今日紹介する豊島ミホ作品は、第8作目の「エバーグリーン」です。以下、あらすじですが、語り手がシンと綾子で交互に交代していますので、注意してお読みください。
10月。俺・宮本シンはあぜ道を自転車で走りながら、ミュージシャンになることを夢に空を見て歌を歌う。学祭でバンドを組むはずだったメンバーに去られた俺に松田綾子は「通学路で歌ってたんだから、一人でやれば。もったいないよ。」と言ってくれる。1週間後、俺は一人で学祭のステージに立った。何より嬉しかったのは、一番最初に拍手してくれたのが松田だったことだった。
私・松田綾子はシン君を好きになった時から、そのことは秘密にしようと思った。教室のスミで一人で何かやっているような生徒だからだ。たまたま一緒に帰る時もあって、たくさんの話をし、私は奥田民生とブルーハーツとスピッツを知った。卒業式の後「ばいばい」と言って私を追いこして行くシン君は地元の高校に行く。「アヤ、追っかければ?」と友人に言われ、全力疾走し「シンくーん!」と大声で叫ぶ。止まってくれたシン君に「ごめん、ごめん」と独り言のようにつぶやくと「何が『ごめん』なの」とシン君に言われ、私はたまらなくなってぽろぽろと泣き出してしまう。でも何か言っときたくて「マンガ、十年後に見せる」と言うと、シン君は「じゃあ、十年後、3月14日、ここで10時。君はマンガ家、俺は超有名ミュージシャンになって会おう。アヤコに捧げる歌も歌う」と言い、約束して別れる。
十年後の約束まで、あと2ヶ月だ。俺は25才になっていた。高校時代、ミュージシャンになりたい気持ちは弱まっていった。俺はリネンの会社でシーツ類の運送の仕事に就いた。十年後の約束は単なる思い出になっていた。
徹夜明けの私は、アシスタント2人と共に、24ページのマンガを仕上げている。私の中で十年後の約束は色あせていない。
俺は彼女の奈月に連れていかれた本屋で、綾子のような気がするアヤという漫画家が描いたマンガを奈月が買う。
私に編集者は、マンガの主人公たちがそろそろ肉体関係になっていいのでは、と要求する。前からの頼みなので、私は「考えます」と承知してしまう。
マンガ家のアヤはやはりアヤコだった。雑誌にインタビュー記事が載っていたのだ。アヤコの中の「シン君」像が昔のままだったら、と考えると恐ろしい。俺はこの田舎町で埋もれるほどみじめではない、と思いながら押し入れの中のギターを取り出した。
私はひょんなことで知り合ったスーパーの店員に優しい言葉をかけてもらうと、私は大声で泣き出してしまう。
俺が初めてギターを弾いたのは小6の時だった。不良の兄に呼ばれ、不良仲間に囲まれて、コードを教わり、いきなり演奏させられたのだが、そのうまさに皆驚いた。
私はマンガの続きが描けない。ここで物語を終わりにしたくなる。家に帰って、編集者に送ったマンガは最終回ではなかった。
俺はブルーハーツの曲を聞きながら仕事をするようになる。ギターの練習も始めた。奈月から借りてたマンガを思い出すが、最初のページの緑色の自転車とあぜ道を見ると、読むのがはばかられた。
私は以前と違い、今のシン君が何をしているのか知りたくなる。マンガのアシスタントに締めきりを2日繰り上げるようお願いし、ネームを渡すと、二人は「これだと2人がやっちゃう流れですよね。このマンガではそういうのなしだと思ってました。」と言う。私が口ごもるのを見て、二人は何か事情があるな、と察したようだ。
俺はまだ歌が作れない。今の正直な俺を見てもらおうと決心する。
二人が結ばれる内容のマンガの原稿を編集者に渡し、このマンガは終わりにしたい、と伝える。私は13日、14日の新幹線の切符を買う。
十年前の場所でシン君と会い、私は泣いた。彼は笑って「すげー、十年だよ」と言う。そして「俺、ミュージシャン向かなかったみたいだよ」と言う。彼氏のこと、彼女のこと、仕事のことを話し、彼は「一生この町で埋もれて暮らすよ」と宣言する。私は「シン君は『すげー』よ。私にとっては、ずっと変わらないよ。」と答える。「この道で思ったこと、全部覚えてるよ」と私が言うと「分かるよ」と言う。11時の新幹線に乗ると言う私をシン君は駅まで送ってくれ、二人は別れ、お互いのことを思うのだった。
長々と書いてしまいましたが、どうでしたか? これでも相当はしょって書いたのですが、長過ぎると思いませんでしたか? 私は思いました。もっとコンパクトに書ける小説だと思いました。おそらく豊島さんは登場人物のこまごまとした心理、またそれに附随するこまごまとした出来事をすべて丁寧に書いて、こちらに伝えようとされたのだと思います。しかし、そうすることによって、かえってこの物語で一番伝えたいことがうやむやになっているような気がしました。詳しいあらすじは、「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のことろにアップしましたので、興味のある方はご覧ください。
10月。俺・宮本シンはあぜ道を自転車で走りながら、ミュージシャンになることを夢に空を見て歌を歌う。学祭でバンドを組むはずだったメンバーに去られた俺に松田綾子は「通学路で歌ってたんだから、一人でやれば。もったいないよ。」と言ってくれる。1週間後、俺は一人で学祭のステージに立った。何より嬉しかったのは、一番最初に拍手してくれたのが松田だったことだった。
私・松田綾子はシン君を好きになった時から、そのことは秘密にしようと思った。教室のスミで一人で何かやっているような生徒だからだ。たまたま一緒に帰る時もあって、たくさんの話をし、私は奥田民生とブルーハーツとスピッツを知った。卒業式の後「ばいばい」と言って私を追いこして行くシン君は地元の高校に行く。「アヤ、追っかければ?」と友人に言われ、全力疾走し「シンくーん!」と大声で叫ぶ。止まってくれたシン君に「ごめん、ごめん」と独り言のようにつぶやくと「何が『ごめん』なの」とシン君に言われ、私はたまらなくなってぽろぽろと泣き出してしまう。でも何か言っときたくて「マンガ、十年後に見せる」と言うと、シン君は「じゃあ、十年後、3月14日、ここで10時。君はマンガ家、俺は超有名ミュージシャンになって会おう。アヤコに捧げる歌も歌う」と言い、約束して別れる。
十年後の約束まで、あと2ヶ月だ。俺は25才になっていた。高校時代、ミュージシャンになりたい気持ちは弱まっていった。俺はリネンの会社でシーツ類の運送の仕事に就いた。十年後の約束は単なる思い出になっていた。
徹夜明けの私は、アシスタント2人と共に、24ページのマンガを仕上げている。私の中で十年後の約束は色あせていない。
俺は彼女の奈月に連れていかれた本屋で、綾子のような気がするアヤという漫画家が描いたマンガを奈月が買う。
私に編集者は、マンガの主人公たちがそろそろ肉体関係になっていいのでは、と要求する。前からの頼みなので、私は「考えます」と承知してしまう。
マンガ家のアヤはやはりアヤコだった。雑誌にインタビュー記事が載っていたのだ。アヤコの中の「シン君」像が昔のままだったら、と考えると恐ろしい。俺はこの田舎町で埋もれるほどみじめではない、と思いながら押し入れの中のギターを取り出した。
私はひょんなことで知り合ったスーパーの店員に優しい言葉をかけてもらうと、私は大声で泣き出してしまう。
俺が初めてギターを弾いたのは小6の時だった。不良の兄に呼ばれ、不良仲間に囲まれて、コードを教わり、いきなり演奏させられたのだが、そのうまさに皆驚いた。
私はマンガの続きが描けない。ここで物語を終わりにしたくなる。家に帰って、編集者に送ったマンガは最終回ではなかった。
俺はブルーハーツの曲を聞きながら仕事をするようになる。ギターの練習も始めた。奈月から借りてたマンガを思い出すが、最初のページの緑色の自転車とあぜ道を見ると、読むのがはばかられた。
私は以前と違い、今のシン君が何をしているのか知りたくなる。マンガのアシスタントに締めきりを2日繰り上げるようお願いし、ネームを渡すと、二人は「これだと2人がやっちゃう流れですよね。このマンガではそういうのなしだと思ってました。」と言う。私が口ごもるのを見て、二人は何か事情があるな、と察したようだ。
俺はまだ歌が作れない。今の正直な俺を見てもらおうと決心する。
二人が結ばれる内容のマンガの原稿を編集者に渡し、このマンガは終わりにしたい、と伝える。私は13日、14日の新幹線の切符を買う。
十年前の場所でシン君と会い、私は泣いた。彼は笑って「すげー、十年だよ」と言う。そして「俺、ミュージシャン向かなかったみたいだよ」と言う。彼氏のこと、彼女のこと、仕事のことを話し、彼は「一生この町で埋もれて暮らすよ」と宣言する。私は「シン君は『すげー』よ。私にとっては、ずっと変わらないよ。」と答える。「この道で思ったこと、全部覚えてるよ」と私が言うと「分かるよ」と言う。11時の新幹線に乗ると言う私をシン君は駅まで送ってくれ、二人は別れ、お互いのことを思うのだった。
長々と書いてしまいましたが、どうでしたか? これでも相当はしょって書いたのですが、長過ぎると思いませんでしたか? 私は思いました。もっとコンパクトに書ける小説だと思いました。おそらく豊島さんは登場人物のこまごまとした心理、またそれに附随するこまごまとした出来事をすべて丁寧に書いて、こちらに伝えようとされたのだと思います。しかし、そうすることによって、かえってこの物語で一番伝えたいことがうやむやになっているような気がしました。詳しいあらすじは、「Favorite Novels」の「豊島ミホ」のことろにアップしましたので、興味のある方はご覧ください。