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ポール・オースター『幻影の書』

2009-05-08 14:59:00 | ノンジャンル
 ポール・オースターの'02年作品「幻影の書」を読みました。
 飛行機事故で妻と2人の子供を失った主人公は、失意のどん底にいる時にたまたま見たサイレント映画の喜劇で笑いを取り戻し、その映画の作者であるヘクターについての本を刊行します。60年前に突然失踪し、もう死んでいると思われていたヘクターの妻から手紙が届き、ヘクターが会いたがっていると言ってきますが、主人公は本気にしません。やがて、ヘクター作品の撮影監督の娘アルマが、ヘクターが危篤なのですぐに会いに来てほしいとやって来て、主人公たちはヘクターの元に向かいます。ヘクターとの会見の直後、ヘクターは急死し、主人公はヘクターの未見の映画を一つ見られただけで、ヘクターの全作品は彼の遺言により燃やされてしまいます。主人公は自宅に戻りますが、その後、アルマが書いていたヘクターの伝記を、ヘクターの妻が燃やしてしまったことにより、アルマはその妻を殺して自殺します。アルマを埋葬した主人公は、アルマが生前にヘクターの映画を隠していたことを確信し、それが発見されるのを心の糧にして生きていくのでした。
 「誰もが彼のことを死んだものを思っていた。彼の映画をめぐる私の研究書が出版された一九八八年の時点で、ヘクター・マンはほぼ六十年消息が絶えていた。」というい書き出しから、最後までずっとわくわくさせられどうしでした。描写の的確さ、ストーリーの面白さ、時にやや饒舌になる感があるにもかかわらず、久しぶりに最後まで読むことができる小説と出会えました。関心したのは映画をまるごと描写するその力で、ヘクターの邸宅で見る映画については、カット割りからカメラの動きまで正確に描写されていて、その映画自体も魅力的なものでした。読書が好きな方には、文句無しにオススメです。なお、詳しいあらすじについては、私のサイト(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto )→「Favorite Novels」→「ポール・オースター」のところに掲載しておきましたので、興味のある方は是非ご覧ください。