杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

プラザヴェルデ開館記念講演会「富士と白隠」

2014-07-22 15:31:03 | 白隠禅師

 JR沼津駅北口に7月20日グランドオープンした県内最大級のコンベンション施設【ふじのくに千本松フォーラム・Plaza Verde (プラザ・ヴェルデ)】。21日(月・祝)に開かれた記念講演会『富士と白隠―白隠禅画をよむ』を聴講しました。

 

 

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 講師の芳澤勝弘氏(花園大学国際禅学研究所副所長・教授)は、白隠禅画・墨蹟の調査研究の第一人者。2012年に渋谷Bunkamura で開催され大きな話題を呼んだ白隠展(こちらを参照)の総合監修を務め、白隠展以降も全国各地で次々と発見される白隠禅画の調査に飛び回り、欧米でもセミナーを開くなど幅広くご活躍中です。

 

 

 

 渋谷で白隠展を観たときは、白隠さんの生まれ故郷沼津で、いつかこういう展覧会が開けたらなあと漠然と思ったものです。今回、沼津に誕生したコンベンション施設のオープニング講演会に白隠さんがテーマになったというのは、悦ばしい兆候です。渋谷では若いお客さんがすごく多くてビックリでしたが、今回の講演会の聴講者は残念ながら?私が一番若いくらいかな(苦笑)。ちょうど別会場で高校生たちが音楽発表会をやっていましたが、ホントは彼ら10代・20代に聴かせたいと思うくらい面白くて深~い内容でした。

 

 

 

 白隠慧鶴禅師(1685~1768)は生涯に数万点もの書画を残したといわれています。達磨像が有名ですが富士山の絵もたくさん残しています。それらの多くは、北斎や広重が描いた風景画や心象画とはひと味違う、禅の根本的教えや政治批判等が込められたメッセージ性の高い作品。芸術ではなく禅の伝道のために描いたのですから当然といえば当然ですが。

 

 

 今回、芳澤先生がメインで取り上げたのが、『富士大名行列図』。大分県中津市の自性寺所有で九州国立博物館に寄託された紙本墨画淡彩で、大きさは57センチ×132.6センチほど。真っ白な富士山を中央にドカンと据えて、下3分の1ぐらいのスペースImg109に人間163人、馬12頭を細かく描き込んでいます。左側には富士川と岩淵宿とおぼしき町並みが描かれています。

 

 

 パッと見えれば、吉原~岩淵あたりを進む参勤交代の大名行列をスケッチしたんだなあ、で、終わりですが、この絵はもともと、自性寺の和尚が、白隠さんに「達磨像を描いてください」とオーダーしたものだとか。でも達磨さんらしき人物は見当たりません。

 

 

 左端にはこんな文章が添えられています。

 

 

 寫得老胡眞面目 杳寄自性堂上人 不信舊�椈端午時 鞭起芻羊問木人

 

 (かねてから達磨(老胡)の絵を描くよう頼まれていた。ここに達磨の真骨頂を描いて、はるばる豊前の自性寺和尚にお届けする。12月の端午の節句に作ったこの画がわからぬならば、藁の羊に鞭打って木の人形に尋ねられよ)

 

 

 

 

 禅問答のような、ちんぷんかんぷんの内容ですが、芳澤先生は、「“達磨”は、禅の祖・達磨大師を指すと同時に、Dharma(仏法)そのものを指し、白隠さんは聖なる仏法の世界の象徴として富士山を描き、俗世の象徴として大名行列を描いたのでは」と説きます。

 

 しかも、ここに描かれた俗世界の人間163人のうち、ほとんどが富士山に目もくれないで、進行方向(西)を向いています。白隠さんは大名に宛てて『辺鄙以知吾(へびいちご)』という幕政批判書を書いたことがあり、のちに発禁処分をくらうのですが、この絵では、大名行列のような無駄遣いを暗に批判しているのです。

 

 先日、ヒット中の映画【超高速、参勤交代】を観て、大名行列は人目の多い宿場筋を通るときに行列人員を臨時雇いして、豪華行列に“演出”する苦心ぶりが描かれ、苦笑いをしたところですが、白隠さんはまさにそのことを槍玉に挙げたわけですね。

 

 と同時に、163人のうち、富士山をしっかり眺めている黒衣の旅の僧が2人、左端の岩山の先端と、右端の茶店のところに描かれています。この2人だけが聖なる仏性にきちんと目を向けているというわけです。

 2人の僧のモデルは、かの西行(1118~1190)で、西行さんが富士山を眺める「富士見西行図」という有名な絵を、白隠さんがモチーフにしたのでは、と芳澤先生。ちょっとした謎解きみたいでワクワクする解説でした。

 

 

 

 

 

 

 こちらのサイトに芳澤先生の詳しい解説が紹介されていますので、じっくりお読みください。

 

 

 講演会では『富士大名行列図』のほかに、『鍾馗鬼味噌』(五月人形でお馴染み・鍾馗(しょうき)さんが大きなすり鉢の中に鬼を押し込めて辛~い鬼味噌を作っている絵)、『二本大根』(浮気性の女性を二股大根に見立て、大根にお灸をすえて、2人の男にかつがせる絵)など風刺漫画のようなユニークな作品を数点、解説してくださいました。

 

 

 なお11月9日(日)には同じプラザ・ヴェルデにて【白隠フォーラムIN沼津2014】(こちら)が開かれる予定ですので、関心のある方はぜひ。


微生物抑制発酵茶の挑戦

2014-07-16 19:26:52 | ニュービジネス協議会

 7月14日に開かれた(一社)静岡県ニュービジネス協議会中部サロンは、昨年、静岡県ニュービジネス大賞特別賞を受賞した【微生物抑制発酵茶】を実際に商品化した、カネ松製茶㈱(島田市)の鈴木祐介専務がゲスト。日本の吟醸酒造りを革新させた河村傳兵衛先生が、お茶の世界で新たに仕掛けた一大革命について、じっくりうかがいました。

 

 

 【微生物抑制発酵茶】・・・耳で聞いても漢字を見てもピンとこないと思います。

 世に、機能性を謳ったお茶はゴマンとあり、次から次へと新商品が登場していますよね。

Imgp0518最初、このお茶も、【単行複発酵茶・すらーり美人】という名前でデビューしたので、ふつうのお茶がなかなか売れない製茶会社がダイエット茶ブームにのって奇をてらったのかと思っていました。河村先生が画期的なお茶を開発したらしいと聞き、県の展示会で試作品をいただいて以来、時折店頭で見かけたとき、試し買いする程度でしたが、昨年のニュービジネス大賞表彰式で、【あるけっ茶】という商品名に変わっていたのに驚き、今回、商品開発の背景と名称変更の理由をじっくりうかがって「これは、違う・・・!」と実感しました。

 

 鈴木専務の解説、さすが製茶メーカーの若い経営者、売り手や飲み手向けのプレゼンテーションに慣れているというか、日本酒の製造工程を知っている者にとっては、大変解りやすかったです。

 

 製法を簡単に説明すると、

①荒茶を無菌状態にして、水分を噴霧する。

②殺菌・冷却した後、黒麹菌をふって醗酵させる。*約7日間

③再び殺菌・冷却し、生葉ジュースをふりかけ、酵素醗酵させる。*約3日間

④殺菌、乾燥、焙煎

 

というもの。これが、通常の製茶工程を知っている者にとっては非常識のオンパレードだそうです。

 

 まず①の「荒茶に水分を噴霧」。荒茶は摘みたての茶葉を蒸気で加熱し、乾燥させたものですから、せっかく乾燥させたものに水をかけるなんて、茶業者にとってはありあえない話でしょう。水分を加える理由は、②の麹菌醗酵のため。しかも「殺菌・冷却」してから麹菌をふりかけます。

 発酵茶の代名詞ともいえる中国のプーアール茶は、生葉を天日干しして茶葉が持つ酵素をゆる~く醗酵させ、これを多湿状態におき、カビを自然醗酵させて作るそうですが、このお茶は、雑菌が混じらないよう完全にコントロールされたクリーンルーム・・・日本酒で言う〈麹室〉で、温度や湿度を一定に保ち、安全性が担保された麹菌のみを醗酵させます。つまり、プーアール茶が「微生物自然発酵茶」であるのに対し、このお茶は「微生物抑制発酵茶」となるわけです。

 

 ちなみにプーアール茶は便秘に効くというのが売り言葉みたいになっていますが、河村先生曰く「雑菌だらけの自然発酵茶だから、お腹を壊す成分があって当然」だそうです。ナットクですね(笑)。

 

 

 ②の段階で、“安心・安全製法で造られた高品質プーアール茶”として商品化しようと思えばできるのですが、ここからさらにもう一段階、香りと味を良くするための醗酵を行ないます。カネ松製茶の鈴木専務は「健康にいいかもしれないけど美味しくない」という世にある健康茶を凌駕するためにも、「無謀にも、河村先生に、“もっと美味しくしてください”と何度もダメ出した」そうです。

 

 先生が編み出したのは、冷凍保存しておいた生葉を粉末にして“生葉ジュース”にしたものをふりかけるという奇策。生葉が持つ酵素を酸化醗酵させると、紅茶のような香りが生まれるそうです。この発想、お茶のガチ専門家ではなかった河村先生だからこそ、なんでしょうね・・・!

 

 出来上がったお茶は、紅茶よりもピンクがかった、艶やかなバラ色。香りもどことなくローズ風です。プーアール茶のようなクセもなく、やさしい甘味。河村先生は「ロゼ茶」と命名したそうですが、バラそのものとも違うし、香味や色の感じ方は飲む人の好みに左右されるでしょう。それよりも何よりも、このお茶がスゴイのは、まったく新しい2種類のポリフェノール成分が発見されたことです。

 

 

 新発見のポリフェノールとはテアデノールA・テアデノールBという成分。テアデノールとは、お茶のTEA、傳兵衛のDE、ポリフェノールのNOLを組み合わせた名前です。私はもともとテアデノールというポリフェノールが世に存在していて、お茶では初めて検出されたと思い込んでいたので、鈴木専務から、新発見だから新たに命名した、と聞いてビックリ!「先生のお名前は、清酒酵母のみならずポリフェノールにも付いたのか・・・」と鳥肌が立ちました。

 

 テアデノールは、東京医科歯科大学の学内ラボに拠点をおく臨床試験機関・オルトメディコ、筑波大学、リバーソン(河村先生の会社)の共同研究によって、糖尿病予防、がん疾患予防、内臓脂肪の減少に効果が認められ、現在、諸々の特許申請中とのこと。長期間飲みつづけたモニターからは「中性脂肪が減った」「尿酸値が激減した」「コレステロール値が下がった」「半年で体重が6キロ減った」という声が寄せられており、実際、私も便秘に悩む友人に勧めたところ「今まで飲んだお茶の中で一番効果があった」と聞いています。

 

 私自身は、お気に入りスーパーのKOマートでこのお茶を扱っているので、余裕のあるときに買って飲んだり飲まなかったりで、健康効果を実感するまでには至っていませんが、今は本気で常飲しようと考えています。鈴木専務にも「静岡吟醸を愛飲する仲間に飲むよう勧めます!」とガッチリお約束しました。

 

 

 

 【あるけっ茶】というブランド名のきっかけは、山形のイタリアンの名店アル・ケッチァーノの奥田政行シェフとの出会いだったそうです。奥田さんはもともと付加価値の高い地域食材や「酵素」というキーワードに関心があり、定期的に料理サロンを開催している焼津で【すらーり美人】の存在を知り、ビビッときたそう。

 

 ただし、【すらーり美人】という名前は、いかにもダイエット健康茶。確かに画期的な機能性を持つ健康茶ですが、他の健康茶にない美味しさ・見た目の美しさが特徴で、ドラッグストアというよりも、レストランやティーサロンなど食味を楽しむ場で存在感を示したいという思いが、鈴木専務にあったそうです。奥田さんの店で飲んでもらうには、それ相応の名前にしようということで、【あるけっ茶】に。おやじギャグみたいなネーミングですが(笑)、もともと「アル・ケッチァーノ」も、庄内弁で「あったんだよねえ」を文字ったものらしいそうです。

 

 優れた機能性を持ちながら、それを前面に出さず、味で勝負したいという信念は、川下(消費者)に向けた強いメッセージだと思います。

 と同時にこのお茶は川上(生産者)にも力強いメッセージを送っています。

 静岡茶は3・11原発事故の風評被害から完全に立ち直っていない状況です。静岡よりも原発事故現場に近い関東の茶産地でも同じような被害があったはずなのに、「静岡茶」だけが市場から排除されました。それだけ静岡茶の持つブランド力が強かったという裏付けなのかもしれませんが、3年を経て、初物の一番茶だけは市場でそこそこ値が付いても、二番茶、三番茶は動きがにぶく、価格が最も安い四番茶は逆にペットボトル需要に下支えされ、活発だとか。茶市場でもいわゆる“二極化”が進んでいるようです。

 

 “お荷物状態”で茶業経営を圧迫させつつある二番茶、三番茶は、夏場の活発な光合成によってカテキン含有量が非常に高い。カテキンが多いお茶(べにふうきなど)は、花粉症対策で脚光を浴び、ブームとなりましたが、元来、苦くて渋~い味。今ではすっかりブームが沈静化してしまいました。やっぱり味が良くなければ定着しないんですね。

 

 5~6年前、ブームに乗ってべにふうきに植え替えた静岡の茶産地では、ようやく茶樹が育ち、収穫出来るようになった今、ブームが去ってしまい、結局、紅茶にして売るしかない。カテキンは紅茶にすると酸化醗酵によって減ってしまうため、緑茶ならウリに出来た機能性という付加価値を持てない、ただの紅茶です。これでは茶農家の経営を向上させる戦力にはなれません。

 

 その点、【微生物抑制発酵茶】は、べにふうきのようなカテキン含有量の多いお茶を活かす第三の道になりそうです。カテキン含有量の多いお茶を緑茶にしたときの味の欠点、紅茶にしたときの機能性の低さを見事にカバーし、さらには価格が付きにくく取引量も減りつつある二番茶、三番茶に付加価値を与えることになります。

 設備さえ整えば7~10日間で仕上げることができ、品質の均一化と年間製造という工業的生産方法で量産化も図れます。

 

 ただし、醗酵のためのクリーンルーム、温度管理システム、噴霧装置等かなりの投資を擁し、カネ松製茶でも現在、年間生産量6,000kgが限度だそうです。

 参加者からの「トクホ(特定保健用食品)の認証は受けないのか?」という質問にも、「現在の生産規模ではトクホ認証のコストをペイできない」とのこと。なんだかすごくもったいないですね・・・。

 

 

 

 茶価の低迷、風評被害、後継者不足など等、静岡の茶産地が抱える課題は山積しています。おそらく、河村先生が昭和50年代、静岡酵母を開発された頃の酒造業界もそうだったでしょう。静岡県の酒造業は、茶業に比べたら規模は小さく、意欲のある蔵元が先陣を切って頑張ったことで他の蔵元が後に続き、産地全体で団結・向上できたのですが、茶業は静岡県の基幹産業でもあり、一朝一夕に変わることは出来ないかもしれません。

 

 【微生物抑制発酵茶】の誕生も、大きな変革の中のひとつの要素に過ぎないかもしれませんが、河村先生が酒に続いてこのような開発を成功させ、“救世主”になられたことは、偶然ではなく、必然だったと思います。茶業界のみなさんは、このことをしっかり活かしきってほしいし、そのためには外部の新しい発想や提案を柔軟に受容し、融合させてほしい。量産化を実現させる知恵は、他の製造業や流通業、資金調達ノウハウを持つプロが持っているはずです。

 

 

 「お茶はもともと中国から薬として伝わり、味わう文化になった。既成概念を変えることで進化した」と鈴木専務。私もここ2年ほど茶道の歴史を学ぶ機会を得て、茶道も茶業も変化や革新を経験しながら今に至っていることを実感しています。

 禅僧によって機能性が認められた茶を、千利休や古田織部は「道」や「芸術」へと昇華させました。【微生物抑制発酵茶】も、いわば禅僧が修行のために用いた機能性飲料の段階から少しずつ脱皮し、味わう茶、楽しむ茶へと昇華していくのでしょう。【あるけっ茶】が、いわば“奥田流”の微生物抑制発酵茶ならば、さらなる普及にはもっと多彩な人材によるブランディングが必要なのかもしれません。

 

 カネ松製茶をはじめ、現在、微生物抑制発酵茶の生産に取り組む茶業者は、柔軟な発想でさまざまな“流派”を勃興させてほしいと思います。

 

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 とりあえず我々静岡吟醸ファンは、河村先生への敬意を込めて、これからせっせとこのお茶を常飲するとしましょう。

 

 

  カネ松製茶の【あるけっ茶】は、KOマートほか、こちらの通販サイトで購入できます。ちなみに、こちらでは河村先生が漫画のキャラクターになって微生物抑制発酵茶について解説しています。

 

 静岡酵母の河村先生を知っている者からみたら、う~ん・・・という出来ですが(苦笑)、先生は元来、漫画キャラにしたくなるようなおちゃめさんかも。

 

 

 


奥大井・蕎麦とアカマツと温泉郷

2014-07-10 23:01:35 | ニュービジネス協議会

 昨年から応援している川根本町・かみなか農場の【奥大井蕎麦街道プロジェクト】。7月8日に(一社)静岡県ニュービジネス協議会、県中部農林、川根本町役場、支援金融機関等の皆さんと一緒に蕎麦蒔き体験をしました。

 

 

 

Imgp0470  蕎麦畑は静岡市との境に位置する川根本町梅地・通称「下別当(げべっと)」という高地にあります。8日は川根温泉に集合し、17人の参加者が車を連ねて千頭~接岨峡~井川湖を経て、険しい山道を約2時間かけ、標高1100メートルにある圃場に到着しました。

 

 上中さん曰く、「この圃場は、川根本町内にありながら静岡市井川を経由し山を登っていかなければならない。自分が住んでいる徳山からも1時間15分程かかる。かつては、イチゴの"山あげ"や"高原野菜"の圃場として利用されていた場所だが、今は実際に耕作している方は数人で、広大な土地は雑木が茂り、シカやイノシシの溜まり場と化している」状態。シカは数頭~数十頭という単位で駆け回っているそうです。

 

 

 

Imgp0489  ちょうど晴れ間が広がったお昼時、青空と高原のコントラストが美しい圃場の一角で、上中さんが体験者のために土起こしをしてスタンバイ。私たち参加者は2人1組になって、一人が鍬を入れ、もう一人が蕎麦の種をパラパラと蒔きました。

 

 前日の雨の影響で、事前に土起こしできた面積が限られていたため、30分ほどで体験終了。参加者はこの地までわざわざ来てくれた静岡新聞さんの取材に応じながら、ニュービジネス協議会会員が仲介した別の圃場まで歩いて見学。高原野菜が植えられた畑を眺めながら、この地の農業ビジネスの可能性について語り合いました。

 

 

 

Imgp0493  上中さんは3年前にこの地を視察し、「桃源郷に来た思いだった」と語ります。確かに通うには不便な場所ですが、高品質な夏野菜や蕎麦の供給産地になるかもしれない、と直感。住所は川根本町梅地でも地主の多くは静岡市の住民で、土地利用や補助金制度を利用するのにさまざまな障壁があり、一筋縄ではいかなかったそうですが、県や町と粘り強く交渉し、地主と利用権設定が無事完了。 圃場を整備し、今年は約4.5haの秋蕎麦栽培を始める予定だそうです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Imgp0497  大井川源流部は、本州で唯一、原生自然環境調査保全地域に指定されています。山地帯から高山帯に至る典型的な垂直分布が見られる寸又川流域1,115ヘクタールの原生林は、厳重な保護下にあります。蕎麦圃場見学の後、川根本町役場のはからいで、特別に川根本町梅地にある貴重なアカマツ樹林を見学させてもらいました。

 

 

 

 

 

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 学術参考保護林に指定されているという梅地のアカマツは、胸高直径70cm、樹高30m超。スカッとまっすぐ高くそびえ立ち、周囲の若い植林スギを上から見下ろすような威風堂々とした姿です。

 樹肌は赤味がかった龍のウロコのような原始的な模様で、本当にマツの木?と不思議な感動を覚えました。

   

 

 

 

 

 

 

 午後3時近くになって接岨峡温泉会館に到着し、持参した弁当でようやく食事。ひと息ついたところで改めて上中さんから蕎麦産地化プロジェクトについてうかがいました。

 

 このプロジェクトは、以前ブログ(こちら)で紹介したマイクロファンド『ミュージック・セキュリティーズ』のファンドに採用され、現在、小口投資家を募集中です。こちらをご覧になるとプロジェクトの要項と、上中さんのこれまでの活動や人となりが解りますので、ぜひご覧になり、応援してあげてください!

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 接岨峡温泉は“若返りの湯”と称されるだけあって、肌がしっとり、筋肉のコリや痛みもスーッと癒される、極上の泉質でした。

 温泉会館は銭湯に集会所が併設されたような素朴な造りで、それはそれで味がありますが、静岡県はもとより日本でも指折りではないかと思われる温泉をアピールするのに、もう少し整備できないものかと素直に感じました。

 川根温泉は島田市のキモ入りでホテルまで新設して大々的に売り出し中ですが、接岨峡温泉は、それこそミュージック・セキュリティーズのようなファンドを活用し、全国の秘湯ファンから支援金を集めてみたらどうかと思います。

 

 

 

 

 

 

 

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 川根本町千頭駅には、今週末から運行が始まる機関車トーマスのHIROが駐停車していました。トーマス効果でこの夏は親子連れで大いに賑わうことでしょう。

 農業、自然保護、温泉観光・・・どれも素晴らしい地域資源です。川根本町が上中さんのような、汗を流す実践者が必ず報われる地域であってほしいと心から願います。


静岡県の高糖度トマト

2014-07-01 07:18:40 | 農業

 JA静岡経済連発行の情報誌【S-mail (スマイル)】51号が完成しました。今回は高糖度トマトの特集。「アメーラ」「待ってたトマト」「スイートピュア」など話題のブランドトマト生産者たちにImg105 インタビューし、“勝てる農産物”“後継者が育つ農産物”とは何かをさぐってみました。

 

 限られた紙面ですべてを紹介しきることは不可能ですが、静岡県でお茶、みかん、メロン以外に国内外で競争力が期待される高糖度トマトの可能性を、ぜひ汲み取っていただきたいと思います。県下主要JAや農産物直売所(ファーマーズマーケット)等で絶賛、無料配布中です。

 

 

 

 ここでは静岡県の高糖度トマト栽培の歴史や特徴を、専門家に解説してもらった【スマイルマイスター】のページを紹介します。

 

 

 

日本一の品質と信頼を誇る、静岡県の高糖度トマト

 

解説/JA静岡経済連 みかん園芸部野菜花卉課 技術コンサルタント  永嶋 芳樹さん

 

 

 

品種は同じでも通常のトマトより+2度~の糖度

 

高糖度トマトはかつて「フルーツトマト」「濃縮トマト」といった呼び方をされていましたが、現在では「高糖度トマト」と呼ばれることが多いようです。品種は現在主流の〈桃太郎〉系統で、通常に作れば糖度は5度前後。これに特殊な栽培を施し、糖度を7度以上にしたものを「高糖度トマト」として流通しています。

 

Photo 高糖度にする特殊な栽培方法とは、簡単に言えば、水や肥料を制限し、硬く引き締まって濃縮した実にするということ。トマトの原産地南米アンデス地方の冷涼・少雨の高地に近い環境で、トマトが持つ本来の甘味を引き出す方法です。

 

日本のトマトは土に直接植えて育てる土耕栽培が主流ですが、水やりをコントロールする高糖度トマトの場合、土耕ではきめ細やかな調整が難しいため、機械でコントロールでき、季節に関係なく一年中出荷可能な水耕栽培にシフトしています。静岡県はこの水耕栽培の先進県なのです。

 

 

 

 

静岡県で開発されたワンポット方式

 

 気候温暖で日照時間に恵まれた静岡県は施設園芸発祥の地と言われ、温室メロンやハウスいちごのように質の高いハウス作物を生産しています。トマトを周年収穫する技術もいち早く確立し、盛夏8月を除く11ヶ月間、ミニトマトから中玉、大玉、高糖度トマト等、あらゆる品種を作っています。

 

Dsc04204 静岡県農業試験場(現・農林技術研究所)では平成2年からハウス内で作物の糖度を上げる技術開発に取り組み、平成4年、一般の水耕栽培に使用する養液よりも濃い培養液を開発。平成5年には培養液をひと鉢ごとに点滴注入するワンポット栽培方法を開発しました。水はけのよい育苗用ポットを野菜作りに初めて採用し、排水しても根はポット内にしっかり留まるようにしたのです。

このシステムを見学した掛川市の石谷昭さんと浅羽町(当時)の前田保雄さんが平成6年、自園ハウスで試験導入し、食味の優れた高糖度トマト栽培に成功しました。

 

その後、県内各地で養液ワンポット栽培に挑戦する生産者が増え、平成8年には静岡県養液濃縮トマト研究会が結成されて技術交流を図るなど、生産者の意識も高まり、各地でブランド化が進んでいます。

 

 

 

ハイレベルな静岡県のトマト生産者

 

高糖度トマトは水や養液の投与をいかにコントロールするかにかかっています。

 

トマトは水を切らすと、当然、上のほうに実った玉ほど水が薄くなり、糖度が上がります。メロンのように優れた実を一つだけ採るのであれば見極めも容易ですが、高糖度トマトの場合、栄養成長(葉や茎を伸ばす)と生殖成長(実を付ける)のバランスを見極め、ある程度の数量をベストな時期に収穫しなければなりません。

 

Dsc04194 静岡県の生産者は、葉や茎をほどほどに成長させ、同時に上手に水を切らして糖度を3段階ぐらいに分けて上げる―その難しいバランス加減を得意としています。

他県で導入された養液栽培では、量産を目指して大型ポットを導入しているものが多いようですが、静岡県では小型ポットでひと鉢ごとにきめ細かく管理。手間はかかるものの、栄養成長と生殖成長のさじ加減をしっかり取っています。

 

努力が奏功し、静岡県の高糖度トマトの糖度は平均8度とハイレベルで品質も安定しており、市場では現在、高糖度トマトでは量・質ともに日本一の折り紙を得ています。

 

 

 

ブランド競争に打ち勝つために

 

Dsc04308 現在、手間を擁する水やりの完全自動化に向け、さらなる技術開発に取り組む高糖度トマト生産者。機械工学はもちろん、設備投資に必要な経営管理、圃場拡大のために必要な農地管理法や、生産工場化に必要な水利関連の知識など、総合的な技術開発と情報収集が求められます。

 

小さな産地でもブランド競争できるだけの力を持つ高糖度トマト。産地間競争に打ち勝つための環境整備に向け、JA組織もバックアップ体制を整えていきます。