杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

東京新聞暮らすめいと風岡編集長逝く

2015-06-28 19:55:48 | 本と雑誌

 東京新聞が首都圏40万世帯の購読者に発行する生活情報紙『暮らすめいと』。最新号(2015年7月号)の人物インタビューでは、東京谷中にある禅道場・全生庵の平井正修住職の言葉「坐禅とは放下着(ほうげじゃく)である」が紹介されており、興味深く読んだばかり。全生庵は山岡鉄舟が建立し、最近では安倍首相が参禅したことで話題になってます。

 

 

 そんな暮らすめいとの編集長として辣腕をふるっておられた風岡龍治さん(74)が肺栓ガンのため、6月26日にお亡くなりになりました。今日28日、名古屋での葬儀告別式に参列し、現役編集長のままジャーナリスト人生をまっとうされた風岡さんに感謝とお別れをしてまいりました。

 

 風岡さんは、中日新聞東海本社が制作を請け負っていた静岡県総合情報誌『MYしずおか』第2号(1999年秋)のスタッフライターに加えていただいたときからのおつきあい。初対面のご挨拶のとき、ご実家が名古屋の造り酒屋だったのにお酒は一滴も飲めないと聞き、私が酒の話を得意げにし始めると、「最近の地酒はそんなに美味くなったのか」と面白がってくださったのを今でもよく覚えています。記者時代はかなり硬派なジャーナリストだったそうですが、私が存じ上げている風岡さんはとてもダンディな渋カッコイイおじさまで、物腰もとっても軟らかな方でした。

 

 名古屋の本社へ戻られ、ご縁が切れたと思っていたところ、風岡さんから「東京新聞で首都圏の購読者向けに生活新聞を作るから、旅のコーナーで静岡の観光情報を書いてみないか」とお声かけが。それが暮らすめいとでした。創刊6号目にあたる2009年4月号(3月発行)から参加し、「悠遊・鉄道の旅」という巻頭コーナーで長泉町クレマチスの丘、09年5月号で小田原、09年10月号で伊東城ヶ崎海岸、09年11月号では人物インタビューのコーナーを人選からまかされて、樹木医塚本こなみさんを紹介しました。

 09年12月号では見開き特集をまかされ、満を持して日本酒を2ページがっつり。里見美香さん、土田修さんという敬愛する在京の酒通ジャーナリスト2人にも協力してもらい、下の写真ではちょっと欠けて見辛いですが、メインの仕込み写真には喜久醉の麹造りを使わせてもらいました。

 

 

 2010年1月号では旅コーナーで神奈川・真鶴を、2012年1月号では下田市を、そして2012年4月号では再び見開き特集をまかされ、〈地域密着〉とのリクエストで、ビオファームまつきの松木一浩さんを“スーパー農人”として紹介。同志として富士錦酒造の清信一社長を紹介させてもらいました。こちらにいきさつを書いたとおり、最初は松木さんメインの特集だったのが、清さんの話も面白いからと風岡さん判断でイーブン配置となりました。初対面のとき風岡さんが酒の話を面白がってくださったことが、こんなふうにつながったのかなあと嬉しくなりました。

 

 2012年6月号では人物インタビューコーナーで静岡県立美術館の芳賀徹館長を紹介。2015年の徳川四百年祭のグランドデザインについて興味深いお話をうかがいました。当時、京都大文字の送り火用に東北から送られた薪が被曝しているからと京都人が受け取り拒否したことを、たいそうご立腹されていて、「そのままちゃんと書いてくださいよ」と念を押されたことを覚えています(苦笑)。徳川四百年祭、芳賀館長が当時イメージされていた事業になっているのかな・・・。記事の内容はこちらをご参照ください。

 

 2012年8月号では旅コーナーで山梨・身延山を、12月号では清水・久能山を、2013年2月号では沼津港と御用邸周辺を、9月号では富士山世界遺産の旅を、11月号では箱根を、2014年1月号で南伊豆を紹介しました。風岡さんからお声かけをいただいたのは、これが最後でした。旅のコーナーは人気があるそうで、「自分が書きたい」という中日・東京のOB記者さんが増え、地方のフリーライターにお鉢が回ってこなくなったのが実状のよう(苦笑)。

 

 それでも私にとって暮らすめいとは、他にはない素晴らしい仕事が出来た媒体でした。風岡さんからはテーマや場所の指示だけを受け、ネタは自由に拾って取材し、書かせていただいたものばかり。変更や修正を受けることもほとんどなかったので、自分が好き勝手に書いたもので本当に良かったのかどうかいつも不安でしたが、名古屋―東京を往来される風岡さんが時折、静岡で途中下車され、機嫌よくご馳走してくださると、(口では決して褒めてはくれないけれど)今度の記事は及第点をもらえたのかな・・・と胸をなでおろしたものでした。

 

 

 葬儀場では、会葬の方々から「暮らすめいはタブロイドにしては読み応えのある新聞だ」「広告がすぐ埋まるらしい」「中日ひとすじで、最後まで現役で、いい仕事をしていたよなあ」という声を聞きました。“いい仕事”とは、いろいろな意味が込められていると思いますが、担当記者やライターの得意分野をちゃんと活かしてくださったこと、また大手メディアにあっても、地方のフリーライターに書くチャンスとやりがいを与えてくださったこと、いろいろな意味で書き手をよく育て、鍛えてくださったことが、新聞としての評価にもつながっているのでは、と思います(大手の中には、残念ながらフリーのライターを下に見る人も少なくないんですよね・・・)。 

 

 静岡では出棺・火葬の後に葬儀が行なわれることが多いのですが、今回は葬儀が先でしたので、直接お顔を見てお別れすることが出来ました。ダンディで渋カッコイイ風岡さんがひと回り小さくなってしまわれて、呆然としてしまい、このような恩師にめぐり合えた幸運と、こんなにも早くお別れしなければならなくなった悲しみに、どう、折り合いをつけようか、途方に暮れる思いでした。まっすぐ帰宅して、とりあえず今まで関わった暮らすめいとの記事を見直して、風岡さんの功績をこうして皆様にご紹介し、感謝の代わりとしたい、と思います。本当に今までありがとうございました。


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大村屋酒造場七夕酒蔵コンサート2015 ご案内

2015-06-27 07:10:58 | 地酒

 もうすぐ七夕。ということで、当ブログにも『若竹』『おんな泣かせ』の醸造元・大村屋酒造場(島田市)の恒例・七夕酒蔵コンサートの検索訪問が増えてきましたので、今年のご案内を。

 今回は杜氏の日比野哲さんイチオシの、音楽パフォーマーのだゆきさんと、世界で活躍中のオカリナ奏者河崎敦子さんのライブです。いつも出張中で不在が多い日比野杜氏も、今回は万障繰り合わせて会場で迎えてくれるそうですので、ぜひお楽しみに!

 

 

大村屋酒造場 第19回 七夕酒蔵コンサート

◇日時 2015年7月7日(火) 開場18時30分、開演19時

◇場所 大村屋酒造場 島田市本通一丁目1-8  TEL 0547-37-3058 *JR島田駅より徒歩5分

◇出演 のだゆき(音楽パフォーマンス・ピアノ)、河崎敦子(オカリナ)

◇コンサート終了後、ひんやりひやした樽酒等を試飲できます。

◇入場無料

 

 無料コンサート&試飲会につき、早々に満席になります。入りきれない人はこんな感じで立ち見(立ち聴き)になります。蔵の中は結構ムシムシしてますので、うちわor扇子は必携です。試飲会では北海道直送の美味しいトウモロコシ、ゆでじゃが、枝豆が振舞われます!

 

 

 


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ごはん食で健康になる、その理由

2015-06-23 22:38:00 | 農業

 久しぶりのブログ更新です。昨年暮れから取り掛かっていた本の仕事が大詰めを迎え、心身ともに疲労困憊してました。必死に登ってもなかなか頂上にたどり着けない、霞がかった険しい山道を行くような日々。・・・でも、疲れきるほど仕事できるってありがたいことですね。まだ頂上は見えてこないけど、大きな峠をひとつ越え、タイミングよく別の仕事の完成品が届き、クライアントさんからお褒めの言葉をいただいて、ホッとひと息ついたところです。

 

 さっそくですが、私が全編執筆担当したJA静岡経済連の食の情報誌『S-mail(スマイル)』最新号・お米特集を紹介します。表紙は岡部のゆとり庵さん。萬古焼きの土釜をバックに、磐田産きぬむすめを塩むすびにしてもらいました。

 

 

 内容は、ゆとり庵のごはん炊き職人・植田稔雄さんの“ごはん炊き道”、JA御殿場女性部の山田孝子さん指導の塩むすび・金華豚入り炊き込みご飯むすび・水かけ菜入りチャーハンむすびの作り方、管理栄養士安本美登里さんのごはん食健康講座、袋井のエコファーマー田圃家穂波・鈴木康功さんインタビュー、パールライス袋井工場探訪、静岡県の奨励米の変遷。・・・どれもこれも大変面白い取材で、限られた紙面では書ききれないこともたくさんありましたが、ここでは個人的にタメになった安本美登里さんの健康講座を再録します。

 

 

ごはん食で健康になる、その理由

解説/安本美登里さん(管理栄養士・日本糖尿病療養指導士・JA静岡厚生連 保健医療福祉課 教育指導専任課長)  

 

お米の消費が減って糖尿病患者が増えた

 2013年12月、ユネスコ世界無形文化遺産に登録された和食。ごはんを食べるための汁と菜を組み合わせた「一汁三菜」を基本とする日本食のスタイルが世界から評価を受けました。一方、日本国内では一人当たりの米の年間消費量が過去50年間で半減しており、「ごはんを食べなくても平気」「家に炊飯器がない」という人が増えています。

ごはんを食べる量が減ったということは、一汁三菜の日本食スタイルが崩れたということ。「食が多様化し、豊かになった」と言われる反面、日本食=ごはんを中心に魚、野菜、大豆等の伝統的な食材を摂取することで保たれていた日本人に適した栄養バランスが乱れ、肥満や糖尿病といった生活習慣病を患う人が増加しました。糖尿病の患者数増加は、お米の消費量減少とみごとに符合しています。

 安本さんは転勤前に在籍していた静岡厚生病院で糖尿病問題に関わり、「お米を食べなくなったから糖尿病が増えた」「おかずの量が増え、脂質や糖類の摂取量も増えた」「自動車の保有台数が増え、運動量が減った」等の根本原因に気づきました。現在、各地のJAで組合員向けに料理教室等を開催し、栄養指導にあたる中、ごはんを食べる量が実際に少なくなっていることに驚いたそうです。

 

ごはんを食べても減量できるコツ

「ごはん=炭水化物=高カロリーというイメージが定着しているようですが、ごはんに含まれる炭水化物は脳のエネルギー源となるブドウ糖を供給する大事な栄養素です」と安本さん。脳のエネルギー源として必要な炭水化物量は、1日約130~150g。子ども茶碗約3杯のお米が相当します。ごはんは脂質をほとんど含まず、粒の形で摂るので吸収がおだやか。お腹に溜まると満腹感が長く続き、間食を抑えられるというメリットもあります。

 逆にごはん抜きのおかずだけでは満腹感は得られず、おかずだけをたくさん食べると脂質や糖類など余計なカロリーを摂ることに。安本さんは「ごはん抜きは体重が100kg以上の人には効果的といわれますが、そうでない人がごはん抜きを続けると、一時的に体重が落ちてもリバウンドしやすい体質になる」と警告します。

 安本さんがダイエットに成功した人を調査した結果は以下のとおり。

○     ごはんは減らさない。

○     野菜をたっぷり摂る。

○     食事は腹八分目に抑える。

○     間食は控える。

○     朝、お腹が空っぽ(=体の脂肪が燃えやすい)状態で30分ほど歩く。

 

ごはんは脳のエネルギー源

 一方で、ごはんの炭水化物が脳のエネルギー源になることに着目し、学校給食をはじめ、高校生、予備校生、大学生等にもごはん食の奨励運動が始まっています。ある進学塾のアンケート調査によると、志望校に合格した生徒のほとんどが、朝ごはんをしっかり食べており、朝ごはんをちゃんと摂ることから生活習慣が守られ、受験勉強に万全の体調で臨めたことが立証されました。

 安本さんは高校の栄養指導教室で、進学後に一人暮らしを予定している卒業間近の3年生に自炊する予定があるか聞いたところ、自炊すると答えた生徒はゼロ。毎食買い食いして自活できるのか不安になり、生徒たちにはまずごはんの炊き方を教え、ファーマーズマーケットの野菜を自由に使ってオリジナル鍋づくりを指導。「野菜がこんなに美味しいなんて!」「友だちと鍋パーティーしたい」と喜ばれたそうです。

 別の高校では鍋でごはんを炊いておにぎりにし、味噌汁をダシから取って作る指導も。「仕送り生活で食費を切り詰めなければならないとき、ごはんを炊く習慣さえ身に着いていればなんとかなる。苦手な食材も、自分で作ってみると案外食べる。そんな実感を若い人に伝えたいですね」。

 最近では、海苔とごはんと具材を、サンドイッチのように重ねて折りたたむだけの“おにぎらず”が話題になっています。おにぎりのように成形に気を遣わず、小さな子どもや料理初心者でも簡単に作れるとあって、安本さんの教室でも折に触れて紹介。「和食が世界から認められたのは、日本人の長寿の源、との評価だと思われますが、歳を重ねても要介護にならず、健康長寿で過ごせるよう、若いうちからごはん食の習慣を大切にしてほしい」と力を込めます。(文/鈴木真弓)

 

 

 なおスマイルは県下主要JA窓口かファーマーズマーケットで無料配布しています。鈴木までご連絡いただければ進呈いたしますので、お気軽にメールくださいね! msj@quartz.ocn.ne.jp


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芳澤先生の白隠講座情報

2015-06-10 08:25:24 | 白隠禅師

 今日は芳澤先生の白隠講座のお知らせをまとめて。

 

平成27年度中外日報 宗教文化講座 第3回 「白隠禅師の絵説法」

 中外日報社は京都に本社のある宗教専門の新聞社です。私も時々HP(こちら)をのぞくのですが、イスラム圏の紛争の背景や根深さなどタイムリーなニュースも満載。豪華識者のコラムも読み応えがあります。毎年文化講座が開講されており、本年度のテーマは「禅の風にきく」。臨済宗・黄檗宗の15宗派・本山の協力で、平成28年に迎える臨済禅師1150年遠忌と翌29年の白隠禅師250年遠忌を記念する講座です。
 7月11日(土)には名古屋の徳源寺において「白隠禅師の絵説法」と題して芳澤勝弘先生が講演を行います。徳源寺は臨済宗妙心寺派の嶺興嶽管長の自坊で、嶺管長も臨席されるそうです。

 

◇講師 芳澤 勝弘氏(花園大学国際禅学研究所元教授)

◇日時 7月11日(土) 13:30~15:00(13:00開場)

◇会場 臨済宗妙心寺派徳源寺  〒461-0038 愛知県名古屋市東区新出来1-1-19(JR中央本線大曽根駅、徒歩15分)

◇参加申し込みはハガキ、FAX、メールで。こちらから申込用紙をダウンロードできます。

◇問合せ 中外日報社 営業局出版事業部(宗教文化講座事務局)
  電話:075-682-1625  FAX:075-682-1722  Eメール:shuppan@chugainippoh.co.jp

 

 

 

国際白隠フォーラム2015 

6月9日付け静岡新聞朝刊でも紹介されたとおり、プラザ・ヴェルデ開館1周年記念の国際フォーラムです。

 

◇日時 7月19日(日) 10時~12時/公開講座(予約不要)、13時15分~16時/フォーラム(要予約)

◇会場 プラザ・ヴェルデ コンベンションホールA

◇内容 

公開講座 10時~12時 (無料・予約不要) 

 ①青い目から見た白隠さんの言葉と意味  講師/ハンス・トムセン氏(チューリッヒ大学教授・日本美術史)

 ②白隠禅師の女性弟子~お察と恵昌尼の場合  講師/竹下ルッジェリ・アンナ氏(京都外国語大学准教授)

フォーラム 13時15分~16時30分 (無料・要予約) 

 ①基調講演「白隠と大衆芸能」  講師/芳澤勝弘氏(花園大学国際禅学研究所元教授) 

 ②パネルディスカッション「NO HAKUIN, NO LIFE - 白隠と私」  パネリスト/ハンス・トムセン氏、竹下ルッジェリ・アンナ氏、ブルース・R・ベイリー氏(日本ロレックス㈱代表取締役)、李建華氏(翻訳家・日本文化研究家) コーディネーター/芳澤勝弘氏

◇入場無料

◇フォーラム申込はFAXにて6月1日~21日17時まで受付こちらから応募用紙をダウンロードできます。

 

 なお7月20日(月・祝)は、原の清梵寺で白隠さんの『地獄極楽変相図』が公開されます(絵についてはこちらをご参照ください)。年に1度の公開なのでお見逃しなく!

 また20日にはプラザ・ヴェルデで13時から『静岡県民俗芸能フェスティバル』、15時からSPAC特別公演・朗読講演『東海道四谷怪談』が上演されます。いずれも入場無料、申込不要です。

 SPAC朗読劇は女性(お岩さん)の視点から再構成した、女優の語りと地唄三絃とのコラボ。大岡淳さんの作・演出で、SPAC女優たきいみきさん、生田流の東啓次郎さんが出演されます。こちらをご参照ください。

 上記プラザ・ヴェルデ開館1周年記念イベントは、こちらにまとめて紹介されていますのでご参考にどうぞ。

 

 

 

徳川四百年顕彰事業 連続講座 静岡×徳川時代④ 『富士山と白隠』  

◇講師 芳澤勝弘氏

◇日時 9月5日(土) 14時~

◇会場 グランシップ9階910号室

◇入場料 1000円

◇申込・問合せはこちらを参照してください。




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東北弾丸バス旅②~南部杜氏自醸鑑評会

2015-06-03 09:31:30 | 地酒

 東北バス旅報告の続きです。5月21日は昼過ぎに仙台へ戻って駅ビルで牛タンカレーを食べ、東北本線(ローカル線)を乗り継いで岩手県花巻へ。仙台駅ではsuicaで入ったのに、新花巻駅ではsuicaが使えず。駅員さんから「どこから乗りました?」と訊かれ、「仙台から」と応えたら、「えっ??」とビックリ二度見されちゃいました。静岡人からすれば、仙台も花巻も同じ東北で、さほど離れてるって感覚はなかったのですが、実際は静岡―名古屋間ぐらい離れてるんですよね(苦笑)。

 

 夕方、新花巻駅近くの【ケンジの宿】という格安ペンションにチェックイン。1泊朝食付きで3200円という価格ゆえ、あんまし期待はしてなかったのですが、風呂・トイレ・洗面所は共有ながら、お部屋は広くて清潔で、翌朝の朝食がビックリするぐらい美味しかった!かなりのヒロイモノでした。

 21日夜は、富士錦と萩錦で杜氏を務める小田島健次さんと落ち合い、花巻駅近くの居酒屋【早池峰】で取材。以前、小田島さんの下で働いていた長野県在住の若手蔵人さんがちょうど小田島家に泊まりに来ていたので、3人で岩手の地酒と酒肴を堪能しました。このお店、掘り炬燵があって地方色満点!小田島さんが事前にオーダーしてくれたみたいで、メニューにある料理を端から全部、次から次へと出していただいて、取材そっちのけで夢中で飲み食いしちゃいました。

 

 

 翌朝、小田島さんに宿まで迎えに来ていただいて、道の駅石鳥谷にある南部杜氏協会へ。南部杜氏による南部杜氏のための鑑評会・第96回南部杜氏自醸清酒鑑評会の一般公開に参加しました。日本で一番早い?朝7時30分から始まるきき酒会です。私は今回で3回目ですが、こんなに早い時間から参加するのは初めてです。

 

 全国で活躍する南部杜氏協会所属の杜氏さんが出品するこの鑑評会、今年で96回という歴史あるコンテストです。吟醸酒の部、純米吟醸酒の部、純米酒の部の3部門あって、今年の出品点数は吟醸135醸341品(うち入賞100醸)、純吟94醸201品(うち入賞53醸)、純米69醸147品(うち入賞45醸)。審査員は岩手県工業技術センターの小田島智弥理事長を審査長とし、全国の国税局鑑定官室長、東北~北関東の各県研究機関の部長・主任研究員など総勢27名の専門家です。入賞率が6~7割という比較的穏やかな?審査のようですが、一般公開の会場では「入賞漏れ」の酒が窓際に並べられ、それはそれでシビアだな・・・と。

 

 吟醸酒の部は1位から15位まで、純吟の部は5位まで、純米の部は3位までランキングが公表され、一般公開に続いて開かれた表彰式では、ランクインしたすべての杜氏・蔵元が表彰されます。壇上には岩手県知事が「総裁」という名目で来賓席中央に陣取り、花巻市長、北上市長、遠野市長、紫波町長、矢巾町長など南部杜氏支部管内の首長、JA組合長、地元新聞社社長、税務署長、職安所長等、公職のお歴々がズラリ。延々2時間、杜氏さんが入れ替わり立ち替わり壇上に登って賞状やトロフィーを授与され続けます。

 旧態依然、といえばそのとおりなんですが、南部杜氏という職能集団がこの地域にとっていかに大きな存在か、そのコンテストで表彰されるということはいかに重いことかが、よく伝わってきました。かつて首位賞には国から大蔵大臣賞が授与されていたそう。自ら蔵人を率い、雇い先ではよりよい条件で働きたいと願う杜氏さんにとって、箔を着ける意味でも大事なコンテストだったろうと思います。

 

 今年の首位賞(吟醸酒の部1位)は福島県の【会津吉の川】。なんと昨年に引き続いて2年連続の首位賞です。静岡県は上位入賞はなりませんでしたが、吟醸酒の部で「臥龍梅」「富士錦」「富士正」、純吟の部で「正雪」「富士錦」、純米の部で「臥龍梅」「出世城」「正雪」「富士錦」が入賞しました。臥龍梅の杜氏菅原富男さんは、ゴールデンウィークまで清水で酒造りが続き、故郷へ帰ってきてからは南部杜氏協会理事として鑑評会準備に追われ、この日も会場案内役で走り回っていました。

 

 昼過ぎに表彰式が終わり、静岡から駆けつけてこられた富士錦酒造の清信一社長や小田島さんとお昼をご一緒し、午後は一人で南部杜氏伝承館、石鳥谷歴史民俗資料館、農業伝承館をじっくり見学しました。ここも訪れるのは3回目ですが、一帯が【道の駅石鳥谷】として整備されてからは初めて。道の駅で酒の施設って大胆だなあと思いつつ、酒造りの文化がこの地域の日常にいかに溶け込んでいるかが伝わるようです。

 南部杜氏伝承館で、岩波映画【南部杜氏】を久しぶりに最初から最後までじっくり観賞しました。この映像に触発されて映画作りを試みて、いまだ道半ば・・・。でも昭和62年に制作されたこの映像がいまだにこうして活かされているんだと思うと、「何年かかっても記憶に残る映像を残そう」という熱意がフツフツと甦ってきます。

 

 

 石鳥谷農業伝承館では、【石鳥谷はたおり同好会】の皆さんが体験室で昔懐かしい機織をされていました。「頭や指先を使うからボケ防止にちょうどいいのよ~」とお母さんたち。ちゃんと動く機織機がそろっていて、実際に活用されているって羨ましいですね。

 

 

 鑑評会行事の後片付けがひと段落したところで、世話役で奔走していた磯自慢の杜氏・多田信男さんと落ち合い、多田さんのご実家がある北上へ。【吟醸王国しずおか】の撮影でお世話になって以来、7年ぶりに奥様や長男ご夫妻にご挨拶し、多田さん行きつけの銘酒処【枕流亭】へ。店主岡島芳明さんに「新政」やら「十四代」やら東北自慢の希少酒を(多田さんの解説付きで!)ふるまっていただいて、眠気や疲れも吹っ飛びました(笑)。

 途中から多田さんの同級生が合流され、焼津では見たことのない名杜氏のくつろいだ笑顔にホロッとさせられました。二次会では同級生さん行きつけのカラオケスナックにご案内くださって、北上在住の演歌歌手観音めぐみさんや作曲家原田孝二さん(こちらを参照)とご一緒し、大いに盛り上がりました。

 

 

 磯自慢は南部杜氏鑑評会では入賞しませんでしたが、晴れがましい壇上でお偉いさん方から表彰されなくても、多田さんの功績は地元の人々が熟知していて、我がことのように誇りに思う、まさにその現場に居合わせることができて、今回の東北弾丸旅の真の目的が達成できた感がありました。

 

 22時30分北上駅発の夜行バスに乗って東京へ。早朝の新幹線で静岡へ戻り、23日朝10時からFM-Hi のスタジオで【かみかわ陽子ラジオシェイク】の収録に飛び込みセーフ。昨日(6月2日)のオンエアを聴いたら、前夜のカラオケでムチャしすぎたせいかガラガラで低すぎて酷い声 お聴きになった方がいらしたら申し訳ありませんでした


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