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谷崎潤一郎『細雪』上巻

2009-05-20 16:08:00 | ノンジャンル
 朝日新聞の特集記事「2008年 感動と発見の一冊」で推薦されていた、谷崎潤一郎の'47年作品「細雪』上巻を読みました。
 日中戦争が始まっている'30年代後半、30代半ばの幸子は、母を早く亡くし、実業家の父も今は亡く、夫・貞之助とまだ7才の一人娘・悦子と神戸の芦屋に住んでいますが、養子を夫に迎え6人の子持ちである鶴子と本来なら一緒に住むはずの2人の妹・雪子と妙子が、本家の鶴子の夫との生活を息苦しく思い、その幸子の元で暮らしています。妙子は日本人形の作家で、その製作のためにアパートを幸子からあてがわれ、以前に駆落ち騒動を起こした奥畑と結婚を誓いあった仲ですが、引っ込み思案の雪子は30前後にもかかわらず、まだ独身のままなので、周囲は何かと気をもんでいます。ある日三姉妹は音楽会に出かけ、数日後には雪子は幸子の行きつけの美容院の紹介で、ある男性と会い、健康を証明するためにレントゲンを撮り、月経時に現れるシミについて弁明することまでしますが、その男性の母親が精神病であることが分かり、幸子らは縁談を断ります。その後、妙子に人形製作を習っているロシア人女性の家に幸子らが招かれ、恒例の京都での花見を皆で楽しんだりしますが、鶴子の夫が急に東京へ転勤することになり、鶴子一家とともに雪子も東京に連れていかれることになります。それが原因でか、いつも雪子と一緒だった悦子が神経衰弱になり、それが治ったと思ったら、今度は幸子が流産します。芦屋の家に戻りたくて泣いていた雪子は、また新たな縁談で芦屋に呼ばれますが、先方の都合でまだ幸子が具合が悪いにもかかわらずお見合いが強行され、雪子はその男性の無神経さに断りを入れてもらいます。そして東京に雪子が帰る前に、皆で恒例の京都での花見を楽しむのでした。
 冒頭、それまでの事情説明を含むこともあるのですが、仕度の途中から音楽会に出かけるまでに何と47ページが費やされます。かというと、数語で場面転換されることもあり、スピード感ある文章です。本来「。」が打たれるところが「、」で結ばれていたりするため、一つの文が非常に長いケースがあるのですが、言葉が平易なこともあり、それほど抵抗感なく読めました。また「いつか井谷さんに預けといたのんを、勝手に先方へ持って行かはってん。何やたいそう気に入ってはるらしいねんで」といったように関西弁が見事に書かれているのも魅力でした。それから面白いと思ったのはやたらに会話に出て来る「ふん」という言葉で、しばらく読んでいるとこれは現在の「ふ~ん」ではなく、うなずく意味での「うん」であることが分かりました。
 今から60年以上前に書かれた作品ですが、登場人物が生き生きと描かれていて、全く古びていない傑作だと思いました。文句無しにオススメです。