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三崎亜記『30センチの冒険』その3

2020-02-29 07:09:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

「当時の人々は、領土を巡る争いに明け暮れ、平和に暮らすことを忘れていたという。統治者は、自らの創った人間の愚かすぎる所業に怒り、砂漠で分断してしまったのだ」(中略)
「それが、大噴砂(だいふんさ)とも呼ばれる、最初の大地の苦難だ」(中略)
「だが、人々は時が経つにつれ、統治者が砂漠で街を分断した戒めすら忘れてしまった。兵を育成し、砂漠を渡る術を覚えて、大挙して他の街を襲って制圧するという愚行を始めてしまった。再び、領土を巡る争いが活発化したのだ」(中略)
「お前も経験しただろう。歪みの嵐を。あんなやっかいなものが、砂漠に跋扈(ばっこ)するようになった。それが、二度目の大地の苦難だ。我々人間は、砂漠に押し込められて、逼塞(ひっそく)するしかなくなったのだ」(中略)
「二度の大地の苦難を経て、人々はようやく分をわきまえ、それぞれの街ごとに小さな秩序の中で、細々と暮らして来たのだ」
「それなのに今は、大地の秩序を失ってしまっている点……。つまりは、三度目の大地の苦難が、統治者から与えられたということですか?」
「いや、(中略)今回の大地の秩序の崩壊には、統治者の意思は介在していない。(中略)五年前まで、この世界には地図があり、その地図の存在によって、大地の秩序はかろうじて保たれていたのだ」(中略)
「地図とは、大地の秩序を一枚の図面に書き写したものでしょう?」
 とんでもないというように、書記官が両手を激しく振った。
「そんな恐れ多いことを……。この世界では、地図は書き記されることは決してありませんのです。ただ一人の女性の頭の中に納められておるのですよ」
 書記官の話によると、地図を記憶する「ネハリ」と呼ばれる女性がいて、この地の道や大地の起伏、森や畑、公共建造物から個人の家に至るまで、すべてを記憶し、記憶することによって大地の秩序を保っていたのだという。
「ネハリは代々、一人の女性から新たな女性へと受け継がれていっておりました。(中略)」
「八年前のことであります。継承者も二十歳になり、地図の受け継ぎも、通例より時間がかかってはおりましたが、問題なく進んでおりました。ですが、もうまもなくすべての継承を終えるという頃に、継承者が忽然と姿を消してしまったのです」(中略)
「ネハリが年老いていくに従い、徐々に大地の秩序は失われていったのであります。(中略)」
「しかし今の皆さんは、秩序が失われた世界で、その制約を克服して生活していらっしゃいますよね?」
「ええ、我々を救う救世主が現れてくれたのですからな」
 書記官は、隣に座る施政官を頼もしげに見やった。(中略)
「私は救世主などではない。この世界の辺境に住む種族の一人に過ぎない」(中略)
「私の種族が代々暮らしてきた場所は、ネハリの記憶の地図の外側……。つまり、もともと大地の秩序の存在しない辺境の地なのだ」(中略)
「施政官は……いやいや、当時はまだ、ただのオリスという名の辺境の若者でしたな。オリス殿は、秩序の崩壊を前にしてなすすべもない我々に、様々なことを伝授してくれましのです。砂の導きによる目的地への歩行方法や、食物の栽培方法など、秩序を失った世界での暮らしの知恵のすべてを……」(中略)
「私はあくまで、この世界が秩序を失った間の、かりそめの施政官に過ぎない。(中略)」
「この世界のすべての本は、『本を統(す)べる者』が独占している」(中略)
「この世界は、『本を統べる者』との確執によって、本を奪われてしまった。それにより我々は、本から知識を得ることも、先人の記憶を継承することもできなくなってしまったのだ」(中略)
「渡来人よ。今は非常時だ。我々には、お前一人に時間を割いている暇はない。元の世界に戻りたいなら、自分で考えることだ。(中略)」
 立ち上がった施政官は、エナさんの前に一つのガラス瓶を置いた。
「近いうちに、渡来人をクロダ博士の所へ連れていけ」(中略)
「視察に向かうぞ!」
施政官が壁の伝声管に向けて告げた。(中略)
「施政官はああ言いましたが、あなたのこの背景での身の安全、および生活に関しては、施政官庁として保障いたします」(中略)
「この世界には何か所か、バス停が存在することがわかっております。ですがあのバス停にとまるバスはあ、いったいいつ来るのかわかりませんでしてな。しかも、バスが来ても、乗ることができる人間は決まっておるのです。(中略)」
「いずれにしろ、まずはこの世界のことをしっかりと学んで、生活の基盤をつくることでしょうな。その上で、あなたが元の世界に戻れるよう、私たちが最大限の援助をいたしましょう」(中略)

(また明日へ続きます……)

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三崎亜記『30センチの冒険』その2

2020-02-28 06:15:00 | ノンジャンル
 昨日の続きです。

 カーテンから漏れる光が、朝の訪れを告げる。(中略)
 向かいには、十階建てほどの集合住宅が建っている。(中略)だけどぼくには、その背後にある、おそらくずっと階数が少ないはずの建物の方が何倍も高くそびえ立っているように見える。(中略)
 眠気など吹き飛んで、僕は部屋を飛び出した。(中略)
「待ってユーリ! 今、外に出たら……」(中略)
「ここは……いったいどこなんだ?」
 昔の実家から、バス停三つ分離れただけの場所のはずだ。それなのに、何もかもが日常とかけ離れている。(中略)
「あなたが乗ったのは、こちらの世界とあなたのいた世界をつなぐバスだったの。残念だけどユーリ、あなたは違う世界に迷い込んでしまったのよ」
「何をわけのわからないことを……。とにかくバスに乗れば、元に戻れるんですよね? 僕は戻らなきゃ!」
 バス停は、ほんの数十メートル先にある。(中略)
「駄目! ユーリ! このまま外に出たら、どっちの世界にも戻れなくなるわ」(中略)
 混乱して今まで気付きもしなかったが、彼女が口にしているのは、僕のまったく知らない言葉だった。それなのに、僕はなぜか理解できている。(中略)
「はっきり言っておいた方がいいね、ユーリ。すぐにあなたの世界に戻る方法は、おそらくないよ」(中略)
「これから、どうしよう……」(中略)
「私に、すべてを任せてくれない?」
「だけど……」
「人々が『渡来人』のあなたをどう思うか、まだわからないから……。だから、もうしばらく、この家にいて欲しいの」(中略)
「ほんの少し前まで、この世界は、あなたの住む世界と同じような形で動いていたの。だけど……」(中略)
「ある出来事を境に、この世界は、大地の秩序を失ってしまったの」(中略)
「大地の秩序が失われてから、街の風景は、常に変化し続けているの。だから、窓から見える景色も、いつも違う」(中略)
「詳しいことは、施政官から説明してもらった方がいいわね。とにかく、この世界での動き方がわからないうちは、建物から出ないでね」(中略)
「どうしてこんなことになったんだろう……」
 バッグの中に手がかりをさがす。携帯電話は、すでに電池切れで機能していない。財布に挟んだレシートや名刺にもヒントは見つからなかった。
 いつの間にか入っていた水色の表紙の本を取り出す。ページを開こうとして、思わぬ抵抗にあう。どうしても開くことができない。(中略)
 最後の残ったのはものさしだ。(中略)
「あれ、おかしいな?」
 ものさしの目盛りが変だ。二十九センチと八ミリしかない。(中略)
 異世界へと迷い込んで、元いた世界から「失われた」僕と、ものさしの失われた二ミリが、重なって思えた。
 
 エナさんの家での、居候のような暮らしが始まった。(中略)
 彼女の履く木靴には、先端に小さな蓋のような細工が施されていた。その中に彼女は、ひとつまみの砂を入れた。
「この砂は、目的地の地下から採取した砂なの。この世界の砂は自分が本来あった場所を覚えていて、そこに戻ろうとする性質を持っているの」(中略)
「まだ、ユーリの靴は支給されていないから、今日はあなたを施政官庁に連れていくわ。いい? 絶対に離れちゃダメよ」(中略)
 しばらく歩くと、エナさんの足の動きが緩慢になり、不意に止まった。
「着いたよ、施政官庁に」(中略)
「施政官、渡来人のユーリを連れてきました」
 中央に座る男が、じっと僕を見つめていた。(中略)年齢は三十代半ばだろうか。この世界を統治する為政者にしては、ずいぶんと若い。(中略)
「渡来人か……。よりによってこの非常時に、やっかいごとを持ち込んでくれたものだな、エナよ」
 彼にとって僕は、招かれざる客のようだ。(中略)
「まあまあ施政官、彼とて、自ら望んで来たというわけではないでしょうから……」
 隣に座る男が取り成すように口をはさんだ。白髪を腰まで伸ばした老人だ。(中略)
「書記官、まさかあなたまで、渡来人にくだらん期待を抱いているわけでもあるまい。今の綱渡りのような均衡に、どんな悪影響を及ぼすかもわからないというのに」(中略)
「施政官を補佐しております書記官のネグロでございます。さあさあ、どうぞこちらにおかけください」(中略)
「この世界は、大地の秩序を失っているとエナさんから聞いたのですが、何か理由があるのでしょうか?」(中略)
 若き施政官は、自らの生まれる前の人々の過ちすら背負うように、ゆっくりと語り始めた。
「かつては、この世界は砂漠で分断されておらず、一つの大きな国家だったといわれている」
「(中略)なぜ砂漠が街を隔ててしまったんでしょうか?」(中略)
「統治者の意思だ」
「統治者とは?」
「この世界を創造した存在だ」
 僕の世界でいう、神のような存在なのだろう。

(また明日へ続きます……)

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三崎亜記『30センチの冒険』その1

2020-02-27 04:28:00 | ノンジャンル
 三崎亜記さんの2018年作品『30センチの冒険』を読みました。以下はあらすじです。

「第一章 砂の導き」

 「お客さん、終点ですよ」
 肩を揺すられて目が覚めた。(中略)バスの中だ。もう乗客は僕一人しかいない。(中略)
 僕は久しぶりに故郷の街に戻っていた。(中略)
乗り過ごしはしたものの、実家の最寄りのバス停は、終点の三つ手前だ。それぐらいなら、歩いても苦にならない。(中略)ゆっくりと、実家の方角に向けて歩きだす。
日曜日の夜だった。(中略)図書館司書である僕にとって、月曜日は公休日だ。明日一日はゆっくりできる。(中略)
ふと疑問が湧く。(中略)今日一日の記憶が、すっぽりと抜け落ちていた。(中略)
 バッグの底に、三十センチの長さのものさしが入っていた。子どもの頃から、肌身離さず持ち歩いているものだ。(中略)何の素材で作られているのかわからない、うっすらとくすみを帯びた白いものさしが、月の光を反射して、僕の顔を照らし出す。(中略)
見覚えのないものが出てきた。色褪せた水色の表紙の本だ。本のタイトルも、著者名も記されていない。裏表紙は一度破れたようで、丁寧に補修されている。(中略)
戸惑いながらも、実家の方角に進む。靴越しに、舗装の上に浮かんだ砂の感触が伝わる。(中略)砂は一歩進むごとに深まり、足をすくう。十メートルも進まないうちに、足首まで埋まってしまった。このままでは身動きが取れなくなってしまう。(中略)
来た道を引き返し、停留所まで戻ることにした。足早に歩く先に、バス停が見えてきた。だが、どうしても近づけない。(中略)
 背筋に寒気を覚えた。交差点の向こうの闇に感じた「何か」が、急激に勢いを強めたのがわかった。(中略)
 必死に走ったが、逃げられそうにない。洪水の中、わずかな高台に取り残されたように、僕は地面にへたり込んだ。(中略)
「だ……、誰か! 助けてくれ!」
 僕自身まで歪んでしまいそうな恐怖に、思わず叫び声を上げた。
「つかまって!」
 突然、女性の声が耳に飛び込んできた。(中略)僕は砂の上にへたり込んだまま、声の聞こえる方に、精一杯手を伸ばした。(中略)どんなに手を伸ばしても、声の主には届きそうもなかった。
「何か、つかまるものを……」
 バッグの中を探った。(中略)
「あった!」
 ものさしだ。たった三十センチだけれど、そんなことを考えている暇はなかった。ものさしをつかむなり、声に向けて差し出した。
 歪みを越えて、女性がぐんと近づいた。(中略)襲撃の気配そのものが物質化したような分厚い大気の層は、しばらく獲物を捜すように上空を行きつ戻りつし、やがて遠ざかった。
「どうやら、行ったみたいね」
「ああ……」(中略)
 彼女は肉食獣に襲われたように身を伏せて警戒を緩めず、「何か」の遠ざかった先を見据えている。横顔からすると、四十代半ばくらいだろうか。(中略)
「ありがとうございます。おかげで助かり……」
「どうしてこんな夜中に、外を出あるいていたの?」(中略)
「今夜が危ないってことは、施政官庁から通達があったでしょう?」
 施政官庁、(中略)……? いったい何を言っているんだろう。
「いや……、すみません。バスを乗り過ごしてしまって……」
 我ながら間抜けな答えだ。その瞬間、彼女は表情を凍らせた。(中略)
「本当に……? 本当に、あなたはバスに乗って来たんだね」
 念押しするように確認する彼女の声は、ひどく重かった。(中略)
「また、アレがこっちに戻って来たりはしないですよね?」(中略)
「今夜はまだ危険だよ。ウロウロしていないで、私の家に来なさい」(中略)
 僕は無理やり彼女の腰に巻きついているロープを握らされた。
「いい? 絶対に手を離しちゃだめよ。いいわね?」
(中略)ロープの端は、集合住宅の玄関口に結わえつけられていた。(中略)
「部屋は、何階ですか?」
「さあ、今日は何階だろうか。千二百階くらいかもしれないね」
 彼女なりの冗談だろうか。千二百階だなんて、階段で上れる高さじゃない。(中略)
 おかしなことに、部屋には窓があった。下から見上げた時には見当たらなかったのに……。(中略)カーテンを開けて何気なく眼下の景色を眺めて、おもわず窓枠を握りしめる。
━━高い……
 月の光におぼろげに照らし出されるのは、確かに三階からの風景だ。それなのに、怖くて長く見ていることができない。何千メートルもの上空から見下ろしている気分になってくる。(中略)
「何も考えずに、今日のところはここで休みなさい。すべては明日、話しましょう」(中略)
「ありがとうございます。ええっと……」
「エナよ」(中略)
「僕は悠里(ゆうり)です。それではエナさん、おやすみなさい」
「しっかり眠るのよ、ユーリ。いいわね?」

(明日へ続きます……)


土方宏史監督『さよならテレビ』

2020-02-26 05:22:00 | ノンジャンル
 土(これに点が入る漢字なのですが、パソコンのプレートでは見つかりませんでした)方宏史監督の2020年作品『さよならテレビ』を、神奈川県厚木市の「アミューあつぎ」の最上階にある映画館「kiki」で観ました。「東海テレビドキュメンタリー劇場第12弾」として撮られた番組に新たな映像を加えてできた映画です。以下、パンフレットの「STORY」を参考にして、あらすじを書くと、

 2016年11月。東海テレビの報道フロアで、一枚の紙が配られた。「ドキュメンタリー企画書『テレビの今』(仮題)」。ディレクターの土方が、自社の報道の現場にカメラを入れ、取材するというのだ。(中略)ニュースデスクたちの机に仕込まれた小さなワイヤレスマイクが、声を拾う。(中略)取材される側の苛立ちがあらわになったころ、報道部長が土方を呼び出した。
 デスクたちが説明を求めて土方に質す。「そもそも何が撮りたいのかわかんない」「取材というのはお互いの同意の上ですべき」…。(中略)
 2か月間の撮影中断を経て、「取り決め」が結ばれた。
・マイクは机に置かない
・打ち合わせの撮影は許可を取る
・放送前に試写を行う
 夕方のニュース番組「みんなのニュースOne」。張り出された視聴率の各局比較表には、東海テレビ=4位の文字。どうしたら数字が伸びるのか、頭を悩ますデスクたち。ある日、唯一数字が伸びたのは“冷凍品特集”だった。「グルメばっかりにしたら、4位から脱出できるね」「でも、それだとニュース番組ではなくなるね」。(中略)
 4月の番組改編で、番組のメインキャスターに抜擢されることになったのは、入社16年目の福島智之アナウンサー(37)。(中略)番組PRの取材に対して、ニュースをただ読むのではなく、観ている人にきちんと伝えること。自分に嘘をつかずに本当に思ったことを伝えることを心がけていると応えた後、「そうしたいけど、なかなかできない」と微妙な笑顔で本音を漏らす。
 社会科見学で東海テレビを訪れた小学生に、報道部長が「報道の使命」をレクチャーする。
1 事件・事故・政治・災害を知らせる
2 困っている人(弱者)を助ける
3 権力を監視する
(中略)
 福島は、自分自身も参加する祭の取材をしながら悩んでいた。自分の地元の祭なので、手前味噌になりはしないかと、取材の現場でグジュグジュ考えている。「こんなに悩んでるキャスターいないよね?」という土方に、「向いてないんですよ」と福島。
 (中略)労働時間削減のため、東海テレビ報道部でも人員の補充が行われることになった。やってきたのは新人記者の渡邊雅之(24)。制作会社からの派遣社員だ。他のテレビ局で2年働いた経験はあるものの、初々しく、たどたどしく、おぼつかない。(中略)
「みんなのニュースOne」の生放送中に誤った映像が流れた。フロアと副調整室は騒然となる。(中略)放送後の反省会で、総括プロデューサーが「“ぴーかん”の時の教訓が活かされてない」と語気を強めた。“ぴーかん”の時とは、2011年8月4日のこと。ローカルワイド番組「ぴーかんテレビ」の生放送中に、誤ったテロップを流し、番組は即日打ち切りになった。その時のキャスターも福島だった。以降、東海テレビは8月4日に「放送倫理を考える全社集会」を行っている。(中略)
 久しぶりに報道フロアが色めき立った。号外と題された視聴率表には「3位」の文字。低迷していた視聴率が、少しずつだが、上昇の兆しをみせていた。(中略)
 2017年8月4日。「放送倫理を考える全社集会」が行われた。6年前の2011年、生放送中の「ぴーかんテレビ」で岩手県産米の当選者発表の際、当選者情報を「怪しいお米」「セシウムさん」「汚染されたお米」と表示するテロップが放送された。考えられないような不適切な表現で、信頼を失った事件。東海テレビには、「マスゴミ」「死ね」といった批判が浴びせられた。カメラの前で謝罪をした福島への誹謗中傷もあった。
 取材対象者への確認不足で、渡邊が取材していた企画が放送直前に無くなった。なんとか形にしなければというプレッシャーと、自分で考えて仕事ができる楽しさのなかで必要な確認を怠ってしまったと渡邊は肩を落とす。「制作会社の契約だし、成果が出せないと1年後終わっちゃうんじゃないかって…」(中略)
 2018年。「みんなのニュースOne」の視聴率は落ち込んでいた。次のクールでメインキャスターが交代することが決まった。福島は降板。そして、契約の渡邊も、3月末で終了、「卒業」が決まった。(中略)
 新しい春、福島は街の探訪をする番組を担当することになり、渡邊は大阪テレビにその活躍の場を移していた。しかし、福島は土方に「そんなハッピーエンドでいいんですか?」と問うのだった。

 メディアの目的の3つを実現したいと思う一方で、視聴率に左右される報道の現場を描いた、とても優れた映画だと思いました。必見です!!

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山田宏一『ハワード・ホークス映画読本』

2020-02-25 04:53:00 | ノンジャンル
 昨日はミシェル・ルグランの誕生日でした。私の母と同い歳で、昨年享年87歳で亡くなられましたが、彼がジャック・ドゥミと作り上げた数々の名曲を私たちはいつまでも忘れません。

 さて、山田宏一さんの2016年作品『ハワード・ホークス映画読本』を読みました。「あとがきに代えて 映画的な、あまりに映画的な━━━To the happy few」を転載させていただくと、

「今年(2016年)はハワード・ホークス生誕百二十年にあたるということもあって、これまで(1970年代の半ばから)機会があるごとにいろいろな媒体にハワード・ホークスの映画について私なりの想いを綴ってきた文章を中心に集めてみました。このような形にまとまったのは、ひとえに本書の企画者であり編集者でもある国書刊行会の樽本周馬氏のお力添えによるものです。同じ映画、同じスター、同じシーン、同じ身振り、同じせりふなどを思い出とともに(というよりも体験的に)何度もくりかえし、しつこく語ったり書いたりしているのは、それだけ私の想いがそこにこめられているからです。映画ならではのおもしろさが忘れられず、味わい深く何度も何度も、反芻という表現を使いたいくらい、よみがえりつづけるのです。
 そもそも、映画ファンというのは、夜ごと同じお伽噺を聞かせてくれないとむずかって寝ない子供のようなもので、語り手がたとえば結末を切り上げたり、些細なエピソードをはしょったりすると、そこは違う、あの話がないといって、それまで何度も聞いて知りつくしているはずの物語を同じようにくりかえし、くりかえし聞きたがるものなのです。そんな単純で気難しい(子供っぽいと言われてもしかたがない)映画ファンをたちまちとりこにして心地よく安らかに眠りに就かせて明日に向かって生きる気力を与えてくれる夢を━━たとえ悪夢でも━━みさせてくれた三大巨匠が、私にとっては、マキノ雅弘とアルフレッド・ヒッチコックとハワード・ホークスなのです。「映画はおもろなきゃあかんでえ」というのが口癖だったマキノ監督、「お伽噺のように何度も何度も語られて誰もが知っている」物語を映画に撮りつづけただけというヒッチコック監督、そして「自分もたのしみ、人もたのしませるために」のみ映画を撮りつづけたというホークス監督。いずれも同じ夢を━━映画ファンの夢を━━最後まで継続させ、ふくらませてくれたリメーク、リピート、くりかえしの名手です。そして、それは映画的な、あまりに映画的なおもしろさなのです。そんな想いを共有できる幸福な少数者に本書を捧げます。」

 次に目次を写させていただくと……

第一章 ハワード・ホークスあるいは一目瞭然の映画
 1、「レッド・リヴァーD」のバックル、そして友情はつづく
   ━━『赤い河』『果てしなき蒼空』
 2、プロフェッショナルの友情集団
   ━━「リオ・ブラボー三部作」(『リオ・ブラボー』
      『エル・ドラド』『リオ・ロボ』)、
     『ハタリ!』
 3、友情と戦場━━『永遠の戦場』『今日限りの命』

第二章 ハワード・ホークスあるいは映画のたのしみ
 1、男女逆転、退行、倒錯、ハワード・ホークス的スクリューボール・コメディー
   ━━『特急二十世紀』『モンキー・ビジネス』
     『ヒズ・ガール・フライデー』
 2、ハワード・ホークス的クレイジー・ジャグ
   ━━『赤ちゃん教育』『僕は戦争花嫁』

第三章 ハワード・ホークスあるいは映画的美女群
 1、ローレン・バコールとハワード・ホークス的「夢の女(ドリーム・ガール)」
   ━━『三つ数えろ』『コンドル』『男性の好きなスポーツ』
 2、ハワード・ホークスとともに━━ローレン・バコール『私一人』より
第四章 ハワード・ホークスあるいは永遠の映画
 1、ハワード・ホークス映画祭に向かって、この十二本
   ━━『無花果の葉』『雲晴れて愛は輝く』『ファジル』
     『暁の偵察』『光に叛く者』
     『暗黒街の顔役』『群衆の喚呼』『虎鮫(タイガーシャーク)』
     『ヨーク軍曹』『教授と美女』『空軍』『ピラミッド』
 2、ルイズ・ブルックスのような女━━『港々に女あり』
 3、男の花道━━『バーバリ・コースト』
 4、飛行士の制服で━━『無限の青空』
 5、やさしく愛して━━『大自然の凱歌』
 6、ジャズの誕生━━『ヒット・パレード』
 7、SFか ホラーか━━『遊星よりの物体X』
 8、マリリンの結婚哲学『紳士は金髪がお好き』

そこに映画だけがある━━ハワード・ホークス讃 対談/蓮實重彦

ハワード・ホークス 略歴と作品

あとがきに代えて 映画的な、あまりに映画的な━━To the happy few

 となります。

 山田さんはこの本を出すことによって、ご自身が認める映画の三大巨匠、マキノ雅弘、ヒッチコック、ホークスに対して、それぞれ『映画渡世』『ヒッチコック映画読本』・『ハワード・ホークス映画読本』と1冊ずつの本を捧げることになりました。とにかく映画的興奮にあふれた、映画ファン必読の書です。

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