杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

ハコものを活かすマンパワー

2009-07-28 22:42:17 | NPO

 じめじめした天気が続きます。先週末は自宅へこもって原稿執筆に専念し、週明けから行政関連の取材や打ち合わせに駆け回っていますが、この時期の行政機関への訪問ってツラいんです・・・。公共施設のオフィスってクールビズが徹底しているのか、蒸し暑くじめじめした外から入って来ても、ちっとも涼しくない(苦笑)。オフィス内にずっといる職員の人はみんな涼しい顔で仕事しているのに、私ひとり、暑い暑いとゆでダコみたいな顔で汗をぬぐっています。だからってクーラーの温度を下げてくれないのが、さすが行政(笑)。「そのうち慣れますよ」ってな顔です。

 

 

 私も、自宅で仕事する時は扇風機しか回さず、我慢できない時は扇風機+クーラーを28℃のドライ設定でかける程度なので、たぶん外から来た人はイラっとするかもしれませんね。ほとんど独りで過ごす部屋ですから、これでも贅沢なぐらいですが、大勢の人が過ごすオフィスの28℃設定って業務に支障はないのかなぁ・・・。

 

 

 

 それはさておき、昨日は静岡県NPO情報誌『ぱれっとコミュニケーション』の取材で、富士市のNPO法人東海道・吉原宿の代表佐野荘一さんにお会いしました。

 多くの地方都市の商店街と同様、シャッター通り化が進展しつつある吉原商店街で、店主たちが中心となって立ち上がった地域活性化組織。空き店舗に吉原商業の高校生たちのチャレンジショップ「吉商本舗」や、就労支援施設やフェアトレード関連のショップを出店させたり、富士市市民活動センターコミュニティfの指定管理者として、センターを情報交流発信基地として機能させるなど、地元商店主による地に足のついた活動が注目され、このほど、経済産業省「新がんばる商店街77選」大臣表彰を受賞。高校生のチャレンジショップは5年も続いていて、一過性の話題で終わりがちなこの手のショップとしては異例の人気だそうです。

 

 

 

Photo_2  佐野さん(写真中央)は吉商本舗の成功を、「あくまでも高校のクラブ活動なので、卒業生と在校生、上級生と下級生の意識の差があるのは仕方ありませんが、5年も続くのはある意味ミラクル。この前の開店5周年は、大売り出しではなく、生徒たちが企画してゴミ拾い大会をやった。大人の商売人の感覚とは違っていて、とても斬新だった」と振り返ります。「大学4年になった吉商本舗1期生が、卒論に地域商店街を取り上げたと聞いて嬉しかった。こういうユニークな店や、地域コミュニティの場が出来たことで、今まで吉原を出店先に考えていなかった外部の商業者が、新規出店エリアとして選んでくれるようになったんですよ」。

 

 

 

 商店街の地域活性化と聞くと、ひところは、イベントや夜店市等が主流で、いっとき、ワーッと盛り上がっても、そのパワーが定着せず、下火になっていったという例をよく聞きます。吉原商店街も、以前、ナイトバザールという夜店市を開催し、かなり話題になって、私も取材したことがあるんですが、やっぱりいっときのお祭りで終わってしまった。失礼な言い方かもしれませんが、商店街をダメにした張本人たちが、何かやろうとしたって、いいアイディアは出てこないでしょう(苦笑)。新しい血を入れ、循環させるしくみを作って、若者やヨソ者の発想やパワーを活用する・・・そんなしなやかさとしたたかさが必要だと気づいたのが、佐野さんたち一部の“はみだし店主”たちだった、というわけです。

 

 

 コミュニティfには、コアなフリーペーパー・情報誌・パンフレット類が宝の山のように集まっていて、市民じゃなくても十分“目の保養”になります。富士には、遊び教育のスペシャリスト渡部達也さん、グラパ賞4冠のデザイナー鈴木雄一郎さん、起業お助けマンの小出宗昭さん、福祉有償運送サービスの先駆け・勝亦武司さんなど、子育てから働き世代~高齢者福祉までその道・その世代のトップランナーがそろっていることだし、人の活かし方によっては、人材が「人財」化する豊かな地域になるのでは、と期待しています。

 

 

 

 

 

 次いで、静岡市清水区のNPO法人清水ネットを訪問しました。ここも東海道・吉原塾同様、市で運営する市民活動センターの指定管理者団体として、地域コミュニティの要づくりに尽力する組織です。

 

 

 

 地域コミュニティの場というと身近なところでは公民館を思い浮かべますね。でも公民館を利用できるのは当該地区の自治会メンバーや公民館主催の講座受講生というのが原則。既存の枠に入らない新しい市民団体やグループ、町境を越える活動団体などは、なかなか利用できませんでした。やがて、誰でも自由に利用できるオープンスペースを求める運動が始まり、有志が集まって旧清水市役所別館オフィスを借りて自主運営をスタート。利用者同士が「スペースを借りるだけじゃもったいない、みんなでネットワークを組んで協働事業を始めよう」ということになり、平成18年、NPO法人化をはたし、晴れて市民活動センターの指定管理者となったわけです。

 

 

 

Photo  代表理事の鍋倉伸子さん(写真右端)には、この日初めてお会いしましたが、聞けば、戸田書店のオーナー夫人であり、現在、静岡県教育長を務めておられる、文字通り静岡県を代表する文化人。鍋倉さんが編集発行する『季刊清水』は、静岡県では数少ない地域文化情報誌で、昨年10月発行の41号には、朝鮮通信使研究家の北村欣哉先生が地元清水の廻船問屋の歴史について寄稿されています。先生からいただいて隅から隅まで目を通し、「静岡にもこんな良識的な情報誌があるんだなぁ、こういう雑誌に記名執筆できるようになりたいな~」などと憧れたものでした。

 

 

 

 清水ネットの活動報告書は、鍋倉さんが指揮を執られるだけに、しっかり編集されていて、県内NPO法人の中でも私が知る限りトップレベルの報告書ではないかと思えるほど。毎年1回行う市民フォーラム、毎月定例で行うランチトーク、交流会、懇話会、出前講座や職人まつりといった企画事業について、きめ細かく報告されています。

 この報告書があれば、取材は不要とばかり、同行の杉本彰子さん(NPO法人活き生きネットワーク理事長・ぱれっとコミュニケーション制作責任者)とともに、鍋倉さんや事務局の方々と雑談に終始してしまいました。調子に乗ってついつい、本取材とはまったく関係のない、朝鮮通信使が縁で北村先生にお世話になっていることや、地酒関連の活動の話をしてしまいました。

 ライターが取材者たる本分を忘れて自己アピールするなんてマナー違反にも程がありますね(苦笑)。鍋倉さんが終始笑顔で関心を持ってくださったのに救われました。

 

 

 

 鍋倉さんも、富士の佐野さんも、市民活動センターというハコものの舵取りを任されながらも、地域の価値はハコではなくて、個人のスキルや、人と人がつながることで生まれるパワーを通して高めようと努力しています。お2人とも、写真を撮る時、自分一人ではなく、スタッフみんなで写してくださいと、周囲を立てていました。・・・他者を活かす生き方って素敵だなって改めて思います。

 

 

コメント (3)
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雨の日の伊東温泉

2009-07-25 14:35:21 | 地酒

 23日(木)は、初亀の橋本守会長の葬儀がふじえだ平安会館で執り行われました。駐車場が足りなくなるだろうと思って、早めに行く準備をしていたのに、いざ、喪服(ワンピース)を着ようとしたら背中のチャックが上がらない!! 春、松井妙子先生のお母様のお葬式に行ったときは、無事に着れたのに、この数か月でメタボが進行したかと青くなり、必死に腕を回しても、首元まであと10㎝、どうしても上がらない・・・。独り暮らしが辛いと思う数少ない瞬間です(苦笑)。 

 

 チャックの引っ張る部分に糸を長めに巻きつけて、ぐいっと引っ張り上げて、なんとか装着。気が付くと汗びっしょりです。急いで車を走らせ、なんとか10分前に会場に到着したものの、案の定、駐車場は満車で、少し離れた瀬戸川の河原に置く羽目になり、履きなれないパンプスで河原をヨタヨタ歩き始めると、東京の里見さんからお電話。話をしながら小走りに会場へ向かうと、目の前を杖をついて歩く顔見知りの酒屋さんが。シャツが腰のベルトからはみ出ていて、ホントにヨタっているように見えたので、ビックリして「大丈夫ですか!?」と駆け寄ってシャツを直してさしあげました。

 ・・・男性はシャツがはみ出たまんまでも誰かが助けてくれるだろうけど、女がワンピースの背中のチャックを開けたまんまで歩いていたら、みんな引くだろうなぁと笑えてきました・・・。

 

 葬儀場に入ったら、ちょうど導師さまご一行が入場するところでした。葬儀は、さすが初亀の会長だけに、会葬者はザッと見渡しただけでも400人ぐらいいたでしょうか。酒造技術を高める努力を惜しまず、「亀」という屈指の銘酒を生み出した功績や、藤枝東時代からサッカーで健脚を鳴らし、晩年、足腰を痛めて介護を受けられるようになっても、つねに周囲を笑わせ、ヘルパーさんたちにも大人気だったという会長のお人柄が伝わった、いいお葬式でした。

 

 

 

 24日(金)は、東京新聞『暮らすめいと』の取材で伊東へ。城ヶ崎海岸の散策を紹介する記事を書く予定でしたが、あいにくのお天気。同じ紙面で取り上げる伊東市内の食事処『つた好』の取材アポイントメントを取ってしまっていたので、とにかく下見だけでも、と強行しました。

 

 昨日の雨って、まるで熱帯地方のスコールみたいな豪雨になったり、急に陽が射してきたりで、一番履き慣れた布製のスニーカーが、雨水をどっぷり吸ってしまって、何度も転びそうになりました。

 こりゃ城ヶ崎海岸ピクニックコースの下見なんてとても無理、どうせ写真も撮れないや・・・と早々にあきらめ、伊東市観光課と観光協会を回って情報収集し、同じ紙面で紹介する予定の、伊東の立ち寄り温泉とお土産品探索に回りました。

 

 前回の『暮らすめいと』小田原特集の取材では、箱根湯本の日帰り温泉処を3ヶ所体験リサーチしました。伊東では、“伊東温泉七福神の湯”と称し、市内中心部に点在する7つの共同浴場を売出し中。「観光客の方にも利用してもらえるよう、施設を一新しました。高くても300円。城ヶ崎ピクニックの後、ひと汗流すにはぴったりですよ」と強力にプッシュする人もいれば、「ゆったり温泉気分を味わう、いわゆる観光温泉施設がお目当てならば、ホテルや旅館の日帰り入浴可の施設もおススメ。料金は1000円前後しますが」という人も。

 

Imgp1214  とにかく自分で体験してみないことには選べません。300円ならはしご湯してみるかと、まずは、共同浴場の中では一番広い『毘沙門天芝の湯』へ。チケットは自販機で買いますが、入口には番台のおばちゃんがいて、男湯女湯に振り分けます。

 

 脱衣場と浴場は、ごく一般的な銭湯風。平日午後なのにおばあちゃん仲間や子連れの若いお母さんなどで賑わっています。

 基本的に共同浴場(銭湯)なので、シャンプーや石鹸等の備品はなし。タオル一枚しか持っていなかった私は、シャワーで汗を流して、軽く半身浴するつもりで入ったのですが、シャワーの出し方が分からずあれこれ操作していると、隣のおばちゃんが、「ここをこう押すんだよ」と教えてくれて、「お姉ちゃん、おばちゃんの石鹸、貸してあげる」と頼みもしないのに(笑)使い古しの石鹸を差し出し、「これで顔を洗うといい。手を出して」と、洗顔フォームを私の手にギュッと絞り出してくれたのです。強力日焼け止めにファンデーションを厚塗りしていた私の顔は、フツウの洗顔フォームだけじゃキレイにならないので、どーしよーか内心焦りましたが、おばちゃんのしぐさがあまりにも自然で、「わぁ、ありがとうございますぅ」とこちらも自然に笑えてきました。

 

 お裾分けしてもらった洗顔フォームと石鹸をガンガンに泡立てて顔を洗い、身体もすみずみまで洗って、さぁ、せいせい湯に入るぞ!と思ったら、熱~ッ!! 熱めの風呂にサッと入るのが好きな私でも、全身を浸けるまで、せぇのって勢いをつけなきゃならないほどの熱さ。隣で小さな子どもが「熱い熱い」と嫌がって、お母さんがなだめすかしています。開館直後(14時~)の時間帯だったから熱いのかなぁと思いつつ、5分と入っていられず、早々に退室。近所のおばちゃんたちの井戸端会議所と化した脱衣場も、なんとなく長居しづらくて、外に出ました。

 

 髪の毛はびしょぬれ、顔は石鹸で洗ったあと、何もつけていません。このままで『つた好』には行けないし、取材時間までまだ小1時間あったので、今度はシャンプーやドライヤーが揃っているであろう温泉旅館の日帰り入浴タイムを利用することに。向かったのは観光協会さんに「旅館ではここの湯がいい」と薦められた大東館です。

 

 建物自体はちょっと古い感じで、浴場も、いわゆる最新型の温泉施設レベルとはいきませんでしたが、源泉かけ流しの湯は実になめらかで、お湯の温度もベスト!露天風呂の雰囲気もなかなかよくて、手足をせいせい伸ばしてくつろげました。

 利用料は700円。湯上りにロビーの自販機で水を買おうと思ったら、外で買うより70円も高くてギョッとしましたが、旅館の中だから仕方ないか…。

 

 

 大東館を後にして、『つた好』へ。この店は、数年前、アットエスの「静岡の地酒が飲める店」で取り上げ、静岡の地酒と地魚を大事にする伊豆の観光地では得難い店として気に入っていました。

 

 アットエス(静岡新聞総合ポータルサイト)で紹介した店を、東京新聞の情報誌で再掲するのは若干気が引けたのですが、『暮らすめいと』の首都圏の熟年読者層というターゲットを考えたとき、すんなり名前が浮かんだのでした。観光地では一見客や若者ウケを狙った派手な看板の店が多い中、伊東駅前界隈で一番古く、地元にしっかり根付いて堅実な商いをされていて、しかも暖簾の上にあぐらをかかず、いいものを貪欲に取り入れようと静岡の酒にもいち早く着目したご主人を信頼できるからです。

 

 

Dsc_0016  つた好の「地魚にぎり」。地タコ、アカイカ、キンメなど東伊豆ならではのネタも絶妙で、なにせ風呂上りですから車がなければ完全一杯モードに突入したところ。静岡の銘柄は「初亀」「磯自慢」「正雪」の3種に絞ったようですが、それぞれ本醸造系と純吟系を揃えてくれてました。とくにご主人は「初亀」がお好きなようで、店でも安定した人気があるそうです。

 

 「アットエスに掲載してもらった後、いろんなネットや情報誌から取材がきましてね…グルメの口コミネットみたいなところに勝手に掲載されて、一時期大変でした」とご主人。ネット情報をあてにする若い人って、店の場所がわからないと、忙しい時間帯でも何でも平気で電話してくるそうで、「駅前にいるというので、駅から歩いて来るルートを教えると、徒歩じゃなくて車だという。忙しい時間に限ってそういう電話が集中するんです」と苦笑いです。駅前にいるなら交番か近所の店の人に聞けばいいものを、ネットに依存する今の若い人は、知らない街では道も聞けないみたいです。・・・先月の台湾旅行で、言葉が通じなくてもお構いなし、日本語でガンガン道を聞いていたSさんの逞しさを思い出しました(苦笑)。

 

 

 さらに某有名旅行ガイド誌では、スタッフ5~6人の大所帯で仰々しく取材に来たのに、掲載された誌面では、写真が裏写り。つた好一店だけじゃなく、その誌面に載った伊東の店が全部そうだったとか。「1年後に、継続掲載したいので変更はないかと聞いてきたので、写真が全部逆ですよと指摘したんですが、結局修正されずにそのまま掲載されました。それ以来、メディアの取材はお断りしているんです」。

 

 ・・・話を聞いているうちに苦い思いが甦ってきました。実はこういう話は、アットエスに掲載した店のいくつかで聞かされていたのです。アットエスの連載を休載したのは、映画制作に専念するためでしたが、「他のネット業者や出版社に情報提供するかたちになり、掲載店に迷惑をかけるなんて・・・」と重い気持になったのも理由の一つでした。

 

 取材を終え、撮影用に握ってもらった地魚にぎりを試食し、代金を払おうとしたら、「スズキさんのおかげでお酒が売れるようになったのは確かだから」と笑顔で辞退されたご主人。

 ・・・取材者たる身の職業意識を改めて考えさせられ、身が引き締まる思いがしました。

 

 

 時間をみると18時すぎ。つた好で2軒ほどホテルの日帰り入浴を推薦してもらいましたが、夜遅くなってから雨の峠道を運転して帰るのに若干の不安もあり、サッと入れる共同浴場をもう1軒体験することに。伊東で一番古い『和田寿老人の湯』に入りました。浴室はそんなに大きくなく、お湯も相変わらず熱かったのですが、施設は新しく、使いやすかった。ピクニックした後にサッと汗を流して、買い物して、つた好で地酒と地魚を味わって、電車で帰るというのも効率よく遊ぶ分には悪くないなと思いました。

 

 温泉が目的で来るなら、ゆったりできる温泉施設のほうがいいかもしれないけど、今回の企画は・・・。そんなことをあれこれ考えながら、再度、お天気の良い日にリベンジしようと帰路につきました。初亀を応援するつた好のご主人に、「スズキさんの取材を受けてよかった」と思ってもらえるようリベンジする。城ヶ崎海岸をくまなく歩いて思いっきり汗をかいて、温泉入りまくってメタボ解消リベンジする・・・!と心に誓ったのでした。


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名酒造家逝く

2009-07-20 19:35:34 | 吟醸王国しずおか

 『開運』の杜氏波瀬正吉さんの訃報に続き、今日は『初亀』の蔵元・橋本守Dsc_0032 会長の訃報が届きました。

 守さんは長い間、療養生活を送られ、酒蔵の切り盛りは長男の謹嗣社長に任せておられました。昨年は杜氏が交替するなど、初亀醸造にとっては大きな転換期でしたが、若い蔵人が結束し、順調な再スタートを切られたところ。守さんも、ある意味、後顧の憂いなく、旅立たれたことと思います。

 

 この春、『吟醸王国しずおか』で初亀の酒造りを撮影していたときに、謹嗣さんから印象的な言葉を聞きました。

 「親父が(前杜氏の)滝上秀三を、その前の新潟杜氏から交替して迎えたのが56歳のときでした。自分もちょうど56歳で新しい杜氏を迎えることになった。不思議な巡り合わせですよ」。

 

 4代目当主の守さんは、岡部町長を務めた3代目富蔵氏を補佐し、酒質の向上にひたすら努めて、昭和42年には東京農大の山田正一教授、越後の名杜氏松井万穂氏と力を合わせて鑑評会三冠王(静岡県、名古屋国税局、全国新酒鑑評会でオール首位賞)を獲得し、初亀を金賞常連蔵に育て上げました。

 

 昭和40~50年当時、地方の酒蔵は税務署の指導で「小規模蔵は合併して生産量を上げろ」といわれ、「灘ものより安い酒を造らねば売れないぞ」とプレッシャーを掛けられていた。守さんも謹嗣さんも、つねに灘酒を基準にされ、地酒が二流三流扱いされることに矛盾を感じ、地酒の存在価値を訴求しようと、あえて、1升瓶で1万円という酒を東京の百貨店で売り出した。地方の無名蔵の無謀な賭けだったかもしれませんが、今、その酒―純米大吟醸3年古酒「亀」は、全国の愛飲家垂涎の銘酒に数えられています。

 

 酒蔵巡り歴20年ほどの私にとって、初亀では5代目謹嗣さんとのつきあいのほうが主で、守さんは、蔵にお邪魔するといつもニコニコ柔和な笑顔で迎えてくれる好々爺という印象でしたが、折にふれて初亀の歩みをうかがうとき、時折、周囲の圧力を跳ね返すような反骨精神を見せる謹嗣さんの思考は、父親譲りなんだろうなぁと感じていました。

 

 

 最近増えてきた、蔵元が杜氏を兼ねる自醸蔵は、経営者の裁量で思い切った酒造りができると思います。旧来型の蔵元(経営者)が杜氏(製造責任者)を雇用する蔵では、社内コミュニケーションがとても重要で、自醸蔵にはない気苦労や気遣いもあるでしょう。

 初亀のように、腕の良い杜氏を長年雇用できる酒蔵というのは、蔵元に人徳があってこそ。

 

 自分が迎えた滝上杜氏が昨年引退し、新しい杜氏の門出を見届け、旅立たれた守さん。蔵の人々や、我々地酒ファンに、『初亀』『亀』というかけがえのない宝物を残し、82年の酒造家人生を見事にまっとうされたと思います。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

 

 …それにしても、こうしてまた一人『吟醸王国しずおか』の立役者が逝ってしまいました。波瀬さんのときもそうですが、何でもう少し早く、ちゃんと撮っておかなかったんだろう・・・悔しくて寂しくて、気持ちが収拾できない時間が、なかなか途切れずにいます。


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波瀬さんへの誓い

2009-07-19 09:44:19 | 吟醸王国しずおか

 『開運』の杜氏・波瀬正吉さんの訃報に接した『吟醸王国しずおか』カメラマンの成岡正之さんからメールが届きました。

 波瀬さんにお会いするのは、昨年夏の能登ロケが初めてで、酒が一滴も飲めず、もちろん『開運』も呑んだことのない成岡さんですが、プロの職人同士が対峙すると、時間や経験を超越し、通じ合うものがあDsc_0025るんだ…と改めて思いました。

 成岡さんがとらえた波瀬さんの貴重なショットは、『吟醸王国しずおか』本編で活かしていきたいと思っていますので、天国の波瀬さん、どうか無事完成できますよう、見守ってください。吟醸王国しずおか映像製作委員会のみなさまも、ぜひさらなる後押しをお願いいたします。

 

 

 

 『人間の一生とは、いなくなって、本当のその人の存在や意味や価値が良くわかるんですね。
 生涯を酒造りに捧げた、あの能登のご自宅で聞いた言葉と、あの目の輝きは私は一生忘れません。

 

 年を重ね、経験を重ね、苦労を重ねた波瀬さんの日々を想像し、しかも、いまだに希望Dsc_0029を抱く二十代の青年のような瞳が輝いていたことを、ビューファーを通し、自分の目にアスリートの様に飛び込んで来た事を忘れません。
  

 全てを受け止め、言葉をしゃべれない麹や酵母を理解し、育てる。それらを見続けてきた瞳だと、あの時、一瞬にして気づかされました。
 「俺も仕事するとき、こんな目を瞳をちゃんとしているんだろうか?」と、波瀬さんの目に無意識にズームしていました。
 波瀬さんの蔵での仕事は見ることができなくなりましたが、勝手だけど、今までお邪魔した蔵すべてに、波瀬さんの仕事の姿が私には重なって見えています。

 

 静岡の蔵人も含め、静岡の酒を愛する人々は、波瀬さんの遺志を継ぎ、日々努力されることがなによりの供養だと思います。私は(カメラマンとして)、あの目の輝きを伝えて行きたいと思います。』(「吟醸王国しずおか」カメラマン 成岡正之)  


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静岡県地酒まつり2009東京・沼津のお知らせ

2009-07-18 09:58:04 | 地酒

 昨日(17日)は静岡県酒造組合で今年の静岡県地酒まつりの実行委員会が開かれました。おおよその開催要項が決まったので、すぐにでもお知らせすべきところ、組合の事務所で聞いた波瀬正吉さんの訃報がドーンと重くのしかかり、帰宅してからも波瀬さんとの思い出が脳裏を巡っていました…。

 気を取り直し、今日は地酒まつりのご案内を。

 

Imgp1194 静岡県地酒まつり IN  TOKYO 2009

■日時 2009年9月6日(日) 13時~16時

■会場 品川プリンスホテル アネックスタワー5階 プリンスホール

■料金 3500円(税込)

■参加蔵元

白隠正宗、高砂、千代乃峯、白糸、富士錦、英君、正雪、臥龍梅、萩錦、君盃、磯自慢、初亀、杉錦、志太泉、喜久醉、若竹、開運、萩の蔵、千寿、出世城、花の舞

■発売 7月27日(月)10時よりイープラスチケットプレイガイドのみ

■問合 静岡県酒造組合ホームページ 専用ページ

 

 内容はこれまでの地酒まつり東京とほぼ同じですが、会場とチケット販売方法が大きく変わります。

 会場はJR品川駅・高輪口前の品川プリンスホテルアネックスタワーに変更しました。長い間、一ツ橋の如水会館で行っていましたが、嬉しいことに年を追うごとに参加者が増え、如水会館の宴会場では収容しきれなくなったため、実行委員会(静岡県酒造組合静酉会)が、駅近くの適当な会場を探し、運よく品プリにご協力をいただけることに。

 昨日はダイレクトメールの宛名シール貼りをお手伝いしたのですが、これまでの来場者リストをみると、北海道、東北、関東一円、東海一円から来てくださっているんですね。本当にありがたいことです。そんな遠方からのお客様にとっては、一ツ橋よりも品川駅前のほうが少しはアクセス便利になるかな。

 またチケット販売は毎回、事務局への電話申し込みだったのですが、発売開始と同時に売り切れてしまって改善を希望する声が多く寄せられていました。今回、実行委員会の英断で、一般向けにはネット販売に一元化することに。詳しくは酒造組合ホームページ(上記)までどうぞ。

 

 

 

Imgp1195

第22回 静岡県地酒まつり

■日時 2009年10月1日(木) 18時~20時

■会場 沼津東急ホテル 4階ロイヤルルーム

■料金 2000円(税込)

■参加蔵元

万耀、金明、伊豆海、白隠正宗、高砂、千代乃峯、白糸、富士錦、英君、正雪、臥龍梅、萩錦、満寿一、君盃、磯自慢、初亀、杉錦、志太泉、喜久醉、若竹、小夜衣、開運、葵天下、萩の蔵、國香、千寿、出世城、花の舞

■発売 7月27日(月)10時よりイープラスチケットプレイガイドのみ

■問合 静岡県酒造組合ホームページ 専用ページ

 

 

 毎年日本酒の日(10月1日)に開催し、今年で22回目を迎える恒例の地酒まつり。今回から10年ぶりぐらいに立食スタイルに戻り、気軽に地酒の試飲をお楽しみいただきます。立食だと、料理(バイキング)がすぐになくなり、不評を買ったこともありましたが、今回は会場につまみの屋台を用意し、ワンコイン(500円)で好みの酒肴を買っていただくという方式を採ります。

 ステージではトークショーや、会場でアンケートにご協力いただいた方の中から抽選でお酒やお米が当たる抽選会を行う予定です。

 今までの、どっぷり座って呑んで食べるという宴会スタイルとは違い、たくさんの蔵元や地酒ファン同士の交流が楽しめると思いますので、ぜひご期待ください。チケットは、東京と同様、イープラスプレイガイドのネット販売となります。

 なお、沼津では、酒類業者さん向けの時間帯を設ける予定ですので、業者さんは組合からのご案内をお待ちくださいね。


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