また昨日の続きです。
車を降りて歩く二人。工場の廃墟の床で転げ回って痛がるタツオ。「タツオ!」と駆け寄るエツコ。「エツコ、痛み止めが切れた。もう一本早く。頼む!」「山際君、それは自業自得なんじゃないかなあ。あんなにうまくやっていた関係を踏みにじったのは君だ」。タツオ、やっと立ち上がりふらつきながら鉄パイプを持ち真壁を襲おうとするが、軽くいなされる。「くそ、あの時殺しておけばよかった」「そうだねえ。痛かったよ。僕は君のスコップで力一杯殴られた」「待って! この人を解放するって約束しましたよね。守ってください。その約束」「エツコ、もういい。これは罰だ。自分じゃ何もできない。俺に下された罰だ」。注射するエツコ。「もう大丈夫。エツコ、ごめん。行けるところまで行きたかったんだけど、ここまでみたいだ」「いいわ。もう十分。いろいろやったじゃない。それでここまで来たんじゃない」。タツオの上半身を抱き起すエツコ。その場を離れる真壁。「それが愛か。分かったよ。山際君。今から君を解放する」。右手同士で握手する二人。つかんだままの真壁。ふりほどくタツオ。「何だ? 感覚がおかしい」「言ったろ? それは心の問題だって。君の心のどこかで僕の力を求めている限り、何も変わらない。山際君。死ぬまできっと僕のガイドなんだね。君たちを見ていて愛とは何か大抵見当がついたよ」。真壁、エツコの腕をつかみ、「俺は今、山際君の中に入っている痛み止めみたいなものだ。本当の痛みを忘れ、一時の嘘のやすらぎに浸ることができる。人類の最大の弱点の一つだろう」。タツオ、エツコをかばう。(中略)「僕は心から君に服従する。その代わりに一つ頼みを聞いてくれるか?」「何だ?」「君は外科医だったよな?」「うん」「じゃ、あそこの斧でせめてこの手を切り落としてくれ」「そんなことしても何も変わらないんだけど」「君ならできるだろう? あれで頼む。出血はなるべく抑えてくれ」。エツコ「そんなこと!」「いいんだ」「分かった。やろう。ガイドの望みなら」。タツオ、エツコに小声で「あそこのレバーを引けば落下する。ネジを緩めておいた。手伝って」。二人、レバーを引くが何も起こらない。上を向く真壁。「あ? 山際君、エツコさん、僕ら宇宙人はこんな仕掛けに引っかかりませんよ」。急にワイヤーが回りだし、真壁は巨大な鉄パイプに押しつぶされる。パイプから突き出た真壁の両足。
二人、建物の外へ。右手を左手で触るタツオ。「感覚戻ったの?」「うん」「あー、よかった」「運転できそうだ」「いいよ、私がやる」「いや、大丈夫」。
動き出す巨大パイプの山。真壁現れる。手には斧。
右手を痛がりだすタツオ。「どうしたの?」「右手がまた」「え?」「くそ、真壁はまだ生きてるんだ。薬くれ。だめだ。耐えられない」。もつれあう二人。拳銃が地面に落ちる。「こんなもの持ってたのか。殺してくれ。それで俺を。すぐ楽になれる。簡単だ。頼む。お願い。お願いって言ってんだろ?」「10分だけ待って!」「そんなに待てない」「辛抱して」。駆け出すエツコ。もがき苦しむタツオ。
真壁消えている。拳銃を構えながら先へ進むエツコ。撃鉄を起こす。手前に斧と真壁、奥にエツコの画面。エツコの背後から斧を降り降ろす真壁と、寸でのことでそれを交わすエツコ。「エツコさんですか? 危ないから近づかないでください。僕の心の中は今怒りで一杯なんです」「あたしを殺すの?」「まさか。僕が許せないのは山際君ですよ。片腕だけじゃ済まないだろうな。彼はどこです?」。その場を去ろうとする真壁にエツコは3発の銃弾を撃ち込む。「どうしてです?」。真壁が振り返ったとこへまた3発。「そうか」。巨大な月。「心臓が停まった。もうすぐ脳の機能も停止する。そして僕にも死が訪れる。想像するだけで恐ろしい。人類が共存を願う理由はこれだ。やっと分かった。でもその人類も失敗した。死はいつだってすぐ隣にある。これは運命だ。受け入れよう」。倒れる真壁。拳銃を落とし、コツコツと歩き出すエツコ。手前に目を開けたまま横たわる真壁。
車を背にして座りこんでいるタツオ。歩み寄るタツオの手を両手で包むエツコ。抱き合う二人。上目遣いをする二人。エツコ「聞こえる?」「ああ、聞こえる」「そう、タツオにも」「そろそろ始まるのかなあ」「うん、そろそろ始まる」。涙をこぼすタツオ。すぐに激しい雨が降り出し、二人はずぶ濡れに。エツコの声で「こうして侵略が始まった」と語られ、ドラマは終わる。
カラー化した戦前のフリッツ・ラング映画の画調を思わせる色づかい、『ターミネーター』を思わせる真壁の全能さ、黒沢監督特有の廃墟で戦い、見どころがたくさんあるドラマシリーズでした。
車を降りて歩く二人。工場の廃墟の床で転げ回って痛がるタツオ。「タツオ!」と駆け寄るエツコ。「エツコ、痛み止めが切れた。もう一本早く。頼む!」「山際君、それは自業自得なんじゃないかなあ。あんなにうまくやっていた関係を踏みにじったのは君だ」。タツオ、やっと立ち上がりふらつきながら鉄パイプを持ち真壁を襲おうとするが、軽くいなされる。「くそ、あの時殺しておけばよかった」「そうだねえ。痛かったよ。僕は君のスコップで力一杯殴られた」「待って! この人を解放するって約束しましたよね。守ってください。その約束」「エツコ、もういい。これは罰だ。自分じゃ何もできない。俺に下された罰だ」。注射するエツコ。「もう大丈夫。エツコ、ごめん。行けるところまで行きたかったんだけど、ここまでみたいだ」「いいわ。もう十分。いろいろやったじゃない。それでここまで来たんじゃない」。タツオの上半身を抱き起すエツコ。その場を離れる真壁。「それが愛か。分かったよ。山際君。今から君を解放する」。右手同士で握手する二人。つかんだままの真壁。ふりほどくタツオ。「何だ? 感覚がおかしい」「言ったろ? それは心の問題だって。君の心のどこかで僕の力を求めている限り、何も変わらない。山際君。死ぬまできっと僕のガイドなんだね。君たちを見ていて愛とは何か大抵見当がついたよ」。真壁、エツコの腕をつかみ、「俺は今、山際君の中に入っている痛み止めみたいなものだ。本当の痛みを忘れ、一時の嘘のやすらぎに浸ることができる。人類の最大の弱点の一つだろう」。タツオ、エツコをかばう。(中略)「僕は心から君に服従する。その代わりに一つ頼みを聞いてくれるか?」「何だ?」「君は外科医だったよな?」「うん」「じゃ、あそこの斧でせめてこの手を切り落としてくれ」「そんなことしても何も変わらないんだけど」「君ならできるだろう? あれで頼む。出血はなるべく抑えてくれ」。エツコ「そんなこと!」「いいんだ」「分かった。やろう。ガイドの望みなら」。タツオ、エツコに小声で「あそこのレバーを引けば落下する。ネジを緩めておいた。手伝って」。二人、レバーを引くが何も起こらない。上を向く真壁。「あ? 山際君、エツコさん、僕ら宇宙人はこんな仕掛けに引っかかりませんよ」。急にワイヤーが回りだし、真壁は巨大な鉄パイプに押しつぶされる。パイプから突き出た真壁の両足。
二人、建物の外へ。右手を左手で触るタツオ。「感覚戻ったの?」「うん」「あー、よかった」「運転できそうだ」「いいよ、私がやる」「いや、大丈夫」。
動き出す巨大パイプの山。真壁現れる。手には斧。
右手を痛がりだすタツオ。「どうしたの?」「右手がまた」「え?」「くそ、真壁はまだ生きてるんだ。薬くれ。だめだ。耐えられない」。もつれあう二人。拳銃が地面に落ちる。「こんなもの持ってたのか。殺してくれ。それで俺を。すぐ楽になれる。簡単だ。頼む。お願い。お願いって言ってんだろ?」「10分だけ待って!」「そんなに待てない」「辛抱して」。駆け出すエツコ。もがき苦しむタツオ。
真壁消えている。拳銃を構えながら先へ進むエツコ。撃鉄を起こす。手前に斧と真壁、奥にエツコの画面。エツコの背後から斧を降り降ろす真壁と、寸でのことでそれを交わすエツコ。「エツコさんですか? 危ないから近づかないでください。僕の心の中は今怒りで一杯なんです」「あたしを殺すの?」「まさか。僕が許せないのは山際君ですよ。片腕だけじゃ済まないだろうな。彼はどこです?」。その場を去ろうとする真壁にエツコは3発の銃弾を撃ち込む。「どうしてです?」。真壁が振り返ったとこへまた3発。「そうか」。巨大な月。「心臓が停まった。もうすぐ脳の機能も停止する。そして僕にも死が訪れる。想像するだけで恐ろしい。人類が共存を願う理由はこれだ。やっと分かった。でもその人類も失敗した。死はいつだってすぐ隣にある。これは運命だ。受け入れよう」。倒れる真壁。拳銃を落とし、コツコツと歩き出すエツコ。手前に目を開けたまま横たわる真壁。
車を背にして座りこんでいるタツオ。歩み寄るタツオの手を両手で包むエツコ。抱き合う二人。上目遣いをする二人。エツコ「聞こえる?」「ああ、聞こえる」「そう、タツオにも」「そろそろ始まるのかなあ」「うん、そろそろ始まる」。涙をこぼすタツオ。すぐに激しい雨が降り出し、二人はずぶ濡れに。エツコの声で「こうして侵略が始まった」と語られ、ドラマは終わる。
カラー化した戦前のフリッツ・ラング映画の画調を思わせる色づかい、『ターミネーター』を思わせる真壁の全能さ、黒沢監督特有の廃墟で戦い、見どころがたくさんあるドラマシリーズでした。