朝日新聞の特集記事で紹介されていた、いとうせいこうさんの'13年作品『想像ラジオ』を読みました。
東日本大震災による津波で高い杉の木の天辺近くに引っ掛かり死んだ30代の男性が妻と幼い息子に呼びかけて始まったラジオ放送が1、3、5章に書かれ、2章にはその男性が津波に押し流されていくのを見た女性の話が、4章にはその男性と妻との会話が書かれています。
第一章の書き出しを引用させていただくと、
「こんばんは。
あるいはおはよう。
もしくはこんにちは。
想像ラジオです。
こういうある種アイマイな挨拶から始まるのも、この番組は昼夜を問わずあなたの想像力の中だけオンエアされるからで、月が銀色に渋く輝く夜にそのままゴールデンタイムの放送を聴いてもいいし、道路に雪が薄く積もった朝に起きて二日前の夜中の分に、まあそんなものがあればですけど耳を傾けることも出来るし、カンカン照りの昼日中に早朝の僕の爽やかな声を再放送したって全然問題ないからなんですよ。
でもまあ、まるで時間軸がないのもしゃべりにくいんで、一応こちらの時間で言いますと、こんばんは、ただ今草木も眠る深夜二時四十六分です。いやあ、寒い。凍えるほど寒い。ていうかもう凍えてます。赤いヤッケひとつで、降ってくる雪をものともせずに。こんな夜更けに聴いてくれてる方々ありがとう。
申し遅れました。お相手はたとえ上手のおしゃべり屋、DJアーク。もともと苗字にちなんだあだ名だったんだけど、今じゃ事情あって方舟って意味の方のアークがぴったりになってきちゃってます。
そのへんはまたおいおい話すとしてこの想像ラジオ、スポンサーはないし、それどころかラジオ局もスタジオもない。僕はマイクの前にいるわけでもないし、実のところしゃべってもいない。なのになんであなたの耳にこの僕の声が聴こえてるかって言えば、冒頭にお伝えした通り想像力なんですよ。あなたの想像力が電波であり、マイクであり、スタジオであり、電波塔であり、つまり僕の声そのものなんです。
事実、いかがですか、僕の声の調子は? バリトンサックスの一番低い音なみに野太い? それとも海辺の子供の悲鳴みたいに細くて高い? または和紙の表面みたいにカサカサしていたり、溶けたチョコレートなみに滑らかだったり声のキメにも色々あると思いますが、それ皆さん次第なんで一番聴き取りやすい感じにチューニングして下さい。
ただひとつ、僕の声は誰のものとも似てないはず。たとえデビューしたての新人とはいえ、そこはラジオ・パーソナリティの意地として譲れないところ。
てなわけでリスナー諸君、最後までどうぞよろしく。
想ー像ーラジオー。
番組のジングルが高らかに、あるいはしっとりと、もしくは重低音で鳴ったところで、ちなみにヒントを出すと、意外に僕は年齢行ってます。ええと、今年で三十八。もっと若いと思ってました? もしそうならうれしいですね。声に張りがあるってことだから。もうとにかくこの年になると、なんでもポジティブに受け止めていかないと、社会にガンガンへこまされますんでね。あはは。‥‥」
ラジオのDJの部分はこのように飄々としていますが、読むにつれ、段々被災者の悲哀が読み手に切々と伝わって来る小説でした。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)
東日本大震災による津波で高い杉の木の天辺近くに引っ掛かり死んだ30代の男性が妻と幼い息子に呼びかけて始まったラジオ放送が1、3、5章に書かれ、2章にはその男性が津波に押し流されていくのを見た女性の話が、4章にはその男性と妻との会話が書かれています。
第一章の書き出しを引用させていただくと、
「こんばんは。
あるいはおはよう。
もしくはこんにちは。
想像ラジオです。
こういうある種アイマイな挨拶から始まるのも、この番組は昼夜を問わずあなたの想像力の中だけオンエアされるからで、月が銀色に渋く輝く夜にそのままゴールデンタイムの放送を聴いてもいいし、道路に雪が薄く積もった朝に起きて二日前の夜中の分に、まあそんなものがあればですけど耳を傾けることも出来るし、カンカン照りの昼日中に早朝の僕の爽やかな声を再放送したって全然問題ないからなんですよ。
でもまあ、まるで時間軸がないのもしゃべりにくいんで、一応こちらの時間で言いますと、こんばんは、ただ今草木も眠る深夜二時四十六分です。いやあ、寒い。凍えるほど寒い。ていうかもう凍えてます。赤いヤッケひとつで、降ってくる雪をものともせずに。こんな夜更けに聴いてくれてる方々ありがとう。
申し遅れました。お相手はたとえ上手のおしゃべり屋、DJアーク。もともと苗字にちなんだあだ名だったんだけど、今じゃ事情あって方舟って意味の方のアークがぴったりになってきちゃってます。
そのへんはまたおいおい話すとしてこの想像ラジオ、スポンサーはないし、それどころかラジオ局もスタジオもない。僕はマイクの前にいるわけでもないし、実のところしゃべってもいない。なのになんであなたの耳にこの僕の声が聴こえてるかって言えば、冒頭にお伝えした通り想像力なんですよ。あなたの想像力が電波であり、マイクであり、スタジオであり、電波塔であり、つまり僕の声そのものなんです。
事実、いかがですか、僕の声の調子は? バリトンサックスの一番低い音なみに野太い? それとも海辺の子供の悲鳴みたいに細くて高い? または和紙の表面みたいにカサカサしていたり、溶けたチョコレートなみに滑らかだったり声のキメにも色々あると思いますが、それ皆さん次第なんで一番聴き取りやすい感じにチューニングして下さい。
ただひとつ、僕の声は誰のものとも似てないはず。たとえデビューしたての新人とはいえ、そこはラジオ・パーソナリティの意地として譲れないところ。
てなわけでリスナー諸君、最後までどうぞよろしく。
想ー像ーラジオー。
番組のジングルが高らかに、あるいはしっとりと、もしくは重低音で鳴ったところで、ちなみにヒントを出すと、意外に僕は年齢行ってます。ええと、今年で三十八。もっと若いと思ってました? もしそうならうれしいですね。声に張りがあるってことだから。もうとにかくこの年になると、なんでもポジティブに受け止めていかないと、社会にガンガンへこまされますんでね。あはは。‥‥」
ラジオのDJの部分はこのように飄々としていますが、読むにつれ、段々被災者の悲哀が読み手に切々と伝わって来る小説でした。
→Nature Life(http://www.ceres.dti.ne.jp/~m-goto/)