海外のニュースより

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「豊かな北と貧困な南。」ティモシー・ガートン・アッシュの近著『自由な世界』より。

2005年06月19日 | 貧困問題と食糧問題
ティモシー・ガートン・アッシュは、現在、オックスフォードのアントニー・カレッジのヨーロッパ研究センターの所長で、スタンフォード大学のフーバー・インスチチューションのシニアフェロー。彼が最近出版した『自由な世界---西欧の危機はなぜわれわれの時代の機会を明らかにするか』と題する本の164ページから173ページまでで「南北問題」に触れた箇所をダイジェストすることにします。
世界を一つの都市だと考えると、21世紀の初めの西欧は、貧しい隣人達や酷いスラムに囲まれた金持ちのコミュニティである。60億人の世界人口の内、約10億人が豊かである。彼らは平均して一日70ドルの収入がある。もちろん、多くの人はそれ以下で、ある人達はそれ以上の収入がある。彼らは主にヨーロッパ、北アメリカ、日本や他の繁栄する国々に住んでいる。発展の地理学においては、自由の西欧は、豊かな「北」の国々である。(もっともオーストラリアは、南半球にあるけれども、「北」の一員である。)貧しい「南」の国々には、10億人の人たちが一日1ドル以下の収入で暮らしている。別の20億人の人達は、一日2ドル以下で暮らしている。国連の統計によれば、1999年から2001年までに8億4千万人の人たちが飢えている。これは、世界中で7人に1人が飢えているということを意味する。同じ時期に、アメリカ人の3分の1は、肥満という重大な健康問題に悩んでいる。南では、食べるものが十分にないために、女や子供が死にかけており、北では、食べ過ぎたために死にかけているのだ。
世界の三人の大富豪ビル・ゲイツ、ウオーレン・バフェット、ポール・アレンの1999年度の年収は、6億人の人口からなる世界でもっとも低開発国のGNP全体を越えている。年間の売り上げが5兆ドル以上の企業が代表されるダヴォスの2001年の世界経済フォーラムにおいて、ゴルドマン・サックスの会長ジョン・ソーントンは、世界のある部分が私的な冨を蓄積した仕方をよく考えると、彼は「殆ど一種の当惑」を感じると言った。「殆ど一種の・・」とは何という言い方だろうか。
 2001年9月11日、ニューヨークとワシントンに対するアルカイダの攻撃で3千人が殺された日に、世界中で予防可能な疾病で3万人の子供が死んだ。そして次の日、その次の次の日にも同じ数の子供が死んだ。2001年だけで推定2,200万人が予防可能な病気で死んだ。1千万人というのは、大ロンドンとM25道路内の郊外の人口に等しく、ミシガン州の人口に等しく、ハンガリーの人口に等しい。死んでゆく子供で一杯のロンドンを想像して頂きたい。次の年は、死んでゆく子供で一杯のミシガン州を、更に死んでいく子供で一杯のハンガリーを想像して頂きたい。
 世界の貧困国の人たちはビデオや映画やテレビで豊かな国々の人たちがどんな暮らしをしているかをかいま見ることができる。以前には、世界は経済成長から由来する世界中の貧困化と取り組むための資源を持っていなかった。記録された歴史の中で、世界の富者が世界の貧者よりもこれほど遥かに豊かであったことはなかった。1820年には、世界の5つの最も豊かな国と5つの最も貧乏な国との格差は、3対1であった。1913年には、11対1であった。1992年にはその比は、72対1になった。この急増するグローバルな不平等の主な原因は、西欧で産業革命とともに始まった前代未聞の経済発展である。
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