杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ただいま~それぞれの居場所

2010-04-25 20:57:48 | 映画

 東京が真冬日に逆戻りしたような先週22日(木)、有楽町のニュートーキョー数寄屋橋本店に取材。こういう陽気の日だと、さすがのニュートーキョーでも生ビールが恋しい気分にはなれず、かえって取材に集中できたかも(苦笑)。もっとも、取材対象は生ビールではなく、静岡県産の馬鈴薯を使ったポテトメニューで、こちらは熱々ホクホクで大変美味でした!

 

 この日は東中野まで足をのばし、ポレポレ東中野で上映中のドキュメンタリー映画『ただいま~それぞれの居場所』を観ました。設立23年になるケア付き福祉施設『元気な亀さん』と、介護保険制度開始以降、介護の本質に真摯にP1000004 向き合う若者が自ら設立した3施設を取材した作品です。

 

 

 どの施設も、他の施設やグループホームで居場所をなくし、追い出されたような利用者を受け入れています。介護保険制度下の画一的なサービスを超えた、利用者一人ひとりのありのままを受け入れる―それを担う20代30代の若者たちの姿が、まず美しい。若者たちと高齢者さんたちのコミュニケーションギャップが、なんとも微笑ましく、観ているうちに、人間とは立場や年齢に関係なくちゃんと向き合えば理解しあえる生き物なのだ、と今更ながら励まされます。

 

 

 テレビドキュメントではおそらく実名や顔にボカシが入るような状態の要介護者を、カメラは真正面からしっかりとらえます。

 少々のことでカッとなる元校長先生(79歳)、徘徊が原因で他施設を追われてきた知的障害の女性(62歳)、マラソン中の心筋梗塞で脳に後遺症を持った男性(58歳)、戦中時のことはよく覚えていても自分の妻の顔を思い出せない男性(80歳)、スタッフが「最期までお世話をしたい」と希望し、病院から施設へ戻ってきた女性(68歳)など・・・。そしてスタッフの若者の何人かは、自分の家族の介護問題を経験しているので、我が事のように向き合います。

 

 

 それぞれの日常を淡々と、それでも随所に深く考えさせられるメッセージをちりばめながら、観終わった後は清々しい余韻が残ります。

 

 「本当に素敵な人たち。でも周りの環境が悪ければ、うまく生きられないかもしれない」

 「苦手な人にもみんな同じように優しくしようとしなくていい。そのかわり情がわいたお年寄りには徹底的にしてあげなさい。そのほうがみんな力を発揮する」

 「出会った人が目の前で老いていく。けれど最期まで一緒にいることが達成感にもなる」

 「人間とは、人生とは、家族とは、とつねに考えさせられ、勉強できる。介護の仕事って面白いんだよ」

 

 

 …スタッフの生きた言葉だけに胸にグッときます。私のような介護部外者でさえそうですから、介護職や家族の人が観たら、本当に琴線を揺さぶられることでしょう。劇場は平日にもかかわらず、大勢の観客で、終了後にはわざわざ大宮浩一監督が挨拶に来てくれたほど。1部1000円のパンフレットもよく売れていました(私も購入し、おさらいしながらこの記事を書いています)。

 

 私もドキュメンタリー映画制作の渦中にいる者として、ドキュメンタリーとは、被写体との距離感の持ち方が難しいとつねづね実感していますが、本作を通し、被写体を信じること、ゆだねることの大切さを教えられました。

 こういう作品が、静岡でも上映されるとよいのですが・・・。