gooブログはじめました!

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

斎藤美奈子さんのコラム・その75&前川喜平さんのコラム・その36

2021-01-31 14:56:00 | ノンジャンル
 恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されている前川喜平さんのコラム。

 まず去年の1月27日に掲載された「杖の使い方」と題された斎藤さんのコラムを全文転載させていただくと、
「毎日午後三時に発表される東京都の新規陽性者数を一喜一憂しながら見ている人は多いと思う。そんな数字は目安にすぎぬといわれても、増えればショックを覚え、減れば少しほっとする。
 しかし、それ以上に衝撃的だったのは、警察庁が発表した「感染後、病院に入院せずに死亡した人」の数である。全国でじつに百九十七人。PCR検査などで感染が確認された後、自宅や高齢者施設、宿泊療養施設などにいた人が五十九人。死亡後の検査で感染が確認された人が百三十八人。医療体制が整っていたら救えたかもしれない人たちだ。しかもそのうちの三分の二は十二月と一月に集中している。
 もうひとつは大阪府の死者数である。東京都の死者数は累計七百九十六人。大阪府はそれより多い全国最多の八百四十三人(二十五日現在)。大阪府の死者数が東京を抜いたのは十四日だ。
 こうなると、第三波が来る前の昨年の行状がやはり気になる。GoTo事業にウツツをぬかしていた政府。大阪府構想をめぐる住民投票なんかをやっていた大阪府。
 転ばぬ先の杖(つえ)どころか転ばすための杖を差し出していたとしか思えぬリーダー。で、その人たちが今度はワクチンという魔法の杖に頼ろうとしているらしい。だが、魔法の杖も運用次第だ。ほんとにそれをちゃんと扱えるのか。きわめてあやしい。」

 また、1月24日に「核兵器禁止条約の発効」と題された前川さんのコラム。
「二十二日、核兵器の開発、保有、使用を国際法上違法化する核兵器禁止条約が発効した。未来の世界史の教科書に必ずや記載される出来事だ。
 悲しいことに、唯一の戦争被爆国日本は条約に反対し、条約交渉会議にすら参加しなかった。空席には「WISH YOU WERE HERE(あなたにいてほしかった)」と書かれた折り鶴が置かれていた。二十二日の参議院本会議でも、菅首相は「当条約に署名する考えはない」と言い切った。それは無法者の仲間でいたいということにほかならない。
 米国の核抑止力が日本の安全保障に必要だという「現実論」が根強く存在する。しかし米国が日本のために核兵器が使うという想定こそ非現実的だ。理想を求める人々の方が、むしろ現実を直視し、一歩一歩進もうとする。1975年生物兵器禁止条約発効。97年化学兵器禁止条約発効。99年対人地雷禁止条約発効。2010年クラスター弾禁止条約発効。非人道的兵器を禁止する国際法の進化は、人類の理想への歩みだ。
 「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則。佐藤栄作元首相は、この政策によりノーベル平和賞を受賞したが、それは彼の業績ではない。人々の切なる願いが彼にそうさせたのだ。ならばもう一度、政治を動かそう、今度は核兵器の禁止に向かって。」

 そして、1月31日に「あの学長とこの学長」と題された前川さんのコラム。
「旭川医大の吉田晃敏学長は昨年十一月、クラスターが発生した吉田病院からのコロナ患者の受け入れを拒否し、派遣していた非常勤医を一斉に引き揚げたという。同大の古川博之病院長は患者を受け入れようとし、吉田学長は「受け入れてもいいがその代わりお前がやめろ」と言ったという。彼は学内会議で「コロナをなくすためにはあの病院が完全になくなるしかない」などとも発言。10月25日には学内情報の外部漏洩(ろうえい)などの理由で古川病院長を解任した。
 旭川医大のこの状況は旭川市民及び周辺住民の不幸である。学長の責任は厳しく問うべきだ。
 一方、東京歯科大学の田中雄二郎学長は、昨年三月以来「世のため人のためやるしかない」と、延べ約千六百人のコロナ患者を受け入れてきた。丁寧に情報供給をしつつ「力を合わせて患者さんと仲間をコロナから守ろう」「試行錯誤を大事にしよう」「責めるより応援しよう」と呼びかけ、職員の心を一つにしてきた。「コロナ基金」には、すでに一億二千万円が集まった。他の病院との信頼関係も築いた。田中学長の人徳によるものだ。彼のホームページで卒業生らのメッセージを読むと、彼がいかに慕われているかが分かる。
 東京医科歯科大学に田中学長がいることは、東京都民の僥倖(ぎょうこう)である。こういう友を持つことは、僕の喜びである。」

 どれも一読に値する文章だと思いました。

斎藤美奈子さんのコラム・その74&前川喜平さんのコラム・その35

2021-01-29 22:41:00 | ノンジャンル
 恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されている前川喜平さんのコラム。

 まず去年の1月13日に掲載された「撃ちてし止まん」と題された斎藤さんのコラムを全文転載させていただくと、
「東京オリンピック・パラリンピックをめぐる関係者の談話は、先の戦争末期を連想させる。
 「東京大会を開催することにゆるぎない決意を持っている」(山下泰裕JOC会長)。「人類がコロナに打ち勝って東京大会を実現することは組織委員会の使命」(森喜朗組織委員長)。「自民党として開催促進の決議をしてもいいくらいだ」(二階俊博自民党幹事長)。「ウイルスとの闘いに打ち勝つ証しを刻んでいきたい」(小池百合子都知事)。「人類がウイルスに打ち勝った証しとして東京で開催する決意だ」(菅義偉首相)
 撃ちてし止(や)まん。ウイルスに打ち勝つ。精神論が先行するのは負けが込んできた証拠である
 冷静なのはむしろ市民だ。九日・十日のJNNの世論調査では、東京五輪を開催できると思うかという問いに81%が「できるとは思わない」と答えた。同日の共同通信の調査でも「中止すべきだ」と「再延期すべきだ」の合計が80.1%だ。
 昨年来の停滞ムードを払拭(ふっしょく)すべく、組織委は開催促進の宣伝を四日からはじめたが、気の毒なことに、このキャンペーンに起用された百田賢斗選手に陽性反応が出て、日本代表は遠征を断念した、
 特攻精神で五輪に突入する気だろうか。ワクチンというカミカゼ頼みの五輪大本営。原爆が落ちる前に中止を決断すべきだよ。」

 また、1月10日に掲載された「全国高校ラグビー」と題された前川さんのコラム。
「九日桐蔭学園の優勝で幕を閉じた全国高校ラグビー。僕が内心応援したチームが二つあった。
 御所実業を応援したのは、御所が僕の生まれ育った地だから。御所実業は昨年、決勝で桐蔭に敗れた。今年は準々決勝で同じ桐蔭に敗れ、雪辱を果たせなかった。
 大阪朝鮮は、過去に二回、準決勝で桐蔭に敗れている。そして今年も準決勝で桐蔭と対戦。フォワードの平均体重で百キロ対九十一キロという重量差があったが、魂のタックルで桐蔭の猛攻を阻み、モールで押し込んでトライ。前半は12対12と互角に戦ったが、後半は得点できず、こちらも雪辱はならなかった。
 百人を超える部員を擁する桐蔭に対し、大阪朝鮮の部員は三十九人しかいない。学校全体の生徒数が、二十年前の約六百人から、二百十人にまで減っているためだ。
 生徒数減少の大きな原因は、保護者の授業料負担の重さだ。それは国や大阪府の財政支援がないためだ。大阪府の補助金は2012年度に橋下徹知事が打ち切った。第二次安倍政権は、高校無償制から朝鮮学校を排除した。無償制適用を求め国を訴えた裁判は、地裁で勝訴したが、高裁で逆転敗訴。一昨年八月に最高裁で敗訴が確定した。
 あの素晴らしい試合を繰り広げた大阪朝鮮高校の生徒たちは、国と大阪府による不条理な差別とも戦っているのだ。」

 そして、1月17日に掲載された「罰したがる人たち」と題された前川さんのコラム。
「政府の新型コロナ対策法案。一つの柱は、入院勧告に従わない感染者に刑事罰(一年以下の懲役又は百万円以下の罰金)を科す感染症法改正だ。
 居住・移転の自由を制限する根拠となる公共の福祉は、厳密に考えなければならない。感染拡大防止にこの罰則が必要という立法事実が存在するとは思えない。そもそも、感染者が入院できない状況の中で、こんな改正を考える神経を疑う。
 百三十六の学会からなる日本医学会連合の緊急声明は「感染者個人に責任を負わせることは、倫理的に受け入れがたい」と述べ、「罰則を恐れて検査を受けなかったり検査結果を隠したりする恐れがあり、感染防止がかえって困難になる」と指摘している。この罰則案は撤回するべきだ。
 もう一つの柱は、休業や時短の命令に従わない事業者に行政罰(過料)を科す特措法改正だ。
 営業の自由の制限にも十分な根拠が必要だし、制限に見合った補償が必要だ。現在緊急事態宣言下の知事は、一日六万円の協力金で時短を要請しているが、もしこの程度の補償で休業を命令し違反者を罰したら、憲法違反で訴えられるだろう。
 国にも地方にも、罰したがる人たちが多すぎる。科学的根拠のある方策をとり、それを誠実に説明し、必要な財政支援を行えば、罰則などなくても、人々はおのずから行動するだろう。」

 どれも一読に値する文章だと思いました。

斎藤美奈子さんのコラム・その73&前川喜平さんのコラム・その34

2021-01-06 18:47:00 | ノンジャンル
 恒例となった、東京新聞の水曜日に掲載されている斎藤美奈子さんのコラムと、同じく日曜日に掲載されている前川喜平さんのコラム。

 まず去年の12月30日に掲載された「言い訳の仕方」と題された斎藤さんのコラムを全文転載させていただくと、
「誰しも失敗はするし失敗したら言い訳をしたくなる。そんな時、役に立つ年末の言い訳集。
 会食とは食事をしながら会話を楽しむ集まりのこと。だが五人以上の会食は控えよとのお達しが出ている今、会食もなかなかままならない。そこで使えるこの一言。
 「会食などはしていない。ただそこで、その時間に出会っただけ」(二階俊博自民党幹事長)
 たまたま場所がステーキ屋で、八人でも九人でも、たまたま出会ったふりをする。配偶者や恋人に対する浮氣の言い訳にも応用可能。「密会ではない。ただそこで、その時間に出会っただけ」。相手の失笑を買いたい方はぜひどうぞ。会食についてはこんな言い訳も。
 「会食ではなく『自由参加の食事』」(埼玉県議会の自民党県議)
 「コロナ禍で苦しい旅館を助けるために中止しなかった」(愛知県西尾市の市議会議員)
 現金の授受を追及された人も言い訳してたね。
 「現金は配布したが、買収の意図はない」(河井克行元法相)
 「確かに受け取ったが、賄賂性はない」(吉川貴盛農相)
 行為は認めるが、熟語は拒絶する。このはぐらかし方の原典はこちら。
 「幅広く募ってはいたが、募集はしていない」(安倍晋三前首相)
 そして今年もバカバカしく暮れてゆく。来年はもう少しマシな言葉を聞きたい。」

 そして、1月6日に掲載された「旧著も新著も」と題された斎藤さんのコラム。
「はからずもカミュ『ペスト』がベストセラーになった2020年。が、感染症文学の旧著は内外ともに意外に多い。
 17年の直木賞候補になった澤田瞳子(とうこ)『火定(かじょう)』(PHP文芸文庫)は奈良時代の天然痘の流行(737年)をモチーフにした歴史医療小説だ。
 遣新羅使から都全体に広がったと噂(うわさ)される、高熱と疱疹(ほうしん)をともなう謎の病。物語は、貧しい人々の救済施設・施薬院と悲田院を主な舞台に進行する。なすすべもなく死んでゆく人々を前に施薬院のベテラン医師は官人の病院・典薬寮に応援を要請するも、官の対応は冷たかった。恐怖にかられた人々の憎悪はやがて外国人狩りに向かう。
 一方、11年に刊行された海堂尊『ナニワ・モンスター』(新潮文庫)の舞台は09年。浪速府で見つかった「新型インフルエンザ・キャメル」が巻き起こす騒動を描いている。キャメルは致死率の低い弱毒性のウイルスだったが、報道が過熱し、浪速府は経済封鎖に追い込まれる。はたしてその背後には霞が関の陰謀が渦巻いていた。
 どんな感染症文学も今読むと身にしみることしきり。20年7月に刊行された海堂尊『コロナ黙示録』(宝島社)では、昨年冬の北海道とクルーズ船「ダイヤモンド・ダスト号」への対応をめぐって「安保政権」が徹底的に揶揄(やゆ)される。政府の無策が招く悲劇。さて現実は……。」

 また、1月3日に掲載された「今年こそは」と題された前川さんのコラム。
「思えば悪夢の八年だった。時代を八十年も昔に戻そうとする人たちが政治権力を握り、学校に教育勅語を持ちこもうとしたり、自己抑制や自己犠牲、全体への奉仕や親と祖父母への敬愛を押しつける道徳教育を教科化したり、大日本帝国の侵略戦争や植民地支配や人道に反する残虐行為をなかったことにする歴史教育を推進したりした。
 権力者は国政を私物化し、官僚組織は権力者の下僕になり下がり、戦争放棄、罪刑法定主義、国民の知る権利、表現の自由、学問の自由、三権分立といった憲法原則に反する政治がまかり通った。首相が数え切れない虚偽答弁を行い、それを覆い隠すために官僚も虚偽答弁をした。あったことをなかったことにする文書の改竄(かいざん)や放棄、黒を白と言いくるめる詭弁(きべん)も横行した。
 新型コロナウイルスに対しては、科学的根拠のない場当たり的な対策が続き、アベノマスクに何百億円もの税金が無駄遣いされ、全国一斉休校が子どもたちに災難を与え、GoToキャンペーンの中で第三波の感染爆発を招いた。失業者、廃業者、路上生活者、自殺者が増え続けているのに株価だけは上がる異常さ。
 これが悪夢でなくて何だろう。今年こそは、この悪夢を振り払い、真っ当な政治、真っ当な生活を取り戻す年にしたい。みんながそうしたいと思えば、そうなる。」

 どの文章も説得力のある文章だと思います。

 →「Nature Life」(表紙が重いので、最初に開く際には表示されるまで少し時間がかかるかもしれません(^^;))(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(名前を入れて、FACEBOOKに登録しておけば、ご覧になれます)(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135

ジャン・ヴィゴ監督『アタラント号』その5

2021-01-02 07:42:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

 外出する花嫁。
 ジャン、花嫁がいないのに気づく。外出着も消えている。
 路面電車に乗る花嫁。
「わかったな? 出港だ」「予定では二日後だ」「決めるのは俺だ。(中略)女房が出ていった」(中略)「どこへ?」「知りたくもない。ここを離れたい」「すぐまた帰ってくるさ。1時間後か明日には…」「明日! 5分後でも御免だ」「少しは休ませろ。休暇は2日間だ。2日したら、捜しに行こう」「捜すだけムダだ。命令は俺が出す。甲板に来い。コルベイユに向かうぞ」。
 走る路面電車。
 無人のベッド。
 ネックレスのショーウィンドウを見る花嫁。
 進むアタラント号。
 動く人形のショーウィンドウを見る花嫁。
 ドレスのショーウィンドウを見る花嫁。
 舵を取るジャン。
 5時33分を示す時計。腕時計も見る花嫁。
 橋の下を進むアタラント号。
 アタラント号が消えた場所での花嫁、歩き回る。(中略)
 進むアタラント号。(中略)
ジャン、バケツの水に首を入れる。ネコを抱いてる親爺。つばを吐く親爺。「イカれたな。これが動きゃ気晴らしになるんだが…。直ったと思ったがね。また修理するか。レコードを手で回すと音楽。少年がアコーディオンを演奏していた」「何だよ。面白いか。指よりいい音を出す機械があるぞ。電気を使うんだ。電気を知っとるか? それじゃ無線電信は? 説明できるか? 話にならん。少しは勉強しろ。よし。油差しは? こんなバネは何の役にも立たん」。蓄音機、直る。「回ってる。動いたぞ。船長を呼んで来い。さてと、ちゃんと動いとる」。
 ジャン、川に飛び込む。水中で回転するジャン。
「船長が川に落ちた」「落ちた?」「落ちたんだよ」(中略)。
 水中のジャン。花嫁の姿が見える。(中略)
 縄を使って船に戻るジャン。
「泳げるから溺れんだろう。驚かさないでくれ。さあ、服を着替えて」。
 蓄音機の周りに多数のネコ。
ジャンに「レコードを聴け。蓄音機だ。最新の発明だぞ」。
 蓄音機を持った少年とジャンと親爺。座って音楽を聴く。突然走り出すジャン。
 船を探す花嫁。
 進むアタラント号と、そこに直立するジャン。
 花嫁。
 ジャン。
 ベッドの上のジャン。
 ベッドの上の花嫁、布団に入る。その姿に寝苦しく眠るジャンの姿が二重露出される。
 ジャン、起きる。
「着いたぞ」「ル・アーヴルだ」「船長、着きましたよ」「変だぞ」「どこへ行く?」。
 ジャン、桟橋を走り、階段を降りて、浜へ。戻るジャン。
 ジャン「酔いどれめ」親爺「酔いどれだと? 殴られたいか?(中略)会社へ報告に行くのに、このザマか。呼出し状が来た。誰が説明する? わしだな? 全部あの女のせいだ」。(中略)
「アタラント号の船長は?」「一人に構っとれん。来たな。船長は外で待ってろ。副長だけだ。一人だけ入れ。ドアを閉めろ。わしは忙しいんだ」。(中略)「船長は任務を遂行しとるかね? 報告書に載っていることは冗談か?」「でもないが、下らん話だ」「君は船長をかばう気か? きっと高くつくぞ。別の会社でも同じことをしたな」「よくわかってますよ(中略)」「ごまかすな。船長はきちんと統率したか?」「ほかに誰がいます? わしはその資格がないし、まして小僧じゃ簡単に船は動かせない、とは言ってもまあ…何と言うか…きちんとやってました。早く言えば揚げ足取りですな」「よし後は役目だ。わしには他の船のこともある。船長と話し合え」「役目ですか。いいですとも。じゃあ、さいなら」(中略)「考えられん。バカにするな。こんな報告書はクズ同然だ(中略)。」
 浜辺を歩くジャンと親爺。
「危うく船長が密告されるところだった。もうごまかせないぞ。奥さんを捜しだそう」「捜しに行くの?」「そうだ、奥さんを捜し出す。船長の顔を見たろ。必ず連れ戻してくる」「今すぐ?」「巴里祭まで待てるか?」
 前方をにらみつけるジャン。
 橋を渡る親爺。音楽。ベンチに座る親爺。ホテルをめぐる親爺。
 花嫁、レコード屋で“最新ヒット「船乗りの歌」”を試聴する。「船の上じゃサボれない♪働かなくちゃ♪舟遊びじゃない、船を走らせるんだ♪俺たちケツで舵取るいかつい男♪美人の笑顔と声が俺たちを呼ぶ♪」。親爺、花嫁に帽子を脱いでお辞儀し、話しかけ、抱き上げ、肩に担ぐ。
「親爺さんが捜しに?」「居場所を知ってる」「本当か? 連れて帰るのか?」「うん」「水をくれ」「くんでくる」「急げ、こぼすなよ」「かける?」「頭から、さあ」
 アタラント号。
 見張る少年。
 髭剃りをするジャン。
「来た! 一緒だ。戻ったよ。親爺さんと奥さんだ!」。
 身だしなみを整えるジャン。
 船内に降りていく花嫁。蓋を閉じる親爺。
 近づくジャン。近づく花嫁。後ずさるジャン。抱き合い、その場で横になる二人。キスする二人。
 進むアタラント号を空撮で。“リュス・ヴィゴに”の字幕で映画は終わる。

 今回見るのは3,4回目なのですが、やはり文句なしに傑作です。

 →「Nature Life」(表紙が重いので、最初に開く際には表示されるまで少し時間がかかるかもしれません(^^;))(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(名前を入れて、FACEBOOKに登録しておけば、ご覧になれます)(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135

ジャン・ヴィゴ監督『アタラント号』その4

2021-01-01 07:49:00 | ノンジャンル
 また昨日の続きです。

 眠っているジャン。花嫁、隣に寝る。ジャン「君か? よかった。君が離れてく夢を見たんだ。怖かった。体が冷えてるね」。(中略)。ノック。「みんな起きろ!」「親爺さんか?」「パリよ♪時には安っぽく時には恋人の街♪悪党どもの好色街♪ベテン師どもの愛する街♪お前の“とりこ”になっちまう♪」。灯りをつけてジャン、「色男め」親爺「寝るよ」。歌い続ける親爺。(中略)。「また親爺さんが酔っぱらった」。親爺をベッドへ運ぶジャン。「街に出ると必ずこの調子だ。長居をしない方がいいな。起きたついでに出港だ」。ジャンと少年で水門を開ける。(中略)。
 ジャン「怒ってる?」花嫁「いいえ、なぜ?」「せっかくパリに来たのにこの騒ぎだ」「慣れたわ」「今度来る時は楽しく過ごそう。エッフェル塔へ海抜300メートルだ」「あら、そう」「信じろよ。コルベイユの手前に、いい店がある。明日、そのダンスホールに連れてくよ」。
 出かける二人。自転車の荷台の上には“女性もの満載”と書かれたカバン。楽しそうに歩く二人。店に入る二人。ダンスをする客。「ようこそ、いらっしゃいました。まさにこれから宴の始まり。今からお配りするのは大公妃も食べたというビスケットです。おや、小鳥とご一緒に?」。ジャンの帽子の中から小鳥が出てくる。行商人「このスカーフは?」「もっと上物もあります。万能ハンカチはいかがですか? 伸びない、錆びない。流行とは無縁の必需品。どこにでも入られる。消えた」。手を指して「そこに」「魔法の粉をかけると、まだここにあるでしょうか? ところが消えました。次はよく見てください。カードさばきをご覧あれ。1枚引いて。どれでも結構。当てましょう。お好きなところへ。そこでいいですね。スペードの4でしょ。ほら。飛び出した。いかがです? では次に肩ひもはどうです? 要りません? ストッキングは? 要らない? ほんとに? それは残念。では失礼」「ご注文は?」「ワインとビール」「来たぞ」。
「おいらはパリから♪きれいだよ。君の悩みをなくすため♪そちらも美男子。遠く離れた田舎町へ♪とりわけ君は美人だ。ナフタリンの香りがする♪おいらの愛はしけたもの♪旦那に“くじ”を売り♪奥方にはレースやきれいな絵葉書♪見るだけならタダだよ♪クジラや家もある♪子供には雪の像も♪おいらは街の行商人♪見るのはタダさ♪でも買わないと眠るとき後悔するよ♪家庭円満の品ばかり♪でたらめじゃない♪光り輝くナイフなら、いつでも錆びつかない♪取れないボタンや特価品の宝石でいつまでも楽しい生活を♪おいらは流行を運ぶ男♪すべてパリの品ばかり♪」店主「またあの行商人が来てるんだな。逃げる気か? 追い出してやる」「帰りの支度が。待ってろ」。品物をカバンに詰め込む行商人と店主。
「ほしい?」「30……いや20フランだ。20フラン。女性の場合、ダンス付きでね」。行商人、花嫁とダンスを始める。
 行商人「パリへは?」「一度も。街を見たことないの」「信じられん」「小銭を入れて。急いでくれ。早く。始まるよ。どうも」。「ほんとに行ったことないの? すごいよ。いろんな物や仲間を教えてあげる」。面白くないジャン。席を立ち、行商人と替わる。「スカーフを買ったろ? 現金払いだ。カネを払ってくれ」。行商人を押し倒すジャン。踊り出す行商人。店主が押し倒す。
 店を出る二人。
 行商人の自転車。(中略)
 昼。チンドン屋をする行商人。
 「来ないの?」「行くなら二人で行け」
 行商人「君への謝罪と楽器でお別れをしに来た」。トロンボーンを吹く行商人。「それと君のスカーフだ。忘れてったろ?」「ありがとう」「きれいだろ? パリの品だ。今夜パリに戻る。一緒に行こうよ。決めたね。急いで行こう。本気さ。ここじゃ病気になる。自転車で行けば、すぐに帰って来られる。パリはにぎやかで、どの建物も光に満ちている。パリっ子が乗る自転車。パイク。最新型の自動車。すごいぞ。シャンゼリゼにチュチルリーム公園、ノートルダム。異議のある方は? 決まった。異議はありませんね?」。ジャンに尻を蹴られる。「あるようだ」。堤防から落とすジャン。「水知らずで楽しむがいい」。逃げていく行商人。甲板を往復するジャン。
 タバコを吸いながら甲板を往復するジャン。「きれいだろ? これがパリの品だよ」「なぜ甲板にいた? あんな与太者と話して! パリに行くのは取りやめだ」。
「今夜一緒にパリに行こう。決めたね。連れてってあげる。1時間で戻って来られる。決まった。異議ある方は? ありませんね」(中略)。
 ジャンに背中を向けて寝る花嫁。ジャン、出て行く。
 親爺「1,2,3,4,5、クイーンか。1,2,3,4,5、またスペード。1,2,3,4,5、信じられん。よく切れてない。スペードだらけだ」。眠る少年の上にネコが飛び降りる。

(また明日へ続きます……)

 →「Nature Life」(表紙が重いので、最初に開く際には表示されるまで少し時間がかかるかもしれません(^^;))(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto

 →FACEBOOK(名前を入れて、FACEBOOKに登録しておけば、ご覧になれます)(https://www.facebook.com/profile.php?id=100005952271135