が新しいガールフレンドの祐子ちゃんを紹介する。祐子ちゃんといつも一緒の清水は放送部の合宿中らしい。次に雪枝さんの家を訪ねると、今度は聡と雪枝さんの性行為を覗く役をやらされる。
 俺は雪枝との行為が終わると、隣部屋に夕陽がいるのに気が付く。夕陽は雪枝が短歌を詠むからおかしくなったんだ、と言う。
 小6の時、詩の暗唱を清水がやると、クラス中が静かになった。僕は「意思」をいう魔法だ、と思い、後で清水にそれを言うと、彼女は恥ずかしがる。「聡が出ていっちゃったよ。台風怖いから来て?」という雪枝さんのメールを見て、彼女の家に向かう。雪枝さんは生まれてしばらくしてこの家に移ったのだが、その際にかなしー話があって、言いたくてしょうがない、と言う。そして「聡が戻ってこなかったら、あたしはほんとにダメになる」と泣く。
 俺は朝起きて、昨日の夜のケンカの続きをし、雪枝に普段言わないような言葉もぶつけ、雪枝に「出てけ」と言われる。お金を借り、単なる腹いせのつもりで、台風の中を出て行く。市街地の方へ歩いていき、誰かに気付かれるんじゃないか、とビクビクする。
 雪枝さんは自分の過去の話を始めた。母は精神病で、父は母に愛想をつかし離婚。10才年下の女性と再婚。その人は自己犠牲に酔っている申し分ない「母親」だった。雪枝さんは産みの母親を見舞い続ける一方、息抜きに会いに行っていたのが今住んでいるこの家の住人だったおばあちゃんだった。彼女が高1の制服を見せに行った時、台所で脳卒中を起こし死んでいた。それを追うように産みの母も死んでしまう。そして祖母の遺言により遺産のすべてをもらった彼女は、大学入学時に一人でここへ越して来た、という。
 俺が雪枝の家に帰ると、入れ違いに夕陽が帰り「大人の事情で腹一杯になったので、もう来ないと思います。」と言う。雪枝が戻り「私がじたばたするのに今後も付き合って」と言う。
 僕はサトシが帰って来た時、部屋の中の灰色の点が風に飛ばされて行ったのを見た。図書館で会った松田は外デートをしたこともないのに、祐子ちゃんと夜景を見るプランを妄想していた。清水さんも誘って4人で海へ行こうという松田は誘いのメールを祐子ちゃんに送る。海には祐子ちゃんがカゼをひいて来れなくなったので、僕と清水だけで行くことになる。僕はりんごの詩を清水に暗唱してもらい、彼女の声に当時と変わらない強さとしなやかさが宿っていて、僕は泣きそうになる。
 雪枝は今までに書いた短歌を整理していると、夕陽からの手紙が届いていて、清水という好きな子がいて、その子をなるべく悲しませないようにしたい、さようなら、と書いてあった。俺たちは晴れた日、水族館に行った。子どものように楽しんで、記憶の中の家族写真に今の光景がゆっくり重なっていく。満面の笑みの雪枝を撮ったアナログカメラのシャッター音が耳に残った。

 長々と書いてしまいましたが、結論から言うとあまり面白い小説ではありませんでした。魅力的なキャラクターも出てこないし、話もどうってことない話です。家族を主題にした話ですが、夕陽は普通のしあわせ家族、著者らしさが出ていたのは、夕陽と松田と清水がからむ場面で、ここを広げて短編にしちゃった方がずっと面白くてさわやかな小説になったと思いました。もしかしたら豊島さん、長編向いて無いかも?

豊島ミホ『檸檬のころ』

2007-04-27 16:44:28 | ノンジャンル
 今日紹介する豊島ミホ作品は、彼女の第4作目「檸檬のころ」です。私は豊島ミホさんの作品の中では、この作品が一番好きです。
 この小説は、ある高校の様々なエピソードが綴られています。当然、共通した登場人物も出て来ます。どれも珠玉の短編です。では、第一話から。
「タンポポのわたげみたいだね」では、サトはは初めて高校で出来た友人で、うちの中学から私しか進学しなかった高校へ向かう電車の中で、胸のバッジを見て「クラスメイトだ~」と声をかけてくれてから、親友になった。サトは人気者で、かわいいものをたくさん身に付け、話題も豊富だった。が、サトは2年になって授業に出なくなってしまう。その理由を、私は分からない。遅刻が多くなり、私と一緒に登校しても保健室に行くようになった。ある日、藤山と名乗る男子から一緒に通学しよう、と誘われ「小島智なんか、ほっとこうよ。」と言う。私はその誘いに乗ってしまうが、第一日目、私の隣に藤山くんが座っているのを見て、サトは、藤山は中学の時、男の子をパシリに使い、女の子を喰ったという。私は「やっぱり一緒に通うのやめようね」と笑顔で言うと、藤山は逃げて行き、その席にサトが座った。「こんな友達でごめんね」とサトは言う、という話。
「金子商店の夏」では、五回司法試験に落ちている俺は、未だに予備校に通い、他の生徒から痛がられている。電話で母が「おじいちゃんが死にそう」だからすぐに帰って来い、と言う。俺の実家の金子商店に帰ってみると、じいちゃんはピンピンしていた。「俺はこの店を継がないぞ」と宣言する。この店はひいじいちゃんが隣の高校の生徒たちのために作った店だった。店に今は体育教師となった高校の同級の大田が来て「この店、やっぱいいなあ。お前もじいさんになるまで続けてくれよ?」と言う。じいさんに言われて水まきをしていた俺は、軒先に風鈴を吊るそうと思い、俺の手もじいさんの手みたいになるのだろうか、と思うのだった、という話。
「ルパンとレモン」では、野球部3年の俺に吹奏楽部の指揮者の秋元が「ねえ、西はテーマ曲何がいい?」と聞いて来る。「別に何でもいいよ」と答えると「ほんとに?じゃあ『ルパン』にするね」と言われる。予選でバッターボックスに立った時、、かっこいい曲じゃん、と思った。しばらくして秋元が「うちの学校から北校受けるの、私と西だけなんだって。一緒に勉強しない?」と言われ、そうすることにする。2人とも北校に受かり、二人とも中学と同じ部活に入った。そして高3の夏。練習後、うちのエースのサル顔の佐々木と俺は金子商店でコーラを飲んでいた。彼は明るく、チームのムードメーカーだった。俺と秋元は高校に入ってだんだん疎遠になり、今は遠い存在だ。佐々木は、好きな秋元に会いに行き、彼女を見つけると「加~代子ちゅわ~ん」と呼ぶ。秋元は嬉しそうに「佐々木くん」と返事するのを俺は嫉妬する。秋元はきれいで、リップクリームのレモンの香りがした。ある日秋元が部室にやってきてテーマ曲を決めてほしい、と言う。佐々木はしゃしゃり出て、中学の時の「ルパン」だったから「ルパン」がいい、と言う。秋元は俺を見て唇をかんだ。帰りの電車は秋元と一緒になった。秋元は「西のこと、好きだったよ」と言う。電車を降りる際、秋元は「もう使わないから」とリップクリームをくれる。佐々木と俺はキャッチボールをしながらベスト32に残ったら、佐々木が秋元に告ることにする。俺は秋元のためにホームランを打ち、秋元が指揮するファンファーレが聞こえて来る。
「ジュリエット・スター」では、私の家は高校生向けの下宿をしている。私は24才。家の手伝いをしながら本屋でバイトもしている。うちは下宿内恋愛禁止だが、このルールに挑戦する子が入って来た。珠紀だ。3年の林君が入って来てから彼をよく見つめるようになる。「おはよう」をいう仲になり、外で二人で会うようになっていた。状態が改善されなければ、珠紀に下宿を出てもらくことにする。母は私に珠紀の説得役を押し付ける。下校時の林くんを捕まえて、珠紀との交際を止めてくれるよう頼むが「俺は珠紀ちゃんのこと好きだもん」と一蹴される。久しぶりに彼の家に泊まり、朝帰ると、会った珠紀に朝帰りをからかわれ「今日寄り道しないで帰ってくんない?話があるから」と言うと、彼女はニヤリと笑った。珠紀の部屋で話し合うが、完全に彼女のペースにはまってしまい、ローソクを灯し合って勉強していた話では、彼女のことを可愛いと思ってしまい、とりあえず別れるつもりのないことを確認する。。珠紀は下宿を出ることになった。トラックの荷台に乗った珠紀の視線を追うと、林くんの部屋にともるローソクの灯が見える。トラックが出発すると私は「珠紀ーィ!」と叫んで駆け出していた。「たまには遊びに来ても、いいからねーっ!」トラックはしばらく走ると止まってしまう。そこはおばあちゃんが一人でやっている下宿の前だった。脱力。こらえきれずに笑う息がこぼれるのだった。
「ラブソング」では、今の私は音楽があれば何もいらない。勉強をしつつ、時間を見つけて音楽も聞くし、感じたことを文章にしてもみる。廊下でしゃがんでMDを聞いていた私は、やはりMDを聞いている辻本くんに見つめられる。音楽に身をゆだねている彼を見て、この人は音楽を知っている、と直感する。ホームルームの時間、野球部のエースからもらった手紙を読む吹奏楽部の加代子さんの姿を見て、彼女から発散されている息が詰まるような唯一無二のラブソングに胸をかきむしられる。掃除当番で生物教室に行くと、辻本くんが現れ掃除を始める。辻本くんは「聴いちゃった。昨日のラジオ」といきなり話しかけて来る。昨日のラジオで私が書いたハガキが読まれ、うちの学校のバンドは下手ばっかり、と書いたのだが、そのバンドの一つに入っていた辻本くんは「昨年は確かに最低だった。でも今年は‥‥。あっ、俺しゃべりすぎ?」と笑うと、私は「いや全然」と言うのが精一杯で、ギターのうなる音がし、やがてそれは音楽になる。私は大急ぎで保健室にいるいとこの志摩ちゃんに会いに行き、「私ヘンだよぉ」と助けを求めた。翌日の掃除タイムに私と辻本くんは音楽話で盛り上がった。すごい! 世界ってこんなにも熱いものだったんだ、と私は全速力で自転車をこいで家に帰った。久しぶりに志摩ちゃんと話したくて保健室に行くと、志摩ちゃんの文が雑誌に載ったことで盛り上がっていた。私はショックを受けるが、懸命に祝福する。私は保健室を飛び出した。雑誌を買って志摩ちゃんのレビューを繰り返し読み、今までの私の文は比べものにならないほどぶざまで分かりにくく、泣きたくなった。翌日、落ち込んでる私に辻本くんは歌詞をかいてくれない、と言って来る。とりあえず1週間で書く、と約束してしまう。月曜の朝、辻本くんは気晴らしに高いところに行こうと言って、放課後、城址公園に行った。そこで私は辻本くんの友人であり、恋愛の対象ではないことを知る。彼と別れて一人で泣きたかったので、志摩ちゃんちで夕食を食べることにすると、志摩ちゃんに「辻本先輩の彼女のこと、知ってました」と謝られる。その帰り道、突然詞が頭に浮かぶ。次の日、楽譜に書き込んだ詞を辻本くんのに渡し、学祭のやきそば屋のBGM作りを始めると、だんだん楽しくなってきて、私はやっぱり音楽が好きなんだ、と思う。学祭当日。私は教室のスミでBGMを流していると、加代子さんが走って来て「白田さん、あの曲、あれって白田さんの作詞なんだってね。あの詞、すっごい。すっごい良かった!」と言い、林くんが来て「辻本、言ってたよ。白田さん、貴重な友達だから、なくしたくないって」と言う。そこへ辻本くんが現れ、私はライブの様子を聞いてしまう。辻本くんと話したら嬉しくて、私はライターになりたいんだあ、とか語り出しそうになってしまった、という話。
「担任稼業」では、受験校に関する面接。27人目の子は説得して志望校を変更させる。次の子は志望大学以前に問題のある子だ。端で見えるほど高校教師は楽じゃない。進学校では生徒との関係を築きにくいので、こっちも割り切って「進学のために存在する教師」を演じることになる。次の生徒は小嶋智。彼女は保健室にいることが多く、卒業に100コマ以上足りない。教室内の話し相手は一年から一緒の橘ゆみ子だけだ。「このままだと卒業無理だから」と言うと「‥‥卒業できるとは思ってません。大検とか、週力とか、卒業できなくても何かしらありますし」と小嶋は暗く、鋭い目で言う。俺は何も言えず、面接はお開きとなった。再度、小嶋を訪ねると俺は小嶋に説教を始めてしまい、「自分を過大評価してるんだよ。いい加減悟れ」と言ってしまう。「先生、全然分かってない!」と言って彼女は走り去っていった。残された文庫本「桜の森の満開の下」は、俺も数学の授業中に読んでいた本だった。俺も「先生は何も分かってない」と思っていたのだ。そして、1週間後、小嶋は授業に出るようになった。2月に補習を組めば、ギリギリ卒業できそうだ。小嶋にそれを言うと「それ、やります」と言う。文庫本を返すと「貸しましょうか? 先生こういうの読んだことないでしょう」と言う。生徒というのは何もわかっちゃないんだ、という話。
「雪の降る町、春に散る花」では、野球部のエース・佐々木くんと付き合い始めたのは2年の夏だった。サルというあだ名の彼は、他人を笑わせるのが上手で、私は正反対。私は彼を見ていたくて一緒にいた。でも3年の秋になり、東京の私立を受けるつもりだった私に、彼は東京の学校、首都圏の公立も難しく、私立は財政的に無理だった。東京と佐々木くんなら、私は東京を選ぶ。佐々木くんはそのことを分かっていて、私は悲しくて泣いた。いずれ離れなければいけない、という事実は、佐々木くんから笑顔を奪った。私は一足先に第一志望に受かり、彼から受験の合否を一緒に聞いてほしい、と電話がかかってくる。約束の電話ボックスに行くと「おめでとう」と言われ「落ちてたら、キスしてくれる?」と言う。私は不合格の電話で方針状態の彼の唇にキスをする。彼は後期の国立の受験が終わったら、私の上京の日までいっぱい遊ぼう、と言って、早々と帰る。佐々木くんから「受験終わったから遊ぼう」と電話があり、それからは佐々木くんと毎日のように自転車の二人乗りをして遊んだ。兄の部屋に行き、上京する電車のホームで佐々木くんと最後に会う。お互いいい言葉が見つからない。私は動きだした電車の中から「終わらなきゃいいと思った! 一緒にまだいられたらいいのにって、ほんとにほんとに思った」と私は叫んだ、という話。

 ちょっとあらすじ紹介が長くなってしまいました。これでも相当削ったんですけど‥‥。きちんとしたあらすじは「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のところに載ってますので、そちらをご覧ください。豊島ミホさんの作品を読んだことがない方、オススメです。

豊島ミホ『ブルースノウ・ワルツ』

2007-04-26 15:24:47 | ノンジャンル
 今日紹介する豊島ミホさんの本は彼女の三冊目にあたる「ブルースノウ・ワルツ」です。この本には長篇「ブルースノウ・ワルツ」と短編「グラジオラス」の2編が収録されています。
 「ブルースノウ・ワルツ」は、お嬢様の楓(かえで)が自由で無邪気な子どもから大人になることを受け入れて行く物語です。
 14 才の楓の父は研究者で「弟だ」と言って研究対象の野生児・ユキを屋敷に連れて来ます。楓には3才下の婚約者・藤(とう)がいて、しばしば二人で遊んでいましたが、ある日藤が将来の話をし始め、楓は大人になることとはどういうことか、を考えます。父が「ユキも大人になる」と言うと、楓は逆上し、ランプを投げ付け火事を起こし、ユキと逃げようとしますが、母に阻止され、母から大人になることは避けられないのだ、と説教されます。楓15才、藤12才の合同誕生パーティーの日は大雪になり、予定の楽団は来れませんでしたが、母のバイオリンで藤と楓はワルツを踊り、それが大人になった儀式のようになります。その夜、青白い月光に誘われてホールに来た楓は、偶然現れたユキとダンスを楽しむのでした、という話。
 「グラジオラス」では、きりおの田植え姿をいつも眺めていたまに子は、交通事故できりおが死んだ後も、きりおが田植えをしていた場所に毎晩行って、彼の空想にふけります。イチトという男友達が新たにできますが、きりおの死を受け入れられない、という話。
 
 どちらの話もインパクトに欠ける話で、あまり面白くありませんでした。が、月光の中で踊る情景に魅力を感じる方には、オススメできるかもしれません。